2022/10/14

人材業界の常識を覆す、複業のリーディングカンパニーが示す覚悟

NewsPicks / Brand Design 編集者
 日本初のSaaS型複業マッチングプラットフォーム「複業クラウド」は、月額数万円の定額料金で求人掲載が可能で、プラットフォーム上で登録する全登録者の中から求める人材を探し無制限にアプローチができるサービス。
 複業人材を何人採用しても、成約手数料が一切かからない点が特徴だ。
 人材業界のしきたりに風穴を開ける存在として、すでに実力も兼ね備えている。
 創業3年ながら導入実績は1000を超え、登録者数は4万人以上。
 さらに、ARR(年間経常収益)は前年同期間比で約3倍と、まさに破竹の勢いで急成長するスタートアップだ。
 Another worksは、これまでペイドでの認知獲得/マーケティング施策はほとんど実施していない。
 なのになぜ、群雄割拠の人材サービスの中で急成長できたのだろうか。また「複業」を促進する先の未来とは。
 同社の強みと戦略について、大林氏に聞いた。

「複業」で誰もが挑戦できる世界へ

──まず「複業」の定義について教えてください。「副業」とは何が違うのでしょうか。
大林 お小遣い稼ぎや副収入などの「金銭報酬」を主な目的とする「副業」に対し、「複業」はスキルアップしたい、地元に恩返ししたい、といった経験報酬や感情報酬など、複数の目的を含むものだと考えています。
 本業とは別の場所で自分のスキルを磨いたり、好きなことに挑戦したりできる複業には、キャリアや人生の可能性を最大化させる力があります。
 弊社は「挑戦する全ての人の機会を最大化する」をビジョンに掲げ、誰もが複業で挑戦できる社会の実現を目指しています。
大分県大分市出身。早稲田大学法学部卒業。株式会社パソナキャリアカンパニーに新卒入社し、顧問やフリーランスを業務委託紹介する新規事業に従事。2018年に株式会社ビズリーチのM&A領域の新規事業における創業メンバーとして参画。2019年5月7日に株式会社Another worksを創業。
──「正社員採用」ではなく、「複業採用」にこだわるのはなぜですか。
 複業人材こそが、中小企業や地方企業の課題解決につながると考えているからです。
 現在の日本では、正社員として採用された人が、企業のカルチャーやスキルに合わなかったとしても、正当な理由がない限り簡単に解雇することはできません。
 そのため、企業にとって正社員を雇うのは、リスクが非常に高い。
 一方で、複業は順応性が高く、時給制や固定給与制、成果報酬制などの条件を選択し、会社のフェーズに合わせて契約ができます。
 複業だからこそ、必要なタイミングで、必要な期間、必要なスキルを持つ人を仲間に迎え入れられるのです。
──今後、正社員は必要なくなると考えますか。
 いいえ。正社員という雇用形態自体は、今後も必要不可欠な存在だと考えています。
 今や外部人材を「仲間にするか・しないか」の議論が社内で展開されるフェーズは過ぎ、むしろ「プロジェクトの中で、いかに必要な人材に仲間になってもらえるか」が重要視される時代になりつつあります。
 正社員は、外部人材をマネジメントする側となり、経営のカギを握る存在になっていくのではないでしょうか。

飛躍的なグロースの秘訣

──なるほど。「複業クラウド」はローンチ3年で、ユーザー数・導入数ともに右肩上がりの状況です。成長の要因は何ですか?
 まずは市場性です。コロナ禍によりリモートワークが浸透し出退勤の移動時間が無くなり、一人ひとりの「可処分時間」が最大化されました。
 企業側もリモートでも任せられる業務が増え、物理的な壁が無くなりました。
 そして、新規性と革新性です。
 成約手数料が無料で、月額利用料のみで求人を掲載できるモデルは、業界に先駆けてスタートしました。何人採用しても、利用料は変わりません。
 複業したい人が自由に案件を探し、企業も人材と直接契約が可能な、新たな価値を生み出すサービスだと自負しています。
──大林さんは、現在の複業市場をどのように捉えていますか。
 複業市場を大きく分けると、企業のノンコア業務で単発の案件を扱うクラウドソーシング市場と、弊社のようにコア業務で継続的な関わりが必要な案件を扱うプロシェアリング市場があります。
 そして、プロシェアリング市場はさらに、総合型/職種特化型、人材紹介型/プラットフォーム型に分類されます。
 人材紹介型のサービスが多い中、弊社は創業期からずっと一貫して総合型のプラットフォームを展開し、成約手数料無料の形を守り続けている点が特徴ですね。
──他に、競合との優位性はどこにあると考えていますか?
 主に、2つあります。
 1つ目は、膨大なマッチングデータをもとに、AIによる高精度のマッチングと省人化を実現している点。
 そして2つ目は、登録者の複業〜転職意向度まで、キャリア情報を豊富にカバレッジしていることから、企業の採用ニーズに幅広く対応できる点だと考えています。

「複業」の社会実装に向けた戦略

──複業クラウドの登録者には、どのような方がいるのでしょうか。
エンジニアやデザイナーだけではなく、マーケティングや営業など、幅広い職種の方が登録しています。
 実績を作るためにアウトプット先を探している方や、自治体やスポーツチーム、教育機関など、普段は関わることのできない組織との繋がりを求めている方も多くいます。
 自治体の案件をきっかけに、そのまま仕事先に移住するケースも起きていたり、ゲームオペレータとして関わったスポーツチームにそのまま転職した、なんて事例もあったりするんですよ。
──まさに複業で挑戦したことをきっかけに、人生が変わったのですね。民間企業だけではなく、自治体やスポーツチーム、教育機関にも複業クラウドを展開しているのはなぜですか?
 私たちは、日本の働き方の新しいインフラを目指しています。自社だけを大きくするのではなく、市場全体を盛り上げていく必要があります。
 そのためには、一般企業だけでなく、今まで複業人材を受け入れてこなかった地方自治体やスポーツチーム、教育現場にも複業の選択肢を増やしていくべきだと考えています。
──すでに約60自治体が導入しているとのことですが、どのような取り組みをしているのでしょうか。
 自治体に複業人材を登用し、自治体職員とともに行政課題解決に取り組み、地方創生の実現を目指すプロジェクトです。
 DXの推進計画や広報戦略の立案など、専門性の高い知見が必要な行政課題を解決することができます。
 2020年10月、複業クラウドがグロース前のタイミングで開始した自治体事業は、約2年で全国約60自治体にも広がりを見せ、全自治体の約3%が導入していることになります。
石川・能登町では、複業クラウドで登用された「イカキング経済効果算出アドバイザー」の活躍により、経済効果6億円とのレポートを発表。多くのメディアに取り上げられ、Twitterでもトレンド入りするなどの反響が。
 これまで累計2,500以上ものエントリーを集めており、地元に貢献したい、経験を活かしてスキルアップしたいという、感情報酬や経験報酬を目的に参加してくださる方が多いんです。

個人も企業も「まずは複業」の時代へ

──複業がキャリアに与える影響は今後、どのように変化していくと思いますか?
 やりたいことが見つかり一念発起した際、これまで転職や独立しか選択肢がなかったものが、「まずは複業」という働き方になってくると思います。
 企業側にとっても、数ヶ月の複業期間を経由してから正式にジョインしてもらう方がメリットがあるでしょう。
 複業から接点を持つことで、個人も企業もミスマッチを防ぐことができます。
弊社のデータによると、登録者の半数以上が「複業からの転職」を希望、あるいは興味を持っている結果があります。
 「新たなスタートを切るための滑走路」として複業を選択する人は増えているように感じます。
 ただし、同じくらい企業側の受け皿も重要です。地道にドメインを増やしていき、あらゆる市場へ複業を浸透させていきます。

父の背中に見た使命

──そもそも「複業が当たり前になる社会」を実現したい、と思うようになったきっかけは何ですか?
 僕の地元、大分県で中小企業を経営している父の影響が大きいですね。幼い頃から、人材採用に苦しんでいる姿を見てきました。
 また東京の仕事に憧れはあっても、地元を離れられない事情を抱える友人も多いんです。
 複業であれば、父のような経営者もコストをかけずに優秀な人材を採用できる。複業であれば、友人のような家庭事情を抱える人でも、大きく環境を変えずにやりたいことに挑戦できる。
 そう信じて、複業の社会実装を目指し続けています。
──新卒で入社した人材大手では、業界の課題にも直面したとか。
 父のような中小・地方企業はスキルのある方を採用したくても、人材会社に依頼する予算が限られているため、優秀な人材に出会いにくい現状があると知りました。
 しかし、複業人材であれば、スポットでプロジェクトに参加してもらうなどして、自社のリソースの範囲内で優秀な人材と仕事をする機会を持つことができます。
 このような地方企業や中小企業の抱える課題と、将来必ず訪れる労働人口減少の問題を解決するためには、複業の社会実装は必要不可欠だと感じ、複業クラウドの構想を得ました。
──だから、複業クラウドでは、仲介手数料不要のサブスクなのですね。
 そうです。目的はあくまでも「複業」という文化を作ること。
 複業が当たり前の世界になれば、誰もが挑戦したい時に挑戦できるし、企業もコストを気にせず必要な時にすぐに人を採用できる。
 だから、中長期的に支援ができるサブスクリプション型での事業に挑戦しました。

革命を起こすために、仲間と挑み続ける

──起業してから今まで複数回、資金調達を実施している理由を教えてください。
 複業の社会実装の実現を、より一層推進するためです。
 地銀系ベンチャーキャピタルから海外の機関投資家、個人投資家など弊社のビジョンに共感してくださる方々にご支援いただきました。
 調達した資金をもとに、新規事業開発と海外事業開発、そしてマーケティングに力を入れています。
 ただ、やろうとしていることが壮大だからこそ、仲間が全く足りていません。複業の働き方を当たり前にするために、仲間が必要です。
──どのような人と働きたいですか。
 僕らと、同じ想いを持つ人と出会いたいですね。基準として、ビジョンの一致だけでなく、9つのValueに沿って採用活動を行っています。
 いくら天才的な発想力やスキルを持つ人がいたとしても、私たちが大切にしていることに共感できなければ、お互いのために採用はしません。
 仲間には「自身の介在価値に少し違和感を持っていたんです」と話す人材紹介出身者もいれば、複業禁止の会社出身で「現状を変えたい」と意志を持って入社してくれたメンバーもいる。元公務員の社員もいます。
 複業の社会実装を通し、今の働き方に革命を起こしていきたい人は、ぜひ僕らの船に乗っていただきたい。
 そして、自分の子供や孫が働く社会を想像し、未来をクリエイトしていきたい。
 今はサービスの基礎もできて、業界や分野をまたいで価値を全国に展開していける一番面白いフェーズです。
 いつかではなく、今です。未来をともに創造しましょう。