トロール・ハンターズ (1)

【トロール・ハンターズ 第6回】

「匿名」という仮面の下にある素顔を暴く

2015/1/10
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ネットで差別や嫌がらせなどの憎悪をまき散らす「荒らし」。スウェーデンでは、匿名で荒らしを行う者たちの身元を特定する活動が行われている。行き過ぎという批判もある彼らの活動を全6回の連載で追う。
第1回:ネットで憎悪をまき散らす、「荒らし」を懲らしめろ
第2回:ITの理想郷、スウェーデンの表と裏
第3回:データも駆使。「荒らし」の正体を暴くゲリラ的手法
第4回:「荒らし」討伐隊リーダーの、独特なプロフィール
第5回:憎悪を拡散させる者に、匿名を求める資格はない

「匿名性には正当な理由があると思う」

フレードリクソンは、このデータベースに関するリサーチ・グループの取り組みを支持している。彼は、憎悪を拡散するために使われるのなら、匿名性は守られるべきではないと考えている。「匿名性には正当な理由があると思う」とフレードリクソンは語る。「インターネットは素晴らしいものだと思う。大衆に文化を広める役割を担ってきたし、個人的には、一部の人によってインターネットが悪用されると頭にくる」

とはいえ、エクスプレッセン紙が一般市民の身元を暴露したことについては複雑な思いを抱いているという。リサーチ・グループは、何を報道するかの選択をエクスプレッセン紙に任せた。フレードリクソンは、もし自分が選んでいたとしたら、政治家だけを暴露していただろうと述べた。「公人にとどめておけば、はるかに効果的なストーリーになっただろう」と彼は言う。

リサーチ・グループは、ある程度動揺したとはいえ、誇りを持ってこの騒動を切り抜け、信頼できるジャーナリズム勢力としての新たな評価を得た。数カ月後、スウェーデンの調査報道ジャーナリスト協会は、このスクープ記事に対してリサーチ・グループとエクスプレッセン紙を表彰した。

2014年9月には、エクスプレッセン紙が今回のデータに基づく新たな記事をシリーズで掲載し、さらに多くのスウェーデン民主党員の正体を暴露した。黒人男性をチンパンジーと呼んだ者もいれば、「イスラム教徒は遺伝子学的に暴力を振るう傾向がある」と示唆した者もいる。これらの記事によって、リサーチ・グループは、スウェーデンで最も権威あるジャーナリズム賞である「Stora Journalistpriset賞」にノミネートされた。

一方、記事が出てから1週間後に行われたスウェーデンの総選挙では、結果に何の影響もなかったように見えた。それどころか、スウェーデン民主党は、得票率が約13%と前回から倍増し、スウェーデンで第3の政党になった。結果的に、エクスプレッセン紙の行為がスウェーデン民主党を被害者のように見せ、かえって支援する形になったと示唆する人もいる。

しかしフレードリクソンは、彼らが公の場で見せる仮面を、心の奥底で抱いているであろう思想に少しでも近づける手助けができただけで満足だと述べる。Avpixlatのコメント欄に毎日現れる、本来の醜い姿を、彼らは隠しているというのだ。「我々はただ、彼らが人種差別主義者であることを示してみせただけだ。それに対して国民は満足しているようだ」と彼は言う。

フレードリクソンの興味対象

リサーチ・グループは現在、スウェーデン最大の総合フォーラム「フラッシュバック」が所有する巨大なデータベースを基にした次のプロジェクトの調査に没頭している。リサーチ・グループのメンバーは最近の集まりで、フレードリクソンが提供した軍の高官のメールアドレス100件のリストを6時間かけて調査し、サイト上に何か興味深いものが投稿されたかどうかを調べた。わずかに1件、売春婦を雇ったと白状したらしい男が見つかったが、エクスプレッセン紙が探しているような水準の報道価値に達する可能性は低い。

フラッシュバック・ユーザーの暴露は、Avpixlatへのコメント投稿者の暴露よりも強い反発を招くかもしれない。フラッシュバック・ユーザーは、移民への憎悪を主な話題にしているわけではなく(している者もいるが)、恋愛やビデオゲーム、料理、政治、薬物依存など、人間のあらゆる関心事をテーマにしている。

2013年夏、フレードリクソンはネット上で抗議を受けた。リサーチ・グループがデータベースを持っているかどうかをツイッターで誰かに尋ねられ、持っていると答えた時のことだ。理由を聞かれた彼は、そっけなくこう答えた。「なぜなら、それが可能だから」

このツイートは、リサーチ・グループの中でも論議を呼んだ。フレードリクソンはその後、リサーチ・グループがデータベースを調査するのはネットヘイトを探すためであることを明確にしようとした。しかし、多くのフラッシュバック・ユーザーは怒りが収まらなかったようだ。

スウェーデンの日刊紙「メトロ」でオンラインカルチャーを担当するジャーナリストで、長年のフラッシュバック・ユーザーでもあるヤック・バーナーは、リサーチ・グループが、「無防備な人々の秘密を危険にさらす力を持っていることを誇示」したと批判する。「あまり道義をわきまえた行為とは言えず、むしろかなり無神経で幼稚だった」。スウェーデン海賊党の代表を務めるアンナ・トロバーリも、リサーチ・グループを「見せかけの自警団」と批判した。

フレードリクソンは、このプロジェクトについて筆者にあまり多くを語ろうとしなかったが、主に公人の悪行に焦点を当てる点で、Avpixlatの件に似たものになるだろうと語った。リサーチ・グループとしては誰かの医療問題を暴露する気はないので、フラッシュバック・ユーザーは安心していい、と彼は言う。

「セックスや薬物、健康の欄への投稿については、我々は何の興味もない」とフレードリクソンは述べる。「他の人に関する中傷をフラッシュバックの他の場所に投稿するとしたら、どこに載せるだろうか? その解明が興味深い」

原文:The Troll Hunters(English)

(原文筆者:Adrian Chen、翻訳:湯本牧子、合原弘子/ガリレオ、写真:MIT Technology Review )
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