(ブルームバーグ): 東京五輪・パラリンピックの閉幕から約1年。関連施設が集まる有明や台場、青海地区など臨海副都心と呼ばれるベイエリアで東京都は今、デジタル化と脱炭素が融合する100年後を見据えた新たな街づくり構想を進めている。

完成すれば約1000ヘクタール、東京ドーム約210個分に相当する臨海副都心とその南部に広がる中央防波堤エリアは都有地が多く、不動産開発の観点からは23区内に残された最後の楽園と言える。同地域の開発構想を主導する1人が元ヤフー社長で、小池百合子東京都知事の呼び掛けに応じて2019年に副知事に就任した宮坂学氏だ。

「爆速経営」のスローガンを掲げ、ヤフーの改革に取り組んだことでも知られる宮坂氏らは21年4月、「東京ベイeSGプロジェクト」を策定した。同氏は19日に行われたブルームバーグのインタビューで、五輪を終えた現在を起点に「50年後、100年後にあの時こういうかじを切って良かった」と言われるような街にすることを目指していると語った。

同プロジェクトでは、次世代通信規格5Gのインフラや自動運転など最先端テクノロジーを盛り込んだ「巨大実装エリア」への変貌を描く。海と運河に面した水辺の立地を生かしながら公園や緑地を整備し、需要の100%を水素を中心とした再生可能エネルギーで賄う街へと発展させるのが狙いだ。パートナーには三井不動産やパナソニック、丸紅、JTBなど大企業も名を連ねる。

アイデアを試せる場所

宮坂氏は、最先端テクノロジーの開発は自動運転や再エネの活用など人々の生活に応用される局面を迎え、従来のようなパソコンなどのオペレーティングシステム(OS)上ではなく、どの都市が開発基盤として妥当かという観点で比較されるようになったと指摘。臨海地域を新技術の導入がしやすいスマートシティーに変え、「アイデアを試せる場所」として発展させることを目指している。

東京都は22日、「空飛ぶクルマ」や浮体式の洋上太陽光発電などの社会実装を目指す約3年間の先行プロジェクトで、参加企業の公募を開始した。先端技術を持つスタートアップ企業を念頭に再エネや次世代モビリティー、環境改善・資源循環などの分野で合計9件程度を採択する方針。都が事業用地を提供し、初年度の22年度は1件当たり最大3000万円の資金支援を行う。10月までに選考を終える予定だ。

「大きなフィールドがこれだけ大きな都市のすぐそばにあるのは、実は世界にはあまりない」と宮坂氏は強調。「エッジの効いた面白い展開がそこで成功すると、ベイエリアで実装されたり、あるいは国内外でそのまま実装されたりする可能性がある」とみている。

課題は合意形成と規制緩和

臨海副都心エリアでは既に大手企業が施設建設の計画を打ち出し、コナミグループやテレビ朝日ホールディングスは有明でオフィスやスタジオなどの建設予定事業者に選定された。トヨタ自動車は29日、青海にあったショールーム施設跡地に同社バスケットボールチーム「アルバルク東京」のホームアリーナを建設すると発表。収容人数は約1万人で、他の室内競技やeスポーツなどの舞台としても使用する。

明治大学の市川宏雄名誉教授(都市政策)は、「これから実行段階に入るといろいろな課題が出てくる」ため、住民の合意形成や国の規制緩和がプロジェクトの推進には欠かせないとの見方だ。

海外ではグーグルの親会社であるアルファベット傘下のサイドウォーク・ラボが17年、カナダ東部のトロントのウオーターフロント地域で5000万ドル規模(約68億円)を投じるスマートシティー計画を公表した。しかし、最終的に市民の合意が得られず、20年5月に同計画は頓挫した。

宮坂氏は、街に先端技術を導入することだけがスマートシティーではなく、オンライン説明会の開催や電子版同意書など共働きの子育て世帯が参加しやすい合意形成プロセスの導入もスマートシティーの一つの形だと指摘。こうしたアプローチが「東京のような民主主義の都市には大事」だと話す。

不便な交通手段

臨海地域には、都心部との交通手段が不便という大きな課題も残っている。東京ベイeSGプロジェクト担当推進部長の宮崎成氏は、都心部と結ぶ臨海地下鉄が「発展の上で非常に重要な路線」だと認識している。東京地下鉄が進める有楽町線の延伸計画(豊洲-住吉駅間)が事業化に向けて動き出し、「その次のものが動き出そうとしている」と述べた。

国土交通省の審議会が21年7月に出した答申に臨海地下鉄が整備対象に含まれたことで、都は同年9月に同省と有識者を交えた臨海地下鉄の事業計画検討会を設置。現在はルートや駅の位置などに関する検討が進められている。

東京都は来年2月、「シティーテック」をテーマにスタートアップを集める国際的なイベントを開く。先進的な経験を持つ北欧や米国、中東などの都市からの参加を呼び掛ける予定だ。

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