2022/12/27

【専門家集結】バックオフィスDXのカギは、「スモールスタート、連携、スプリント&ダッシュ」

NewsPicks, Inc Brand Design Head of Creative
INDEX
  • SESSION 1 私たちがバックオフィスDXに本気な理由
  • SESSION 2 変わりたい現場 vs. 変われない現実
  • SESSION 3 副区長CIOが手がけた渋谷区革命の全容
コロナ禍によるリモートワークの拡大で、「脱ハンコ」などペーパーレスによる「バックオフィスDX」が急速に進んだ。だが、人の流れが戻りつつある今、本質的にバックオフィス変革を成し遂げた企業と、付け焼き刃で乗り越えた企業との間で大きな差が生まれている。
労働力の減少でますます業務効率化が求められるこれからの時代、どのように真のバックオフィスDXを推進していけばいいのか。
そこでNewsPicksでは、jinjer株式会社の協力のもと、オンラインイベント「The Backoffice Day〜攻めを支える強い事業基盤の作り方〜」を開催。渋谷副区長CIOなど複数のDXスペシャリストを招き、「バックオフィスDX術」を探った。

SESSION 1 私たちがバックオフィスDXに本気な理由

株式会社パトスロゴス 牧野正幸 代表取締役CEO
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jinjer株式会社 加藤賢 代表取締役CEO
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株式会社ニューズピックス 木村剛士 Brand Design Head of Creative(モデレータ)
大企業向け国産ERPパッケージを手がけるワークスアプリケーションズの創業者であり、現在はパトスロゴスで日本企業のバックオフィスDXを支援する牧野氏と、バックオフィス向け管理クラウドで急成長しているjinjerの創業者である加藤氏が、「バックオフィス変革」の重要性について本気で意見を交わした。
木村 日本企業では、バックオフィス業務においてどのような課題を抱えているのでしょうか。
加藤 日本企業は大手を中心に、十数年前に導入したバックオフィスシステムを今でも使っているケースが多く、システムが老朽化し始めています。
 また、経理部や人事部など部署ごとに異なるシステムを導入し、それをカスタマイズし続けてきた結果、部門ごとには効率的なものの、全体でいえば非効率、高コストのインフラになっているケースがあります。
 こうした課題がある中で、DX人材も不足している。目の前の運用に手いっぱいで、なかなか改善が進まないのが大半の企業が抱える課題だと思います。
牧野 加藤さんのおっしゃるとおりですね。今年に入ってから100社以上の大手企業の経営層とお話ししてきて、そうした課題解決に向けて、多くの企業が「変えたい」「変革したい」と考えていることを肌で感じました。
 ここ数年、DXが叫ばれていますが、歴史を振り返ればデジタル変革の波はありましたよね。1990年後半に出てきた「BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」はその典型例。言葉は違いますが、訴えている内容はDXとほぼ同じ。つまり、DXは新しいことではないのです。
*BPRとは、業務本来の目的に向かって既存の組織や制度を抜本的に見直し、プロセスの視点で、職務、業務フロー、管理機構、情報システムをデザインしなおすこと
 その当時の日本企業は、まだ競争力があったので、口ではその必要性を言うものの、危機感が足りなかった。その結果、根幹的にビジネスプロセスを見直すところまで踏み込めませんでした。
 しかし、今回のDXは、みなさんの本気度を感じます。日本全体の競争力が低下していて、人口減少で生産力も落ちている。挙げ句の果てにデフレです。日本は八方塞がりの状態なので、デジタルによるビジネストランスフォーメーションなしでは生き残れないと感じている経営者が多い。危機感が過去とは全然違います。
加藤 私もお客様とお話する中で、危機感を持っていらっしゃることを感じています。
牧野 バックオフィス部門、特に人事部門はリーマンショック後に人員を削減する企業が多かった。加藤さんが先ほど話した「人が少ない中で目先の仕事で精一杯」はそのとおりで、未来の戦略を考える時間がなくなってしまった。これがここ数年の大きな問題でしょう。
木村 日本のバックオフィス業務を支えるシステム状況を、どのように見ていますか。
加藤 海外ではシステムに業務を合わせるのが一般的ですが、日本はその逆で業務にシステムを合わせる傾向が強い。そのため、パッケージシステムのカスタマイズ開発が増え、その結果、複雑で負荷が高く、柔軟性の欠いたオンプレミスシステムを運用せざるをえなくなっていると感じています。
 その中で私が注目しているのがSaaSシステムです。SaaSなら初期投資が低く、システムの運用は事実上、ユーザー企業はしなくていいので手間がかからない。オンプレミスシステムと違って、すぐに導入できますし、使ってみて使い勝手が悪かったならすぐにやめることもでき、導入の壁が格段に低い。
 この利点を生かし、業務を一気にSaaSに移すのではなく、A部門、α業務からといったように、徐々にシステム移行していくのがいいと思っています。
 また、その過程で大事なのは、各業務を支えるSaaSを連携させることです。よく見受けられるケースとして、部やチームごとにシステムを導入するので、バックオフィス全体で見たときに、データ連携が上手くいっていないことです。
 多くのSaaSで可能なAPI連携は、不完全なデータ連携が多いので、導入して「API連携ではないやり方はないのか?」とご連絡をいただくケースも増えています。各SaaSのデータが連携されることで、これまで見えなかった業務改善のポイントなどが発見できると思います。
 弊社が提供しているバックオフィスSaaS「ジンジャー」は、勤怠管理や人事労務、経費精算など複数のシステムを用意しています。一気にすべてを導入するのではなく段階的に導入していき、結果的にすべてがつながるインフラをジンジャーだけで構築することができるようにしています。
 実際に、ジンジャーをご契約いただいたお客様の中にも、初年度はジンジャー人事労務をご導入いただき、運用に乗った次の年にジンジャー勤怠と経費を入れるといった、徐々にご導入いただくケースが近年増えてきております。
牧野 私も加藤さんと同じ意見で、やはり各SaaSが連携していなければ意味がないと思います。ジンジャーは1社単独でその連携を成し遂げられるのが強みだと思いますが、企業によっては、「Aという業務はα社に、Bという業務はβ社のSaaSを使いたい」というニーズもあると思っています。
 ですので、パトスロゴスでは、異なるベンダーのSaaSでも連携できるプラットフォームを提供しています。このプラットフォームを利用していただければ、企業は不完全なデータ連携を心配せず、安心してSaaSを比較検討できます。
木村 「徐々に変えていく」がキーワードですね。とはいえ、バックオフィスを変えていくことが難しいと感じている方も多いはず。そのような方に向けて、アドバイスをお願いします。
加藤 まずは、バックオフィス全体として、どのような業務システムになっているかを把握することをおすすめします。全体像を俯瞰して見ることで、どこに課題があり、改善した際の影響度はどれくらいかを把握できます。
 ITインフラの再構築は、「一気にすべてを」は難しいので徐々に進めていくのがいいと思いますが、課題の洗い出しからどのようにDXを進めていくかを考えるうえでは、業務プロセス全体の把握は欠かせないと思います。
牧野 重要なのは、業務を見直すことです。このDXの波を好機と捉え、今の業務を単純にデジタル化するのではなく、立ち止まって「この業務は本当に必要か」「このプロセスは本当に正しいか」など、当たり前になっている常識を疑って変革の芽を見つけるようにする。
 それがDXの真髄ですから、ぜひDXは変革であることをいま一度認識して考え、行動してほしいと思います。

SESSION 2 変わりたい現場 vs. 変われない現実

山形大学学術研究院 岩本隆 産学連携教授
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マツダ株式会社 中野良子 人事本部人事サービス部人事サービスGr.
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PayPay株式会社 萩原佑一 コーポレート統括本部HR本部HRBP部長
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一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 森戸裕一 代表理事
(モデレータ)
数々のバックオフィスDX事例を知る岩本隆氏と、DX実践企業であるPayPayとマツダの人事担当者が登壇。バックオフィスの変革に必要な方法論について、地方自治体や中小企業のDX支援のスペシャリストである森戸裕一氏のモデレーションのもと意見を交わした。
森戸 マツダでのバックオフィス業務における課題を教えてください。
中野 連結販売会社や部品販売会社の勤怠システムは、内製したものを20年以上使っている状態でした。人事給与システムはオンプレミスのパッケージで、10年以上使っていました。この環境下で、大きく2つの課題がありました。
 1つ目は、法改正などの制度変更に柔軟に対応できないことです。長期間の利用でプログラムが複雑になってしまい、仕様変更が簡単ではなく、それに対応するために多くの時間がかかってしまいます。
 また、制度変更でのメンテナンスコストも重くのしかかっていました。制度変更に対応できない内容も出てきて、多くの手作業も発生しているという“三重苦”状態でした。
 2つ目は、従業員、承認者、人事担当者に発生している多大な時間のロスです。勤怠入力以外の人事関連システムは人事部門でしか使えないシステムであり、従業員が行う人事関連の申請業務では、多くが紙など別の手段で行われるために、チェックとインプット作業が生じていたのです。
森戸 その課題をどのように解決しようとしたのでしょうか。
中野 とにかくスピーディに、そして柔軟に対応できるクラウドシステムの導入を決定しました。法改正があっても常に最新状態が保持されますし、マスター設定が簡単ですのでタイムリーに対応できると考えたためです。
 また、多大なる時間ロスを無くすために、従業員の個人デバイスから人事システムへアクセス可能にする提案をしました。そうすることで、人事業務全体の4割近い工数を削減できると考えています。
森戸 ソリューション選定はどのような観点で行いましたか。
中野 セキュリティ、コスト、操作性の3つの軸を中心にシステム比較を実施しました。さらに優位性、リスク対応、将来性、そして採算性評価を数値化して比較表を作成。その結果ジンジャーのシステムを導入したのですが、大きな決め手となったのは将来性と採算性です。
 当初、勤怠システムの刷新が狙いでしたが、ジンジャーは人事業務を一気通貫で管理できるため、インプットやチェック、データ連携などの作業も廃止できます。また、システム乱立による重複メンテナンスも回避できることから、人事業務全体の効率化とデジタル化ができるシステムだと判断しました。
森戸 PayPayでのバックオフィス業務における課題と挑戦は何でしょうか。
萩原 課題は、新しい働き方への適応です。最も挑戦的だったのは「コロナパンデミック」をきっかけに、フルリモートワークに移行したことです。その後、感染状況が落ち着いて社会が少し平常化されても、私たちは変化の最前線にいて「ルールメーカーになりたい」という強い思いのもと働き方を進化させ、「WFA(Work From Anywhere at Anytime)」を導入したことです。
 日本国内であればいつでもどこでも働ける、そんな体制の構築です。私の部門では石垣島在住者がいますし、私自身も東京から大阪に移住しました。
 WFAの導入を進めるうえで、まずは上位の意思決定会議から会議をオンライン化し、次に新入社員でも問題なく馴染むようなリモートワーク環境の仕組みづくりを実現。また、在宅勤務の手当てを年間10万円支給する制度も導入しました。
 その結果わかったことは、システムの整備と従業員のマインドセットをしっかりすれば、生産性は下がらないということです。
 また、「どこにいても働ける」というキーワードによって、世界中から優秀な方を採用できるようになりました。採用が困難といわれるエンジニアも、私たちは比較的採用できており、それは広範な場所から採用できているからだと思っています。事実、今ではエンジニアの7割が外国籍で、その内訳は約40カ国と多国籍です。
森戸 多国籍のエンジニアが所属していると、当然ながらバックオフィス業務も一般的な国内企業と同じようにいかないのではないでしょうか。
萩原 そこが一番の課題でした。コロナ禍がここまで続くとは予測していなかったので、日本から母国に帰れない従業員が多くいました。そこで、バックオフィス業務をシステムから刷新し、一時帰国しやすい制度をつくり、すでに80名以上が利用しています。
 また、多国籍のエンジニアを含めて従業員がリモートワークしやすいように「ここに行けばすべての情報がわかる」というイントラづくりを一気に進めました。もちろん英語対応で。
 さらに、体調管理に役立てられ、上長もメンバーの体調を気遣えるように、jinjerが提供する「ジンジャーサーベイ」を導入しました。2年以上蓄積されたデータから休職者や退職者の傾向がある程度わかるようになってきたので、アルゴリズム化して未然に対策を打っていけるように対応しているところです。
森戸 ソリューション選定はどのような観点で行いましたか。
萩原 PayPayでは、グローバルを意識した結果、必然的にSaaSを選びました。そしてもう一つ、中長期を見据えて事業が発展して組織も拡大していった時、耐えられるかという軸です。こうした観点から当社ではジンジャーを採用しました。
森戸 両社の話を聞いて、岩本先生はどのような感想を持ちましたか。
岩本 オラクルが働く場所におけるテクノロジー活用の動向について世界のあらゆる国で調査しているのですが、残念なことに、バックオフィスでのテクノロジー活用は日本が3年連続最下位なのです。
 日本では、25%から30%ぐらいの会社がバックオフィスでテクノロジーを活用しているのに対して、インドや中国では80%ぐらい。ただ、日本はテクノロジーに弱いわけではなくて、セールスやマーケティング部門ではとても活用しています。バックオフィスのような間接部門が遅れているのは、テクノロジー以外の部分で金縛り状態になっているからだと、私は思います。
DXとは単なるデジタル化ではなく、枠組みから変えることです。リフォームではなくトランスフォーム。ベースの考え方から変えていかなければなりません。
森戸 最後に、岩本先生からバックオフィスの変革に必要な考え方や進め方について伺います。
岩本 大手企業9社とニューノーマルの働き方のあるべき姿を共同研究したのですが、特にコロナ禍に入ってから、間接部門の連携がより一層不可欠になってきました。各部門で別のツールを使っていたとしても、ユーザーからはワンストップに見えること。そして、バックオフィスの部門が連携することが重要だと思います。

SESSION 3 副区長CIOが手がけた渋谷区革命の全容

渋谷区 澤田伸 副区長CIO
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jinjer株式会社 本田泰佑 執行役員
渋谷区は、民間企業でも難しいような大胆なデジタル改革を実現している。決してDXに明るくなかった澤田伸氏は何をしたのか。「目の前の課題解決」だけでなく「未来を作るための変革」のプロセスとは何か。jinjerの本田氏が迫った。
本田 副区長になられてから、どのようなことを手がけてきたのでしょうか。
澤田 大前提として住民サービスの向上には、職員満足度の向上が欠かせないと私は考えています。職員満足度を上げるためにも、職員が効率的に働ける環境をつくる。そのために、渋谷区ではテクノロジーを積極的に取り入れてきました。
 人間がいる窓口、ウェブサイト、LINEのようなソーシャルメディアなど、さまざまなコンタクトポイントを連携して情報を速やかに流すプラットフォームを作っているのが渋谷区の大きな特徴だと思います。
こうしたDXプロジェクトは、アジャイルの考え方で、とにかくスピードを優先していることも渋谷区のユニークなポイントだと思います。3年かかるような基幹システムの入れ替えを18カ月でやり遂げるなどの成果が出ています。自治体は常に100点満点を取りに行くのですが、私は70点80点でリリースしてクイックに変えていく方針です。
今、とくに力を入れているのがバックオフィスのDXです。できるだけ業務を自動化すること、データをうまく連携させて使っていくことを重視しています。
バックオフィスの中でも、最初は財務会計。その次に人材マネジメントで、2023年4月の人事から組織の最適化をAIがサポートするようになります。そして今、人事給与や庶務事務のDXが半ばできあがっており、来年度本格的に動きます。情報基盤もすべてクラウドに変えて、クラウド上でいろいろ連携できるようなモデルにしている最中です。
本田 7年間でいろんなことにチャレンジしてきた中で、うまくいったこと、一方で苦戦したことは何だったのでしょうか。
澤田 現代社会は「こうやれば大丈夫」という正解のない時代といえるのではないでしょうか。常に問いを立てながら、みんなと試行錯誤しながらやってきましたし、これからもそうだと思います。
 その中で見つけ出したのが、DXの順番です。お客様に対してのサービスをデジタル化するよりも先に、職員がデジタル技術を使い、デジタル化のプロセスに慣れることがすごく重要。
 そうすることで自分たちがデジタル化の恩恵を受けると、お客様にも提供したくなる。たとえば、ペーパーレス化にしても、手続きに紙を出すのが格好悪く感じるようになり、どうすれば紙を使わないで申請業務ができるようになるか考えます。
 職員たちが主導でいろんなアイデアを生み、実行してくれる。こういうプロセスが私は理想だと思っていて、それが少なからず渋谷区ではできていると思います。
 一方で、唯一後悔しているのが、バックオフィスのDXを最初にしなかったことです。交通費の精算や出張・休暇届などは利用頻度が高いにもかかわらず、旧式のシステムを使っていたので、職員はストレスフルだったと思います。
本田 なるほど。バックオフィス業務はストレスを抱えやすいから最初にやるべきということですね。
澤田 そうですね。これだけは間違ったな、と思っています。
本田 最後にDXを進めるうえで、澤田さんが感じるポイントやコツがあれば紹介してください。
澤田 キーワードは「さっさとやる」です。改善や価値創造のアイデアが生まれたら、すぐにまとめて、決まったらすぐに動く。私にとって俊敏を意味する「アジャイル」は時代遅れ。これからは「スプリント&ダッシュ」です。渋谷区はスタートアップの街なので、ダッシュしている人が多く、そこから学ぶことも多いのです(笑)。
本田 大手企業を見ていると、なかなかダッシュできない、ダッシュするけれども途中で止められてそのままスタックしてしまうようなこともあります。
澤田 そこをしっかり守ってあげるのが、リーダー、マネージャーの仕事です。「俺が責任を取るから」という担保があるからこそ、メンバーはスプリントやダッシュができるはずです。よって、リーダーやマネージャーのみなさんは組織が高速で動けるように、支えてあげて、導いていくことを意識してみてください。
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