2022/7/27

【継続率99%】人気企業が続々導入する「次世代マーケティングSaaS」の正体

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 クラウドSaaSを中心にサブスクリプションモデルが台頭し、「いかにユーザーに使い続けてもらうか?」は、ビジネスの重点課題となった。
 継続のカギを握るのが、顧客を成功に導き、サービス利用を促す活動「カスタマーサクセス」だ。
 Asobica社が手掛けるカスタマーサクセスプラットフォーム「coorum(コーラム)」の直近1年での急成長は、まるでその重要性の高まりを突きつけるようだ。
 しかし同サービスのニーズは、サブスクリプション型ビジネスを展開する企業にとどまらない
 導入先には、カインズやグリコ、スープストックトーキョー、マネーフォワードなど、多様な業界の人気企業が並ぶ。
 なぜ今、多くの企業に「coorum」が求められているのか。
 500社以上のカスタマーサクセスを支援してきたAsobica代表 今田孝哉氏に、同サービスのニーズ拡大の背景から、特徴やその先に描く未来までを聞いた。
INDEX
  • コロナ禍のマーケティングは「新規<リピーター」
  • 「なぜファンになったのか?」を可視化する
  • “楽しい体験”の提供で購買金額が4倍に
  • モノの豊かさから“心の豊かさ”へ

コロナ禍のマーケティングは「新規<リピーター」

──コロナ禍以降、従来のマーケティング手法が通用しない場面も増えてきたかと思います。マーケティングの世界に、どのような変化が起こっているのでしょうか?
今田 大きく分けて2つの変化があります。まず、デジタルの接点とリアル店舗の融合が急務になったことです。
 コロナ禍で外出の機会が減り、マーケティングの主軸の一つだった「店頭での集客」が難しくなりました。
 となれば、デジタルの体験をより良くして、リアル店舗に誘導しなくてはならない。兆候は以前からありましたが、その流れが本格的に加速してきた感があります。
 ここで気に留めたいのが、お客様の「せっかくなら」という感情です。
 せっかく出かけるなら、美味しいものを食べたい。せっかく旅行するなら、素敵なホテルに泊まりたい──体験の機会が限られた結果、真に良い商品や良い体験が選ばれるようになりました。
 これはデジタルの接点でも同じ。ユーザーはより満足度の高い体験を求めています。
 今後、こうした体験価値づくりに、企業はますます向き合っていかねばならないと思います。
──なるほど。では、もう一つの変化は何でしょうか?
 企業と顧客の関係性です。いくら魅力的にPRしても口コミ評価が低ければ選ばれませんし、逆にまったくCMを打たずとも、SNSだけで人気が出ることもある。
 プロモーションにお金をかけて、新規獲得ばかりを狙うマーケティング手法は、徐々に立ち行かなくなりつつあります。
──企業からのメッセージだけでは、顧客に選ばれなくなってきている、と。
 そうですね。企業の言葉よりも、今や顧客の声のほうが信用されますから。
 そうした変化の表れが、サービスやブランドそのものの“SNS化”です。近年、企業から顧客への一方通行のコミュニケーションが、SNSのような双方向型へと変化しているんです。
 インタラクティブにやりとりすることで、企業と顧客がサービスを一緒に作り上げる体験をシェアできる。その楽しさやワクワク感が、顧客満足やLTV(※)の向上につながるのです。
 ※ライフタイムバリュー:顧客が生涯にわたって企業にもたらす利益
──では、体験価値の向上のために、企業が取り組むべきことは何でしょうか?
 やはりデータ活用です。
 そしてその際、どの企業にも共通する課題として現れるのが、データの統合です。
 マーケティングのチャネルは、SNSや動画プラットフォーム、Webメディア、メール、チャット……と、多岐にわたります。
 では、それぞれのチャネルに対応していれば万全かと言えば、そうではありません。顧客の動線を正しく分析するには、各ツールから得られるデータを統合しなければならない。
 個別最適でチャネルごとに分析ツールを導入しているほど、統合にはコストも時間もかかります。
 分析結果を反映して活用するのも簡単ではありません。各タッチポイントで得られるデータをシームレスにつなげることが、マーケティング課題解決の糸口だと考えています。

「なぜファンになったのか?」を可視化する

──マーケティングのあり方が変化するなか、カスタマーサクセスプラットフォーム「coorum」は、ローンチ2年目にして急成長を遂げています。サービスの強みはどこにあるのでしょうか。
 コミュニティ起点のカスタマーサクセスを支援するcoorumの強みは、主に3つあります。
 1つ目は「ユーザーの行動を分析できるデータ基盤」です。
 coorumでは複数の顧客接点を統合し、ユーザーの行動履歴をすべて取得可能です。これにより、商品やサービスのファンの行動特性を精度高く抽出できます。
──「この人はファンである」というのは、どのように判断するのでしょうか?
 ログイン頻度や投稿などのアクション、購買データなどを紐づけて、スコアリングします。「LTVが高いユーザー=ファン」と言い換えてもいいでしょう。
 分析では「なぜLTVが高まったのか」を突き詰めることが重要です。
 たとえばカインズの事例では、ワークショップへの参加を中心とした“DIYを楽しむ空間の提供”が、LTVを含むエンゲージメント向上に寄与するとわかりました。
 ならば、キャンペーンや店内ポップなどの施策でワークショップへの参加を促せば、ファンが増えるはずですよね。
 多くの企業が「この人はなぜファンになったのか」を理解できないままでいます。しかし、こうしてユーザーの行動を可視化できれば、再現性高くファンを増やすことが可能になるのです。
 近年よく「ファンを大事にしよう」「エンゲージメントを高めよう」といわれるようになりましたが、多くは購買データに紐づいた分析がなされていません。
 コミュニティ施策単体の“なんとなくの成果”では、施策を継続すべきかの経営判断は難しくなってしまいます。
 だからこそ、「エンゲージメント向上が売上につながった」という因果関係まで明らかにするのがcoorumの仕組みです。
 実際にcoorumの事例から、こうした定量的な成果が徐々に見え始めたことで、企業に導入していただきやすくなったと感じています。
 2つ目の強みは「ノーコードでのコミュニティサイト構築」。コミュニティやキャンペーン、動画コンテンツ、FAQなど、さまざまな顧客接点をノーコードで構築し、一元管理を可能にします。
 サービスサイトは、データを分析して改善を続けていくべきもの。coorumは、いかにそのPDCAを回しやすくするかにこだわりました。
coorumの管理画面。ノーコードでカスタマイズ性が高く、誰でもブランドの世界観を守りながら、サイト改修がしやすい設計になっている。
──ファンを増やすには、まずファンについて知らなければならないわけですね。では最後の特徴はなんでしょうか?
 3つ目は「豊富な業界経験を持つプロフェッショナルによるサポート」です。
 コミュニティサイトの運営は、ツールを設置して完了ではありません。ユーザーの熱量を保つには、企業中心の考え方から顧客中心の考え方へとシフトする必要があります。
 ユーザーは「この企業は本当に自分たちに寄り添ってくれているのか」を見ています。コメント一つにも企業中心の姿勢が見えれば、途端に冷めてしまうでしょう。
 私たちAsobicaには、自らファンマーケティングやコミュニティ構築の実績を積んできたメンバーが揃っています。
 顧客の課題を解像度高く捉え、ファンを分析し、企画を実行に移す。そうした知見の提供によるサポートも、coorumの強みの一つです。

“楽しい体験”の提供で購買金額が4倍に

──ユーザーの中には、行動データを取られることに抵抗を覚える人もいます。coorum導入で、ユーザーが「データを提供したい」と思えるようなベネフィットは生まれるのでしょうか?
 他のユーザーとのつながりを生み、個人では味わえない楽しさを体験価値として提供できることが、そのベネフィットに該当すると考えています。
 先ほどのカインズの事例では、ワークショップや作品のシェアが“楽しさの入り口”として機能しています。
 初心者の方に「意外と簡単にできた!」という成功体験が生まれ、さらにコミュニティサイトに作品を投稿すれば、DIY好きな人が反応してくれる。「作ってよかった」と思えれば、もっとDIYが楽しくなります。
 一人DIYでは、難しくて投げ出してしまったり、作品を誰にも見てもらえなかったりする。そんな孤独な体験が“楽しい体験”に変われば、新たな材料を求めてカインズに足を運ぶ機会も増えるでしょう。
 こうし体験設計は、データ連携なしには根拠も効果も不透明。カインズのユーザーIDとcoorum上の動向データが紐づいて初めて、定量的な成果を期待できるマーケティング施策まで落とし込めるのです。
 ちなみにある企業では、coorum導入から約1年で、コミュニティに所属するユーザーの購買金額が4倍、来店回数3倍という成果につながりました。
──たしかに大きな効果ですが、一方で、ワークショップのような仕組みを取り入れにくい商材では真似できそうにないようにも思います。
 実はそうではありません。UCCのカプセル式ドリップコーヒー「ドリップポッド」のコミュニティサイトも好例です。
 UCCは「コロナ禍で増えたおうち時間を、より有意義なものにしてもらいたい」と、コミュニティを立ち上げました。ユーザー同士で自分なりの楽しみ方をシェアしてもらいながら、コーヒーを通じて生活がより豊かになる体験を後押ししています。
 ファンのアイデアには、「こんな飲み方・楽しみ方ができるんだ」という発見がありますし、企業からの発信には出せない説得力もある。「これ美味しそう」「こんなふうにコーヒーを淹れてみたい」と感じる経験が、ドリップポッドにまつわるユーザー体験をより濃くしていくのです。
──商品そのものより、情緒がポイントになると感じました。
 もちろん、商品そのものの訴求も大切です。ですが、同じ商品かつ同価格帯の競合と差別化するには、いかに“その商品やお店だけの体験”を作るかが重要なテーマになります。
 そもそもUCCがcoorumを導入したのは、「もっとユーザーに寄り添いたい」という思いからです。コアなお客様はUCCのどこに熱狂してくれているのか、もっと知りたかった、と。
 ユーザーに楽しい体験をもたらす方法は、企業によって異なります。言い換えれば、私たちが体験を作る余地は、まだまだ世の中にたくさんあるのだと思うのです。

モノの豊かさから“心の豊かさ”へ

──コミュニティ構築には時間がかかりますが、短期的に売上が求められることは少なくありません。coorumを活用する際のポイントはありますか?
 ちょっと抽象的な話になってしまいますが、そもそもの“成果のものさし”を顧客満足度に置いてもらうことが大切だと思っています。
 私、行きつけの焼き鳥屋があるんです。店主のキャラクターが良いし、どのスタッフさんも接客が心地良くて、何度も通ってしまう。
 その店は新規の数字を一切追っていないそうです。告知もしないし、メディアにも露出しません。代わりに、経営指標がリピート率なんです。
 店側にとっても、一見さんよりも人柄の見えるリピーターのほうが接客しやすいし、「良くしてあげたい」という心理が働くから、質の高いサービスにつながる。そうやって、顧客満足度が上がって、また来店する好循環が生まれます。
 その場しのぎで新規獲得に走るよりも、LTVを高めることに重きを置くほうが、結果として売上を伸ばす早道になるはずなんです。
 一方でデジタル上での接客となると、顧客を数字で捉えるシーンが多くなってしまってる傾向があると思います。いわゆる対面の接客のような手触り感が生まれにくく、そうなると接客の楽しさも感じづらい。
 だから私たちは、企業と顧客の距離を近づけデータから“お客様の顔”が見えるような世界を実現したいと思っています。
 これまではデータの可視化や統合の利便性を強化してきましたが、手触り感の実装がcoorumの次なるフェーズだと考えています。
──Asobicaは2022年7月、27億円の大型資金調達を実施しました。今後のビジョンについて教えてください。
 私たちの目指す世界は、Amazonと対極にあると思っています。
 Amazonは購入体験における無駄を排除し、ワンクリックで物が買える世界を実現しました。とても便利で効率的です。同じことを私たちが追求する必要は、もうないでしょう。
 “モノの豊かさ”が臨界点に達しつつある今、これから先の20年は、熱狂できるもの、ワクワクできるものをいかに見つけられるかという“心の豊かさ”を重視する時代になる気がしています。
 Asobicaは世界で最も心の豊かさを満たす企業を目指します。行けば行くほど好きになる、知れば知るほど愛着が湧くような体験を、もっと増やしていきたいです。