2022/6/28

パナソニックに「2度目の入社」。“評論家”ではなく実行者でいたいから

AlphaDrive/NewsPicks コンテンツエディター
一度パナソニックを退社し、また中途入社で戻ってきた。
そんな経歴を持つ河野 安里沙氏は、社員の思いや、やりがいを生の声で発信するインタビュー記事を新たに企画し、パナソニックの採用ブランディングを1から創り上げたパイオニアだ。
河野氏は、一度辞めたパナソニックになぜ戻ったのか、退社した時にどのような景色が見えたのか。河野氏のインタビューから明らかになったのは、大企業が持つ社会への影響力、そして自分の可能性を最後まで信じ切る強さだった。
パナソニックの製品を家電量販店などで見かけることはあっても、それを誰がどんな思いで作っているのか、思い浮かべることができる人は少ないと思います。
私は今、パナソニックで働く人たちの思いに焦点を当てて、学生や求職者に自社の魅力を伝える仕事をしています。採用ホームページやメディアプラットフォームの「note」を使った情報発信、イベント企画などが主な仕事です。
単発の情報発信ではなく、伝えたい相手が接する媒体や情報の流れをイメージしながら、さまざまな方法で継続的に発信していくこと。そして、伝える相手の価値観や背景を想像して発信することを心掛けています。
約1年半前からは所属センターで最年少のユニットリーダーに就任しました。採用のブランディングを担当するチームをまとめています。
河野 安里沙(こうの・ありさ) 滋賀県出身。新卒でパナソニックに入社し、経理を担当。その後、リクルートキャリアへ転職。営業担当として3年間従事した後、人事担当としてパナソニックに戻る。現在はリクルート&キャリアクリエイトセンター採用部にて、ブランディングユニットのユニットリーダーを務める
私は3歳から15歳までバレエを習っていました。踊ることが好きで、週3でレッスンに通っていた時期もありました。教室には私よりも手や足が長く、体型から敵わない人たちがたくさんいます。その時「弱み」は「強み」にはならないということに気づきました。
それは決して、努力をしても無駄という訳ではありません。ひとりひとり、結果や成果に繋がりやすい努力の方向性は違うのだということを思いました。自分に合った努力の方向性を見極めて、自分だけの「強み」を作っていくことの重要性を感じたのです。
大学時代は商学部で、マーケティングや財務諸表の読み方、簿記などを学びました。塾講師や家庭教師のアルバイトをしていましたが、人生を通して目指したいもの、やりたいことについて、就職活動を始めるまで考えたこともありませんでした。そのまま、リーマンショックとともに就職活動が始まりました。
当時考えていた企業を選ぶ軸は3つありました。
1つ目は、社会的な影響力が大きい会社であることです。自分ひとりでできることは限られていると思いますが、水面(みなも)の波紋のように、自分の関わったことが社会に広がっていくような仕事をやりたくて。それが叶うのは大企業だと思いました。
2つ目は、教育体制が整っている会社であること。バレエで学んだ「基礎を大切に」という姿勢を守りたかったですし、しっかり学んでから挑戦できる会社の方が性格的に合っていると思ったからです。
3つ目は、数字を扱う力を身につけられることです。営業、広報、人事……あらゆる仕事で数字を扱いますよね。だから数字のスキルを身につけておけば、本当にやりたいことが見つかった時に役に立つのではと考えました。
そんな観点で就職活動をする中で、パナソニックの会社説明会に参加した時のことです。
創業者の松下幸之助の「経理は経営の羅針盤」という言葉を知りました。事務的なイメージを持っていた経理が、経営に直結する仕事なのだとイメージが変わり、パナソニックで経理の仕事をしてみたいと思い、2010年4月にパナソニック(当時の松下電器産業)に新卒入社し、経理担当として働き始めました。
入社して驚いたのは、扱う金額の大きさです。当時担当していた金額は数100億円規模。大企業の社会的な影響力を痛感しました。
「経営視点からお金の使い道をマネジメントする経理の仕事はやりがいがありました。でも、得意なことではないと感じてしまったのです」(河野さん)
しかし、入社して3年目の頃、新しいことにチャレンジしたいと思うようになりました。経理の仕事は私の「強み」を生かせる仕事ではないのかもしれないと感じたからです。
私が何時間もかけて取り組む仕事を、先輩たちは数分で、いとも簡単にこなします。それを見て「数年後、私が先輩たちのようになることはできないだろう」と感じたのです。また、仕事で成果を出し、輝いている同期たちと自分を比べて、羨ましく思ったこともありました。
小さい頃にやっていたバレエと同じです。弱みは、いくら努力しても強みにならない。それなら自分の可能性を信じて別の道を進んだ方が良いのではないかと思い、人材業界に転職を決めました。
転職したのは、リクルートキャリア(当時)という会社です。リクナビという就職活動用のウェブサイトや、適性検査のサーベイを企業へ提案する営業の仕事をしていました。
この仕事がすごく楽しかった。成果が努力以上についてきて、「強み」を見つけた、という感覚を得ました。それは成果が数字で出る営業の仕事にやりがいを感じたこと、そしてなによりも私の「強み」を伸ばしてくれた上司や同僚のおかげだと思います。
自分で営業先について調べて、どうすれば課題を解決できるのか仮説を立てて、自分がその企業の担当者だったらどうしたいのかを考える。リクルートではお客様の立場で本気で考えることを「圧倒的当事者意識」と呼んでいるのですが、これが好きだし、得意でした。
でも、お客様に向き合えば向き合うほど、自分が提案していることが本当にお客様のためになっているのか、次第に信じられなくなってしまいました。圧倒的当事者意識で向き合っても、自分はあくまでも提案者であり、当事者にはなれないことに気づきました。
採用というのは、社員が入って終わりではありません。採用した人が仕事で成果を残し、やりがいを感じて、「この会社で働けて良かった」と感じることがゴールなんです。
いくら素晴らしい提案をしても、それを実行するのは私ではなくお客様です。私は外野で「頑張れ」と言っているだけの、評論家みたいだなと。私は、評論家ではなく実行者でありたい、そう強く思うようになりました。
しかし、今の立場ではそれが叶わない。だから再び転職することを決めました。転職先としてまず考えたのが、パナソニックでした。
リクルートキャリアで営業の仕事をしていたとき、担当顧客だったパナソニックのグループ会社の、常務の言葉を思い出しました。「命が終わる時に幸せを感じられたら、その人の人生は幸せだったと言えるかもしれない。その幸せに寄り添うのがパナソニックの介護事業。人のくらしをより良くできる、こんな仕事は他にない」という話です。
多くの社員の根底に、「世界をより良くしたい、暮らしをより良くしたい」という考えがあるパナソニックに戻って、また仕事をしたいと考えました。
そして、一度退職したことで「パナソニックのこうした魅力を、社外に十分に伝えきれてない。もっと伝えられるはず」と課題を感じていました。こう考えている私だからこそ、パナソニックの採用の領域で貢献できることがあるかもしれないと気づきました。
「一度辞めたからこそ、社内にいては分からない視点でパナソニックの採用を見ることができました。もっと魅力を発信したい、そんな思いで採用の仕事に取り掛かりました」(河野さん)
パナソニックに戻り、まず取り組んだこと。それは、採用課題をマーケティングの視点で分析し、情報発信の内容や方法、ターゲットについて、採用の責任者と徹底的に議論することでした。
もちろん、マーケティングやブランディングの考え方を新しく取り入れ、採用企画を生み出すことは簡単ではありません。他社事例を集め、トライアル期間を設けるなどして実績を少しずつ積み上げ、周囲の理解を得ていきました。
実際には、学生へ大規模なアンケート調査をしたり、スマートフォンで採用サイトを見ることができるようにサーバーを変えたりと、さまざまな挑戦をしてきました。
中でも力を入れていたのは情報発信です。文章や写真などを発信するメディアプラットフォーム「note」で、「ソウゾウノート」というアカウントの運営を開始。そこで「#はたらくってなんだろう」「#あの失敗があったから」など、働くことについて考える投稿コンテストを開催しました。
こうした取り組みを通して、「働く魅力」が伝わり、それに賛同する仲間が増えれば、働くことに対してよりポジティブな日本になるんじゃないかと思います。
今は、自分に合った努力の方向性を見極めて「強み」に変えた私の経験を、チームづくりに生かそうと思っています。メンバーの「強み」を生かしてチームで仕事をすることが、より大きな波紋を生むはずです。
生まれ持った個性は十人十色。メンバーそれぞれの強みを伸ばし、弱みを互いにフォローするのが、チームのあるべき姿だと思います。
2018年には日本BtoB広告賞(入社案内の部)を受賞(河野さん提供)
また、社員のインタビューをしていると、社員やその同僚が本当に喜んでくれます。「自分の事業を発信してくれてありがとう。もっと頑張ろうと思った」という声が直接届きます。
インタビュー取材を通じて社員がさらにやる気になってくれて、新しい製品や技術が生まれたら、社会により良い影響を与えることができる。そんな循環を生み出していきたいと考えています。
私自身の志は、今の社会を少しでもより良くして次の世代に引き継ぐことです。そのために私ができることは、同じ思いで働く人たちの「志の灯」が消えないように、灯し続けていくことだと思っています。この志を胸に、パナソニックから社会により良い波紋を広げていければと考えています。
本連載は、学びとつながりを生むNewsPicksの法人向けソリューションNewsPicks Enterprise編集部によるものです。AlphaDrive/NewsPicks VISION BOOK『Ambitions』にも掲載しています。
AlphaDrive/NewsPicksは、2022年5月にすべての企業人・組織人に捧げる新レーベル『Ambitions』を創刊しました。個人が輝ける時代に、組織で働く醍醐味とは何なのか。企業変革や組織づくり、ビジネスパーソンに新たな選択肢をもたらす一冊を目指しています。