[東京 23日 ロイター] - 日銀は23日、3月に開催した日本の物価を議論するワークショップの詳細を公表し、外部の識者から、商品市況の上昇が主導するコストプッシュ型インフレには金融政策ではなく財政政策で対処するのが適切だとの指摘が出ていたことが分かった。黒田東彦総裁ら幹部は、改めて金融緩和の継続が重要だと語った。

<慢性デフレ・急性インフレ、政策対応は>

日銀はコロナ禍での欧米と日本の物価動向の違いなどを分析し、学識経験者と議論を深める目的でワークショップを開催した。

渡辺努・東京大学教授は、日本は感染症拡大前から続く「慢性デフレ」と、商品市況の上昇などを受けた「急性インフレ」の2つの問題にそれぞれ適切に対応する必要があり、金融政策運営上も難しい局面にあると指摘した。

これに対し、小林慶一郎・慶應義塾大学教授は「急性インフレのリスクは財政政策で対応し、慢性デフレのリスクには金融緩和の継続で対応していくことが適切だ」と述べた。日銀の内田真一理事(企画局担当)は、小林教授の見解に賛同した上で「低成長で金利のゼロ制約にヒットする可能性が大きい日本では、慢性デフレのリスクの方が大きい」との見方を示した。

黒田総裁は「資源の多くを輸入に頼る日本では、エネルギー価格の上昇は家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて、経済に悪影響を与える」と述べ、金融緩和継続の重要性を指摘した。

渡辺教授は、米経済学者・フェルドシュタインが提唱し、その後理論的にも精緻化された消費増税を財源とした所得減税策について、「税収に中立的なため財政政策ではないと整理することもでき、『慢性デフレ』からの脱却に有効な政策対応である可能性がある」と話した。

<物価への「合理的無関心」>

物価上昇の持続性との観点で重要となる賃金と物価の関係について、日銀企画局の一瀬善孝企画役は「実証的な分析結果から、日本では、過去と比べても米国と比べても賃金と物価の相互依存関係が弱い」と指摘。「何らかのショックにより物価が上昇しても、賃金を通じた累積的な物価の上昇にはつながりにくい」と述べた。

その上で、賃金と物価の関係が弱い背景として、物価の上昇が定期昇給の範囲内にとどまってきたことから、個々の家計は物価の上昇を生計費の増加として認識せず物価への関心も持ちにくいとする「合理的無関心」に基づく仮説を示した。

川本卓司政策企画課長は、日本では賃金と物価のスパイラルが第2次石油危機以降、途絶えてしまったことが、長期にわたる物価低迷の基本的な背景だと説明。「日本がゼロ・インフレから脱却するには、賃金と物価が相乗的に上昇していくメカニズムを回復させる必要がある」と述べた。ただ「グローバルな供給ショックが断続的に発生している現状では、賃金・物価スパイラルが働きやすくなるとインフレ予想が不安定化し、消費者物価上昇を中央銀行の目標値近傍に安定させることが難しくなるリスクもある」とも指摘した。

(和田崇彦)