5年後、アニメは食えるのか?

5年後、アニメは食えるのか? 第7回

「商品化の市場」が未成熟のインドで、アニメを売る挑戦

2014/12/27
前回までは、株式会社ジェンコの「スシニンジャ」プロジェクトの概要について真木社長から話を聞いた。そのインタビューの後、スシニンジャはインドとマレーシアでプロモーションを行い、アジア展開の可能性を模索したとのこと。スシニンジャのアジアでの手応えはどのようなものだったのだろうか? 帰国直後の真木社長に再度話を聞いた。(インタビュー日:2014年12月1日)
真木太郎(まき・たろう) 株式会社ジェンコ 代表取締役社長。1955年岐阜県生まれ。1977年に早稲田大学法学部を卒業後、東北新社入社。1990年パイオニアLDC入社。1997年に株式会社ジェンコを設立。主なプロデュース作品として「機動警察パトレイバー」「天地無用!」「あずまんが大王」「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」など。

真木太郎(まき・たろう)
株式会社ジェンコ 代表取締役社長。1955年岐阜県生まれ。1977年に早稲田大学法学部を卒業後、東北新社入社。1990年パイオニアLDC入社。1997年に株式会社ジェンコを設立。主なプロデュース作品として「機動警察パトレイバー」「天地無用!」「あずまんが大王」「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」など。

日本アニメに興味を示すインド企業

――インド・マレーシア出張お疲れ様でした。早速ですが、インドとマレーシアで具体的にどのようなことをされてきたのか教えていただけませんか?

真木:なにぶん帰国してからあまり時間が経っていないのでフォローアップしきれていない面もあるのですが、インドには2日間滞在しました。デリーで行われた国際貿易フェア(IITF:India International Trade Fair)でスシニンジャをプレゼンしてきました。

非常に大規模な見本市で、一説によると来場者が200万人くらいあったそうです。その中に経済産業省の支援でクール・ジャパンのブースが設営されており、そこに出展した形です。大きなポスターを出してチラシを配りました。他には、パナソニックやTOTO、日本テレビ、タツノコプロ、水ビジネスのマザーウォーター社などが出展していました。

企業のみのビジネスデーに続いて一般参加者も来場する一般デーがあったのですが、自分たちはビジネスデーしかいませんでした。ビジネスデーの前日に、在インド日本国大使館で現地企業の方々も交えた立食パーティ・懇親会のようなものがあって、そこで5、6社の方々とお会いしました。そのうちの1社がビジネスデーにうちのブースに来てくれて、実際に商談を行いました。

IITFでのスシニンジャの出展の様子

IITFでのスシニンジャの出展の様子

――どういう業態の会社がスシニンジャに興味を示したのでしょうか?

真木:1社はeコマースをやっている会社でした。実際に彼らのカタログも見せてもらったのですが、ファッションがメインなるも、カバンや多少のグッズ的なものも扱っていました。あとは現地で寿司屋を展開している会社もスシニンジャに興味を持っていました。

――eコマースと寿司屋のほかにはどのような企業が来ましたか?

真木:あと面白かったのは、病院をチェーン展開している医療法人のようなところがありました。日本だと病院の部屋の中に「ドラえもん」や「ポケモン」のポスターが大きく貼られていたりしますよね。そのような形で、そのインドの病院の中に「スシニンジャ」のポスターを貼ってはどうかみたいな話をしました。ヒンドゥー語に吹き替えれば映像としても行けるんじゃないか、といった指摘もありました。

「商品化の市場」がまだインドでは育っていない

――インドで「スシニンジャ」はビジネスになりそうですか?

真木:正直に申し上げて、あまり手応えを感じられなかったというか、インド市場でスシニンジャのようなIPビジネスを展開できるようになるにはまだしばらく時間がかかりそうだな、というのが全般的な印象です。おそらく「商品化の市場」というのがインドにはまだ育っていないのではないでしょうか?

これは例えば消費者の側にキャラクターやそれに関連するグッズを楽しむという習慣があって、供給側の方もそれに対応したビジネスモデルがあったり、現地生産までできるキャパシティがあったりといったことを指しますが、インドはおそらくまだそこまで行っていない。

先ほど申し上げたeコマースの会社とのミーティングでも感じましたが、おそらく彼らの側が「キャラクターグッズ」という概念にピンときていなくて、従ってそういったIPの認知度をインドでどうやって高めてビジネスとして展開していくか、という議論に入っていけないんですね。

「人気のあるIPであればうちで売りますよ」というある種当たり前の話にしかならない。インドでどういうグッズが受け入れられているのか、どういうものがどういう所でいくらで売っているのかといったようなマーケット情報的なものもあまり把握されていない感じでしたね。

――認知度ゼロのところからどうやって一緒に上げていくか、IPを育てていくか、という議論をするべきなのに、その議論ができない。

真木:そういう方向の話ができるプレイヤーがインド現地にいないと我々としては辛いですね。デリー滞在の最終日に街中へ出て、観光客が立ち寄りそうなお土産屋のようなところをいくつか回ってみたのですが、インドってあまりいいお土産もないんですよね…。

――それは私もインドに行ったときに感じました。

真木:インドの人たちがキャラクターに親しんでいる文化の片鱗でもつかめないか、商品化のヒントになるようなものがないか、と思って回ったのですが、そういったものは垣間見られなかったですね。屋外広告や看板などにもキャラクターものはほとんど見られませんでした。

インドにはボリウッドがあって映画制作本数が世界一の映画大国だとも聞いていたのですが、そういった関係のものも見られませんでしたね。ボリウッドはムンバイだから都市が違えばまた違ってくるのかも知れませんが…。そういったわけで、今回のインド出張ではインドにおけるビジネスの手がかりはあまりつかめませんでした。あくまで短期滞在に基づく第一印象ですが。

――モールも回られたのですか?

真木:モールは行けなかったですね。基本街中を回りました。モールの中ではまた違った世界になっているのかもしれませんね。その辺りも含めて、今回のインド行きの経験を整理したいと思っています。

――なるほど。

「アニメオタク」は、必ずいる

真木:逆にこちらからお聞きしたいのですが、三原さんの目から見てインドはどう思われますか? 三原さんもこの前わりと長期でインドに行かれてましたよね?

――私は日本アニメに対するニーズは一定程度はあるのではないかと思っています。この前、デリーのアニメコンにJIスタイルさんが出展されたのに同行した印象では、日本のいわゆるオタク向け・ハイエンドのアニメをネットなりケーブルテレビなりで、リアルタイムで観て日本国内のトレンド追いかけていて、関連するグッズを欲しいと思っている層は確実にいるのではないかと思いました。

真木:そういう「アニメオタク」層はどの国にも必ずいますね。国による差異というのは多少はあると思いますが、そういう人はもはや全世界的にいるということなんでしょうね。

――だからまずはその部分を丁寧にすくい取っていくところから始めるべきなんじゃないかと。

真木:ただそこにとどまっている限り、日本から既製品を輸入するビジネスから脱却できず、現地生産も含めた商品化の市場は育たないような気がします。現地のアニメオタクたちと商品化の市場とがあいまって、キャラクターを消費するすそ野が広がっていければいいのですが。

――インドのモールの中には英国系のハムレイズとか、現地資本の玩具小売りが店舗を構えているので、そういう場でグッズを買うということはあるのではないかと思います。そういうところからキャラクターIPを楽しむ消費習慣をどれだけ広げていけるかということなのかも知れませんね。

インドに関しては、現地マーケット情報やその肌感覚、そしてそれに基づいたキャラクターIPの展開戦略を深く検討できるプレイヤーが現地に育つことの重要性が感じられた。次回は、スシニンジャのマレーシアでの展開についてお話を伺う。