「洋服の青山」を手掛ける青山商事と「NewsPicks Creations」が共に運営する共創コミュニティ「シン・シゴト服ラボ」。ここから生まれた「#きがえよう就活」は、就活生が抱える服装の悩みの解決に向けたプロジェクトで、すでに賛同する企業が多数名乗りを上げています。
この記事では、プロジェクト開始時からの賛同企業である、カルチュア・コンビニエンス・クラブ朝日新聞社JT(日本たばこ産業)の3社に座談会形式で、賛同の背景や、就活市場に対する問題意識、プロジェクトを通じての変化などを聞きました。
この記事は青山商事のメンバーを中心とした「シン・シゴト服ラボ」編集部が制作しています。「シン・シゴト服ラボ」は、洋服の青山と、法人向けマーケティング支援事業 NewsPicks Creations が運営し、『ビジネスウェア 3.0 を定義する』をミッションに掲げる共創コミュニティです。新商品や新サービスの開発などを目的としています。

「#きがえよう就活」プロジェクトとは

このプロジェクトの背景にあるのは、「就職活動で『服装自由』と言われるが本当に自由なのか」という問題意識です。
就職活動の面接で「自由な服装で来てください」と学生に伝える企業は増えていますが、学生からは「スーツの方が無難じゃないか」「カジュアルすぎてもダメなんですよね」などと戸惑う声もあがり、「服装自由」が「不自由」を生む事態ともなっています。
こうした状況に対して、学生と企業がお互いに対話をすることで、よりよい就職活動に「きがえる」ことをめざすのがプロジェクトの狙いとなります。
「#きがえよう就活」プロジェクトHP

登壇者紹介

学生は、「服装自由だと迷う」が本音

岡本:このプロジェクトについて最初聞いたときに率直にどう感じたのかと、どの部分が「刺さった」のかお聞きしたいです。
小島:弊社のマーケティング部門が主催する『学校総選挙プロジェクト』も企画側で入らせてもらっているという背景もありましたが、何よりスーツのイメージが強い青山商事さんが服装自由を就活生と一緒に考えるプロジェクトを推進しているということで、賛同したいとまず思いました。
うちの会社だと基本的に服装規定がなくて従業員はみんな自由にしています。新卒採用でも基本的に服装は自由で、リクルートスーツでなくても構いませんとうたっていました。
ただ、志望する学生から、「自由といわれるがゆえに迷っている」という声をいただくこともありましたが、そこまで気にかけることができていませんでした。
その時に「#きがえよう就活」プロジェクトを聞いて、もっと学生に対して伝わりやすいアウトプットができるのではないか、僕らも考えなきゃなと思いました。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ People Success タレントマネジメント リーダー 小島類さん
國頭:すごくタイムリーな話だなと思っています。先日、久しぶりに対面での会社説明会を開催したのですが、フランクな格好で登壇した人事部員に対し、学生はかっちりしたスーツがほとんどで、ギャップに驚きました。対面イベントが急に増えたなかで、何を着ようかという学生の戸惑いを強く感じています。
朝日新聞社 人材戦略本部人事部採用チーム 國頭真理子さん

楽しくなかったリクルートスーツ選び

國頭:社員でも面接といわれると戸惑います。社員同士ならジャケットは着た方がいいのかとか、革靴の方がいいのかとか聞けますが、就活生だったらさらに聞きづらいだろうなと思いました。
私たちも「服装自由」とは言っていますが、どんなに対等にしようと思っても、学生はどうしても裏を読みたくなるだろうなと。ある種、第三者のサービスが入って、開示を手助けしてくれることはありがたいと思います。
須永:就活って暗黙のルールみたいなものがいろいろある中で、私たちもそこに真摯に向き合わず、見て見ぬふりをしているようなところが正直あります。この話を聞いたときにシンプルに「風穴を開けてくれるのでは!?」と感じたのが一つの理由です。
JT Country People&Culture課長代理 須永恵太さん
青山商事 リブランディング推進室室長補佐 岡本政和さん
岡本:これを着たいなとポジティブに悩むのはいいですが、そうではなく「これで仕方がないか」という感じで就活の服は選ばれています。
売る側も、ビジネスウェアをお求めのお客様が3人いたらそれぞれのご希望に沿う商品をご案内しますが、「就活用のスーツがほしいです」と言われたらどのお客様にも同じような商品をおすすめしてきました。
お客様もサイズだけ自分に合っていれば「これでいいです」みたいに、選ぶ楽しさがないんですよね。これはちょっと、スーツ店としてもどうなんだという想いもありました。

不要な就活ストレスをどう取り除くか

岡本:就活に対して現状のどういうところに課題を感じていて、それに対してどういうアクションをしていますか?
小島:今までだと「これをやっておけば、とりあえず大丈夫」というのがありましたが、世の中的にも就活においても多様化が進む中で、分かりやすい正解がなくなってきていて、学生が悩まれることも増えてきていると感じます。その一つが、「服装自由」というテーマなのかなと思っています。
そういう表面的なことへの対応に追われるのではなくて、学生が本当に向き合うべきこと、例えば自分のことや将来のこと、企業について考えること――そういうことに向き合える時間を生み出したいなと思っています。
國頭:学生にとって不要なストレスをいかに取り除くかということは私たちも考えるようにしています。学生にとって、「ジェンダーに関する報道の姿勢に共感してこの会社を選んだ」と言うことはできても、就活という文脈のなかで、いわゆる女性らしさ・男性らしさから外れた格好をすることには大きな不安があるようです。これは結構深刻な問題だと思います。
「そんなことは本当に気にしていないよ」と、うるさいくらい言い続けないと本当に信じてもらえないし、本当に辛いだろうなと思います。
須永:もっと会社も学生も本音でしゃべれると良いな、と思っています。服装と同じで、受け答えにも暗黙のルールが存在しているように感じています。
例えば説明会や面談でも、「良い質問をしなきゃいけない」とか、「こう聞かれたらこう答えなきゃいけない」だとか。一方で僕は就職活動って自分のありたい姿を実現する、そしてありのままの自分でいられるための“器”探しだと思っています。だからこそ、飾らない言葉でコミュニケーションすることが大切だと思っていて、不安なことや聞きたいことを聞いてほしいと考えています。
そんな考えから、会社側である僕自身は学生が聞きづらいような「有休って何日取ってるんですか?」とか「たばこ事業って大丈夫ですか?」などの質問をあえて自問自答しています。微々たることですが、少しでも学生にJTはどんな器なんだろうかを感じてもらいたいと思ってます。

パンプスを履いてみたら分かったコト

國頭:私は2020年入社で、2019年の冬~春くらいに就活をしていました。私はリクルートスーツではないスーツを着ていましたが、どうしてもパンプスを脱げなかったんです。
履く方はわかると思いますが、パンプスの足の甲を出して2月に歩くというのはありえないことです。すごく寒いんですよ。2月のみぞれの日に会社説明会に行って、足にしもやけができるくらいになって、「もうやってられるか」と思いました。
ちょうど2019年の冬って、俳優でアクティビストの石川優実さんの#KuToo運動が始まった時でした。それに背中を押される気持ちもあって、初めてパンプスの中をストッキングから黒タイツにして、その後パンプスもやめて革靴を履くようにしたんです。本当にちょっとの変化ではありましたが、すごく勇気が必要でした。
國頭:それで説明会や面接に行ったんです。当然ですが、何も言われなかったんですよ。何でこのどうでもいい、パンプスから足の甲が出るだけのちょっとした空間に支配されていたのか、と思いました。
でもそういう悩みって採用担当になると忘れがちというか、こんな一見些細なことでも悩んでいる就活生がいるかもしれないという気づきは大事だなと思います。
岡本:パンプスの話、とてもタイムリーですね。実は私も先週パンプスを履いてコミュニティのイベントの司会をしました。学生からのアンケートを見た時に、パンプスの悩みがとても多かったんです。
岡本:私はプロジェクトマネージャーですが、パンプスは履いたことがなくて就活生の声を本当の意味で理解できていなかったので、あえて履いてみようと思いました。私が履けるぎりぎりの大きさを試しました。
結果、あの形状がとてもつらくて足がむくんでしまって、やってられないなと思って脱いじゃいました。私がパンプスを着用したのは短い時間だったので十分理解していないとは思いますが、パンプスの課題はあるなと感じました。
そこで、コミュニティのメンバーと話し合い、このプロジェクトと並行してパンプスの課題を少しでも解消できないか、と新しいプロジェクトを始めています。

「学生の迷いを減らしたい」

小島:「#きがえよう就活」のサイトを見つけて、自分が志望する企業名を見つけて賛同していることを知るだけでも、迷っている学生は減るのではないでしょうか。すごく期待感があります。
國頭:プロジェクトについて説明をしていくなかで、就活生の服装のしんどさが、社内ではまだ十分に認識されていなかったことに気づきました。今後も学生と対等なコミュニケーションがとれるよう、自分たちの身を振り返ることも忘れないようにしたいと考えています。
須永:学生が悩んでいることを面接官は知らないなと思っています。私たちの面接は採用担当はやらずに現場の方にやってもらっていますが、学生が服装などで悩んでいることはなかなか分からないと思います。
こういう活動が大きくなっていって社員にも知ってもらうことで、採用に関わる社員に、学生ファーストという意識が定着するといいなと思っています。
岡本:本当にそれぞれの視点でお話しいただいたかと思いますが、僕の中では想いが一緒だということをすごく感じました。あらためて今後も一緒にプロジェクトを進めていけたらと思います。
編集:山尾 真実子(シン・シゴト服ラボ編集長・青山商事)
共同編集・執筆:西村昌樹(NewsPicks Creations)
カメラマン:曽川拓哉
デザイン:椵山大樹