2023/1/13

【ヒント集】リーダーを目指す女性は、どんな“モヤモヤ”に直面するのか

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
喫緊の課題であるジェンダーギャップの解消。しかし、日本の上場企業における女性役員比率はわずか9%にとどまっている(21年4月期〜22年3月期、東京商工リサーチ調べ)。

先送りされる女性活躍の現状を打破すべく、NewsPicksでは、次世代女性リーダーの学びの場として、2022年5月から「NEXT WOMANSHIPゼミ」を開講。
IBMが100年以上の歴史で培ってきた育成ノウハウをもとに、女性のキャリアを阻む壁を取り払い、リーダーシップを体得できるプログラムを3カ月にわたって展開した。

 そんな第1期生たちの卒業後のフォローアップイベントから、『男性中心企業の終焉』を上梓したジャーナリストの浜田敬子氏と日本IBMコンサルティング事業本部 執行役員の川上結子氏が、「女性を阻む壁」について語った対談セッションをレポートする。
INDEX
  • リーダー像はひとつじゃなくていい
  • 次世代の女性リーダーたちが感じるハードル
  • 女性が活躍する未来をつくるために
  • まだここがゴールじゃない

リーダー像はひとつじゃなくていい

浜田 IBMをはじめ、本気で変わろうとしている先進的な企業もあるなかで、男女の性別役割分業のような社会・雇用慣行は根強く残っています。
 企業努力だけではなかなか変わらないものに、たとえば女性自身や男性側のマインドセットの問題があります。
 1999年に男女共同参画社会基本法が施行されて以降、多様な属性や個性を受容するダイバーシティ経営が世の中に徐々に認識され、2015年には女性活躍推進法も施行されました。
 しかし現状は、大元の税制や社会保障制度の仕組みも「男性が稼ぎ、女性がケア労働をする」という前提は変わらないまま
 結果、男性中心企業に女性たちが適応する形でやってきたんです。
 すると家事・育児の負担は女性に偏ったままで、仕事もあり、さらに管理職に就任すれば、四重の負担になってしまいます。
 一方でその間、男性はほぼ仕事だけに専念できる。男女間でこれだけ負担にギャップがあれば、女性が管理職になるのを躊躇しないほうがおかしいって思いませんか?
川上 そうですね。女性への能力の公平な評価や適正な機会提供は、大きな課題です。
 女性には能力に見合う経験や役職を与えられる機会が少ないまま、男性ばかりが経験を積んでいく。
 そんな状態が当たり前になっているから、女性も徐々に「自分には管理職なんてできないんじゃないかしら」と感じてしまうのです。
浜田 女性の中には、“内なる壁”が存在しています。
 私自身も、25年の歴史を持つ雑誌『AERA』で初の女性編集長になる前は、「とても無理だろう」と思っていました。男性の編集長しか見ていなかったので、女性が編集長を務めることが想像できなくて。
 「そこそこ裁量をもらえてやりがいもあるので、2番手の副編集長のポジションでいいや」と自分の中で壁を作ってしまっていました。
 この内なる壁を自分だけの力で破るのは相当難しくて、何か仕掛けが必要なんですよね。
川上 浜田さんご自身の場合は、どうやって乗り越えたのですか?
浜田 私の場合は、自身が編集長になった時には「乗り越えた」という感覚はなかったです。
 後輩たちを抜擢する立場になって「リーダー像って1つじゃなくていいんだ」と気づいたのが大きかったですね。
 新聞社は非常にマッチョな組織です。「背中を見て学べ」という上司は多かったし、デスクは原稿を直しても、なぜ直したのかの説明もなかった。私たちもそういうリーダーに慣れていました。
 しかしある時、若い男性記者が「これからは、女性のデスクを僕の担当にしてください」と言ってきたんですね。
 理由を聞いたら、「男性のデスクは一方的に原稿を直して、フィードバックもない。でも女性のデスクは、きちんと説明してくれるから」と。
 私の経験からすると、丁寧に説明するのは、自分の自信のなさの表れでもあるのですが、若い世代の「丁寧なコミュニケーションを取ってくれる上司と仕事をしたい」というニーズと合っていたんですね。
 結果的に編集部のコミュニケーションの総量が増えていったときに、若い人たちが働きやすくなっていることに気づいたんです。
 誰もが働きやすい組織を作るには、ちゃんと納得するまでコミュニケーションができるリーダーが必要だと感じました。
川上 自分が持つ強みって、他者を客観的に見たり自分がフィードバックをもらったりして、初めて自覚できるものですよね。
 一緒に働くメンバーもそうですが、私の場合は息子を見て「私ってこんな特性を持っているんだ」と気づくこともあります。

次世代の女性リーダーたちが感じるハードル

今回集まった「NEXT WOMANSHIPゼミ」の卒業生たちは、講座から3カ月経ってさまざまな壁に直面しているようだ。会場からの質問タイムも白熱の内容となった。
浜田 「なぜ企業にダイバーシティが必要か」の議論は、企業の成長やイノベーションに不可欠などと、すでに議論し尽くされています。
 それでも、腹落ちされている経営者はまだそれほどいないと感じます。
 私も企業の経営層の方々向けにダイバーシティについて講演する機会がよくありますが、皆が皆、最初から自分の会社に必要な取り組みであると耳を傾けてくれるわけではありません。
こういう場面で経営者の方々に一番響く話は、「ダイバーシティがないとどうなるか」。つまり“同質性のリスク”です。
 経営層・意思決定権者たちの属性や出身母体が偏った“同質性が高い状態”は、企業にとってリスクであると、いくつか事例を示しながらお話しします。
 日本型雇用で成功体験を持つ50代以上の経営者の多くは、男性中心の働き方が非常にうまく機能していた記憶があり、その成功体験から逃れられていません。
 ですが、そのような成功体験に固執したことが日本の「失われた30年」を生み出してしまったと感じています。
 この世代を説得するには、従来の雇用システムのネガティブな面を示すような事例がよく響きます。
 たとえば、同質性が高い集団のリスクとしてよく言われるのが、過去の成功体験に固執したり、「集団浅慮」に陥ったりすること。
 すると、個人の能力の総和よりも低いレベルでの意思決定をしてしまう
 異なる価値観や属性の人がいれば、選択肢が増え、それらを比較したり組み合わせたりできます。
 しかし、その場の人が1種類の価値観に偏っていたら、その会社がとるべき選択肢を複数持つのは困難になります。
川上 あえて違う視点から付け加えると、もしかしたらそのシニア世代の方は「自分の立場が危うくなる」と恐れて、反対しているのかもしれません
 たとえばみなさんも、「日本は高齢化が進んでいるから、意思決定は10代に託しましょう」と言われたらどうでしょうか。危機感を感じませんか?
 仕事一筋で来て、家庭や地域の中に居場所や役割が見つけられないという方は結構いらっしゃるみたいなんです。
 だから、そういう人たちも含めた全員に居場所があるのがダイバーシティ経営だ、と。明確な答えは私もまだわからないのですが、そこにヒントがあるのかもしれないと考えています。
浜田 人事の方に取り組んでいただきたいのは、今の管理職世代に向けた研修ですね。
 あるダイバーシティで先進的な中小企業の社長に言われた「人の意識を変えることは非常に難しい。でも知識を高めることで意識を高めることができる」という言葉が印象に残っています。
 その方はLGBTQの方々の採用をはじめ、ダイバーシティに熱心に取り組まれていました。そのためにたとえば、LGBTQの当事者に話を聞き、“知識を高めて”いらっしゃるんです。
 多くの管理職の男性は、アンコンシャスバイアス(※)や、女性に過剰に配慮するような“好意的差別”が女性から機会を奪っていることを理解していません。
※ 誰もが持つ「無意識の思い込み」を指す。固定的な性別役割分担の意識や、性差に関する偏見・固定観念が、ジェンダーギャップの要因とされる。
「小さいお子さんがいるから大変だよね」と、良かれと思って重要な仕事から外していく。そうやって、女性はマミートラック(※)に陥っていきます。
※産育休から復帰した女性が難易度の高い仕事や責任のある仕事を任されなくなること。女性のキャリア展望を低くする要因とされる。
 21世紀職業財団の調査によると、女性のキャリアに最も影響しているのは上司なんです。
 女性が若いうちから責任ある仕事が経験できるかは上司次第で、マミートラックから抜け出すのも上司の判断が大きく影響します。
 したがって、男性上司側にも、女性に若いうちからどうチャンスを与えて、キャリアへの意識づけをしてもらうか、そのためにはどうすればいいのか。それらに先進企業が取り組んでいる事例などを学んでいただきたいです。
川上 世の中の動きに気づかない方もいますからね。
 日本はただでさえ遅れているので、ジェンダー平等が人権とみなされるステージに入っている世界を知ってもらうのはとても重要です。
 ちなみに、NewsPicksの「WEEKLY OCHIAI」でダイバーシティ経営がテーマの回があるんですけど、これが「上司側の意識を変えるのに非常に役立つ」と聞きました。
 浜田さんと私も出演しているので、自分で褒めるのも少し照れくさいのですが(笑)。

女性が活躍する未来をつくるために

川上 たった1人で女性活躍を推進しようとしたら、私だって多分ずっと先延ばしにしてしまうでしょうね。
 なので私の場合は、仲間を集めて無理やり場を作ってしまいます
 みんなが一生懸命に企画を考えてくれるなか、何もせず家でじっと過ごすわけにはいきませんから。
浜田 私の場合は、自分が管理職になることがカギでした。管理職になれば、女性メンバーを引き上げる人事権が持てます
『AERA』時代は編集長としてメンバーを公平に評価したうえで、能力のある女性には難易度の高い仕事を振ったり、成果を出したら副編集長のポストに任命したりしました。
 また、若い女性からやりたいプロジェクトについて相談されたら、私が役員まで話を通すことなどもあった。そういった上層部との交渉が、編集長という役職の責務だと考えていました。
川上 仲間は自分でもつくれますが、得意な人にお願いするという方法もあります。
 それに、最初から正社員も派遣社員も含めて、全員で足並み揃えて活動しなくてもいいんじゃないかと思うんですよね。
 誰かインフルエンサー的な人を中心として、活動に必要な最小限の人数で始められるのではないか、と。
 ただ、その後の活動へのエンゲージメントを保つには、中身が不可欠です。
 最初の呼び込みが得意なタイプやその後の引き付けが得意なタイプなど、いろいろな人とチームを組むといいと思います。
浜田 1人の勇気ある人が最初に声を上げるのがすごく大事です。誤解を恐れずに言えば、今はそうやって波風を立てるべき時期だと思っています。
 男女雇用機会均等法から始まって30年。波風を立てずに、おじさんたちの顔色をうかがいながら手を変え品を変えでアプローチしても、何も変わりませんでしたよね。
 ダイバーシティがなぜ必要なのか、アンコンシャスバイアスがなぜ駄目なのかを本筋から説明して、「こういう研修を入れませんか?」と人事に掛け合うなど、直接的な行動を起こしてみるのはどうでしょうか。

まだここがゴールじゃない

川上 最後に、NEXT WOMANSHIPゼミの1期生のみなさんに贈る言葉で締めましょう。
浜田 女性自身の“内なる壁”や“上司の壁”の他にもう1つ、“夫の壁”も大きいと思っています。
 上司は意外と交渉の余地がありますが、夫のほうは難関です。家庭での交渉力をぜひ身につけてください。
  私は、1人ですべての家事育児と管理職をやって苦しんでいる後輩女性の姿を見て、「家事や育児の負担を、もう少し夫に分けることはできないか」とアドバイスしたこともあります。
 必要があれば私から夫に話すからと言っていました。そのくらい、女性のキャリアにとって、夫の壁を突破することは重要だと思います。
 家庭内がゴタゴタすると嫌なので、つい夫への交渉は後回しにしがちですが、そうすると自分で全部抱え込まなければいけなくなって、後で必ずツケが回ってきます。
 もしあなたが夫を変えることで、彼が職場で早く帰る“ファーストペンギン”になれば、夫の職場が変わり、企業が変わり、日本社会が変わるはず。みなさんぜひ頑張ってみてください。
川上 私からはまず、このゼミを通して築いた女性同士の横のネットワークを引き続き活かしてほしいと伝えたいです。何かをやろうと思ったら、やはり仲間がいたほうがいいので。
 そして、もう1つ。みなさん自身が管理職になることがゴールではありません。さらに上を目指していってもらいたいのです。
 もっと多くの女性が活躍できる世の中にしないといけないので、このコミュニティから後輩を育成していくことにも、ぜひ力を注いでほしいと思います。