日本女子 in プレミアリーグ・連載第8回
名門クラブの採用面接で意識したこと
2014/11/25
本村由希はプレミアリーグの名門クラブで働き始めたものの、次第に「やりたいこと」と「職務制限」が衝突し、戦力外通告を受けてしまった。だが、それくらいで日本女子はへこたれない。最初は転職代理人に騙されながらも、やるべきことに気がついて履歴書をクラブに送り始めた。本村はそこからいかに転職を成功させたのか?
アイデアの元は学生時代のアルバイト探し
前回は私が現地の日系企業から全く声がかからず、イギリスの転職エージェントに騙され、「履歴書をヨーロッパ中のクラブに直接郵送する」ことを決意した――という転職活動の経緯を書きました。
実はこの方法、私が語学学生時代、アルバイトの仕事を探していたときに取ったやり方がベースになっているんです。
当時、英語もろくにしゃべれない私が憧れていたのが、(なぜか)外国のスターバックスで働くこと。指示された通りにオンラインで履歴書を送りましたが、全く音沙汰無しでした。
イギリスは移民国家ですから、カフェやレストランなどの店員は外国人でまかなうのが普通です。地方は別としてロンドンみたいな大都市での3K仕事(キツイ、危険、汚い)はほぼ外国人といってもいいくらい。
ちなみに私がカフェバイトを探していたときは、圧倒的にポーランド人が多かったですね。
なんせここはイギリス、EU加盟国。ある意味ロンドンは出稼ぎの聖地。出稼ぎ移民のネットワークは計り知れません。兄弟、親戚、友達がひっきりなしにやってきます。
もし、カフェの店長や人事担当が出稼ぎ移民の1人だったら、私よりも同郷からきた出稼ぎ移民の方が採用されやすいですよね。私みたいな(当時)学生ビザ保持者のように、労働時間に制限があるわけでもないし。
履歴書持ち込み大作戦
それで私、履歴書を何十枚ってコピーして、ロンドン中のスタバに配り歩くことに決めたんです。
蓋を開けてみると、これが大当たり。
これにもコツがあって、カウンターでレジの店員に直接渡すだけではダメ。彼らはどうせレジの下のスペースにポンって置いてあとは何もしないから。店の奥にいるマネージャーを呼んでもらって渡すのが秘策です。
これね、うまく行き過ぎて、結局どこのスタバから電話かかってきてるのかわからなくてパニック状態に陥ったというオチ付き……。
しかも、奇跡的に聞き取れた英語でトライアルに参加したものの、「これ、英語力アップより、スタバのメニューをうまく言えるようになるだけな気がする」ってことで結局辞退したという。一体あの苦労はなんだったんだろう。
偉い人を狙って履歴書を送った
とにかく今回は、スタバでバイト探しをした経験をベースに、グーグルで適当に偉いポジションっぽい人を見つけてその人に郵送で履歴書を送ってみました。というか、ヨーロッパ中のサッカークラブに直接出向くわけにもいかないので、このやり方しかありませんでした。
そんなこんなで用意した履歴書は結構な数だったのですが、意外にも郵送2チーム目で面接のお誘いが来ました。返答が来るまで2週間くらいだったかな。ラッキーでした。
実は電話がかかってきた時点で、うん、これいけるかなっていう手ごたえがあったんですね。
なぜって、電話対応のユルさ。
「履歴書サンキュ~。君にいいと思う仕事があるんだけど、ちょっと今メールするねー。」
「今送った添付ファイル読んで、いいと思ったら電話してねぇ~、バーイ!」
このユルさ、限りなく私向きです。
願えば思いは現実になる?
こんな風にしゃべりながら送ってくれたメールに添付されていたのはジョブデスクリプション。これを見て目からウロコが落ちる思いがしました。
ポジション:セールスコーディネーター。
仕事:クラブに適したスポンサー企業を探し、スポンサーシップやそれに付随する様々な権利を売るために営業をサポートする。
これ、私が前のクラブでやってたことを生かせる!
そして、その下で箇条書きにされている職務内容の詳細を見て、椅子から落っこちそうになりました。
実は私、前のクラブで働いてたとき、こういうことしたいっていうのをノートの隅っこに殴り書きしてあったんです。その一部がこちら。
・私がアプローチするべき企業を調べて営業にアドバイスをするような、そんな役割がいい(詳細な市場調査、企業分析などがやりたいってこと)
・見てる人が眠くならないようなプレゼンを作る(プレゼン翻訳だけじゃなくて、実際に作らせろってこと)
・会社の戦略は会社のもの。営業の戦略は私が作る(営業にどう売り込むかアドバイスする役割をしたいってこと)
・企業とクラブの営業の出逢いの場をアレンジする。(スポンサーになってくれそうな企業とクラブのリエゾンみたいなことをやりたいってこと)
結論から言うと、ノートに書いた内容がほぼ全部、このジョブデスクリプションの中に入ってました。
そりゃ、たまげましたわ。
自分がやりたいと思ってたけど1度は手放してしまったことが、そっくりそのままジョブデスクリプションとなって自分のところに戻ってきたという衝撃。しかもご丁寧にキレイな英語に清書されて戻ってきたという奇跡。
こんなことってあるんですね……。
さっそく電話をして、この仕事にものすごい興味があることを伝えました。
「それはクールだねぇ。で、面接いつがいい?」
へ? 私が決めていいの?
じゃぁ、とりあえずいきなりすぎると思うけど、明後日でどうかとこちらから提案したところ、「オッケ~。ノープロブレムぅ~」。
実はこのタレントのローラみたいな対応をしてくれた人(男性です)が、現在の私のマネージャーです。アイルランド人で物腰がとっても柔らかい人なんですね。この人の神対応に何度救われたことか。
面接は計2回だったのですが、1回目はただの雑談、2回目はクラブに一番適してると思われるスポンサーをひとつ選び、なぜその企業に売り込むべきだと思うかを説明するという面接でした。ただ、説明する際の方法は特に指定しないとのことだったので、大好きなプレゼン形式を選びました。
人はいつでも見られている
と、2回目の面接が始まる前、自分のパソコンと会議室のプロジェクターを繋ぐ作業をしていたときのことです。
一次面接のときにはいなかった男女2人の社員が入ってきました。そのうちの男性社員が私をニコニコしながら見つめています。
「僕ね、キミのこと知ってるよ、フフフ」
「前のクラブで見たよ。よくキッチンにいたよね。インターンなのに営業社員と一緒に日本出張行ってたよね。知ってるよ、フフフ」
そう、前のクラブで働いてた営業社員とまさかの再会。
この世界、結構狭いんです、はい。
それと私、前所属クラブでインターンながらも、通訳として日本出張に同行させてもらっていました。
見てる人は見てるんだな……。
そんなこんなでプレゼンもうまくいき、あれよあれよという間に採用が決定しました。
最初のクラブで仕事を見つけたときの宝くじが1億円だったら、これは6億くらいかもしれない。本当にラッキーでしたね。
「あなたはチームのブレインだ」
面接の中で自分的にうれしかったのは、前クラブでの経験を生かして色々と質問ができたこと。
というのも、面接の最後に「何か質問はありますか?」と言われたので、前のクラブで不透明だった、部署内外でどういう風にコミュニケーションを取っているのかを質問させてもらったのです。また、それが前クラブではうまくいっているように思えなかったので不満だったことも正直に言いました。
面接官たちはもっと軽い質問を想定していたみたいだけど(笑)。
そんな私に対して、彼らは納得が行く形で答えてくれました。何よりもよかったのは、「働き始めたら、インダクションというのがあって、各部署のリーダーがアナタに全部説明するから安心してね」と言ってもらえたこと。実際働き始めると、本当に色々な関連部署やら偉い人やらと話をする機会を与えられました。サッカーでいう連携確認みたいなものですね。
とにかく、履歴書を郵送し、それにクラブが返答してくれてから面接、そして採用までの流れが全て完璧でした。
本当にこんなことってあるんですねぇ。
そんな私ですが、入社してマネージャーが各部署に私を紹介してくれたとき、
「彼女は僕たちセールスチームのブレイン(脳)なんだ。」
って言ってくれたのは本当に嬉しかったですね。私が前のクラブでノートの切れ端に書いていた願望の数々を一言で言い表してくれた瞬間でした。
思わず「そうそう、それそれ! 私、それが言いたかったの!」って身を乗り出して言いそうになりました。
あとで気づいた採用の決め手
それにしてもいまだに何が採用の決め手だったのかはわかりません。いまでも「何で私なの?」って思います。
だって、私より英語が堪能で十二分な経歴がある人なんてたくさんいるし。
そういえば、この仕事を始めてしばらく経ってからでしょうか。隣の部署の同僚がふと私に言いました。
「私ね、絶対アナタが採用されるって思ってたのよ。そしたらやっぱりね!」
なんで?
「だってなんだか面接してた人の中で一番楽しそうだったもん」
彼女のデスク、私がプレゼンをしたガラス張りのミーティングルームの向かい側なんですね。
やっぱり、見てる人は見てるんだな……。
彼女の言葉によると、採用のコツは楽しく面接することみたい。
ということで、イギリスでのプレミアリーグ転職の際のポイントは、
「履歴書の郵送は計画的に、そして面接は楽しくね。」
……みたいです。
全然アドバイスになってない(笑)。
*本連載は毎週火曜日に掲載する予定です。