2022/9/26

投資家も涙するスタートアップは、社会課題「命のロス」に挑む

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 三世代同居がスタンダードだった時代から、“家族のカタチ”の多様化が進む。
 そんな世相を反映するように拡大するペット産業において、株式会社PETOKOTOは、動物たちを家族の一員とする社会の実現を後押ししてきた。
 同社が手掛ける保護犬猫マッチングサイト「OMUSUBI(お結び)」には、全国270以上の保護団体が登録し、保護犬猫と新しい家族を結んでいる。
 また、ペットフード事業「PETOKOTO FOODS」は、サービス開始2年で累計販売1000万食を突破。売上額は7倍まで急成長を遂げている。
 「ペットを家族として愛せる世界へ。」をミッションに掲げるPETOKOTOは、なぜユーザーから支持されるのか。そして、そのロードマップに何を描くのか。創業者でCEOの大久保泰介氏に聞いた。

ペットも「ウェルビーイング」が問われる時代へ

──なぜペット関連産業は、年々拡大し続けているのでしょうか?
大久保 一言で言えば、“ペットの家族化”が進んできたからです。
 アメリカでは“Pet Humanization”とも呼ばれるように、ペットが人間と同等の存在になってきています。
 一昔前までは、番犬の主従関係に見るような「ペットは人間の所有物」という前提で発展してきたペット関連産業も、こうした価値観の転換により、これまでなかった市場が次々と形成されてきているのです。
同志社大学在学中に休学し、サッカーをする傍ら、UNIQLO UK / PARISにてマーケティングに従事。卒業後、2012年よりグリーにてグローバル採用マーケティングの立ち上げ、財務管理会計に従事し、2015年にPETOKOTO(旧 シロップ)を創業。サッカーとファッション、アウトドア、ハワイを愛する。
 PETOKOTOの事業であるフレッシュフードも、その1つです。
 人間の都合で加工された従来のドライフードに対して、フレッシュフードは人間でも食べられるような新鮮な食材を使い、栄養バランスや安全性を考えて作られています。
 家族であるペットに、人間の食事に近いもの、より新鮮で体にいいものを食べてほしいと考える人が増えてきたのです。
 ただ、手作りのご飯はコストも手間もかかりますし、必要な栄養が足りないことも多い。
 アメリカでは、10年ほど前からスタートアップがフレッシュフード事業に取り組み、今では6000億円ほどの市場を形成しています。
 ペットフード市場における割合は約20%に達し、フレッシュフードが当たり前になりつつあるんです。
現在一般的なドッグフードであるドライフードは、安価で常温での長期保存も可能と、人間が扱いやすく加工されている。「いったいどんな食材が使われ、どんな製造過程で調理されるのかまったくわかりません」と大久保氏。
 また、テクノロジー活用により、ペットテックも盛り上がりを見せています。
 留守中のモニタリングやDXによる健康管理など、その範囲は幅広い。今後、ペット市場のほぼ全領域にペットテックが登場し、市場を牽引していくと言ってもいいでしょう。
──市場が拡大する一方で、課題は何でしょうか?
 やはり、動物たちの“流通”が最も大きな課題だと思っています。
 ここにいるコルクは、保護犬です。「足が内股」という理由だけで、ペットショップの競り市で捨てられていました。
2016年生まれ。現在6歳のオスのコーギー。競り市で捨てられたところを保護団体のDog Life Savingにレスキューされる。その後、譲渡会で大久保さんと出会い、家族として迎えられる。
 一方、コルクのお兄ちゃんは、ペットショップで30万円の値段がつきました。
 ペットショップは小売業なので、競り市で"売れる商品"を仕入れますが、そこで「売れない」とみなされてしまう子がいます。また、こういった流通過程で命を落としてしまうケースも問題視されています。
 最近はその存在が広く知られるようになり、保護犬猫を扱うペットショップが増えています。
 ただ、なかには売れ残った子たちを「保護犬猫」と称して在庫処分しようとする店もあり、新たな問題になっているのです。
 こうした状況を踏まえて、2019年に改正された動物愛護法には、ペットショップでの展示規制や、悪質なブリーダーに対する罰則強化などが盛り込まれました。
 既に欧米では、ペットショップでの展示販売そのものを禁止する動きも進んでいます。ペットビジネスがサステナブルであるためには、今のやり方を改めなくてはなりません
 私がPETOKOTOを起業したのも、殺処分問題による“命のロス”を解決すべきだと考えたからです。「全ての命を尊重し、人が動物と共に生きる社会を目指す」を信念とし、事業に取り組んでいます。

ペットの短いライフサイクルに寄り添う

──「人と動物が共に生きる社会」に向けて、PETOKOTOはどのようなビジネスを展開しているのでしょうか?
 現在は3つの事業を柱としています。
 保護犬猫マッチングサイト「OMUSUBI」、ペットライフメディア「PETOKOTO MEDIA」、そしてフレッシュフード「PETOKOTO FOODS」です。
 3つのうち、先ほどの流通の課題に関わるのがOMUSUBIです。
 保護犬猫を育てて譲渡する保護団体の審査制プラットフォームで、現在は全国の保護団体の約15%にあたる270団体が登録されています。
 保護犬猫の譲渡は、ミスマッチが世界的な課題の1つです。
 「かわいいから迎えたけど、思ったより吠える」「2匹目として迎えたが、家にいる子との相性が悪い」といった理由から捨てられてしまうケースがあるんです。
 そこでOMUSUBIでは、6つの質問に答えてもらい、トレーナーが作ったアルゴリズムから相性を判断して、200種類以上ある犬猫とのマッチングを行っています。
 たとえばアウトドアが好きなら、よく走るジャックラッセルという犬種など、見た目以外の特徴なども踏まえて提案していくイメージです。
──その後立ち上げたフレッシュフード事業は、この2年で累計販売1000万食を突破したと伺いました。支持されている理由は、どこにあると考えていますか?
 透明性の高さではないでしょうか。
 PETOKOTO FOODSは、愛犬の体重や体型などから最適なカロリーとメニューを提案するほか、私たち人間が食べる食材と同じ品質の肉や野菜だけを使って製造しています。
 大切な家族の食事だからこそ、産地や製造過程をオープンにして、徹底したトレーサビリティを確保しました。
環境配慮型の梱包材を使用したパッケージには、愛犬の名前が入る。(画像提供:PETOKOTO)
 お客様の約4割が、OMUSUBIやPETOKOTO MEDIAからの流入です。
 私たち作り手が、いかに動物たちを本気で愛している会社かを理解し、共感してくれるお客様も多いのではないかと思います。
 今年7月に出場したピッチイベント「IVS LAUNCHPAD」でも、想いの重要性を実感したばかりです。
 私たちのミッションがどうすれば伝わるかを考え抜いた結果、審査員である投資家の方々から、事業のポテンシャルへの高い評価と共感をいただいて優勝できたのは、本当に嬉しかったですね。
「IVS2022 LAUNCHPAD NAHA」決勝で、従来のドライフードを「茶色い豆粒」と表現しながら、ペットフード事業を含む戦略を発表。熱のこもったプレゼンに、審査員からは「思わずうるっときた」といった声も上がった。(画像提供:PETOKOTO)

より多くの命を、より長く支えていきたい

──ペットフード以外の事業は、どのようにマネタイズされているのでしょうか?
 事業単体でのマネタイズよりも、集客に重きを置いています。いずれも広告収益のみで運営し、OMUSUBIは仲介手数料も取っていません。
 保護犬猫を初めて迎えた方は、どんなご飯をあげればいいか、どんな保険に入ればいいか。わからないことばかり。つまり、ペットと暮らすためのあらゆる情報やサービスを求めている状態にあります。
 そうした方々とのタッチポイントを作り、いかにフレッシュフードをはじめとする“その先の事業”へつなげるかがポイントになると考えています。
──その先の事業とは、たとえば何でしょうか?
 ペットのライフサイクルに関わるすべてです。
 犬や猫の寿命は、だいたい10〜15年。その一生に医療や介護、葬儀までもが凝縮されます。ビジネス的に表現すれば、LTVの高いマーケットが実現可能です。
 そして亡くなった先に、また新しいペットライフサイクルに寄り添えることもあります。
 PETOKOTO FOODSのユーザーの方から「最期の食事まで美味しそうに食べていました」と、感謝の手紙をいただくことがあるんです。
 大切な家族を亡くされた方へは、私たちからもお悔やみのお手紙とお花を必ず送っています。
 その後、再びOMUSUBIから新しく家族を迎えて、PETOKOTO FOODSを継続いただくケースも何件か生まれました。
 プラットフォームとしてペットの一生に寄り添い、ユーザーとの信頼関係を築いていく。その結果、10年20年とお付き合いが続く。
 これこそが、PETOKOTOの目指す姿ではないかと思っています。
──では、PETOKOTOの次なるフェーズについて教えてください。
 フレッシュフードは、日本ではまだ小さなパイ。事業を推進しながら市場を拡大していくのが私たちの責務だと思っています。
 今後10年で、ペットフード市場全体の20%にあたる約700億円のマーケットを作りたい。その過半数をPETOKOTOで取りにいくのが、経営の最も大きなテーマです。
 従来のオンライン販売に加え、オフラインにも力を入れていきます。直近では国内有数の小売チェーンで、PETOKOTO FOODS導入を予定しています。
 ただ、私たちの最もコアの価値は、ペットフードに限りません。OMUSUBIで迎えて、PETOKOTOで育てるというところにあります。
 ペットの一生に寄り添う体験を通して、コミュニティを強化しながら、次のビジネスポイントを考えていきます。
 まずは医療分野への参入を考えており、来年の秋から冬には新規事業として展開していくつもりです。
──ペット関連産業の右肩上がりの成長が続くなかで、市場はどのように変化していくと思いますか?
 国内においては、人口減少に伴って、犬猫を迎える数も減ってくる。マクロで見れば、この傾向は避けられないでしょう。
 ただ、事情があってペットを飼えない人も多くいます。ペット可の賃貸物件を増やすなど、ペットを飼う機会を創出できれば、マーケットの活性化が見込めます。
 また海外においては、急成長しているアジアというマーケットがあります。
 欧米では大型犬が主流なのに対し、アジアは小型犬&猫が中心です。日本で培ったノウハウを活かして、2025年から中国を軸にアジアへ進出していく戦略です。

動物が苦手だったからこそ、“輪の外”を想像する

──ペットに愛情を注いで、起業までされるということは、もともと犬や猫がとてもお好きだったわけですよね。
 いや、実は子どもの頃からずっと苦手で、触ることすらできませんでした。
 起業前にトイプードルを飼っている女性とお付き合いして、初めて彼女の家へ遊びに行ったときは、怖すぎて帰りました(笑)。
 でも意を決して一緒に暮らし始めたら、どんどん大好きになっていって。
 そこで初めて、ペット業界はデジタル化が全然進んでいないことに気づいたんです。
 動物病院の予約はスマホからできないし、キャッシュレス決済にも対応していない。ペットの情報も玉石混交で、トイプードルに特化したものがなかなか集められない。
 そして殺処分問題についても知り、“命のロス”こそ、人生を捧げて取り組むべき課題だと思いました。
──犬が苦手だったことが、今の事業に生きていることはありますか?
 私自身の経験から、動物が苦手な方がいることも、身をもって知っているつもりです。
 もしもリードをつけずに愛犬と散歩するのが当たり前になったら、犬が苦手な人は安心して外を歩けませんよね。
 ペットとの暮らしやすさを押しつければ、動物が苦手な人が暮らしづらい世界になってしまいます。
 PETOKOTOが目指すのは、誰もが暮らしやすい世界。そのために、行動指針の1つに「輪の外を想像しよう」と定めています。
 たとえば今年4月にはJR東日本グループと協働で、日本初の「ペット専用新幹線」の運用実験を行いました。
 愛犬をケージから出して一緒に過ごせる時間を設けたのです。
全車両を貸し切り、獣医師の監修のもとでアレルギーチェックや清掃等のオペレーションが徹底された。事後アンケートでは、参加者の85%が「ペットフレンドリー車両に一般車両の2倍の料金を許容する」という結果に。(画像提供:PETOKOTO)
 ペットが好きな方、ペットが苦手な方、そしてペット自身──三者を尊重し、許容する社会を実現する
 PETOKOTOだからこそ、追求できる未来だと思っています。
──事業領域を広げてビジネスを大きくステップアップさせるには、組織強化も必要になりますね。
 そうですね。私たちが作りたいエコプラットフォームの実現には、今ある3つの事業、さらに新規事業のすべてにおいて組織強化を図らねばなりません。
 大きな投資かつ多角化というかなり難易度の高い経営にチャレンジしつつ、3年後のIPOを目指しています。
 これからのフェーズは、ビジネスを成長させられるスペシャリストや事業責任者レベルの採用を強化していきます。
 また、現在のメンバーは自然と犬猫の飼育経験者ばかりなのですが、飼育経験は問いません。
 むしろ、さまざまな価値観のメンバーが増えることで、より産業を活性化していけるでしょう。
 ただ、PETOKOTOのビジネスには絶対に「愛」が必要です。愛を動力源に新しいビジネスをつくっていける方と、ぜひ一緒に働きたいですね。
※本記事は「IVS2022 NAHA」協賛商品として、NewsPicks Brand Designが「LAUNCHPAD」優勝企業へ無償提供しました。
【2022年9月28日18時40分 追記】
本文の「行政や保護団体に保護されるケースもありますが、残念ながら殺処分される命もあるのが現状です」というコメントは、実態と異なる表現でした。訂正してお詫び申し上げます。