2022/7/14

【経営者必見】地方の中小企業=採用できないは幻想だ

NewsPicks Brand Design Editor
 企業自らが候補者にアプローチする「攻めの採用」が必要と言われても、それは名の知れた大企業だけの話だと思ってはいないだろうか。
 否、そんなことはない。事実、全国的にはあまり知られていない地方の中小企業も「ダイレクトリクルーティング」を実践し、即戦力人材の採用に成功している。
 連載「『攻めの採用』の時代が来た」最終回となる今回は、そんな地方企業の事例を紹介。
 成功のポイントは、「経営トップ自らの『直アプローチ』」だ。
INDEX
  • 創業60年超の老舗企業が実践した「採用改革」
  • 「大企業出身者」こそ狙い目だ
  • 人材難の業界でも「即戦力人材」採用に成功
  • 「スカウト+きめ細かい面談」が肝

創業60年超の老舗企業が実践した「採用改革」

最初に紹介するのは、香川県に拠点を置く製造業の会社が、地道に候補者に寄り添い、「良い出会い」を手にしたストーリーだ。
森川ゲージ製作所は、創業1955年の老舗企業。大型船舶向けのエンジン部品の製造や、クレーンなど建設機械の設計などを得意とし、一貫してモノづくりに邁進してきた。
3代目社長の森川正英氏は、「攻めの採用」に転じた経緯をこう語る。
「森川ゲージ製作所は 60名規模の企業で、そのうち45名が製造現場での業務にあたる職人として働いています。
 モノづくりには自信がありますが、経営視点でものごとを判断し、現場を引っ張る『リーダー候補』が足りていなかった。
 そこで、私たちと一緒に会社の未来を描いてくれる人材を採用しようと考えたのです」(森川氏)
 それまで、森川ゲージ製作所の採用チャネルは地元の人材エージェントやハローワークがメインだった。
 だが、「応募を待っているだけでは、リーダーになるような即戦力人材を採用するのに時間がかかりすぎる」と感じた森川氏。
 新たな採用チャネルとしてインターネット広告で目にした「ビズリーチ」の導入を決断した。
 企業から直接候補者にスカウトを送るなどの「ダイレクトリクルーティング」を実践し、リーダー人材を採用しようと考えたのだ。
 こうして、森川ゲージ製作所のリーダー人材採用プロジェクトがスタートした。
 驚くべきは、スカウトを送信する候補者の選定から、スカウトメールの送信、初回の面談、面接と内定にいたるまでの一連のプロセスを社長である森川氏が担当していることだ。
 多忙な経営者が、自ら採用プロセスすべてに携わる。その背景には、採用に対する森川氏の並々ならぬ思いがあった。
「社内のメンバーや経営者仲間から、『自分ですべてを担当するのは大変じゃないですか?』と言われるのですが、採用は社運を左右する大事な業務
 経営の『一丁目一番地』だと思っています。
 経営トップである私がやらずして、誰がやるのか。会社の未来のためにやるべきことをやる、それだけのことです」(森川氏)
 面談では「最初から社長が出てくるんですか!」と驚かれることも多々ありましたと、はにかみながら明かす森川氏。
 今でこそ「攻めの採用」とは何たるかを体現しているが、導入当初は手探りでのスタートだった。
 スカウト候補者の検索方法すらわからなかったが、毎日ビズリーチを触ったり、同サービスで採用に成功した他社の経営者の書籍を読んだりして、少しずつ操作を覚えていったという。
「 『一本釣り』的な考え方をするのではなく、まずはたくさんの候補者の方にスカウトメールを送信したほうがいいですよ、と並走してくれたビズリーチの担当の方に教えてもらいました」(森川氏)
 実際、アドバイス通りスカウトを送ってみると、「うれしい誤算」があった。
 地方の中小企業には見向きもしてくれないだろう──そう考え、いわゆる大企業に勤めている人材からの返信は期待していなかった。
 だが、「むしろ『引く手あまただろうなと思う候補者』から返信が届き、しっかりとコミュニケーションが取れた」というのだ。
 もちろん、すべてが色よい返事ばかりではなかったが、森川氏は確かな手応えを感じていた。
森川氏が採用の参考にしていた書籍(本人提供)

「大企業出身者」こそ狙い目だ

 その手応えは、やがて成果となって表れた。徐々に面談希望者が増えてきたのだ。そして面談を重ねるうち、ある仮説を立てた。
 それは、「大企業に勤める候補者こそ、口説ける可能性が高いのではないか」というものだ。
 そこには、過去には自らも大手製造企業に勤めていた経験を持つ、森川氏ならではの視点があった。
「大きな企業に勤めていると、相対する海外企業の成長スピードのすさまじさに驚いたり、『本当のノウハウを持つのは自社ではなく、事業規模の小さな外注先企業ではないか?』と考えたりする瞬間があるんですよ。
 それに、大企業ならではの『社内政治』のために、本質的な仕事ができていないのではないかと危機感を抱いている人も少なくない。
iStock:mamahoohooba
 現状への危機感を持つ人であれば、規模は小さくても経営のコアに早く携われる企業に魅力を感じてくれるのでは、と思ったんです」(森川氏)
 そこで、大手企業に勤務する40歳前後の中堅・中間管理職層を中心にスカウトを送付。さらに面談を重ねていった。
 すると、予想通り「『現職の環境に不満や行き詰まり』を感じている」と本音を吐露する人も多かったという。そして森川氏は、そんな候補者の「相談に乗った」
「スカウトを送っているとはいえ、面談は人と人同士の『対話』の場です。
 だから、まずは相手のお話を聞き、前のめりに『口説く』のではなく、あくまで相手の悩みに寄り添うコミュニケーションを意識しました。
 その上で、お互いの求めるものが合致しそうであれば、中小企業ならではの煩雑な稟議などなくスピーディーにコトが進む良さや、新しいチャレンジに取り組めるおもしろさなどをお伝えしました」(森川氏)
 こうして計100名近くの候補者とコミュニケーションを取った森川氏。
 結果、取り組みは「採用成功」という形で実を結ぶ。
 設計開発要員として隣県の大手企業に勤めていた40代の中堅人材や、厳しい品質管理を問われる航空機業界のトップティア企業で経営企画などを担当していた20代のUターン人材など、同社が注力予定の分野に知見を持つ即戦力人材を採用できたのだ。

人材難の業界でも「即戦力人材」採用に成功

 続くもう一社も、トップのコミットメントによって全国の候補者に「想い」を届け、採用に成功した事例だ。
 加えて、「現場社員との『密な連携』」が、「攻めの採用」の運用を加速し、即戦力人材を惹きつけた要因となっている。
 紹介するのは、福岡県北九州市に本社を構え、デイサービス事業や居宅介護支援サービスを提供する芳野ケアサポートだ。
 介護業界の人手不足が深刻化しているのは、周知の事実だろう。そして同社も、長く人材の採用に頭を悩ませてきた。社長の森藤達雄氏は次のように話す。
「現場で働く人材もさることながら、特に必要としていたのは、さまざまな施設の運営方針などを決定し、全社的な課題解決を担う『運営メンバー』と呼ばれるポストです。
 海外進出を含めた事業展開を視野に入れていたため、経営視点を持って動ける人材を探していました」(森藤氏)
 先述の森川ゲージ製作所と同様、それまでの採用はハローワークや求人広告のポスティングなど、地元のチャネルがほとんどだった。
 だが、なかなか候補者が見つからない。そこで、「攻めの採用」に打って出るべく、総務部長の安高美和氏はビズリーチの導入を提言した。
 ビズリーチを知ったきっかけは、森藤氏と共に参加した、当時の同社代表取締役・多田洋祐氏による採用セミナーだ。
 だが、当時は「地方の企業でも、本当に優秀な人材と出会えるのか」という不安も大きく、一度導入を見送った。
 しかし、月日の経過とともに「待っているだけでなく、もっとアクティブに採用活動をすべきなのではないか」という思いが募った。そこで、森藤氏に提案するにいたったという。
iStock:Worawee Meepian
周辺地域に住む方だけではなく、広く全国の方にアプローチできることに魅力を感じていました。
 また、ビズリーチの担当者の方がしっかりと伴走してくれることを約束してくれたのも、導入に踏み切れた理由の一つです」(安高氏)
 実はビズリーチの導入時、芳野ケアサポートは新たな事業所の開設を控え繁忙のさなかにいた。
 森藤氏も安高氏も、「スカウトを送る候補者」を検索する時間すら取れないほどだったという。
 だが、「ビズリーチの担当者の方が定例ミーティングでスカウト戦略を一緒に考えたり、こまめに『この候補者はいかがですか』とレコメンドしてくれたりしたことで、『攻めの採用』の第一歩を踏み出すことができた」と森藤氏。
 こうして、森藤氏、安高氏、そしてビズリーチ担当者の「三人四脚」で採用を進めていった。

「スカウト+きめ細かい面談」が肝

 まず取り組んだのは、スカウトメールで「同社が掲げる理念」と、「理想とする顧客へのケアの形」を表現することだ。
「森藤さんと安高さんからケアに対する想いを聞き、ぜひそれをメッセージとして候補者に届けるべきだと考えた」と、ビズリーチ担当者は語る。
 3人でディスカッションを重ねながら、候補者の心に響くメッセージになるよう、何度も表現を磨いた。
「介護の仕事につきまとうのは、『きつい・汚い・給料が安い』というイメージです。『介護=ボランティア』といった捉え方をしている人も少なくありません。
 しかし、私は決してそうではないと思っています。
 この仕事でしか感じられないやりがいがありますし、そのやりがいを感じてもらうためにも良い職場環境を提供したい。
 そう思って、これまで会社を経営してきました」(森藤氏)
 事実、芳野ケアサポートでは、介護を受ける施設の利用者たちには「その人らしい生活を送る」ためのサポートを徹底している。
 たとえ、車椅子生活を送っている人であっても、本人の希望があれば安全面には最大限配慮しつつ、地元のスナックや居酒屋への「ミニツアー」を実施することもあるそうだ。
 サービスを提供する側に対しても、享受する側に対しても、「楽しみ」を提供したい。
 この芳野ケアサポートの想いは、スカウトメッセージに乗って全国の採用候補者のもとに届くことになる。
地元スナックへの「ミニツアー」の様子 ※コロナ禍以前に実施したものです。(芳野ケアサポート提供)
  計111通のスカウトメッセージを送信し、そのうち9名と面談を実施。
 ここでも注目したいのは、森藤氏と安高氏の間の「密な連携」だ。
「定期的に森藤と話す時間を設けて、スカウトメッセージへの反応や、面接で得たフィードバックを共有していました。
 お互い言葉を交わすことで、『こんな人に来ていただきたいね』という理想像が、さらに明確になっていった気がします」(安高氏)
 こうして選考が進み、なんと最終に残ったのは、遠く離れた東京に住む人材。まずは一度現地に来てもらおうという話になり、北九州に招くことになった。
 ビズリーチ担当者のアドバイスを受け、来訪時には代表である森藤氏と安高氏が対応。
事業にかける想いを森藤氏がダイレクトに伝え、しっかりと両者の意志を確認したのち、正式にオファーを提示。こうして、めでたく入社が決定した。
「まさか東京にお住まいの方にアプローチできるとは、ビズリーチを導入する前は考えもしなかったですね」と、安高氏。
 ビズリーチ導入をきっかけに、「場所」や「待遇」はもちろんだが、それ以上に企業が大切にしている価値観や理想への「共感」をベースにした採用ができるようになった、と一連のプロジェクトを振り返る。
 全国的な知名度の低さを理由に、県外からの即戦力採用を諦めている企業は少なくない。だが、芳野ケアサポートの事例は、そんな企業に勇気と希望を与えるだろう。
まずは私たちから一緒に働きたい候補者にアプローチする
 そして、お互いに求めるものを共有し、それがマッチするようであれば、内定オファーをする。それこそ、本来あるべき『採用』です。
 もう、企業側がふんぞり返って、人材を選別するような時代ではありません。
 特に経営トップは、今働いてくれている社員そして仲間になることを検討してくれる候補者に対し、誠意をもって相対していくべきでしょう。
 『人手が足りない』と嘆く前に、まずそれを徹底していきたいと思います」(森藤氏)