2022/8/16

【「刀」マーケター】就活に生かす「戦略思考」

インタビューについては「素人」ながらも、さまざまな分野のニュースや事象に強い興味関心を持つNewsPicks Student Pickerが、学生の視点からインタビューを行う企画『素人質問で恐縮ですが』。
第5回に登場するのは、株式会社「刀」(代表取締役CEO森岡毅)で、シニアエグゼクティブ・ディレクターとして活躍する、マーケターの渡邊泰裕氏。
インタビュアーは、第2期Student Pickerの祝迫翔子氏、荻原叶多氏、落合達哉氏、が担当します。
INDEX
  • 戦略思考のためのエクササイズ
  • 「ブレない目的」を設定するには
  • マーケターに必要な「普遍的スキル」
  • 面接では何を見られるのか
  • 自分を知る方法
  • 新社会人になるあなたへ

戦略思考のためのエクササイズ

渡邊 こんにちは、株式会社「刀」の渡邊です。日本の未来を拓き、継続的に若き人材をプロフェッショナルへと育成・輩出していきたいという強い想いのもと、「刀」は創業以来初めて、新卒採用を開始しました。
今日は、就職活動やキャリアに関してのインタビューということでよろしくお願いします。
祝迫 京都大学経済学部4年の祝迫翔子です。私からは、渡邊さんの学生時代やこれまでのキャリアについてうかがいます。まず、渡邊さんは学生時代をどんなふうに過ごされていましたか。
渡邊 高校まではサッカーに明け暮れる毎日でした。大学は3人兄弟で自分だけが進学させてもらったので、しっかり勉強したいという思いがありました。
また、私が小学生のとき、社会の授業で「グローバリゼーション」という言葉を聞いて以降自分も国際的な環境で活躍したいとずっと思っていました。
大学では英語会ディベートのクラブに入部。英語によるコミュニケーション力だけでなく論理的思考力を養える点と、勝敗がはっきりしている点が競技としても面白く、どっぷりハマって活動していましたね。
祝迫 学生時代からすでに論理的思考を意識していたんですね。渡邊さんは戦略思考を活用したマーケティングに強みをお持ちですが、どうやってこうした意識を鍛えてこられたのでしょうか。
渡邊 論理的思考の上位概念である戦略思考は、目的達成のためにどうリソースを配分するかの思考法で、あらゆるビジネスに役立ちます。就活においても、戦略思考は非常に有用です。
この考え方を鍛えるために最も重要なのは、目的設定です。たとえば祝迫さんがヨーロッパ一周旅行の計画を立てるとしましょう。
その目的が「国の数を出来るだけ多く制覇すること」なのか、あるいは「ヨーロッパの国々の異なる文化を理解すること」なのか、その目的設定によって旅のプランは全く異なります。
この目的設定が明確だと、使うお金や時間に対して満足する結果を得られる確率が高くなるでしょう。
目的の明確化のため私が取り組んでいるエクササイズが、『〇〇とは?』を問うことです。
たとえば「学生とは?」という問いに対して、「社会で仕事をする前に与えられる自由な時間」と解釈するか、「社会で活躍するための準備期間」と解釈するかで、4年間の過ごし方はまったく変わってくるはずです。
就活においてもご自身にとって「働くこととは?」を自問自答していくと、選ぶべき企業や職能が絞られてくると思います。

「ブレない目的」を設定するには

祝迫 なるほど。私自身も目的設定は重要だと思っているのですが、そもそも自分が設定した目的が正しいのか不安になることがあります。どうしたら「良い目的」を設定できるようになりますか。
渡邊 何のためにその目的を達成したいのか、要するに「目的の先にある更なる大きい目的」を考えてみてはいかがでしょうか?
たとえば「どんな学生時代を送るべきか」を考える時に、その更なる大きな目的である「どんな人生を生きたいか」を考え、そこから「どんな学生時代を送るべきか」に繋げていく。
大きな目的がはっきりしていれば、それに付随する小さな目的がブレにくく、明確化されます。
ただ、いきなり大きな目的と言われても、わからないということもあるでしょう。だから普段から『〇〇とは?』を問い続け、物事の本質を理解するための訓練をするんです
祝迫 そうすることでぼんやりしていた目的の解像度が上がってくるわけですね。これまでは自分の目的設定に自信を持てていなかったので、より大きな目的を意識しながら「問う」を習慣づけてみたいと思います!

マーケターに必要な「普遍的スキル」

荻原 青山学院大学地球社会共生学部3年の荻原叶多です。就活の真っ最中なので、主に就活まわりのことで質問させていただきます。
僕は将来的には企業のブランディングを担いたくて、そのためにまずはマーケティングの領域で経験を積みたいと考えています。学生時代に養っておきたいスキルを教えてください。
渡邊 一番は「消費者視点で考えること」です。これは学生だからこそ身につけやすいとも言える最も重要なスキルです。
例えば、スニーカーやコーヒーなど特定の商品について、消費者がどんな基準で選んでいるのか、売れている商品はなぜ売れているのか、そうでない商品はどこに引っかかりがあるのかを理解することです。
これが理解できると、消費者にどのような便益を提供すべきかがより明確化されます。
ただし、自分が消費者としてどう思うか、と考えるだけでは不十分です。また、インタビューで対象者が言っていることを聞けば消費者理解ができるかというとそうとも限りません。
「刀」では、消費者自身も気づいていない潜在的なニーズを本能レベルで理解するために、市場構造を分析し、自らがそのカテゴリに徹底的に没頭し、その製品・サービスを深く愛している人への徹底的な行動観察も含めて総合的な理解を行います。
その人の人生の価値観を理解した上で、自分も共感する。そして、特定の製品・サービスの行動と言動の矛盾などに注目して、やっとのことで掴み取るもの、それが消費者インサイトであり、真の消費者理解だと考えています。
上記のような消費者視点に加えて、マーケターに求められる普遍的なスキルは3つあると考えています。
「リーダーシップ」「戦略的思考力」「コミュニケーション力」です。
マーケティングという職能は社内外の多様な人たちとかかわるので、彼らが気持ちよく力を発揮できるように巻き込んで、目的達成のために物事を進めていくリーダーシップとコミュニケーション力は不可欠です。
加えて、どの消費者に対してどんな価値を提供していくかを選び、そのために「やるべきこと」と「やらないこと (リソース配分) 」を明確化していくのに戦略的思考力が必須です。
荻原 これまで企業分析や自己分析に焦るばかりで、他者と協力していくという大事なところを見逃していました。「リーダーシップ」「戦略的思考力」「コミュニケーション力」、を肝に銘じたいと思います!

面接では何を見られるのか

荻原 ところで、採用試験のグループディスカッションでは、新規事業や販売戦略をテーマとされることが多いのですが、最初に設定したペルソナがどんどんブレていくという経験をしました。
良いアイデアが飛び出したけど、ターゲットに合ってない、だったらターゲットを変えようかという議論になってしまって、これは良くない流れじゃないかと感じたんです。
そもそも、ターゲットやペルソナはどう設定すべきなのでしょうか。
渡邊 ターゲットを決めるときは“なんとなくそのペルソナの人が買ってくれそうだから”ではなく、根拠を明確化することが重要です。
そのターゲット消費者に決めることでビジネス目標を達成できるか、その消費者グループの中で自社製品は勝ち筋があるか、実際にその消費者グループに対して働きかけることができるかといった観点から、ターゲット消費者の妥当性を検証します。
もしディスカッションの最中に当初とは違う、目標をより達成しやすいターゲットを発見したのであれば、後から変更することは決して間違いではないと思います。
最初に決めたことをやり遂げることは大事ですが、何よりも目標を達成するために適切な選択ができる力(=戦略的思考力)が大切です。
荻原 たしかに、目的は一度決めたペルソナをずらさないことや高いアウトプットを出すことだけではないですね。
それに至るまでがどのようなプロセスを踏んだのかなので、「議論のなかで適切な選択ができているのか」を意識してグループディスカッションに取り組もうと思います!
渡邊さんが在籍する「刀」でも、そういう判断基準で新卒を採用しているのでしょうか。
渡邊 そうですね。「刀」は現在、実事業も拡大しているので、創業以来初めて2024年度卒の新卒採用を今年の夏から始めました。
その際に前述した3つのスキルを基本の採用基準とし、いずれかが突出した強みを持つリーダーを求めています。
「刀」では様々な領域で突出した強みを持った人財が集結し、その強みを有機的に組み合わせて集団知として活かし、パフォーマンスを最大化することを組織形成の原則と考えています。
「消費者理解からクリエイティブなコミュニケーション戦略を作ることに頭抜けた人」「数学的・統計的視点から常に大局的で客観性のある見解を持ってチームに影響を与えられる人」「人の強みや特技を生かしてチームの力を最大化し、育成することが出来る人」など様々な個性が存在していて、それぞれの突出した強みをお互いに大切にしています。
年齢やそれまでの経歴で意見が通ったりするのではなく、各個人がどのような貢献をできるのか、という毎日全ての会議が真剣勝負です。
そして、就活生の皆さんにアドバイスしたいのは、面接やグループディスカッションで自分を必要以上に良く見せることに集中し過ぎないでほしいということです。
「採用されること」が最終目的になってしまうと、自分とその企業の相性が合わなかったときにお互いに不幸になってしまうからです。
ありのままの自分をしっかり表現して頂いて、それで企業とマッチングするようであれば、入社してからも継続的に頑張れますし、中長期的に活躍できる可能性も高いのではないでしょうか。
そのために、自分の特徴や強み、それを生かしてどう企業に貢献できるかを限られた時間で伝える練習をすることは良いと思います。
また、志望企業の強みや特徴を理解することで本当に自分がその企業を志望する動機が分かり、満足できる就職活動につながるのではないでしょうか。

自分を知る方法

荻原 自分の特徴や強みを知って、それを言語化して伝えるというのも難しく感じます。そもそも評価軸がたくさんある中で、どう自分を客観視し、価値を可視化していけるのでしょうか。
渡邊 月並みですが、やはり家族や親しい友人など、自分を良く知る人に聞いてみるのが一番自分を客観視しやすいと思います。
ストレングスファインダーやエニアグラムと言ったテストなども参考になりますが、私にとって一番はやはり自分をよく知る人からのフィードバックです。
私自身、学生時代はクラブの友人に私自身のフィードバックをしてもらい、自己分析にとても役立ったと感じました。
「刀」社内でも、森岡からポジティブなものから、時には厳しく建設的なものも頻度高くフィードバックをもらえるようなオープンな環境があります。
私自身、厳しいフィードバックを得て、まだまだ日々成長しているという実感を持っています。
その他に、おすすめしたい方法があります。「過去1年間」いうふうに期間を区切って、その間で「一番嬉しかったこと」「悲しかったこと」「許せなかったこと」など感情を大きく揺さぶられた出来事を振り返ってみるんです。
これは自分がどういう時に頑張れるのか、どういう対象にやりがいを感じられるか、逆にどういう時に頑張れないのか、を理解するのに役立ちます。
嬉しかったことは自分が価値を置いていることで、モチベーションの源になります。逆に、悔しいとか許せないと感じることに近いこと、含むことを自分の仕事の一部にしてしまうと、続けるのが難しくなると思います。
私自身、毎年元旦に過去1年間の自分の感情の動きを振り返って、自己分析をアップデートして、新年の目標設定に役立てています。
「自分をよく知る人からのフィードバック」と「自分の過去との対話」で自分をよく知り、自分ならではの特徴・強みを就職活動でも分かりやすく伝えられるようになってもらえたら嬉しいです。
荻原 ありがとうございます!鏡で見ても自分姿を完全には見えないように、自己分析だけでは自分の全てを客観的に把握することは非常に難しいです。
信頼できる他人に見て頂いたり、フレームワークを活用してより俯瞰的な視点で自分を見られるようにします。

新社会人になるあなたへ

落合 名古屋大学教育学部人間発達科学科4年の落合達哉です。僕は春からスタートアップに就職するので、主にビジネスパーソンの心得をうかがいたいです。
渡邊さんは仕事に取り組むうえでどんなことを大切にされてきましたか。
渡邊 仕事の社会的意義は大切です。ただ、慈善事業でもないので会社にとっても自分にとっても意義がある仕事であってほしいと思います。
消費者のためにも、会社のためにも、自分のためにも、「三方良し」であるためには、消費者を深く理解し、消費者視点で価値を作り上げることが起点になると考えています。
これは言う易し、行うは難しです。会社の目的、利益、自分の役割、社内外のステークホルダーの声、リソースの制約など、考慮しなければならないことが沢山あるからです。
消費者にとって価値のあるものを提供できれば、消費者は幸せになる、そして会社は目的を達成し、売上も上がる、社内外の関わる人々も喜び、自分も評価される、まさに「三方良し」です。
自分が何のために仕事をしているかを見失わないよう、いくつになっても初心である「消費者に価値を提供すること」に戻ることは忘れないでいたいと思っています。
私はシンガポールで7年間、30か国以上の方と仕事をした経験があり、他国出身の同僚が想像以上に日本の食文化やエンターテインメントのコンテンツに詳しく、好んでくれているようでした。
その経験から、「マーケターとしてもっと日本のために仕事をしたい」「消費者にとって新しい価値を創造したい」と考えはじめました。
そこで刀と出会い、ビジョンである「マーケティングとエンターテイメントの力で日本を元気にする」ということに強く共感して入社することを決めました。
自分の日々の仕事が大きな共感できる目標に対して繋がっているかと思うと、どんなときでも前を向いて頑張るエネルギーになると感じています。
落合 社会人1年目からこうした考えをお持ちだったんですか。
渡邊 いやいや、最初は他者より早く成長したい、成功したい、と自分のことばかり考えていました。
たぶんそれは本能的なもので、自分に自信がないから社会で生き残っていけるか不安で、成長ばかり求めてしまっていたのだと思うんです。
経験を積んで自分が何を出来て何が出来ないのかを理解できるようになってくると、見えてくる世界が少しずつ広がってきた気がします。
これから就活する皆さんには、自分が何のためにその仕事をしているのか(目的の明確化)を意識して取り組んで頂けたらなと思います。成長は結果としてついてくるように思います。
落合 働いたことがない学生にとって、仕事をする目的を考えることは簡単ではないと思いますが、自分と企業とのミスマッチが生じないようにするために、とても重要なことだと私も感じました。