進撃の中国IT

新たな「小勢力」の台頭なるか? クルマのインターネット

テンセントの元製品マネジャーが〆る、今年のIoV

2014/12/23
2014年は「自動車のインターネット」(Internet of Vehicles、IoV)業界が異様な熱気に包まれた年だった。テンセント、百度、アリババなど大手IT企業が乗り込み、さらには携帯キャリアのチャイナモバイルも参戦した。この戦いはこんな巨人企業たちの独壇場ではなかった。本当の意味で業界を変革するような戦いからは、「小勢力」が突然台頭する。深センに本拠地を置く「深セン同行者科技」は、まさにそうした「小勢力」の一つのはずだ。

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IT業界と自動車業界の経験が生きる新IoV企業

深セン同行者科技の創業者、楊徳文氏はテンセントの初代製品マネージャーという経歴の持ち主。テンセントでの6年間の職歴に加えて、IT業界で10年以上、さらには自動車市場での起業経験を持つ。テンセントでは、企業向けインスタントメッセンジャーの「騰訊通」(RTX)、人気チャットソフトQQのユーザー交流プラットホーム「互動空間」、P2P動画再生ソフト「QQLive」などの製品開発で先頭に立ってきた。

その彼がなぜ今年、深セン同行者科技を設立し、IoV業界に参入することを決めたのか。

「BAT[訳注:百度、アリババ、テンセント。中国IT業界の3大企業を指す]には出来ないことが我々には出来る。まだ先が見えないIoV業界だが、私たちはすでに目指すべき道を持っている」と、楊氏は我々をけむにまいた。

BATがIoVとして参入したのは、主に戦略の配置とアクセス口の部分だ。それは、彼らの製品の核心的機能がすべてOBDデータに依拠していることからも明らかだ。

[訳注:OBDとは車載コンピューター診断装置で、「On-Board Diagnostics」の略。OBDはコネクタを使って燃費など各種データを外部機器に送信することができる。]

テンセントの車両診断装置「路宝ボックス」とそれに準じた「路宝アプリ」、アリババがまもなくリリースする「智駕ボックス」(スマートドライブボックス)は、いずれもそんなOBD診断機能に準拠したデータを分析する、付加価値型サービスである。唯一、百度はやや異なり、IoV企業「鈦馬」と共同開発した「CarNet」がエンターテイメントに主軸を置いた製品となっている。

楊氏は、同行者科技の製品は形状も核心的機能もBATの製品とは競合しないと断言する。競争を避けるためではない。開放型OBDコネクタという考え方が間違った方向に向かってしまったと考えているためだ。

というのも、自動車関連機器メーカーは独自にデータ分析や自動車の故障診断の開発を進めており、そう遠くない未来には現在市場にあるIT企業のOBD搭載製品と同じ機能が、自動車メーカーによって初期搭載されるだろうと楊氏は予測するからだ。

運転者の時間を、有効に解決するためには

製品マネージャー出身の彼は、現在市場に出回っている製品に満足していない。

「カーオーナーの核心的ニーズはなんでしょう? まずは『安全』、そして運転中にちょろちょろと細切れに出現する暇な時間と、閉鎖空間がもたらす退屈さにどう対応するかです」

政府当局の統計によると、運転中の電話は交通事故の主要因の一つになっており、それによる死者は年間数千人に上る。その一方で、運転者が車内で暇つぶしをしたい細切れの時間は毎日1〜3時間だという統計もある。

「運転者が運転中に求める核心的ニーズ、それを満たすモバイルインターネット企業」。これが楊氏にとっての同行者科技の位置づけだ。ハードウェアとソフトウェアの連携により、運転中の問題を解決する。楊徳文氏は、同行者科技がまもなく発表する製品に自信たっぷりだ。

「たんに音声認識を使って運転手の両手を開放し、安全性を高めるというだけではありません。車と車、人と車のインタラクティブ性において大きな成果をあげることができます。これにより運転中の細切れの時間の退屈しのぎという問題も解決するでしょう」

同行者科技のスタッフは、以前テンセントやアリババの製品マネージャーやエンジニアだった人、そして著名なネットプロモーターたちで構成されている。この陣営が同社を設立当初から運営能力の高いモバイルインターネット企業だと期待される所以だ。

「同行者科技の製品は初代モデルから、ユーザーの基礎的ニーズを満たすものとなります。加えてエンターテイメント、ソーシャルサービスの要素も含まれています」と、楊氏は語る。

先行サービスとの区別やいかに

実は楊氏が言う「基礎的、核心的ニーズ」については、以前にも取り組みはあった。しかも実際に、科大迅飛が開発した音声認識アプリ「霊犀」のように多くのユーザーを獲得することに成功したものもある。このアプリは音声でスマートフォンを操作し、電話、メール、ナビ、検索などの機能を使うことができる。同行者科技が音声認識を売りとするならば、霊犀と比較されることは避けられないはずだ。

どちらもスマートフォンにアプリをインストールする点では同じ。ただし霊犀はスマートフォンだけで完結するが、同行者科技ではさらに専用のハードウェアも用意されている。ハードウェアの追加によって体験はどれほど向上するのか。それを知るには実際の製品の発売を待つしかないのだが。

アプリから様々な車載用スマートデバイスまで。あるいはOBDデータ診断の追加サービスからO2Oプラットホームの車向けアフターサービス市場まで。自動車ポータルサイト「オートホーム」(汽車之家)から交通違反情報など車関連情報の人気アプリ「車輪査違章」まで——IoV市場のサービス形態は様々だ。多様な形態は市場の大きさを示すものと言える。

同行者科技の初代モデルは12月下旬に発表される予定だ。IoV市場のパイは十分に大きい。問題はどんなナイフで切り取るかだ。業界はいまだに摸索の段階にある。

BATのような大企業がオーナー、メーカー、サービス企業の3社をつなげ、IoVを爆発的に普及させてくれることを期待したい。そして同行者科技のようなベンチャー企業が数多く出現し成功することを願っている。

(執筆:郝揚/ifanr.com 翻訳:高口康太 写真:@iStock.com/)

※本連載は毎週火曜日に掲載する予定です。