グローバルタレントに会いに行く

信条はどんな部下も自分から嫌いにならない

オラクルのトップタレントが涙した「大失敗」

2014/11/17
国内労働人口の減少や事業の多角化・グローバル化、商品・サービスの早期コモディティ化などを背景に、 グローバルタレント(グローバルに活躍するタレント人材)の育成が日本企業の急務となっている。では、実際にグローバル・タレント・パイプライン(=経営者候補を長期にわたって育成する仕組み)に乗った人とはどのような人なのか? そして、日々どのような“特訓”を受けているのか? 彼ら彼女らの実像に迫る。

12万人の社員のうち、日本オラクルに5人、ワールドワイドで毎年100人強しかいない「トップタレント」人材。アライアンス事業統括営業本部本部長・谷口英治氏は、その一人だ。

誰もが知る大手衣料メーカーのeコマースやERP(業務横断型)システムを受注し、同社の成長に一役買ったことで、谷口氏は社内で知られた存在となった。

その成果を引っさげ、2002年、谷口氏は西部支社(現 九州支社)から東京本社に異動した。新たな役割は、流通・サービス営業本部の部長。オラクルに転職して5年、当時34歳だったことを考えても、かなり早い昇進といっていいだろう。

一般的に、優秀な営業マンは必ずしも優秀なマネジメントになるとは限らない。むしろ、なまじ自分が「売れる営業」だっただけに、部下にも同じ能力を要求し反発を買う人も多い。

だが、谷口氏は違った。

「自分自身が育つために、人の育成を買って出るのは苦にならなかったし、楽しかった」

その手法とは、どのようなものだったのか?

個別指導は効率が悪い

「僕のマネジメントスタイルや営業手法を理解してもらうために、定期的に7〜8人の部員全員で会議を開き、徹底的な情報共有をした」

効率性を追求するなら、部長が部員各自の商談の進捗を聞き、それに対するアドバイスを行うほうが、早いかもしれない。

しかし、谷口氏はある目的を持って、あえて時間のかかる「全員情報共有体制」を敷いた。

「8人のメンバーが、それぞれ5個の商談を持っていたとすると、商談の事例は全部で40。“個別指導”を行うと、メンバーは35件の商談事例を知ることが出来ない。これは大きな損失です。だから、どのようなシチュエーション下のどのような商談の場合、僕だったらどうするか、どんな答えを出すのかを全員で“疑似体験”してもらうために、フィードバックは全員に行う体制を確立しました」

また、この手法は思わぬ副産物をもたらした。

「そのうち僕が何も言わなくとも、部下同士が、『俺はこのやり方で失敗した』だとか『この説明はああ言った方が分かり易い』などと連携し、お互いの仕事を助けるようになったのです」

谷口氏は「僕と部下の間はもちろん、部下同士のコミュニケーションを活発化させるのも上司の仕事」だと言い切る。
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パートナー企業に4時間詰められる

「僕は根っから人に惚れ易い性分で、どんな部下も絶対に自分からは嫌いになりません」

結果が出ない部下も見捨てず、営業に同行するなどしてボトムアップを図る。

「すると、部下たちは、僕に施してくれようと思うのでしょうね。次第に結果が出るようになり、仕事が面白い、楽しいという感覚になっていく」

その結果、部員の業績はメキメキ上がっていった。

しかし、ここまでの順調なキャリアコースを見ていると、谷口氏に失敗経験はないのかと、いい加減、聞きたくもなる。

そう筆者が問うと、谷口氏は「そんな、僕、失敗だらけですよ」と笑いながら、こんなエピソードを披露してくれた。

「あれは、パートナー会社と組んでエンドユーザーに商品を売っていた頃のことです。正直、そのパートナーがスキル不足で、うまくセットアップが出来なかった。それで、うっかりエンドユーザーに気を許して、パートナー会社のことを愚痴ってしまった」

すると、凄まじい顛末が待ち受けていたと言う。

「パートナー企業のお偉方に呼び出され、会議室で4時間死ぬほど詰められました。あの時ばかりは、涙を流して泣いてしまった。相手の怒りが怖かったのではなく、自分の愚かさに泣けて…」

そんな経験を経て、谷口氏は今でも自分にも部下にもパートナー企業やクライアントにどれほど不満があっても悪口だけは言わないことを課していると言う。

このような紆余曲折も経て、流通担当の営業部長として結果を出した谷口氏は、流通に加えサービス業、そして製造業と3つの分野でマネジメントを行う本部長に昇進。部下の数も、7人から20人、そして30人と増えていった。

そして2009年には、オラクルがサンマイクロシステムズと合併した直後に発表した、ハードとソフトのセット販売ともいえる新製品の選任営業部隊の長に就任。

2年間の期間限定の就任だったが、会社肝いりのこのプロジェクトを成功させた。そして、2011年にはデータベースを中心とした製品部門の副統括本部長に昇進。

そして、2014年、当時の社長から直接、全世界のオラクルで年間100人程度しか受講できない「トップタレント研修」を受けよ、と指令を受ける。果たして、その内容とは?(以下次号)

※本連載は毎週月曜日に掲載します。