2022/10/18

【大阪】大手が勝てない駐車場ベンチャーは“移動”で世界狙う

大阪に、「シェアリングエコノミー」型のビジネスで、本気で世界を狙うスタートアップ企業があります。名前はakippa株式会社。2014年のサービス開始以降、破竹の勢いで成長していて、これまでに累計で35億円(2022年9月時点)の資金を集めました。

扱っているのは「駐車場」。車を止める場所を探しているドライバーと、空きスペースを持て余している駐車場オーナーをマッチングさせる、いわゆるシェア駐車場サービスの開発・運営を行っています。

サービス開始から8年で会員数は290万人(2022年10月時点)を超える成長を続け、さらに今、駐車場を起点に「移動」そのものに革命を起こそうとしているakippaをさらに掘り下げるべく、創業者の代表取締役社長 CEO・金谷元気さんに話を聞きました。(全4回)
INDEX
  • 駐車場をシェアリングエコノミーでつなぐ
  • “移動”のプラットフォームをめざす
  • 大手企業が追いつけなかった戦略
  • 元サッカー少年の次の夢は“経営者”
  • 「“なくてはならぬ”をつくる」がミッション
  • めざすは世界No.1移動プラットフォーム

駐車場をシェアリングエコノミーでつなぐ

akippaはいわば“駐車場版Airbnb”で、契約されていない月極駐車場や個人宅の車庫・空き地・商業施設の空きスペースなどを誰でも簡単に貸し出すことができるサービスです。
車の利用者からすると、アプリを通して駐車できるスペースの検索・予約ができるので、車を止められる場所を探し回る手間が省けます。スペースの貸主からすると、土地を有効活用したり、自分が持っている駐車場を使わないタイミングだけ貸したりすることで収益化が可能になります。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、それまで利用が多かったイベントや旅行での駐車ニーズが落ち込み、一時は売り上げが下がったものの、通勤・通学目的の利用者の需要は手堅く、感染症の流行が落ち着いてからはイベントなどの需要も回復して、さらに会員数を増やしています。

“移動”のプラットフォームをめざす

akippaの正式なサービスリリースは2014年。現在に至るまでに累計資金調達額は35億円、累計会員数290万人(2022年10月時点)を実現し、さらに今も豊富な資金と蓄積してきたデータをもとに新しい事業をつくり出そうとしています。
akippaの公表資料をもとに編集部作成

大手企業が追いつけなかった戦略

akippaが開拓した駐車場シェアリング市場の成長に伴って、参入する企業も増えてきました。ベンチャー企業にとって、巨大な資金力のある大手企業の参入は脅威で、あっという間にのみ込まれてしまうことも多いものです。
しかし、akippaは資金も人材も豊富な大手企業に負けず、競争力を高め続け、市場でのシェアを獲得し続けてきました。その競争力の一つが「駐車場の数」で、akippaは初期からその数を戦略的に増やしてきたのだそうです。
金谷元気(かなや・げんき) akippa株式会社 代表取締役社長CEO。1984年、大阪府生まれ。高校卒業後はJリーガーをめざし関西リーグなどでプレー。引退後から2年間は上場企業で営業を経験し、2009年2月に24歳で創業。2011年、株式会社へ組織変更し代表取締役に就任
金谷 「本社が大阪だったこともあり、まずは大阪環状線内のエリアの開拓を集中的に行い、類似サービスと比べて一番多くの駐車場がアプリ上に掲載されている状態をめざしました。ユーザーからすると駐車場を探す際、どれだけ候補となる場所があるのか次第でその使い勝手は全く変わります。他の何倍もの場所が掲載されていれば、我々のサービスを選んでくれると考えたのです。
予想通り駐車場の数が増えるほど、多くのユーザーに利用されるようになって、戦略の確かさを実感してからは、駐車場オーナーと交渉する代理店をつくりながら他のエリアでも駐車場の数を増やしていきました」
さらに金谷さんは駐車場シェアリングサービスの成長性を誰よりも信じており、リリース当初からサービスの開発と同時に、当時まだ一般的でなかった「駐車場シェア」というキーワードを獲りにいきます。
金谷 「類似サービスよりも自社サービスを選んでもらうには、『駐車場といえばakippa』と第一想起を獲得する必要があると思っていて、『駐車場シェア』というキーワードでのメディア露出の9割がakippaになることをめざしました。ユーザーの価値に訴求したPRを行うようにしたのです」
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元サッカー少年の次の夢は“経営者”

取材全体を通して、終始笑顔で気さくに質問に答えてくれた金谷元気さん。勢いのある創業社長にありがちなギラギラした感じは全くなく、どこか物静かで、でも発する言葉は力強く、これまでの経験から踏み固めた土台の強さを感じました。
彼のバックグラウンドにはサッカーがあります。小学校2年生から始めたサッカーですが、高校卒業後、関西リーグのクラブチームに所属して22歳まで続け、当時は元旦以外の364日全て練習時間に充てていたそうです。生活費はアルバイトで稼いでいたそうですが、金谷さんいわく「やり方が決まった仕事は全くもって向いていなかった」そうです。
そんな金谷さんは、とあるきっかけで営業の面白さに目覚め、「経営者という道も、プロサッカー選手と同じぐらい情熱を注げるものかもしれない」と感じたのだと言います。そして自分で決めていた期限までに、プロになることはかなわなかったことから、起業という新しい夢に向けて走り出しました。
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「“なくてはならぬ”をつくる」がミッション

金谷さんが2009年に創業した会社の当時の事業は営業代行。法人相手に電話営業で携帯電話や光回線、ウォーターサーバーなどを販売していました。ただ当時は“ミッション”や“ビジョン”などは皆無で、とにかく売り上げを伸ばすことだけをめざしていたそうです。ただ、次第に数字だけを追いかけながら経営を続けることに違和感を感じるようになります。
金谷 「売り上げに気を配るあまり、お客さまからクレームもらう機会が多くなったのです。その対応に疲弊する仲間の姿を見て、何とも言えない気持ちになりました。自社が本当に世の中に対して何かを生み出しているのか、お客さまから怒られてまでものを売る必要があるのかわからなくなってきました」
同じ頃、共同創業者から「この会社のミッションって何ですか?」と改めて問われ、自分たちが何のために必死で働いているのか、ちゃんと向き合ってこなかったと反省したのだそう。そこからはいろいろな場所に足を運びながら、ミッションを言語化しようとします。
その頃、今の駐車場シェア事業をひらめくきっかけになるできごとが起きました。
金谷 「家に帰ると電気代を払い忘れていて、電気がつかなくなりました。お金がなかったので引き落としにせず、コンビニ支払いにしていたのですが、その支払いが期限に間に合わなかったのです。当然テレビも見られないし、PCやスマホの充電もできません。これまで当たり前だった電気のありがたさを身に染みて感じたのと同時に、単純に『電気ってすごいな』と感じました。
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そして『これだ!』と思いました。僕らがめざすのは、社会のインフラとしてあらゆる人の生活を支える電気のようなサービスだと思ったのです」
金谷さんは全社員を集めて「あなたが思う、世の中の課題を挙げてください」と質問し、会社のミッションと注力する新たな事業についてアイデアを出し合いました。200個以上の「課題」が列挙されるなか、誕生したのが駐車場予約アプリ「akippa」の原型となる構想だったのです。

めざすは世界No.1移動プラットフォーム

インタビュー後半、将来の展望について伺った際、長時間の取材で疲れていたはずなのに、力強くイキイキと語っていて、時折見せる子どもっぽい笑顔が非常に印象に残りました。
金谷 「akippa株式会社がミッションに掲げている『“なくてはならぬ”をつくる』にのっとって、まずは駐車場について困る人がいなくなるよう、世界中にakippaを展開したいと考えています。
また、EV車の普及に伴って必要になる『充電できる駐車場』も展開していく予定です。EV車の充電は今、場所が限られていて、気軽に充電できないため、電池の残量に気をつけながら走る必要があります。それが駐車場に備え付けてあれば、車を止めるのと同時に充電ができ手間もかからず、常に残りの電池に気を配る必要もなくなり、安心してあちこちに行けるようになります。
さらに、ドライバーの高齢化とそれに伴う交通インフラの断絶を解決する一つの方法として新しいサービスを始めたいとも考えています。具体的には、自動運転のEV車を配置し、それにみんなが乗り合わせて目的地まで行く新しい形の交通インフラがつくれると良いなと思っています。
これからも、移動にまつわるさまざまな課題を解決し、ビジョンである『あなたの“あいたい”をつなぐ』をかなえる価値提供をし続けていきたいです。そして日本を越え、いつの日か大阪ミナミから『世界No.1の移動プラットフォーム』へと成長できればと考えています」
Vol.2でインタビュー詳細