2022/7/5

住む場所にも、雇用体系にも縛られない「バイアスフリー経営」

フリーランス エディター・ライター
旅のサブスクサービス「HafH(ハフ)」は旅をサブスクで楽しむという斬新なサービスですが、会社の経営自体も、従来の「こうあらねば」から解き放たれた発想で行われています。HafHを運営するKabuK Styleで代表取締役を務める砂田憲治さんと、社長の大瀬良亮さんのおふたりにお話をうかがいました。(第2回)
INDEX
  • 「定住」に縛られる必要はない
  • 「働き方」に縛られない
  • 目先の売り上げに縛られない

「定住」に縛られる必要はない

10歳の頃に株のトレーディングを始めたという砂田さん。「毎日のように株価が上下することに疑問を感じていたのが『当たり前を疑った』最初の記憶。企業の価値は変わらないのに、株価がここまで動く必要について考えたりしていました」
「HafH」を運営するKabuK Styleは、「多様な価値観を多様なまま許容する社会のインフラを創る」というビジョンを掲げています。HafHも「移動の自由化のインフラ」となることを目指し、事業展開を行っています。
砂田:HafHのコアもインフラです。定住する家があると、わざわざ家を空けて月に何度もどこかに行こうとはあまり思わないけれど、そうでなければもっと自由に移動して、多くの場所で暮らし、多くの人と交わることができる。HafHは、自由な移動のインフラとなることを目指しています。
日本で定住生活が当たり前になったのも、この2000年ぐらいのこと。人類400万年の歴史を考えると一瞬です。そもそもの定住の理由は、農耕をして食料を確保するため。でも現代において大多数の人がその必要がなくなったのだから、定住に意味はないはず。だからもっと自由になることを選べるようになっていい。住む場所にとらわれず、好きなときに好きな場所で過ごせる未来は、面白そうじゃないですか?

「働き方」に縛られない

砂田さんは、一般的には気づかれにくいあらゆるバイアスに敏感です。当たり前だと思われていることにも「こう変えたら、もっとみんな楽に生きられるのに」という思いが強くあり、それはKabuK Styleの経営の随所にも取り入れられています。
砂田さんが変えたいのは、世界そのもの。「砂田が言っていることは、正直僕も何度聞いても3割くらいしか分からないことがあります(笑)」(大瀬良さん)
<HafH流“バイアスフリー”な雇用制度 4つの例>
1. 100%リモート
「オフィスに行かなければいけない理由はありません。私たちにとっては『在宅勤務』という言葉でさえ、在宅じゃなきゃいけないの? と、規制に感じられます。働く場所は世界のどこでもいい。コロナ禍以前からずっとそうだったので、むしろコロナ禍以降、自由に世界中を移動できなくなってリモートワークが後退しました。集まれる場所も必要になり、コロナ禍で東京の事務所も少し広くする必要が出てしまったくらいです」
2. 給料は週給制
「お金の流れはボリュームとスピードが重要。後払いにするほど回転が遅くなっていきます。みんながお金を使いやすいように、スタッフへの給与は週払いにしています。もし日本の法律ですべての給料を週払いにしたら、お金がもっと回転して需要があふれると思っています」
3. 雇用体系に縛られない
「会社をクビになったら怖いというのもバイアスで、今はフリーランスのほうがよほど所得が高い時代。我々は雇用契約と業務委託契約をどちらも用意していて、半数以上は主体的に業務委託を選んでいます。会社はあくまで箱であり、そのものに意志があるわけではない。だからあなたはどうしたいか、とコミュニケーションをして、年1回契約を見直します」
4. 年齢も性別も申告不要
「採用はWantedlyやLinkedInを中心に行っています。性別も年齢も、そんなことは関係ないですし、特に聞いていません」
「リモートワーク後退」で新設されたオフィスのスペース。取材前には砂田さんがスタンディングで仕事をしていたり、取材中も人が出入りするなど、自由だった
大瀬良さんは「本来はここまで意識や手間をかけず、もっと効率化したほうがいいセクションに対してもこだわりを持っているのが、うちの会社っぽく『傾(かぶ)いて』いると思います」と語ります。社名の「KabuK Style」は歌舞伎の語源となった「傾く(かぶく)」が由来。会社のビジョン同様、一人一人が多様な価値観を選択した、人とはちょっと違う粋な人生、という思いで、砂田さんが名付けたものです。

目先の売り上げに縛られない

砂田さんは短期的な売り上げを取りに行くことや、日本人の人口のコアである中高年層をターゲットに組み込むことには「興味がない」と明言します。それよりも、HafHユーザーの75%を占めるミレニアル世代に向けたサービスによって世界をどう変えるか、いかに世の中のためになることができるかに長期的視点で力点を置き続けています。
大瀬良:たとえば大企業や官公庁との打ち合わせでも、砂田は短期的な売り上げを取るための話ではなく、旅行業界をシステムから変えるDX変革の話、これから先の世界について語り続けます。
たとえばJALとの取り組みの時は、地方空港の維持について、コロナ禍によって想定以上に早く問題となりました。我々のサービスならその問題を解決できるかもしれない。以前からそう話していたことに、たまたま現実のほうが近づいてきたという背景があります。
どんな担当と話すときも高い視座で話すので、結果として社長や会長など上の方が出てくることもあります。逆に言うと、経営層が見ている航空会社の未来を、砂田が代弁しているところがあると、そばで見ていて思います。
砂田:始めたばかりのスタートアップなので、正直言えば短期的な連携をしたい気持ちもあります。でも、それをやった瞬間に大企業とは上下関係が出来上がってしまう。だから、リスクをとりながらもできるだけ長期的な話をするようにしています。
「ここと組むのは名前として強いな、メリットがあるな」と思っても、連携しないこともたくさんあります。結局、本当に世界を変えるつもりがある人とだけ一緒に仕事をしましょう、というシンプルな話です。
「こうあらねばならない」「これが普通」ということに縛られず、自分たちらしく「傾く(かぶく)」。一つ一つのことに「果たして、これは本当にそうであるべきなのか?」という発想が、HafH、そしてKabuK Styleの現在を作り上げています。
最終回は、HafHの地方創生への取り組みについて紹介します。
Vol.3に続く