2022/6/28

【シフト】誘惑から自己表現へ。進化する「香水」の世界

INDEX
  • 「フェロモン商法」の終わり
  • 欲望重視から「内面の旅」へ
  • 「性別」を感じさせない香り
  • いま、香水をつける理由

「フェロモン商法」の終わり

2001年にイヴ・サンローランの新作香水が発表されたとき、当時クリエイティブ・ディレクターだったトム・フォードは、パリ証券取引所でセンセーショナルなパーティを開いた。
そこでは、裸同然のモデルたちを詰め込んだ巨大なガラスのコンテナが展示された。この香水は、フランス語で「ヌード」を意味する「ニュ(Nu)」と名づけられていたからだ。
ファッション誌『アリューア』の創刊編集長であるリンダ・ウェルズは、このときのフォードの夜会を「人間水族館」と表現する。子どもの誕生パーティによくある、ボールをいっぱい入れたプール(の大きいバージョン)の中で、下着姿の大人たちがひしめいていた、と。
「どこを見ても肉体だらけで、乱交パーティのようでした」とウェルズは言う。
イヴ・サンローランの香水「ニュ」のお披露目パーティ(Stephane Cardinale/Sygma via Getty Images)
このようなイベントは、今日では考えられないかもしれない。それは単に、#MeToo運動以降、歯止めのない快楽主義がタブーになったからではない。マーケティングの考え方そのものが変わったのだ。
もはや、大多数のデザイナーやブランドは、香水を売るためにセックスを利用していないし、人々はセックスをするために香水を買っているわけではない。