2022/9/9

「朝恋トマト」ブランド化秘話。ミディトマト一本化が成功のカギ

浅小井農園が掲げるのは、「失敗しない農業経営」。充実した設備とコンピューター管理によって、濃厚な完熟トマトを安定して出荷。ミディトマトに一本化することで「朝恋トマト」のブランド力を高め、価値あるトマト作りにつなげています。
INDEX
  • 生産効率を高める栽培管理
  • 自動管理でいつもベストな環境
  • ミディトマト一本化で強みに
関澤征史郎(せきざわ・せいしろう)/浅小井農園 代表取締役社長
1981年生まれ、兵庫県出身。立命館大学卒業後、みずほ銀行にて大企業・中堅中小企業担当、融資課長等を務める。2018年退職し、農業を志して、滋賀県近江八幡市の浅小井農園にて農業研修。2020年、第三者継承により、二代目を受け継ぐ。
http://asagoi.com/

生産効率を高める栽培管理

「浅小井農園」が掲げる経営方針のひとつが、失敗しない栽培管理。そのベースとなるのが、8000平方メートルの広い敷地に立つ、軒高4mの大型ハウス。のどかな田園風景の中で、ひと際目を引きます。
遠くからでも目を引く大型ハウス。地下20mからくみ上げる、水温16℃の地下水を使用する。
「大型ハウスを活かしたハイワイヤー誘引方式で、トマトの軸を高さ3mまで伸ばし、冬場も太陽光をいっぱいに浴びて成長します。8月にトマトを植え、その後、10月から10カ月にわたって安定して出荷できる。生産効率の高いオランダ型の栽培法です」
高い位置からトマトの軸を吊り下げ、成長に合わせて自在に上げ下ろしができるので、小さな緑色のトマトは上に上げて太陽の光に当て、熟してきたトマトは下に下ろしてひとつずつ手摘みします。
通路にはレールが敷設され、脇芽や下葉の処理は高所作業車を使って立ったまま作業ができ、収穫したトマトの運搬もスムーズ。体力的な負担も軽減されて、労働時間の短縮にもつながっています。
通路にレールを敷き、高所作業車を使って脇芽や下葉の処理を行う。
収穫時は低い位置で摘み取り。座って作業ができ、運搬もスムーズ。

自動管理でいつもベストな環境

おいしい完熟トマトを安定して育てる。失敗しない栽培管理を支えるのが、環境制御システム。ハウス内の温度・湿度・CO2濃度・日射量等をコンピューターで一括管理しています。
「日射量に合わせて、屋根に取り付けた遮光カーテンを自動開閉。曇天では開けて、かんかん照りの場合は閉じて、ベストな状態をキープします。刻々と移り変わる天候に合わせて対応できるのは、大きなメリットです」
数値から導き出した、今やるべきことを自動制御で行い、質の高いトマト作りにつなげています。
日射センサーで遮光カーテンが自動開閉。ベストな環境を保つ。
ハウス内に取り付けたファンは10分間隔で稼働。微風を送って、光合成に必要な蒸散を促進する。
「浅小井農園は、県内初のGAP認証農場。GAPとはGood Agricultural Practicesの略。食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証です。ハウス内の環境はもちろん、どこでどんな作業をしたか、従業員のシフトまで記録が必要です。毎年審査がありますが、先代の松村さんが創業時に取得しました。先代は時代を先取りする、先見の明があったと思います。だからこそ魅力を感じ、引き継ぎたいと思いました」
コンピューターによってハウス内の環境を自動制御。パソコン、スマートフォンからも管理が可能。

ミディトマト一本化で強みに

浅小井農園の自社ブランド「朝恋トマト」といえば、ミディトマト。これまで大玉からプチトマトまでさまざまな品種を栽培してきましたが、関澤さんに代替わりしてから、ミディトマトに一本化。生産効率を上げ、さらにはブランド力を高める狙いがあります。
「先代の時代にすでに『朝恋トマト=ミディトマト』として知られ、ファンもついてきていたので、大玉やミニトマトまでカバーする必要はないかなと。むしろ特化することで、ミディトマト専門というブランド力がつくと考えました。
生産効率を高める上でも一本化は有効です。栽培においてはもちろん、パック詰めの効率化が大きい。いろんな品種があるとサイズに応じた容器が必要になり、手間もかかりますから」
朝恋トマトは大手スーパーや百貨店、直売所などで販売される。
朝摘んだ完熟トマトを手作業でパック詰め。
現状、マーケットの需要は大玉やプチトマトに比べると、ミディトマトはまだ低い。けれど、そこに「チャンスがある」と関澤さんは考えます。
「うちで栽培するのはオランダ品種のアナーカ。あまり出回っていない品種なのですが、糖度と共に酸味もしっかりあって濃厚で美味しい。そういうトマトが僕自身好きなんです。煮たり、焼いたり、調理を加えるとさらに劇的に美味しくなります。
滋賀県草津市の焼鳥店『横浜天下鳥』では、ミディトマトに豚バラを巻いて出してくれているんですが、めちゃくちゃうまいんです。食べ応えがミニトマトとは全然違います。ミディトマトを餡で包んだ、甲賀市『菓子長』のトマト大福も絶品です。フルーツトマトと餡を合わせると甘い同士でちょっと甘ったるくなる。ミディトマトは酸味があるからバランスがいいんです。
トマトと言えば、大玉かミニトマトというイメージが消費者にはありますが、ミディトマトの美味しさを知ってもらえたら。トマト好きはすごくハマる味です」
先代の頃には年間80トンだった収穫量が、現在では150トン以上に。美味しさにこだわり、毎朝、完熟したものだけを手摘みして出荷。関西を中心に、大手スーパーなどに流通しています。
「環境制御技術で最大限に光合成を高める、うちの設備だからおいしく作れる。特にアナーカは、普通に育てるだけでは、酸味ばかりが強い水っぽいトマトになりかねないんです。特化してやる価値があると思っています」
Story3「農家だからできるSGDsへ続く