2022/6/28

コロナ禍で売上93%減。「会話」で社内が息を吹き返す

フリーランス エディター・ライター
コロナ禍で甚大な被害を受けた旅行業界。シニアを中心とした温泉予約サービスを提供する「ゆこゆこ」も、2020年は売り上げ前年比93%減という、想像を絶する経営難に陥りました。そんな中で「ジャンヌ・ダルク」を自称し経営を立て直しているのは、38歳の若手社長、徳田和嘉子さんです。人を動かすために心がけている仕事術についてうかがいました。
*記事内の情報は取材時のものです。
この記事はNewsPicksとNTTドコモが共同で運営するメディア「NewsPicks +d」編集部によるオリジナル記事です。NewsPicks +dは、NTTドコモが提供している無料の「ビジネスdアカウント」を持つ方が使えるサービスです(詳しくはこちら)。
徳田和嘉子さん 
「ゆこゆこホールディングス株式会社」代表取締役社長
1983年生まれ。東京大学在学中に出版した『東大生が教える!超暗記術』(ダイヤモンド社)が日韓でベストセラーとなり、その印税で世界一周。その後ゴールドマン・サックスに新卒入社し、投資銀行を経て、福岡県域ラジオ局CROSS FMで代表取締役社長を務め経営を再建。2019年にゆこゆこにアドバイザーとして関わり、第2子出産後、2020年4月同社入社。2021年6月より代表取締役社長に就任。
INDEX
  • オンラインスナック、社内ラジオ…社内も「会話」重視
  • どう頑張ったかを評価する。人を動かす仕事術
  • 敏腕社長が仕事で「やらないこと」

オンラインスナック、社内ラジオ…社内も「会話」重視

ゆこゆこでは、徳田さんの社長就任後から、行動規範である「いい会話をしよう。」にのっとり、社内・社外ともに「コミュニケーション」を大事にする施策を始めました。
実際に推進するのは、徳田さんが任命した「CCO(Chief Conversation Officer)」の女性2名。社内では定期的に座談会をオンラインで開催し、違う部署の人たちがランダムに3〜4名程度指名されてお昼休みに話せる制度を導入したり、社内ラジオ番組を作ったり、「いい会話」の3ステップをポスターにしたものを掲出したりと、「どうしたら楽しくなるか」を一生懸命考えて実行しています。
制作してもらったステッカーを、スマホやパソコンにぺたり
「オンラインスナック」や「オンラインバー」も開催され、徳田社長自身もオンラインスナック「カラオケスナック ニュー和か子」のママとして活躍中です。
(提供写真)
徳田:飲み会が好きな会社なので(笑)。スナックは私が、バーは他の役員が担当しています。仕事の話だけではなく、若手の社員の恋愛事情やマッチングアプリ事情など、さまざまな話をしています。
「最近はオンラインで会って、次はマスクしてお散歩して、そこでいいねとなったら初めてお茶に行って、やっと顔がわかる状態で対面する」など…近い距離でいろいろと話しています(笑)。

どう頑張ったかを評価する。人を動かす仕事術

徳田社長自身も、社員に気持ちよく動いてもらうために、人の心を大切にひとりひとりに向き合っています。
特に心がけているのは、「これをやったら、どんないいことがあるのか」を想像できるようにすること。そして、頑張ったことを必ず見て、「どういう思いで仕事に臨んだか」を認めて褒めて、空回りをしないようにしてあげることだと言います。
徳田:結果が出たかどうかはもちろん重要ですが、同時に「どう頑張ったか」を理解することを大事にしています。もし思ったような結果が出なくても、頑張ったこと自体を無下にしないこと。
たとえば広報担当であれば、「なんでもいいから、ただメディアに出ればいい」だけで仕事に臨むと「出たかどうか」だけで判断することになりますが、「ゆこゆこの今後のお客さんになり得る人に見てほしいから、テレビのこのゾーンの露出を取れるように頑張りました」など、「何を考えてその仕事をやったか」がわかっていれば、その過程についても褒めることができます。
とはいえ、直接全員とコミュニケーションを取るのではなく「部下からの相談があれば親身になって相談に乗るけれど、間に入るべき管理職がいるのであれば極力飛び越えないようにする」スタンスで向き合います。
それでも、社員全員分、誰が何を担当しているのか、前職は何なのかなど、だいたいのことを把握しています。

敏腕社長が仕事で「やらないこと」

他にも徳田社長は仕事で「やらないこと」を決め、「自分がやらなくても回ることはやらない」と、どんどん手を離して人に任せていきます。
徳田:手へんに別れると書いて「捌く」。自分の手から離すことを上手にやっています。もちろん最初からすべてを離して誰かに任せるのは無茶振りなので、最初だけはやってみせます。
そして、初回にお願いするときはタイトな締め切りにせず、余裕をもって任せる。つい任された側は社長である私のオーダーを最優先にしてしまいがちですが、それぞれにもともと持っている仕事や、もっとも優先すべきものがあるはずなので、その余裕を持って渡すようにしています。
目の前のことや急ぐ必要があるものはどんどん人に任せて手を離したぶん、大切にしているのは「誰よりも遠く、高い視点でものを見ること」。
徳田:内閣や政治の動きを考えて、どんな施策をやるのか、それともやらないのか。誰がどういう面で成長して、組織の形が長期的にどうなると望ましいのか…。考えることに時間を使います。
もちろん、徳田社長だけが「考えること」に時間を使うのではなく、考えられる人を増やすべく、管理職研修の講師を社長自らが担当しています。
徳田:研修の後に実践する期間を2〜3カ月置いて、そこでどう成長したかをレポートに書いてもらっています。2週間に1度、ペアやグループでお互いのフィードバックを行い、それを踏まえて毎回4〜10のお題に答える形で長めの文章を記入し、自分についての意識をしっかりと深めます。
成長の秘訣は、自己の内省がどのくらいできるか。自己認識と他者認識がどのくらい一致しているか、自分を見つめる視点をどのくらい多く持てるかが重要だと思っています。
特に最後は重要で、自分の視点、上司、お客さん、部下、経営陣…あらゆる視点を持てるようになることで、ひいては旅行業界での自分の立ち位置や、もっと長期的に日本の政治を念頭に置いた視点などが得られるようになります。私はもちろん、管理職にもどんどん身につけてもらえるように研修を行っています。
2020年、コロナ禍の始まりと同時に入社した徳田社長は、社長になったばかりの頃はめまぐるしく変わる社会情勢に対応するため、やむを得ずトップダウンの経営を行っていました。けれど、そろそろボトムアップ体制に変えていかないと、どんどん自分以外が考えなくなってしまうと危機感を覚え、人を育てることに力を入れています。
そうやって経営者として多くの仕事を「捌き」、プライベートでは2児の母でもある徳田社長ですが、時間管理術で特別に心がけていることはそう多くはないと言います。
徳田:基本は早寝早起き。23時には寝て、毎朝5時55分に「ゴーゴゴー!」と言いながら気合いを入れて起きます(笑)。家事や育児は、いろいろ試したところ夫のほうが断然効率良くやってくれるので、適材適所で分け合っています。
最終回では、波乱万丈で型破りな、徳田社長を形作った人生について紐解きます。
※Vol.3に続く(※NewsPicks +dの詳細はこちらから)