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昇格チームがJ1制覇

ガンバ大阪の長谷川健太監督は怪物的な采配をしていた

2014/12/11
今年のJ1はガンバ大阪の優勝で幕を閉じた。ブラジルW杯による中断前は16位だったチームの猛烈な追い上げによる大逆転劇だ。前回の連載で金子達仁はガンバの長谷川健太監督の能力を大絶讃した。その采配力に迫る。
長谷川健太監督は昨年ガンバ大阪をJ2優勝に導き、今年は昇格1年目でJ1を制覇した。清水エスパルスの監督時代はタイトルに恵まれなかったが、ガンバでは采配力を発揮して名将の仲間入りを果たそうとしている(写真:フォトレイド/アフロ)

長谷川健太監督は昨年ガンバ大阪をJ2優勝に導き、今年は昇格1年目でJ1を制覇した。清水エスパルスの監督時代はタイトルに恵まれなかったが、ガンバでは采配力を発揮して名将の仲間入りを果たそうとしている(写真:フォトレイド/アフロ)

天王山で見せた神采配

ーー最終節までもつれたJ1の優勝争いですが、2部から昇格したばかりのガンバが頂点に立ちました。前回の連載で金子さんは、長谷川健太監督の采配力を絶讃していましたね。たとえばどの試合の采配がすごかったですか?

「直接対決となった大一番の浦和レッズ戦は、神采配だったよね。個人的にここ20年間で、一番度肝を抜かれた采配だった」

ーー32節に首位浦和と2位ガンバが対戦して、ガンバが2対0で勝利した試合ですね。これで勝ち点差が2に縮まり、今季の最大のターニングポイントになりました。

「だって、誰が見てもガンバの攻撃の核といえば、宇佐美(貴史)君とパトリックじゃない? その2人を代えて、途中から入った2人が点を取っちゃうんだもん。で、思い出したのがクライフの言葉。クライフいわく『マークする選手をいなくしてしまえば、相手は混乱する』と」

ーーなるほど。

「それまでは槙野(智章)君が、ほぼ完璧にパトリックを抑えていた。前半に1回だけ離してしまったけれど、チームとしてもう本当にパーフェクトなテンションと集中力で捕まえていた。その相手がいなくなった途端にロストしちゃったんだよね。代わりに入った佐藤(晃大)君って今季1点しか取っていなかった。それは緊張が緩むじゃない? カウンターから佐藤君が先制点を決めたシーンでは、完全にフリーだったからね。パトリックには1回も許されなかったペナルティエリア内のドフリーだぜ」

ーー長谷川監督はそれを狙ったと。

「完全に狙ったかはわからないけど、結果的にはそうだから。クライフ本を読んでいるようなタイプには見えないから、あの勝負勘はナチュラルだよね」

ーー長谷川監督は清水エスパルス時代もめちゃくちゃいいサッカーをしていたわけじゃないけど、いい順位にいましたもんね。

「正直、ガンバのサッカー自体には、それほど感心していない。サッカーだけでいえば、たとえば川崎フロンターレの方がはるかに魅力的だし、どちらのチームを1年間観に行きますかといったら断然フロンターレです。あるいは湘南ベルマーレです。だけど、健太君は10あるチームの力から12を引き出すよ。試合になると」

日本代表監督の候補になりうる

ーーMVPに輝いた遠藤保仁やブレイクした宇佐美が注目された一方で、あまり監督はスポットライトを浴びていない気がします。

「うーん、何を見ているんだろうと言いたい。こういう疑問はブンデスリーガの報道でも感じていて、バイエルンを率いるペップ・グアルディオラを褒めるのはわかるけど、今はグラッドバッハを率いるファブレの方がすごいと思うぞ。駒を考えたら」

ーーなるほど、戦力を考えるとバイエルンはいいサッカーをできて当たり前ですが、メンヘングラッドバッハは違うと。

「ファブレはすごくいいチームを作っている。俺は基本、いいチームを作る監督が好きなんで」

ーー長谷川監督が評価されないのも、メディアの未熟なところでしょうか?

「だからビックリするのは、『長谷川健太を日本代表監督にすべきだ』という声があがってこないこと。アギーレがこんな状態になっているなら、じゃあアジアカップは長谷川健太でいいじゃないかって」

ーーそれは考えもしませんでした。

「ちょっとそれはダメでしょ。怪物的な采配をしていたよ」

先行逃げ切りではない勝ち方

ーーMVPの遠藤も素晴らしい活躍でしたが、一番は監督でしたか。

「力の劣るチームの優勝の仕方って、『先行逃げ切り』しかないと思うのよ。シーズンの序盤に先行していて、どうせみんなが落ちてくると思っていたら、『落ちてこないぞ、あれ?』って勝ち方しかない。2011年に2部から昇格したばかりの柏レイソルが優勝した時もそうだし、1998年に昇格組のカイザースラウテルンがドイツで優勝した時もそうだし。なのに今回のガンバは、最終コーナーを回ってからのまくり。こんな勝ち方、見たことないよ。33節で初めて首位なんだから。今シーズンの開幕戦(ガンバは浦和に0対1で負けた)を観た時に、『うわぁ、かわいそう。ガンバは1年で2部に逆戻りだ』と思った。100回やってもレッズにもセレッソにも勝てないと思った。それが優勝だから」

ーー7月にパトリックが加入したのも大きかったです。

「選手でいえば、MVPは今野(泰幸)君だと思う。J2に落ちた時の最大の責任者は今野君だった。プレーが安定していなかったし、日本代表から外すべきだと思っていた。でも今は、飛びっきりのボランチだよな。本人は笑うだろうけど、今の今野君はシャビ・アロンソと比較できる。ほんと相手を潰す感覚が素晴らしいし、そこから効果的な縦のパスがすっと出てくるから。生まれ変わったね」

ーーブラジルW杯での経験によって変わったんでしょうか。

「30歳をすぎても日本人って伸びるんだなって。まあ日本人に限ったことじゃないか。ペップのサッカーになって、バイエルンの選手がどれだけ生まれ変わったか。監督の影響は大きい。そういう意味でも、最大の功労者は長谷川健太監督だった」

ーーガンバは今年、すでにJ1とナビスコカップを制していて、今週末の天皇杯決勝で勝利すれば、3冠の達成となります。

「2部からの昇格チームが3冠達成というのは、Jリーグにジャイアントチームがいないから起きてしまう珍事でもある。ガンバにとっては最高に嬉しいことだけど、リーグにとっては恥ずかしいこと。ただし、基本すべて俺はポジティブに考えたいんで。今のJリーグは監督が能力を発揮するには最高のリーグだなと。そこに健太君という勝負師が出現したということだよな」

(聞き手:木崎伸也)

*本連載は毎週木曜日に掲載する予定です。