2022/12/12

【必読】利用者と共創する「Instagramコマース最新版」

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
消費者の購買行動のデジタル化が加速する今、企業活動と切り離せないのがオンラインマーケティングだ。しかし、活用できる外部データは制限されているため、マーケターには何らかの工夫が必要となる。

利用者からは好きなもの・ほしいものを見つけるSNSとして、企業からは商品の発見から購買までをシームレスにつなぐプラットフォームとして、コマース領域でも活用されてきたInstagramは、日々進化し続けている。

その新機能と、いま企業のマーケターが押さえておくべき最新ポイントについて、Facebook Japanの丸山祐子氏に聞いた。
INDEX
  • Instagramで増えた消費者の選択肢
  • 今の時代に欠かせない、利用者との共創マーケティング
  • Instagram上のオンサイトデータを広告に活用
  • 機械学習を活用することが成功のカギ
  • インフルエンサーは知名度で選ばない

Instagramで増えた消費者の選択肢

──消費者の購買行動や、それを促すマーケティング手法はどう変化していますか。
 今まで企業と消費者のコミュニケーションチャネルは、テレビCMを中心とした広告が主流でした。でも、InstagramをはじめとするSNSの台頭によって、それらをマーケティングに活用するD2C企業が増えました。
 D2C企業がInstagramなどSNSを活用した理由には、テレビCMよりも少コストでテストを開始できる点があります。
まるやま・ゆうこ/アメリカで大学卒業後、人材会社での法人広告営業、広告会社でのソーシャルメディア営業を担当。Twitter、Facebookをはじめとする新規海外メディアの日本での広告ローンチに携わる。2013年Facebook Japanに入社。ブランディングを主目的とする消費財、ダイレクトレスポンスを主目的とするコマース業界のクライアントソリューションマネージャリード、営業部長を経て、D2C、消費財事業部の営業部長に。
 サポートさせていただいている企業のケースでも、オンラインでの反応や売れ行きを見ながら販促を増やす、または別の新商材に投資するなど、スピードの速さを感じます。
 どのクリエイティブが当たるのかをInstagramでテストして、反応の良かったクリエイティブをマス広告に展開した事例もあり、数字的な根拠を即時出しながら、時代に合わせて効率的なマーケティングをされています。
 そうしたマーケティングに日本を代表するような大企業も取り組むようになったのが、ここ2年の大きな変化です。
 マーケティング予算をテレビCMだけでなくデジタルにも使うようになると、一方通行だったコミュニケーションが、双方向のコミュニケーションに変わるため、今では様々な業種・業態・規模の企業に活用いただいています。
──大きなコストをかけなくても、Instagramで利用者の反応を確認して、次の施策に生かせる。それが小規模なD2C企業から始まって大企業にも広がったのですね。
 そうですね。SNSというとバズによって商品発見を促すという風に捉えられがちですが、それだけでなく利用者の比較検討にもInstagramが使われています。
 そこから逆算して、実店舗での販売の前に、商品のポジティブな反応をInstagramに載せておくような施策もトレンドになっています。
 商材によっては、テストマーケティングとしてスモールスタートさせ、デジタルでの反応を見てから大きく展開させるなど、大企業も常に、様々なトライアルをされています。
 また消費者側には、InstagramなどのSNSを通じて、今まで見えていなかった選択肢を選べるようになったという変化がありました。
 私自身、以前は好きなブランドのものを複数買っていましたが、Instagramで知らなかったブランドや商品を知る機会が増えました。
 手に取る前にInstagram上で比較検討までできてしまう今、好きなブランドだから買うということではなく、「いい商品だから買う」というマインドになっています。
 SNSで発見した商品を、いろいろな反応をもとに比較検討しながら安心して買う。これが、今の消費者のトレンドではないでしょうか。

今の時代に欠かせない、利用者との共創マーケティング

──様々な企業でInstagramの活用が広がっていますが、その活用を見て新たに追加した機能は?
 Instagramではショップ機能を活用した「発見型コマース」を提唱してきましたが、今年度は大きく2つのアップデートがありました。
 1つ目は「コミュニティコンテンツ機能」です。
 我々は、企業が一方的に発信するコンテンツだけでなく、一般の利用者が投稿しているリアルなレビューの重要性がわかっていました。
 その商品を好きで使って、感想を誰かに伝えようとする利用者の投稿には、販売する側が買ってもらうために出すメッセージよりも伝わるものがあります。
 そこで、商品について投稿している利用者と企業がオフィシャルにつながれて、許諾の取れた投稿を自社ショップや商品ページに載せられるようにしました。
──今までもDMで利用者とつながろうと思えばつながれたと思います。
 たしかに、これまではマーケターやブランドの担当者がInstagramで商品名やブランド名を検索し、その商品のレビューを投稿している利用者にDMを送って、掲載の許諾を取っていました。
 ただ、企業の担当者個人のアカウントからDMが送られてきても、怪しいから返信しないですよね。
 私もInstagramのイベントで利用者の投稿を紹介させてほしいと思って、個別にDMを送ったことがありますが、怪しまれるだけでなく作業も管理も煩雑で大変でした。
 でも「コミュニティコンテンツ機能」を活用すると、商品名やブランド名がタグ付けされた投稿を一覧で見られて、商品ページやショップに載せたい内容を投稿している利用者と簡単にコミュニケーションが取れるようになります。
──面倒だったコミュニケーションを簡単にしたのですね。
 そうです。企業にとっては自社のブランドや商品がタグ付けされている投稿にアクセスしやすくなり、投稿した利用者も安心して好きなブランドとつながれるようになりました。
 今の時代、企業がどれだけ「この商品はいいよ」と発信しても、実際どうなのかをSNSで調べるのが当たり前ですよね。Instagramも、その手段のひとつとして使われています。
 作り込まれた広告よりも、自分と近い人から「この商品はこんな使用感だよ」と聞くほうが信頼できるし、欲しくなる。
 企業が出す公式情報に、利用者によるたくさんのお墨付きがあることが、商品購入の後押しになっているのです。

Instagram上のオンサイトデータを広告に活用

 2つ目のアップデートは、「ショッピング・カスタム・オーディエンス」です。
 これはInstagram上のオンサイトデータ、つまり自社ショップの商品を閲覧した人や自社サイトを訪問した人など、ブランドや商品に興味を持っていて、購買可能性の高い利用者のデータを広告活用する機能のこと。
 これにより、ショップを訪れた人や商品を見た人、商品画像を保存した人など、アクションごとに「オーディエンス」としてグルーピングができるようになります。
 さらに、それらのオーディエンスと嗜好が近い人を「類似オーディエンス」として設定することで、ターゲットを拡張することが可能です。
 実際、日本で数多くのテストを実施した結果、既存の広告出稿の仕組みに類似オーディエンスを追加すると、パフォーマンスが改善されました。
 Instagramにはいろんなブランドの熱狂的なファンがたくさんいて、新しい情報を探しています。それらのデータを企業のマーケティング活動に使ってもらえるようアップデートできたのは、大きな進捗だと思っています。
ファーストパーティデータを活用してカスタマージャーニーを深く理解することに大きな機会があります。これにより、ブランドがその人のことを知っているという姿勢を示す体験が実現できるのです。
購入タイミングや頻度、価格、機能などから、顧客のニーズを理解します。データやプライバシーの世界や、その扱い方が大きく変わってきています。

Tawana Murphy Burnett
Meta、Global Categories and Clients担当ディレクター

機械学習を活用することが成功のカギ

──オンサイトデータを広告に活用できるのは魅力的です。マーケターがうまく使うコツはありますか。
 今まで広告を出稿する際、マーケターはいろんな調査や検証に時間をかけていたと思います。仮説を立ててターゲットを設定して、ペルソナをつくって、と。
 でもInstagramは、ひとつのアプリ上に様々な行動があり、ブランドに興味がある人や購入可能性の高い人がわかるプラットフォームです。ひとつの広告施策がどういった層に響くのか、たくさんのデータに基づいて利用者をシステムで自動的に判断できるんです。
 つまりマーケターは、自分たちで仮説を立て、ターゲットを決めて事前に検証することなく、Instagramで広告を回しながら、もっとも効果的で最適な形を検証できるというわけです。
 これまでのブランドはセグメントやターゲティングによってオーディエンスを狭めていましたが、Instagram広告なら、商品や広告のクリエイティブを広いオーディエンスに向けて発信すればいい。これが、いちばん大きな違いです。
──それは想定外の人たち、つまり自社商品の新しい購買層を知ることにもつながりますね。
 その通りで、広告クリエイティブに関しても、どのクリエイティブの反応が良いかシステムが判断してくれるので、いろんなクリエイティブを試してみることができます。
 いろんなところでシグナルを出している利用者をリアルタイムで捉えられるから、次はその人たちに向けて最適な施策を打てるようになります。
 広告出稿プランの仮説を検証するために使っていた時間を、最適な施策を考える時間に使えるようになるのは、企業やマーケターにとって大きなメリットではないでしょうか。

インフルエンサーは知名度で選ばない

──Instagramをうまく活用されている企業の事例を教えてください。
 メンズスキンケアブランド「HAUT」を販売している株式会社CARTA COMMUNICATIONSさんの事例を紹介します。
 CARTA COMMUNICATIONSさんはもともと広告会社なのですが、メンズ向けスキンケアの商品開発の段階からInstagramで話題作りをされていました。
 その後、Instagram経由での購入が圧倒的に多いとデータで確認できたことで、ショップ機能を導入。全ての投稿に商品タグとショップ機能を設置しました。
 さらにCARTA COMMUNICATIONSさんは、コミュニティコンテンツ機能を活用して、インフルエンサーとなるクリエイターとの共創にも取り組みました。その結果、クリエイターが文脈に合った投稿すると、販売数も比例して伸びることがわかったんです。
──かなり如実に効果が出ていますね。「文脈」とはどういうことでしょうか。
 インフルエンサーマーケティングをする際、どうしてもフォロワー数や知名度で選びがちだと思います。でもいくら有名なインフルエンサーを起用しても、ブランドのファンじゃなかったら“広告感”が滲み出てしまいますよね。
 インフルエンサーに選ぶべきは、フォロワー数や知名度のある人ではなく、ブランドや商品の魅力を代弁してくれる熱量の高い人。
 そのブランドが好きで愛用している人のコメントは説得力がありますし、実際にCARTA COMMUNICATIONSさんはコスメ好きな利用者にお願いしたところ、商品の魅力をかなり丁寧に伝えてくれたとおっしゃっていました。
「この美容液はとろみがあって、柑橘系の香りなのが好き」など、自分が使ってみて良いと思うポイントが投稿されていると、商品を手にしていなくても魅力が伝わりますよね。
 また、同じ商品でも人によってピックアップするポイントが違うので、コミュニティコンテンツ機能を活用して、いろんな人に依頼するのが良いと思います。
著名な方であれば、商品を紹介してもらうだけで売れるんじゃないかという淡い期待がありました。
しかし、もしかしたら認知につながったかもしれないが、実際の販売まではつながらなかった。やはり文脈が非常に重要だと思います。

加藤潤一
株式会社CARTA COMMUNICATIONS コマースコンテナチーム チームマネージャー 
──フォロワー数に関係なく、本当にブランドが好きな人が自分の価値観で投稿することが大切なんですね。
 有名人が紹介している商品を買いたくなるのは一昔前のトレンドで、今は口コミでサイズ感や使用感、素材感などを調べるのが当たり前の時代です。
 Instagramでもフォロワー数に関係なく、一般の利用者がサラッと投稿した内容が、商品の魅力をリアルに伝えているという事例は山ほどあります。私もどこの誰かわからないコスメ系のインフルエンサーを何人フォローしているかわからないほど(笑)。
 企業のマーケターの方には、ぜひ今のInstagramを使ってみてほしい。利用者やクリエイターがどういうコミュニケーションの場をつくっているかを体験し、リアルなレビューを力に変えて、ブランドや商品のファンを増やしてほしいと思っています。