(ブルームバーグ): 国内自動車各社の7-9月期(第2四半期)決算が10日までに出そろった。歴史的な水準にある円安による追い風もあり主要メーカーの多くが今期(2023年3月期)の業績見通しを上方修正したが、決算会見では各社の幹部から為替相場の安定を求める声が相次いだ。

円安効果などにより今期営業利益予想を従来計画比44%増の3600億円に引き上げた日産自動車の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は9日の会見で、急激な為替変動は「事業を進める上では持続性においてはさまざまな課題が出る」と説明。「われわれとしては安定した為替の方が望ましい」と続けた。

ホンダやSUBARUの決算会見でも、幹部から為替相場の安定を望む声が上がった。マツダの毛籠勝弘専務執行役員は10日の会見で、下期も厳しい経営環境が予想されるため「為替相場に一喜一憂することなく」着実に実績を積んでいきたいと語った。

円安により円換算での海外事業の収益が増加し、輸出製品の競争力も上昇することから、円安は自動車産業に代表される日本の輸出型製造業に追い風になるとされる。

決算の数字にもその効果が表れているにもかかわらず、もろ手を挙げて歓迎する声が上がらない背景には、半導体供給不足に起因する完成車メーカーの減産に苦しむ部品メーカーに、円安や原材料・エネルギー価格の高騰が追い打ちをかけていることが一因にあるとみられる。

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の吉田達生アナリストは、自動車各社の決算について多くが「実態として為替なかりせば減益だった」と振り返った。アナリストら市場の評価として「全体の数字を見て『増益で良かった』とは思うが、為替の効果がなければ大変だった」と続けた。

部品メーカーへの配慮重荷に

円安で悪影響を受ける部品メーカーへの配慮が顕著だったのはトヨタ自動車だ。同社は日系主要自動車メーカーで唯一今期の業績予想を上方修正しなかった。為替前提を円安方向に見直したことによる利益押し上げ効果がある一方で、仕入れ先の負担軽減のためにこれまでよりも手厚く行っている支援が重荷となっている。

トヨタの近健太副社長兼最高財務責任者(CFO)は会見で円安の影響を問われると、円安はトヨタの売上高や収益を押し上げるが、資材を輸入する取引先の部品メーカーは「仕入れ値が上昇して損が出る」などいろいろな方面に影響が出ることから、「一概にプラスです、マイナスですとはなかなか言えない」と言葉を濁した。

トヨタ系の部品メーカー、デンソーの松井靖経営役員は10月28日の決算会見で、円安は自社の利益を短期的に上げる方向で寄与するが、行き過ぎた円安はエネルギー価格高騰や景気後退につながる懸念があることから望ましくないと語った。1ドル=140円や150円といった水準は「過度な円安」だとの見方も示した。

円安に伴い食料品や日用品などの値上げが相次いでいる影響で消費者心理が冷え込み、自動車需要が減少する可能性も懸念されている。軽自動車を主力とするスズキの鈴木俊宏社長は、同社製品の「購買層の皆さんの財布の状況は非常に厳しい」と指摘。半導体不足の影響で受注残は高止まりしているが「財布の状況に応じていつキャンセルされるかわからない」と警戒感を示した。

その上で、「もうちょっと円高に振れて安定していただくのが一番」と続けた。

(マツダ役員のコメントを追加して更新します)

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