グローバルタレントに会いに行く

ドメスティック人材がグローバルリーダーに

オラクルのエースが受けた「トップタレント研修」

2014/12/1
国内労働人口の減少や事業の多角化・グローバル化、商品・サービスの早期コモディティ化などを背景に、 グローバルタレント(グローバルに活躍するタレント人材)の育成が日本企業の急務となっている。では、実際にグローバル・タレント・パイプライン(=経営者候補を長期にわたって育成する仕組み)に乗った人とはどのような人なのか? そして、日々どのような“特訓”を受けているのか?
第1回:オラクルが注力する「トップタレント」の育成
第2回:オラクルのタレントが実行した「損して得取れ」戦略
第3回:オラクルのトップタレントが涙した「大失敗」

オラクル12万人の社員のうち、ワールドワイドで毎年100人強、日本オラクルに5人しかいない「トップタレント」人材。アライアンス事業統括営業本部本部長・谷口英治氏はその一人だ。

谷口氏は今年始め、当時の社長から直接、全世界のオラクルで年間100人程度しか受講できないシニアな社員を対象にした「トップタレント研修」を受けよ、との指令を受けた。果たして、その内容とは?

教授陣が審査する真剣勝負

谷口氏曰く「本気度の高いMBAのショートバージョン」。1月に行われた研修は、45人がバルセロナに集まり、かんかんがくがくの議論を行った。議題は、「全世界のオラクルが持つアイデアをタイムリーにトップマネジメントに伝え、会社として実行するためのエンジンを作る方法」。

大組織では、誰かがイノベーティブなアイデアを思いついても、誰に相談したらいいかが分からず、放置されてしまう場合が多々ある。そうした「埋もれたアイディア」を掬い上げる仕組みを開発する。

45人がこのテーマについて縦横無尽に語り合い、そこから生まれたテーマに投票。同じテーマに投票したメンバーが集まり、各自が所属する拠点に帰国後、10月の「発表会」に備え、“バーチャルサミット”(ビデオ会議)を行う。チームは5つ、その発表を審査するのは、トップマネジメントはもとより、MBAの教授陣らも加わる真剣勝負だ。

「メンバーは年齢、生活、宗教、生い立ち、ありとあらゆるものがバラバラ。しかし、みんなモチベーションが異常に高いのは共通でした。バーチャルサミットを行うときは、時差の関係で誰かが必ず早朝か深夜での参加になりますが、不平を言う人は皆無でしたね」
 オラクル_ST_860

英語が出来なくとも世界に通用する

これまで本連載では、谷口氏の国内営業としての目覚ましい活躍を伝えてきたが、「グローバルタレント」としては意外なほどドメスティックなキャリアに驚きを感じた読者も多いだろう。

失礼ながら、谷口氏は「トップタレント研修」についていけたのだろうか?

「そりゃ、壁は滅茶苦茶ありました。だって、メンバーが言っていることが半分くらいしか分かんないんですから(笑)」

だが、谷口氏は最初から「自分は英語が苦手」と宣言。「全部理解出来なくてもいいや」と開き直ったと言う。

「そうしたら、みなが気を使ってくれること。不明点はあとで聞けば教えてくれるし、ポイントを外していたら違うと教えてくれる。みな、フェアなんです」

そう言って謙遜するが、実は谷口氏は国内営業時代から積極的にグローバル拠点と接してきた経緯がある。

「日本のお客さんは、製品の品質に非常にこだわるし、本社の開発も現場の顧客が何を求めているかを知りたがる。そこで私は、お客さんを本社の開発担当者に会わせることを日常的にしてきた。その結果、顧客志向のいい製品が出来たら会社に貢献出来るし、いい製品が出来たらお客さんが買って喜んでくれるなら、そのエスコートくらい、いくらでもやるという感覚でした」

トップタレント研修も、そんな感覚の延長線上で参加した。

「実際、当時の社長も『学力や仕事力を勝負しにいくのではなく、社内のタレントとネットワーキングしてこい』と言って送り出してくれましたしね」

だから、谷口氏は講義や議論を100%理解することではなく、「僕自身の人としてのあり方やパーソナリティを説くのが参加の目的」だと割り切ったと言う。

「結果として、それはトップタレント仲間に通用した(笑)。参加直後は、『My name is Eiji』状態でしたが、今では仲間全員とハグする仲ですから」

世界中の拠点に才能溢れる仲間が出来たことで、今後谷口氏の仕事が益々やりやすく、仕事の精度が上がるのは間違いなさそうだ。トップタレント研修への参加により、世界の各拠点で活躍する社員とのネットワークを手に入れたわけだが、今後、どのようなキャリアプランを描くのか?

「僕の究極の目標は、『sell Japan to global』。アメリカのものを日本に売るだけではなく、日本発信のものを世界に売ること。僕は日本人ですから、日本に貢献したいし、日本人の製品向上への飽くなき探求など日本の良さをもっと海外に伝えたい」

一般的に「グローバルタレント」になるためには、若いうちから海外に出ることが必須条件のように信じられている。しかし、谷口氏の存在が、国内で突き抜ければグローバルでもトップレベルに達することが出来るのだということを証明している。

※本連載は毎週月曜日に掲載します。