平田紀之

[東京 17日 ロイター] - 日経平均株価をTOPIX(東証株価指数)で割ったNT倍率が上昇している。海外短期勢による日経平均先物の買い戻しが背景にあるとみられている。一方、長期投資家は慎重姿勢を継続。日経平均は2万9000円の大台を回復したが、参加者が限られている中での株高に、反落リスクが高まるとの見方も多い。

<「弾は尽きていない」>

NT倍率は16日終値で14.57倍。7月12日に13.94倍の直近ボトムから上昇に転じ、菅義偉前首相の辞任が伝わった昨年9月の株高局面でつけた14.60に迫る水準になっている。

その原動力とみられるのが、海外短期筋の先物買いだ。海外短期筋は、現物よりも先物、TOPIX先物よりも日経平均先物を好むといわれている。「海外短期筋の間では日経平均先物の方が認知度が高く、利用されやすい」(国内運用会社)という。このため、NT倍率が上昇する局面では、海外短期筋主導による株高とみられることが多い。

実際、東証がまとめた投資主体別の売買動向では、NT倍率の上昇基調がみられ始めた7月第2週以降の海外勢の先物取引を累計すると1兆2000億円の買い越しとなる。同期間に国内の個人投資家は3300億円、信託銀行は3200億円、それぞれ先物を売り越した。

海外勢の先物買いについて、ピクテ・ジャパンの糸島孝俊ストラテジストは、日本株のバリュエーションが低く、ドル/円が高止まりする中で「ウェートが下がっていた日本株を見直す動き」とみる。 しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹運用本部長は、「前年まで海外勢の売りが大きかっただけに上昇エネルギーは溜まっている。弾は尽きておらず、買い戻し余地はまだあるだろう」との見方を示す。2020年と21年に海外勢は合計で先物を5兆円超、売り越していた。

<「長期の資金では買えない」>

一方、長期投資家の動きは依然として鈍い。長期投資家が売買の中心とされる現物株は、海外投資家も7月第2週以降、3400億円超の売り越しとなっている。国内勢も、現物株の売買は個人投資家が5700億円の売り越しで、信託銀行は買い越しながら400億円にとどまり、いずれも慎重な様子がうかがえる。

長期資金を運用する国内金融機関のファンドマネージャーは「ファンダメンタルズの不透明感を踏まえると、株価が急激にここまで上がってしまうと長期の資金では買えない」と話す。

日経平均は1月6日以来となる2万9000円台を回復。日経新聞のデータによると、日経平均の予想PER(株価収益率)は16日時点で12.95倍、PBR(株価純資産倍率)は1.18倍と、歴史的にみて、それほど高い水準ではない。ただ、年後半の景気後退懸念は根強い。

国際通貨基金(IMF)は7月公表の世界経済見通しで、世界の経済成長予測を4月時点の3.6%から3.2%に下方修正した。高インフレとウクライナ戦争に起因する下振れリスクが顕在化しつつあり、リスクが抑制されなければ世界経済が景気後退の瀬戸際に追い込まれる可能性があるとしている。 足元の株高について、りそなアセットマネジメントの戸田浩司ファンドマネージャーは、6月に過度に弱気に傾いた相場の反動とみており「大きく振れた振り子の揺り戻しも覚悟する必要がある。この水準で安定するとみるのは時期尚早だろう」と話す。

みずほ証券の三浦豊シニアテクニカルアナリストも、米株高なら日本株も上昇余地があると指摘する一方、海外短期勢の先物ポジションは年初からの累積で、ショートからロングに変化してきたとし「調整時には日本株の反応が大きくなりそうだ」との見方を示している。

(平田紀之 編集:伊賀大記)

*改行を整え再送します。