2022/9/9

トマトを絵の具に、天ぷら油を燃料に。「捨てない」農業の最新形

資源を活かし、循環させる。SDGsにも積極的に取り組む、浅小井農園。使用済み天ぷら油を地域で集めて、暖房燃料としてリサイクル。フードロスをなくすため、学生団体とタッグを組んで割れトマトを活用。新たに微生物等の力を活かし、植物の免疫力を上げるバイオスティミュランにも取り組み、持続可能な農業を目指します。
INDEX
  • 天ぷら油を集めてリサイクル
  • 微生物の力で土壌を豊かに
  • 捨てることをなくす
  • 割れたトマトを絵の具に変える
関澤征史郎(せきざわ・せいしろう)/浅小井農園 代表取締役社長
1981年生まれ、兵庫県出身。立命館大学卒業後、みずほ銀行にて大企業・中堅中小企業担当、融資課長等を務める。2018年退職し、農業を志して、滋賀県近江八幡市の浅小井農園にて農業研修。2020年、第三者継承により、二代目を受け継ぐ。
http://asagoi.com/

天ぷら油を集めてリサイクル

浅小井農園は先代の時代から持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んできました。ハウス栽培に欠かせない暖房には、使用済み天ぷら油を活用。天ぷら油回収ステーションを敷地内に設置し、地域住民から収集。集まれば地元の業者でバイオディーゼル燃料に精製してもらい、ボイラーの燃料として使います。
「トマト栽培には14〜15℃の温度が必要。ハウス内の温度が下がるとまず廃油ボイラーが稼働します。11月ごろまではそれだけで十分ですが、14℃に保てなければ続いて重油ボイラーが働くという仕組み。効率よく重油の使用量も抑えられます」
ハウス内がバイオディーゼル燃料によって暖められ、冬場も美味しいトマトが手に入る。資源を有効活用する、地域に根ざした循環サイクルです。
廃食油暖房機を導入。天ぷら油をバイオディーゼル燃料に精製し、暖房機の燃料に活用。
農園の入り口に天ぷら油回収ステーションを設置。
http://asagoi.com/ より。提供/浅小井農園

微生物の力で土壌を豊かに

関澤さんもまたSDGsの観点から、新しい取り組みに挑み始めています。そのひとつが、農業を支える新しい技術、バイオスティミュラント。微生物等の力で、植物や土壌をより良い状態に保ちます。
「微生物資材であるトリコデルマを培地に与えて、病害を防いでいます。トリコデルマは、腐葉土の多い環境に見られる、良性の菌。ヨーグルトを食べると善玉菌が増えて腸が元気になると言いますよね、仕組みはそれと同じです。植物が元気に育てば、化学肥料や農薬の使用も減らせ、SDGsにつながります」
環境を整えるために役立てているのは意外にも、納豆菌! 今年から暖房のダクトに納豆菌を入れて、カビの発生を防いでいます。
「12月〜2月は大雪に見舞われ、今年は例年にないドカ雪が週に一度のペースでありました。そうなると、ハウスは締め切ったままになるので、カビが発生しやすくなるんです。納豆菌はカビを食べてくれるので、今年からダクトを通してハウス内に巡らせ、増殖を防いでいます。葉っぱにカビがつくと白く変色してしまうのですが、取り組み始めてから目に見えて改善されました」
先代から引き継いだ環境を整備し、新しいことにも果敢にトライ。事業を引き継いで2年、「農業は体力だけでは足りない、頭を働かせることが必須」と関澤さんは言います。環境が大きく変化する今、現状に満足せず、挑戦を続けることが必要です。

捨てることをなくす

農業において切り離せない課題がフードロス。どんなに気をつけていても商品として出荷できない割れトマトが出てしまうそうです。
完熟させて収穫する中、どうしても出てしまう、割れトマト。浅小井農園の直売所で販売もする。
「SDGsの観点からもとにかく捨てることをまずなくそうと。割れトマトの8割方はフードバンクに引き取りに来てもらい、残り2割を農園で直売しています。割れると生のまま日持ちさせることができないのですが、その日のうちに加熱調理すれば保存できるので、定期的に買い取ってくれるレストランもあります。
最近で言うと、『たねや』グループが運営する『ラ コリーナ近江八幡』。スティックタイプのピザトーストにしてくれていて、この間、食べに行ったのですが、すごく美味しかった。フードロスに取り組む企業やお店は私たちの取り組みを重要視してくれて、アイデアを絞ってくれる。一緒に組むことで活かされる場につながっています」
「ラ コリーナ近江八幡」フードコート バゲットには、浅小井農園の割れトマトが使用される。フードロスを解消する取り組みとして6月からスタート。今期の使用は7月下旬まで。写真提供/浅小井農園
捨てずに、活かす。農業のかたわら、その方法を自分たちだけで考えるのは難しいと関澤さんは言います。
「先代の時代には『もったいないから』と割れトマトを冷凍保存し、乾燥させてドライトマトに加工していたのですが、残念ながら売れなかったんです。乾燥機を1回稼働すると100瓶できるのですが、賞味期限が2カ月で切れるのに1カ月に数瓶売れる程度で全く需要がない。
6次産業化(※)は農業の取り組みの中でも主流ですが、課題はプロダクトアウトしか見てないこと。よく作られる、ジャムはその典型だと思います。
※「6次産業化」とは、農林などの1次産業が、生産物の価値をさらに高め、収入を向上していくこと。
100人の学生に朝食にジャムをつけたパンを食べた人がいるか聞いてみたら、1人いるかどうかだったそうです。だいたいバターかマーガリン。ジャムが好きな人はいますが、実はめちゃくちゃ少ない。それが現実です。マーケットインを見ないと、結局は廃棄になりかねない。
滋賀・大津市のハワイアンカフェ『R cafe』では割れトマトを活かし、加熱してパスタに入れたり、コンフィや甘酢漬けにしたり、工夫して使ってくれています。割れていても使える技術はいろいろあるんですよね。我々では思いつかなくても、プロにはできることがある。タッグを組むことで可能性が広がると思います」
農園の直売所で朝恋トマトを販売。

割れたトマトを絵の具に変える

割れトマトの活用法として「食」とは別のアングルから取り組んでいるのが、絵具を作り出すプロジェクト。アイデアを出したのは、学生団体です。
「私の母校、立命館大学の学生団体『Lapiz Private(ラピスプライベート)』とのコラボレーションで実現しました。廃棄される野菜から絵の具を作る、SDGsにつながるおもしろい活動をしています。
驚いたことに、カビが生えたトマトでも絵の具にできる。食べられない状態のものが再利用できるなんてすごくいい話ですよね」
SDGsの観点を持ち活動する、立命館大学の学生団体「Lapiz Private」。規格外などの理由で廃棄される野菜を農家から譲り受けて絵の具を製作する。写真提供/lapizprivate.com
「学校からの補助や寄付金で活動しているので、実際にビジネスにするには難しいかもしれませんが、学生は私たちでは思いつかないことを提案してくれる、ありがたい存在です。我々はどうしてもビジネスとして儲かるか、採算が取れるかを前提に話を進めるので、正直、可能性が広がらないところがありますが、学生は『どうすればいい方向に行くか』に重点を置いている。的外れじゃなく、むしろ的を射ていて、活性化されます」
OBとしても後輩の活躍がうれしいという、関澤さん。若い世代との交流は互いにとって刺激になる。いずれ農業を変える一手につながるかもしれません。
Story4「農業を目指す人へのエールに続く