2022/11/22

「ぼくらの未来に焼却処分場はいらない」再生素材スタートアップの挑戦

NewsPicks / Brand Design 編集者
 現在、日本では「寝具の廃棄量の多さ」だけではなく、「寝具のリサイクル率の低さ」という課題も抱えている。
 新たに寝具を製造するためには、羽毛布団なら水鳥200羽分の羽毛、綿布団なら綿花畑100坪分の綿を新たに確保しなければならない。
 その一方で、年間約1億枚の廃棄のうち、リサイクル率は約2%とわずか。サステナビリティを目指す社会に対し逆行する状況が続いている。
 この課題に正面から取り組むのが、yuni。同社は、寝具の回収・再生事業「susteb」を展開するスタートアップ。
 sustebは不要になった敷布団や掛け布団、廃棄され焼却処分される予定の寝具を回収し、独自の技術により洗浄・滅菌するサービス。2021年9月にローンチした。
 回収した寝具は、22年8月時点で累計約10万枚を突破。月1.5万枚ほどのペースで回収を行っている。
 sustebで再生された素材は、素材とコイルを組み合わせるオーダーメイドが可能なyuniの自社ブランド「xSleep(クロススリープ)」や、引取依頼することで再生した素材と同量の商品を安く購入することができるサービス「RBRTH(リバース)」のプロダクトとして再利用する。
 使われずに自治体や家庭に眠る寝具について「綿花の畑のようにとらえ、(寝具再生市場に)ブルーオーシャンを見出している」と語るyuni代表の内橋堅志氏。
 なぜ彼は「寝具の再生事業」に賭けるのだろうか。
 ビジネスの勝ち筋と、狙う未来について、内橋氏に聞いた。

寝具業界の抱える「リサイクル」のジレンマ

──まず、国内の寝具市場が抱える「リサイクル率の低さ」について教えてください。なぜ寝具のリサイクルは現在に至るまで発展しなかったのでしょうか。
内橋 布団は新しい素材を使った方が圧倒的に安く製品をつくれるから、という背景があります。
 まず、再生のために自力で回収しようとすると、洗浄や加工などを行う機械を揃えるための初期投資がかかってしまうんです。
 素材によって揃える機械も変われば、技術も変わります。実際、大手寝具メーカーでも自社製品を回収する取り組みを行なっている企業はあるものの、素材を再利用するまでには至っていません。
実家が寝具メーカーの機械学習エンジニア。高校入学後から実家の手伝いを通して寝具の知識を深める。京都大学に進学し情報学、特に機械学習を専攻。その後、友人との起業を経てフリーランスとして独立。2019年末に株式会社yuniを設立。2021年9月に寝具をはじめとする綿・羽毛・ウレタン製品の回収と再生素材化を行う「susteb」をリリースし、多くの法人・自治体と連携を進めるほか、パーソナライズド寝具のxSleepや何度でも再生する寝装リビングブランドのRBRTHを運営。
 また、年間で破棄される寝具は約1億枚。各自宅や、事業者で、要らないが捨てずに何となく保管されている休眠寝具が、約12億枚あると言われています。
 自治体によって寝具の扱いは異なりますが、所定の回収場へわざわざ車を出し、寝具を持ち込まなければいけないケースもあります。言ってしまえば「捨てるのが面倒」なんです。
 地域によっては民間の業者を利用することを指示する自治体もある。特にお年寄りにとっては重い寝具を移動させることが困難な場合もあります。処分するハードルが高いんですよね。
廃棄される大量の布団(写真提供:yuni)
──yuniでは「廃棄した方がコストは安い」という業界全体のジレンマを、どのようにクリアしたのでしょうか。
 まず、ユーザーが寝具を廃棄すること以上に、sustebを利用することへの魅力を感じてもらうことを目指しました。
 そもそも寝具は“粗大ゴミ”に該当するので、回収の際に寝具の持ち主が焼却費用としてお金を払うことが一般的です。
 その焼却費用よりも安価に回収費用を設定することで、個人の利用者、もっと言えば焼却処分を自分たちで行なっていない自治体にもメリットが生まれます。
 ゆくゆくはドアtoドアで出張回収を行なったり、普段買い物をしている店舗や商業施設に持ち込めるようにしたりすることで、回収のハードルを下げられれればと考えています。
──なるほど。しかし、安価に設定してしまうと収益もそれだけ減ってしまうことになりますが、事業のどういったところに勝ち筋があるのでしょうか。
 まさに「回収」という工程に、僕らの強みがあります。
 例えば、海洋プラスチックなどの素材再生ビジネスに取り組む場合、一般的に回収コストが最もかかります。
 再生した素材を販売することで利益を賄うケースが多いのですが、回収に時間とお金を費やしてしまうほど、利益が立つまでに赤字化してしまうリスクを孕んでいるのです。
 しかし、寝具業界は回収の仕組みがすでに成り立っていて、自治体が一箇所に集積し管理している。
 ユーザー側にも「無料で廃棄できるわけではない」という共通認識があるからこそ、「回収でお金が発生する」というモデルが受け入れてもらいやすいんです。
 僕たちが寝具1枚を回収し再利用した場合、約2,500円の経済効果があると試算しています。廃棄される寝具約1億枚をすべて回収すると、それだけで約2500億円の売上が見込める。
 回収された寝具はペットボトルなどとは異なり、異物が混入されているリスクもありません。
 再生利用ができる素材は主に綿・羽毛・ウレタン・ブレスの4種類。従来では洗浄・滅菌ができない素材もありましたが、僕たちは技術を突き詰めて再利用化を実現させました。
 作業工程のなかで自動化できるところは自動化し、再生素材の価格を新規素材に比べて安くすることにも成功したのです。

エンジニア×寝具で目覚めた使命

──そもそもなぜ、ニッチな「寝具」業界に着目したのでしょうか。
 父の影響が大きいですね。僕の実家は兵庫県にある老舗の寝具メーカーでした。
 高校時代から父の勧めで会社の仕事をよく手伝っていたのですが、それは後継ぎのためというより、社会勉強の一環と考えていたようです。
 自分としても、布団業界の慣習や大変さを目の前で見ていたため、卒業後はエンジニアの道に進みました。
内橋氏の実家の布団メーカー(写真提供:yuni)
 その後、2017年に仮想通貨関連の会社を起業しました。仕事がすこし落ち着いてきた頃、次の事業では自分にしかできないことがやりたい、そんなふうに考えるようになりました。
 そんなタイミングで、ふたたび父の寝具会社を手伝う機会があり。そこから徐々に発想が広がっていった、という経緯です。
──現在の「寝具の再利用」事業を思い付いたのは、いつですか。
 僕個人が思い付いたわけではなく、そういった課題意識は業界の中で以前からありました。
 寝具業界としては、家電リサイクル法やプラスチックの再資源化が注目されたタイミングはありましたが、リーマンショックの時期と重なり、当時は環境問題より経済の再生が優先され、カーボンクレジットの導入が遅れた、という経緯があります。
 みんな薄々「やらなければいけないよね」と感じていましたし、父も「布団はリサイクルされるべきだ」とよく言っていました。
 その空気を高校生時代から肌で感じていたこともあり、自らのエンジニア×寝具というキャリアを考えた時に「自分がやるしかない」と、2019年に使命を感じて今に至ります。

目指すは、寝具業界のインテル

──sustebは2021年にサービスをローンチさせましたが、現在寝具の回収先を大きく占めるのは一般家庭・法人・自治体のうちどちらになりますか?
 個人の自宅から回収する寝具は、月に600〜1000枚程度。焼却処分場を持っていない自治体や、法人からの回収が主になります。
 サービスをリリースした時から、熱量の高い自治体からのご連絡はいただいていました。寝具の埋め立てが法律で禁止されているなか、自治体には「燃やす」以外の選択肢がない。
 でも世の中の流れから「大量の寝具を再生できればいいのに」という願望を抱えている自治体は少なくはありません。
 二酸化炭素の排出量削減を目標に設定されている地域もあるからこそ、「焼却処分するよりも安い」僕らのサービスに対する需要はありました。
──回収した素材は、どのように再生化するのでしょうか。
 まずは連携している工場で、絶対に再生できないレベルで劣化が進んだ寝具を取り除くことから始めます。そして機械を用いながら細かいゴミを除去し、洗浄・滅菌していく。
 先述した通り、従来の素材再生のビジネスでは回収にもっともコストをかけることが多いんです。しかし、僕たちの場合、コストが発生するのは再生するところ。
 今は父が経営する寝具メーカーの空きスペースに機械を導入し、自社で再生工場を持っています。
sustebによって再生された素材
 その一方「寝具の再生」という誰もやらなかった領域にチャレンジしていることもあり、かつSDGsに取り組む以上は持続可能な労働体系であるべきだと思っていて。
 「社会に貢献している事業」だと自信を持って言いきるためにも、再生処理工場では障害者就労支援も行なっています。
 実際、全国的な障害者就労支援施設の水準と比較しても、僕たちはかなり高い給与で障害者を雇用しています。
──なるほど、労働面からも持続可能性を意識されているんですね。洗浄・滅菌された素材はどのように活用するのでしょう。
 現在は、商社と連携した素材としての販売・流通のほか、「xSleep」と「RBRTH」という二つの自社ブランドを展開しています。
 「xSleep」はオンライン問診で作る、パーソナライズド・マットレスのブランドです。僕たちはあらゆる再生素材を扱っているからこそ、その素材に応じ様々な寝心地のマットレスを作れます。
 人によって寝心地の好みは異なるからこそ、オーダーメイドで一人一人の体に合ったマットレスを提供できる点が、ブランドの強みとなっています。
 一方「RBRTH」は、リサイクル100%を目指してスタートしたブランド。寝具を販売し、ある程度経年劣化が進んだらまたそれを回収し、新しい寝具を作る、という「素材を外から入れる必要がない」サイクルで成立するブランドです。
 引き取り依頼をしてくださったユーザーさんは、RBRTHの製品を安く買えるようにすることで、より循環が起きやすくなります。
──効率的な循環の仕組みですね。このまま自社プロダクトの売上を拡大していくつもりでしょうか。
 現在、寝具全体の市場は約1兆2000億円ですが、国内寝具の市場では一つのブランドが150億円以上のシェアを占めることはほぼありません。
 僕たちは100億円規模のブランドを複数立ち上げることで、D2Cの販路を拡大し収益を得ることを目標としています。
 ただ、「独占状態は起こりえない」とは言ったものの、ひとつ可能性としてあり得るのは、寝具界のインテルを目指すことですね。つまり、基盤を独占する。
 パソコンを買うとインテルのシールが貼ってあるように、寝具やクッション等に当たり前のように再生素材が使われるようになり、その再生素材をsustebが独占している、という状態をつくりたいんです。
 従来、再生素材を使用するインセンティブ設計は難しく、再生可能エネルギーの普及においても、そのエネルギーを使用するメリットが見出しにくいことが問題でした。
 そこでsustebは、ビジネスモデルの力で再生素材を使うメリットを提示し、普及のための道筋をつくっていきます。例えば、来年春から開始するのは、提携する製品の品質表示タグにはQRコードが付いていて、そこからお引き取り依頼ができます。さらに依頼した人は再生した商品を安く購入できるようになる。
 寝具は買うより先に捨てるが来るプロダクト。その捨てる段階で次に買う商品をレコメンドできるのは非常に強いと考えていますね。

デジタルの次は、サステナブル革命が起きる

──今後は、寝具事業でどのような未来をつくりたいですか。
 日本は世界的に見ても焼却処分が世界一多く、素材再生化が遅れている国です。言い換えれば、リサイクル課題先進国という言い方もできる。
 廃棄寝具の再生素材化は、日本に限らず先進国の中でも今まで放置されてきた領域。この国で先進事例を作り、寝具から始めてごみの焼却処分をなくしていき、日本を廃棄大国から資源大国へ変えることが僕の掲げる大きな目標です。
 その一方、日本は世界的なデジタル革命が起きた中でも出遅れています。
 海外では“Sustainability is the New Digital”という言葉がある通り、デジタル革命の次にはサステナブル革命が起きる。
 資源を集めることが難しくなる中、サステナブルに資源を調達できる企業が成長し、既存の素材を提供しているメーカーを倒していくはず。デジタルが旧態依然を壊したのと近い現象が起きるのでは、と期待しています。
 廃棄課題先進国である日本でサステナビリティ革命が起きて「廃棄物=資源」という捉え方が国内に浸透すれば、世界でもシェアを取れるようになる。それを先導していきたいですね。
※本記事は、ICC KYOTO 2022「STARTUP CATAPULT スタートアップの登竜門」協賛商品として、NewsPicks Brand Designが優勝企業へ無償提供したものとなります。