ブラジルW杯最大の教訓
日本代表はクリンチを覚えるべき
2014/11/20
アギーレ監督の下で日本代表の強化が進んでいるが、その一方で日本サッカー協会やメディアでは前任者のザッケローニ監督を再評価する動きが目立っている。金子達仁はザックをどう見ていたのか? そこから導き出されたのは、日本サッカーが覚えておくべき教訓だった。
ザックは日本代表の歴代ナンバーワン
――ザッケローニ監督の通訳を4年間務めた矢野大輔氏が『通訳日記』(文藝春秋社)を11月下旬に発売するなど、ザックを再評価する動きが目につきます。雑誌『Number』もそれに合わせて特集を組むそう。金子さんはザックをどう評価していますか?
「俺はめちゃくちゃ評価しているよ。歴代ナンバーワンだと思う。ダントツで」
――そこまで評価していたとは。
「ただし、ずば抜けていたけど、博打打ちではなかったよね。ブラジルW杯の初戦のコートジボワール戦で立て続けに2失点した時間帯に、動くことができなかった」
――日本は本田圭佑のゴールで先制しながら、前半途中から劣勢になり、後半19分と21分に立て続けに失点していました。同点に追いつかれる直前、ザックは大久保嘉人を投入しようと準備していたのに、同点にされたことを受けて交代を待ってしまった。すると2分後に逆転……。待たずに大久保嘉人を投入すれば、逆転されなかったかもしれません。
「あのときザックさんは『フリーズ』してしまったよね。さらに言えば、逆転されたとしても、強い博打打ちであればそこから何かしらの手を打って流れを引き寄せることができる。でもザックさんは大久保君や柿谷(曜一朗)君を投入したものの、流れを変えることができなかった」
モハメド・アリから学ぶ駆け引き
――日本にとっては、あの2分間が本当に悔やまれます。
「でもね、一番失望したのは、同点に追いつかれた直後の時間帯に、『痛ててて』とケガや足がつるフリをする選手がいなかったこと。『うわ、今最悪の時間帯やん』っていうのを誰1人感じずに、そのまま袋だたきにあってしまった」
――後半17分にドログバが投入されたのも、日本が混乱した原因のひとつでした。
「ドログバは理屈を超えている。それを日本は真っ向から受けてしまった。確変状態に入った相手に対して、ごまかしたり、力をずらしたりしないで。ボクシングで言えば、絶対にクリンチに行かなければならない時間だった」
――勝負の駆け引きが拙かったと。
「たとえばボクシングで『キンシャサの奇跡』と呼ばれている試合がある」
――1974年、WBA・WBC統一王者だった25歳のジョージ・フォアマンに、32歳のモハメド・アリが挑んで勝利した試合ですね。
「10代のアリであればフォアマンに袋だたきにあっていたと思う。実力差は歴然だから。でもアリは相手の良さを出させない戦いをした。かつてはボクシングをショーにして、『面白いから俺の試合をみんなが観にくるんだ』と言っていた人間が、この試合に関しては7ラウンドまで退屈な試合をやった。でも大事なところで勝つ。ブラジルW杯で優勝したドイツも、全試合で素晴らしい試合をしたわけではない」
――確かにそうでした。
「日本のサッカーの歴史は、まだまだ若い。あそこでクリンチすべきだったっていう論調をあまり聞かないので、果たして教訓になっているのかな? っていうのはちょっと心配だな」
――それは気がつきませんでした。
「まあ、何より同点の場面で責任があるのは、本田君だからね。直前に本田君はドログバにガンと一発ぶつかられて呆然自失となっていたからなのか、香川(真司)君からのパスを奪われてカウンターを食らってしまった。その流れから日本は失点した。まあ香川君のパスもひどかったんだけど、本田君なら何とかしなくちゃ」
本田の「W杯優勝宣言」の意味
――本田が「W杯で優勝する」と言っていたことは、どう見ていますか?
「結果に一番がっかりしたのは本田君だと思う。でも長い目で見れば、絶対にプラスだよ」
――なぜですか?
「サッカーで世界一を目指すということに対して、失笑する日本人はほぼいなくなったはず。これからの子供たちは、きっと本気でW杯優勝を目指すようになる。一般社会で何を持って世界一になるかは定義しづらいけれど、世界中で各国の小学生1年生100人を比べたら、日本は『世界一になりたい』って思う子が世界一少ない国じゃないかな」
――間違いなくアメリカよりは少なそうですね。
「そこを変えていくには、意識のある人間が『世界一』を公言していかなければならない、って俺は思っているので。俺自身、『日本代表がW杯で優勝できる』ってずーっと言い続けてきた人間じゃない?」
――失笑を買いながらも書いていましたね。
「だって、考えてみてよ。経済界でトップになる方が、サッカー界でトップになるより大変じゃない? それを日本は焼け野原の中からやり遂げたわけだから」
(聞き手:木崎伸也)
*本連載は毎週木曜日に掲載する予定です。