(ブルームバーグ): 東京・三鷹にある100円均一ショップ「ダイソー」に買い物に訪れた赤池稔さん(40)は最近、すべての物が値上がりしていると実感している。

都内でサービス業に従事する赤池さんは2週間に一度ぐらいの頻度で台所用品などを100円ショップで購入。「1円でも安いもの」を買いたい気持ちが強く、皿洗い用のスポンジでも近所のスーパーより安ければ、100円ショップにわざわざ足を運ぶという。

しかし、赤池さんが今後も食品から文房具までさまざまなものをワンコインで安く買い物ができるかは不透明だ。国内でインフレ懸念が高まり為替相場も約24年ぶりの円安水準となる中、デフレの象徴でもあった100円ショップのビジネスモデルが岐路を迎えている。

千代田区神田小川町のビジネス街に店を構える100円ショップ「ビーワン」には最近、多くの仕入れ先から値上げ要請のメールが連日届く。円安や原材料高に加えロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格も上昇。同店の幹部は、公表していない情報であるとして匿名を条件に、国内の運送業者の値上げ幅も大きく厳しい状態が続いており、薄利多売の商売はもはや我慢比べだ、と述べた。

同店では90リットルのゴミ袋を10枚100円で販売しているが、仕入れ先が今月から納入価格を大幅に引き上げた。店頭での販売価格は100円から変更できないため、数量を5枚入りに減らした製品も作り始めているという。

都心を中心に店じまいする店も出始めた。プロディア(東京都豊島区)は今月1日、都内で運営する全9店舗をすべて閉店したと明らかにした。理由は示していない。

SMBC日興証券の金森都アナリストによると、リーマンショック後など過去の円安や材料高局面では、100円ショップ大手はサイズや数量の変更で対応できた。しかしここ数年は為替相場など市場が比較的安定していたため、サプライヤー側の機動力が失われているとみる。

業界大手も厳しい状況に置かれている。全国で約1700店舗を展開するセリアでは、今期(2023年3月期)の売り上げについて前年同期比4.2%増とみているのに対し、営業利益は16%低下すると予想。原価上昇を抑えるため低原価商品の開発に注力するという。

キャンドゥも4月の決算資料で「ウクライナ情勢の緊迫化、世界的な原材料価格の高騰など、いまだ厳しい状況は続いている」と述べた。

1ドル→1.25ドルに

日本以上にインフレが進んでいる米国でも均一低価格の小売店は苦境に置かれている。日本の100均にあたる「1ドルショップ」をチェーン展開するダラー・ツリーは昨年11月、標準価格を1.25ドル(約168円)に引き上げると発表。35年にわたって商品を1ドルで販売してきたアプローチを転換した。

「1ドルショップ」に終止符、ダラー・ツリーが1.25ドルに値上げへ

SMBC日興の金森氏によると、ダイソーなどの競合が300円や500円など少し高い価格帯の商品を増やしている一方、セリアは100円均一を堅持している。高価格帯の商品はニトリやイケアなど雑貨を扱うほかのチェーン店と競争することになりかねず、戦略の違いが業界の勢力図を塗り替える可能性があるという。

同氏は、100円商材においては業界のリーダー的な存在であるセリアが仕入れ価格の値上げを受け入れるとなると他社も受け入れざるを得ないと指摘。他社はセリアよりも収益性が低いため、この環境が続けば、今後、ライバル企業の閉店数が増加する可能性もあり、セリアにとっては「今は忍耐の時期だが、中期的に競争優位性が高まるきっかけになるのでは」とも述べた。

値上げに苦戦するのは100円ショップだけではない。帝国データバンクが国内企業1635社に調査したところ、6月時点で100円のコスト上昇に対して、売価に反映できたのは平均で44円にとどまった。そのうち15%の企業が「全く転嫁できず」の状況で、転嫁したと回答した企業でもコスト上昇分をすべて転嫁できたのは1割未満だった。

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