2022/7/7

【定着率100%】NTTデータが明かす、IT人材の「超」採用戦略

NewsPicks Brand Design Editor
 各業界で、熾烈なIT人材の採用合戦が繰り広げられている。
 2030年までには約40万〜80万人の人材不足が予想されており、企業の最重要課題と言っても過言ではない。
 そんななか、NTTデータの一角を担う第四製造事業部は、「昨年度に25名のIT人材を採用」、さらに「過去3年間の経験者採用の離職率は0%」という驚異的な成果を挙げた。
 一体、どんな工夫があったのか。
 連載「『攻めの採用』の時代が来た」第4回は、同事業部の「超売り手市場」をサバイブした採用戦略に迫る。
INDEX
  • 「即戦力人材」の採用に乗り出した理由
  • 必要なのは「部門トップ自ら」の採用コミット
  • ポイント① スピードを重視し、部内に「スカウト専任担当」を配置
  • ポイント② 候補者に振り向いてもらう「It's me!戦略」
  • ポイント③ 「採用する」よりもまずは「ファンになってもらう」
  • 幸せな採用を追求した結果が「定着率100%」

「即戦力人材」の採用に乗り出した理由

 日本の大手テクノロジー企業、NTTデータ
 同社のこれまでの人材戦略は、新卒を一括採用し、時間をかけて育てるというものが中心だった。
 だが、2018年頃からは中途採用にも一気に注力。外部で活躍する「即戦力人材」へのアプローチを加速させている。
同社の第四製造事業部・VC統括部を率いる三竹瑞穂氏は、方針転換の背景をこう語る。
「当時の事業本部長の『人がいないから事業計画を達成できないという言い訳は聞きたくない』という言葉がきっかけでした。
 そして、『部単位でどんどん経験者を採用していいから』とも。
 ならば、積極的に人材を採用していこう、と事業部主導の中途採用に乗り出したのです」(三竹氏)
 三竹氏が、まず取り組んだのは人材エージェント経由の採用だった。
 ターゲットは、システムエンジニア、データサイエンティスト、およびクライアント企業のDXをサポートするコンサルタントから企画職、営業職まで。SIerなどいわゆる「IT畑」だけではなく、幅広い業界から人材を募っていたという。
 経験や出身業界を問わず、間口を広く設けた理由は、同事業部が、食品、飲料、製薬、エネルギーなど多種多様な業界に属するクライアントを担当していたからだ。
 こうして、一定の成果が挙げられていたエージェント採用。一方で、こんな悩みもあった。
「採用の後半フェーズでも、エージェントの担当者に背中を押されて、『とりあえず面接を受けに来る方』が少なくありませんでした。
 もちろん、そうしたプッシュによって素晴らしい出会いが生まれることもありますが、本来であれば、企業と候補者がお互いのことをよく知ったうえで、本人が明確な意思を持って一歩踏み出したほうが、入社後の活躍にもつながる。
 スキル的には十分だけど、マインド面で『これではお互いに幸せになれないかもしれない』と感じる場面がありましたね」(三竹氏)

必要なのは「部門トップ自ら」の採用コミット

 どうにかして、精度高く、そしてお互いをよく知ったうえでのマッチングを生み出せないか。
 そこで始めたのが、企業が候補者に直接スカウトを送るなど主体的な採用活動を意味する「ダイレクトリクルーティング」の推進だ。
 導入したのは、国内最大級の即戦力人材データベースを抱える「ビズリーチ」
 きっかけは、他部署が同サービスを活用し成果を挙げていたから。
 サービス導入後も、三竹氏自ら人材要件の策定や、スカウト送付の条件設定にコミット。
 マッチ度を見極めるためにも、まず事業部の戦略企画・セールス&マーケティング・コンサルティング部門のトップである自分が立ち上げから関わるべきだと考えた。
「もちろん、担当部長や課長陣に任せることもできましたが、その場合、候補者を『自分の担当にマッチするかどうか』でジャッジしてしまう可能性があります。
『この担当ではなく、実はこっちの担当の業務のほうが合っているかもしれないな』と、より総合的な判断をするためにも、統括部長である私がコミットすべきだと考えたんです」(三竹氏)
 求人を公開して応募を待つ「待ちの採用」から、主体的に候補者にアプローチする「攻めの採用」へと舵を切ったNTTデータ。
 成果を挙げるためにどう動いたのか。具体的な取り組みとポイントを見ていこう。

ポイント① スピードを重視し、部内に「スカウト専任担当」を配置

 1つ目のポイントは、「スカウト専任担当」の配置だ。
 他部署のメンバーやビズリーチのコンサルタントの助言を踏まえ、成果を挙げるには「兎にも角にも、PDCAを回すスピードが重要だ」と考えた三竹氏。
 だが、通常のリーダー業務と並行して、候補者の選定やスカウト送付まですべて自分でこなすのは難しい。
 そこで、スカウト送付の専任担当の配置を決めた。アサインされたのは、当時同事業部で営業を担当していた所利江子氏だ。
「所はかつて人材育成や社外向けのコミュニケーションを担当していたので、適性があるのでは、と思いました。
 そしてなにより、一度NTTデータ以外の会社に勤めて、また戻ってきてくれているので、会社の『いいところ』も『悪いところ』も、客観的に把握している。
 彼女ならば、候補者に寄り添った、フラットなコミュニケーションができそうだな、と」(三竹氏)
 打診を受けた当時の心境を「正直驚いた」と明かす所氏だが、非常に重要な業務であることはわかっていたという。
 ただ、前向きに臨めた理由はそれだけではないそうだ。
「三竹から『ビズリーチのコンサルタントも伴走してくれるよ』と聞いて、それならなんとかなるのではないかと思いました。
 はじめての業務で不安もあったのですが、一人じゃないから、やってみようかな、と」(所氏)
 こうして、三竹氏と所氏、そしてビズリーチのコンサルタントを加えた、「三人四脚」の取り組みがスタートした。
 特に、人材要件の明確化については、どのような経歴やスキルを持つ人材にスカウトを送付するのか、3人でディスカッションを重ねたという。
「実際に候補者との面談や面接を実施していく中で、事業部が求める人材像は、さらにブラッシュアップされていきます。
 なので、スカウトを送る候補を更新しては、毎日その判断が適切かどうかを所とすり合わせたんです」(三竹氏)
 絶え間なくディスカッションを重ねたことで、三竹氏と所氏の目線は徐々にシンクロしていった。
「今ではあえて言語化しなくても、『この方がいいね』という感覚が合ってきた気がします」と所氏。その言葉に頷く三竹氏との間には、確かな信頼関係があるようだ。

ポイント② 候補者に振り向いてもらう「It's me!戦略」

 より高い成果を挙げるために、スカウト文面のチューニングも繰り返し行った。
 意識したのは、スカウトを受けとった人に「これは私のための求人だ」と感じてもらうこと。両氏はこれを「It's me!戦略」と呼んでいる。
「私自身、28歳のときの転職は、電車の中で『28歳は転職の年』と書かれた中吊り広告を見たのがきっかけです」と、三竹氏。
 では、「It's me!」と思わせる文面とはどのようなものか。
iStock;Georgijevic
 たとえば、SIer勤務の候補者に対しては「業界を変えていくことの必要性」「リーディングカンパニーとして業界を変革し続けてきた事実」を押し出す文面にしている。
 理由は、SIer自体が過渡期を迎え、「従来型のシステム受託開発」だけでは生き残っていけない時代に突入しつつあるからだ。
 SIerに勤めるほとんどの人が、こうした危機感を持っているが、勤務先によっては従来の業務内容から脱却できず、「このままで大丈夫なのか……」と不安を抱えているケースも少なくない。
 だからこそ、「NTTデータなら、従来の受託開発だけではない、新しい業務にどんどんチャレンジできます」「業界を一緒に変えていきませんか?」と、ファクトを添えて訴求するのだ。
 三竹氏と所氏はサービスの利用開始から現在にいたるまで、「スカウトのブラッシュアップ会議」を毎週実施し、文面をさらに磨きこんでいるという。

ポイント③ 「採用する」よりもまずは「ファンになってもらう」

 ダイレクトリクルーティングにおいて、スカウト送付の次なるステップは「カジュアル面談」だ。
 候補者は企業からのスカウトをきっかけに接触しているため、まず「面接」ではなく、入社意向を上げるための「面談」というステップが重要になる。
 ちなみに、NTTデータでは「カジュアル面談」ではなく、「カジュアルトーク」と呼ぶ。
「企業は常々、『候補者を選ぶ』のではなく、『候補者から選ばれる』意識を持たなければならないと思っています。
 私たちが人を選ぼうとするスタンスを取っていては、絶対にいい人は採用できません。
 だから、最初から『面接』はしません。候補者と対等に、かつお互いにリラックスする『トーク』から始めたいという思いを込めています」(三竹)
 第四製造事業部におけるカジュアルトークは、すべて所氏が担当している。
「とにかく、カジュアルトークを通じて、NTTデータの『ファン』になってもらおうと意識しています。
 仲間になっていただきたいのはもちろんですが、仮に採用ではご縁がなかったとしても、違うかたちでその方と関わることになるかもしれない。
 ならば、やっぱりNTTデータのことを好きになって帰っていただきたいですね」(所氏)
 カジュアルトークは、プロモーションの場ではないと付け加える。
 あくまで候補者と企業が「マッチング度」を互いに認識するための場であって、嘘をついたり、誇張したりしないのが肝要だ。
 こうしたスタンスだからこそ、所氏の言葉は候補者にダイレクトに届く。
 候補者の方から「『所さんは、本当にNTTデータのことを愛しているんですね』と言われたこともあります」と、所氏。
 評価はもちろん、意向上げすらも目的としないカジュアルトークでの「ありのまま」の言葉が、採用の現場で効くのだろう。

幸せな採用を追求した結果が「定着率100%」

 こうして三竹氏と所氏の取り組みは、2021年4月のスタートから1年ほどで、「25名の採用成功」という成果につながった。
 さらに、過去3年間「経験者として採用した社員の離職率は0%」。これは、超売り手市場のIT人材では驚異的な結果と言えるだろう。
 同事業部で働く瀬尾麻友子氏も、2021年度の入社者の一人だ。
 前職ではデータサイエンティストとして働いていた瀬尾氏。
「新たなチャレンジがしたい」と転職活動を始めたタイミングでは、そこまでNTTデータを強く志望していたわけではなかったという。
 しかし、カジュアルトークや面接を通して現場社員とコミュニケーションを取る中で、強く惹かれていく。
「ありがちな表現かもしれませんが、決め手はやっぱり『人』です。
 一人で働くわけではないですし、共に働くことになる方々との相性は大事にしたいと思っていました。
 5社ほど面接を受けたのですが、NTTデータのメンバーと話すうちに『もし何か困ったことがあっても、この人たちなら親身になってくれるのだろうな』と思ったんです」(瀬尾氏)
 現在担当している業務内容は、主にクライアント企業のデータ活用の基盤づくり。瀬尾氏の希望が叶えられるかたちでアサインが決まった。
 前職時代から興味があったプロジェクトマネジメントや分析基盤の構築に携われていることに、確かな成長実感を得ている。
「良い転職」あるいは「良い採用」を一義的に語ることは難しい。
 しかし、1年間で25名を採用、定着率100%という揺るぎない事実が、NTTデータ 同事業部の採用戦略の「正しさ」を物語っている。
 ダイレクトリクルーティングを通して、お互いのニーズを「本当に満たした」マッチングの実現にこだわり続けた結果と言えるだろう。
「採用の結果、誰かが不幸になっては元も子もありません。
 だから、私は採用活動に全力でコミットしますし、入社後も『フォローアップ面談』として、定期的に社員と話す場を設けています。
 すべての入社者との『幸せな関係』を目指して、今後も理想のマッチングにこだわり続けていきたいですね」(三竹氏)