2022/6/29

【伊藤穰一】権威が好きな日本人。変革を迎えるために必要なものとは?

 JTがこれまでにない視点や考え方を活かし、さまざまなパートナーと社会課題に向き合うために発足させた「Rethink PROJECT」

 NewsPicksが「Rethink」という考え方やその必要性に共感したことから、Rethink PROJECTとNewsPicksがパートナーとしてタッグを組み、2020年7月にネット配信番組「Rethink Japan」がスタートしました。

 世界が大きな変化を迎えている今、歴史や叡智を起点に、私たちが直面する問題を新しい視点で捉えなおす番組です。

 大好評だった昨年につづき、今年も全9回(予定)の放送を通して、各業界の専門家と世の中の根底を “Rethink” していく様子をお届けします。

伊藤穰一×波頭亮 「日本のリーダー」を再考する

 Rethink Japan3、第2回は「日本のリーダー」をテーマに、ベンチャーキャピタリスト デジタルガレージ共同創業者・取締役の伊藤穰一さんをゲストに迎えてお届け。 モデレーターは経営コンサルタント・波頭亮さんです。
 WEB3.0到来の今、日本が根本的な変革を起こすには何が必要なのか。そして変革の先にはどのような世界が待っているのか。お二人の視点からヒントを探ります。

日本とアメリカの「チャレンジ」の違い

波頭 今日のメインテーマは、なぜ今この国際社会において日本企業が活躍できないのか、ということです。日本はこのところ、失われた20年、30年などと言われていて、どうも冴えない状況が続いています。
 しかし実は、日本企業はその間、最高利益を何度も更新している現実があります。GDPは衰退し、労働者の所得も下がっていながら、企業だけは利益の面で向上しているわけです。
 これはつまり、新しいことにチャレンジするのではなく、ひたすらコストを抑えながら従来通りのことをやり続けてきた結果なんですよね。
伊藤 スクイーズ(圧縮)することばかり頑張ってしまっている、ということですよね。
波頭 アメリカにはデュポンやGMなど100年企業がたくさんあって、日本企業と同じように官僚的な経営を行なっている会社も多いと思いますが、社会全体としてはベンチャー企業が山ほど誕生しています。
 グーグル然りアマゾン然り、世の中を変えていくチャレンジがどんどんできるエコシステムが仕上がっていて、それにより社会の新陳代謝が利いている印象です。日本から世界に冠たる巨大IT企業が生まれないのは、そのあたりに理由がありそうですが、アメリカと比べてみていかがですか?
伊藤 アメリカの場合は、ストックオプション制度の登場が大きかったと思うんですよ。
 以前は安定性を求めて大手企業を希望する人が多かったのが、ストックオプションが生まれてからは、優秀な人材の多くがスタートアップを目指すようになりました。
伊藤 もちろん、日本にもストックオプションは存在しますが、安定性の問題から親に反対される風潮もあり、スタートアップを目指すハードルがやや高かったと言えます。
 これはアメリカほどベンチャーの成功事例がないことも影響しているでしょう。結果として、日本では優秀な人材の何割かは、コンサルファームなどを目指すことになるわけです。
波頭 なるほど。それでも2010年代くらいからは少しずつ価値観が変わってきているのを感じてもいるんです。具体的には、社会を変えようという大きな意識はまだなくても、自分の仕事や生活くらいは、自らデザインしようという人材が目につくようになりました。
伊藤 最近のWEB3.0まわりを見ていても、ヒッピームーブメントに近いものを僕は感じていて。
伊藤 昨年の頭くらいまではどうにかこの概念を説明し、広めようという人が大勢いたのが、今はもう、わからない人は置いていけばいいという考え方に変わってきているんですよ。理解できる人だけ連れていけばいい、と。
波頭 アメリカはそのあたりがうまくて、楽しみながら改革に取り組んでいる傾向を感じますね。
 それに対して、歴史学者の磯田道史さんが日本人について面白い考察をしていて、空から支配者が降りてくるのを、口を開けて待っている民族だと言っていました。要するに、支配されたい民族なのだと。
 逆に自分たちの中から支配者が出そうになると、妬んだりやっかんだりして引きずり下ろそうとする。だから戦後のGHQによってガラッと文化や生活様式を変えることができるわけです。言い得て妙ですが、ちょっと寂しい現実ですよ。

権威がクリエイティビティを潰す?

伊藤 ただ、アメリカ人と話していてよく感じるのが、彼らは日本人を非常にクリエイティブな民族だと思っている、ということです。
 日本はゲームにしろアニメにしろ、優れたコンテンツをたくさん送り出し続けている国ですから。クリエイティビティに関する日本人のこの強さの源って、一体何なのでしょうね。
波頭 それでいうと、クリエイティビティというのは権威に近づくほどなくなるものだと私は思っているんです。ポケモンと同じように世界に衝撃を与えた北斎や広重だって、庶民の文化ですからね。
 庶民が自由に創りあげるものにこそ価値があって、権威者にそれを承認したり評価したりする能力が不足しているのではないでしょうか。
伊藤 たしかにそうですね。アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)は、これまでノーベル賞受賞者を98人も輩出していますが、これに対して日本人の受賞者はこれまで29人に過ぎません。
 この比較から感じるのは、大学は命令に従っていてはダメだということです。大学は常に権威を疑い、逆らい、自分で考えて取り組まなければ変革は生まれないですよ。
伊藤 製造業はこの真逆で、むしろ命令に従順な人材が必要です。これまでの日本の教育システムが生み出してきたのはこの「逆らわない」人材で、これが競争の足枷になっているのは否めないでしょう。だから、外から変化を持ち込まれることに対応はできても、なかなか自分たちから変革を生み出すことができない。
波頭 まさにそこを改善するために、伊藤さんは千葉工業大学の変革センターの所長をやるんですよね?
伊藤 そうですね。日本ではDXだ何だとやっていても、従来の構造の中に技術を入れようとするので、根本的な変革には至りません。
 そこで全体のシステムを変えるために、バチカンの僧侶から美学の専門家まで、様々な異業種の人材に加わってもらって、文化や哲学の視点からインターネットやブロックチェーンをやるというのがこの変革センターの主旨です。
波頭 そういった産学官のバランスについては、アメリカと日本でどのような差を感じますか?
伊藤 アメリカは人材が動くので、優秀な人の大半は、一度は国の仕事を経験します。ただ、その場合は報酬が安いので、民間でちゃんと稼ぎながら官で働くことになります。このあたりは日本と同様、国はやはり官僚的なので、とくにアメリカの仕組みが優れているとは思わないですね。
 ただ、特徴的なのは技術者の扱いです。アメリカの投資銀行や証券会社は、社員の半分が技術者で、経営陣にも多くの技術者が名を連ねています。しかし日本の技術者は下請け的で、決して地位は高くありません。
伊藤 今のバイデン政権なども、経済学者と法律学者に加え、技術者を側近に入れましたが、これは政策の作り方にも覿面に影響すると思います。何事も設計の段階で専門の技術者がいるのは大きいはずです。

WEB3.0が日本を変える金具になる

波頭 日本の社会を良くしていくためには、若者が生き生きと働き、自分の人生を充実させることが不可欠だと思います。伊藤さんの知見から、何かアドバイスはありますか。
伊藤 今これから起きようとしているWEB3.0という改革には、個人的にこれまでの人生で最も可能性を感じているんです。
伊藤 既存の組織の大半はついてこれなくなるはずですから、まったく新しい人間関係や力関係が生まれることになるので、これまでドロップアウトしてしまった人にもチャンスがあるでしょう。
 わかりやすく言えば、戦後の焼け野原からホンダやソニーのような会社が生まれる可能性が十分にあると思います。
波頭 WEB3.0という新しい地平に飛び込んでしまえば、これまでのルールや権威にとらわれないチャンスがある、ということですよね。
伊藤 そうですね。WEB3.0は日本を変える金具になるでしょう。NFTやブロックチェーンはそのひとつで、とりわけ面白いのは、DAO(Decentralized Autonomous Organization)と呼ばれる新しい組織の作り方ですよ。
伊藤 たとえばヘッジファンドや非営利団体はもうワンクリックで作れるようになっていて、発行するトークンによってお客さんやコミュニティメンバーに発言権が付与したり、皆で資金を出し合ったり、報酬のやり取りをするのが当たり前になりつつあります。
 これまでは法人を立ち上げて、銀行口座を作ってと、少なからず手間やコストがかかっていたことを思えば、これは大きな変革でしょう。
 また、自分たちのコミュニティのトークンでお金の支払いが行なわれるので、資本金が不要であるのも大きな特徴です。ブロックチェーン系のプロジェクトを覗いてみると、優良なところはお客さんがトークンの半分を持っているので、発言権が経営者や主要株主に偏ることもありません。
 株主総会もないので、常にコミュニティ内で提案が行なわれていて、投票によって決断が下され、いつでも決算が見える状態なんです。
波頭 なるほど、たしかにそれはDAOならではの在り方ですね。つまり、個人のやりたいことに対して、どんどん自由度が広がっていて、コストも下がっていっている、と。
伊藤 これまでは弁護士や会計士にお願いする際にも、テンプレートで済むようなやり取りにもお金が発生していましたが、ネット上にはいくらでもその手のテンプレがあるので、余計なコストもかかりません。これはガバナンス面で大きな改革です。
波頭 そこで気になるのは、何もやりたくない人にとっては、これからの時代、ハッピーでいられるのかどうか、ということですよ。
伊藤 問題はそこですよね(笑)。初めて日本に検索エンジンを持ってきた時がまさにそれで、とくに興味や関心の対象がない人には、使い道もないと説明せざるを得ませんでした。その意味では、ただ命令を待つばかりの層にとっては、厳しい時代になるのかもしれません。
波頭 つまり、そうした変化に必死についていくだけの好奇心とエネルギーがある人には、素晴らしい世界が開かれているということですね。それを踏まえて、最後に若い世代に向けて一言いただくとすると……?
伊藤 「GO BANKLESS」ですね。
 銀行の人には申し訳ない話になりますけど、アメリカではビットコインで直接買い物ができるようになりつつありますし、15~16歳くらいの人はもう、一生銀行に口座を開かずに暮らすことだって可能なんです。
 銀行を通さずに生活しようとすると、否が応でもオルタナティブなシステムを能動的に学ばなければならない。難しい話ですが、今の時代は、そこに関心を持てる人に様々な可能性が開けると思います。
Rethink PROJECT (https://rethink-pjt.jp

視点を変えれば、世の中は変わる。

私たちは「Rethink」をキーワードに、これまでにない視点や考え方を活かして、

パートナーのみなさまと「新しい明日」をともに創りあげるために社会課題と向き合うプロジェクトです。

「Rethink」は2022年4月より全9話シリーズ(予定)毎月1回配信。

世の中を新しい視点で捉え直す、各業界のビジネスリーダーを招いたNewsPicksオリジナル番組「Rethink Japan」。

NewsPicksアプリにて無料配信中。

視聴はこちらから。