2022/5/16

【解説】「決裁者に会えば、売れる」という誤解を解く

NewsPicks Brand Design Editor
近年、新しいB2Bセールスの領域で、決裁者にダイレクトにアプローチできるマッチングビジネスの市場が盛り上がりを見せている。

そのパイオニアとも言える存在が、オンリーストーリー社が創業から8年にわたって運営する決裁者マッチングサービス「チラCEO」だ。

オンリーストーリー取締役の川角健太氏によれば、「チラCEO」の8年間の運営を通して、決裁者とのマッチングで成功するユーザーの特徴が見えてきたという。その全容をひもといていく。

B2Bセールスの手法として注目された決裁者ビジネスマッチング

 オンリーストーリー社が運営する「チラCEO」には、社長や役員といった決裁者クラスが6000人以上登録。会員同士のDMや掲示板、イベントなどを通じてマッチングが行われ、プラットフォーム上で追える分だけでも月間2000件以上のアポが成立しているという(2022年4月時点)。
 そもそもB2Bセールスの新しい手法として決裁者ビジネスマッチングが注目されはじめた背景には何があるのだろうか。
 オンリーストーリー取締役COOの川角健太氏によれば、コロナ禍でテレアポなどのアウトバウンドセールスの難易度が高まっていることに加え、Web広告出稿の効果低迷が背景にあるという。
「リモートワークが一般的になったことで、そもそもテレアポが成立しにくくなっています。
 また、マスメディアからデジタルへ広告のトレンドが移行している一方で、Web広告においても、Cookieの規制によりターゲティングの精度が落ちたことや、ユーザーの広告への不信感の高まりなど、効果を出すための難易度が上がっています。
 Webマーケティングだけでは、本当に情報を求めている人に必要な情報が届きにくいのが現状です」(川角氏)
 オフラインでも、コロナ禍で展示会やイベントの活動が縮小されたのに加え、もう1つ大きな影響を受けたのが「トップ営業」だという。
「コロナの影響でゴルフコンペや、交流会など、経営者同士のつながりの場が減少しました。これによってトップ営業をやりにくくなり、新しくつながりを広げていくことも難しくなりました」(川角氏)
 こうした背景を受けて、B2Bセールスの新たな手法として注目されたのが決裁者ビジネスマッチングだった。オンリーストーリーでも、この1年でユーザー数が2倍になったという。
 しかし、ビジネスマッチングと聞くと、「自社の売上を伸ばしたい」「営業先を紹介してほしい」という場合は、少し遠回りに感じられるかもしれない。過去に、ビジネス交流会で苦い経験をした人もいるだろう。
 ところが、「チラCEO」の決裁者ビジネスマッチングからはセールスの面で多くの成功事例が生まれている。
 総額1億円以上の売上を作ったベンチャー企業も複数いるほか、月額で1500万円の受注を獲得した広告代理店や、契約件数が20件を超えてROIが3倍を超えたSaaS企業などの好事例が生まれている。
 仕事の受注が増えすぎてしまって、一度「チラCEO」の利用をストップした企業まであったという。
 では、どういうユーザーが成果を上げているのだろうか。

8年間の支援で見えた、成果を出す人、出せない人

「8年間のサービス運営の中で、成果が出るユーザーユーザの特徴が明確になってきた」と川角氏。
 成果が出るユーザーの特徴は、「すぐの成約につながらなくても、『今後、このジャンルの相談は○○さんにしよう』と認識されている人」だという。
「例えば、『SEOを相談するなら○○さん』『採用で躓いたら○○さん』と最初の出会いでマッチング相手から信頼を築いた結果、しばらく期間が経ってから受注につながったケースや、その分野で困っている企業を紹介してもらうケースが多く起きています。
 案件の規模や商材にもよりますが、社長がトップ営業をして1社獲得したとしても、成果としてはそれほど大きなものとは言えないですよね。
 ただ、そこで信頼関係が生まれ長期的な関係になれば、困ったら最初に思い出してもらえますし、その1社が10社を紹介してくれるかもしれない。そうなれば、すごく大きなインパクトがあります。
 お互いに信頼関係が築けていれば、自然と次のアポや売上につながっていくんです」(川角氏)
 逆に、うまく成果につなげられないのは「目的が目の前の相手に売り込むことのみで、一方的な営業の場として使うケース」だという。
売ることだけをゴールに置き、売れるか売れないかだけでその出会いを判断してしまうと、出会いが“点”で終わってしまうんですよね。決裁者と出会うからには、例えその場で売れない場合でも、もっと先を“線”で見て話をしていただくと、双方にとって可能性が広がるのではないかと思います。」(川角氏)
 例えば、年間120件のマッチングをしているユーザーが、すべてのマッチングを”点”で終わらせてしまった場合、その120件の中からしか、成果につなげることができない。
 一方、120件のマッチングから再度相談を貰ったり、困っている人を紹介してもらえたりするユーザーは、130件、150件と可能性が広がっていく。
 目先の売上を追う方が、1か月などの短期間で見ればその場で売れた件数は多いこともあるが、関係性が続いている場合の方が、長い期間で見たときに最終的に売れた件数が多くなるケースが「チラCEO」ではほとんどだという。
 つまり、どんな出会いであっても、持続可能な関係性を構築していくことを前提にすることで、出会いの価値を最大化できるということだ。
 何かあったときに、自分のことを想起してもらえることがなによりも重要である。中には、自社の直接のターゲットではない企業とのアポも拒まずに受けているユーザーもいるという。

意外と知られていない決裁者ビジネスマッチングの用途

 セールスに課題を抱える多くの企業の決裁者が参加し、成果を出している一方で、あまり知られていない事実がある。それは、「チラCEO」の用途は「営業アポ獲得」に限定されていないということだ。
「チラCEO」での出会いを通じて、設立間もないスタートアップが上場企業から出資を受けた事例や、協業パートナーとマッチングし新サービスリリースにつながった事例なども、すでに存在する。
 最近ではM&Aが決まったケースもあったという。
「プラットフォームの利用料だけでM&Aが決まれば、成功報酬での手数料を考えると、会社にとってはかなりの節約になりますよね。
 けれど、僕らはあくまでプラットフォーマーなので、マッチングの仲介手数料を取るつもりはありません。プラットフォームに参加してくれた方が幸せになってくれるのが一番。むしろ、今後もこうした事例が増えていってほしいですね」(川角氏)
 ほかにも、意思決定者の生の声を回収できることに価値を見出し、新規事業を立ち上げるにあたって、「チラCEO」でいろいろな経営者にプレゼンし、「このサービス、どう思いますか?」「何を変えたら買ってくれますか?」とヒアリングをしている経営者もいるという。
 その過程で事業の立ち上げに協力してくれる方と出会い、一緒に取り組むことになったケースもあるという。
 こういった事例を聞くと、「チラCEO」は単なるセールス支援のプラットフォームにとどまらず、ビジネスを展開するうえでさまざまな活用方法があることがわかる。
 これらの事例が生まれているのは、「チラCEO」が提供する決裁者同士のフラットな出会いが、双方向のコミュニケーションを可能にしているからである。
 従来の営業代行などのアポ獲得サービスは、売る側と買う側がはっきりと分かれており、アポ獲得後は“自分たちの商品を売り込む”という一方通行のものになりがちであった。
 一方「チラCEO」が提供しているのは、お互いが売り手にも買い手にもなり、さらに単なる売り買い以外にも話が発展するという、双方向で循環型のモデルだ。
「売る側・買う側という構図になるのではなく、決裁者同士がフラットに出会える場を提供するのが、『チラCEO』のサービスの根幹にある考え方です」(川角氏)
 しかし、決裁者同士が出会ってもどちらかが一方的な営業を行ってしまうと、双方向ではなくなってしまう。
 そのため「チラCEO」では、会員の審査を厳正に行い、ガイドラインを作成するなど、質を高めるための取り組みを進めている。新規で入ったユーザーに対しては、上手く成果を出しているユーザーから活用事例を伝える場を設けている。
「『チラCEO』という場をどのように活用して、どんな出会い方をしてきたのか。実際の事例をお伝えいただくことで、ユーザーがユーザーを育てる仕組みがある点が『チラCEO』ならではの強みだと思います」(川角氏)
 また、トラブルが起きたときにユーザーからのフィードバックを受ける機能も充実させている。
「押し売りされた、社長とマッチングしたのに別な担当者が出てきた、といったケースが多く生まれると、ユーザーの不信感につながってしまう。運営側に知らせていただく機能を設けるなどして、出会いの質を高める工夫をしています。
 登録するきっかけとしては、営業課題の解決のためが多いのですが、単なる売り先の拡大、売上アップだけを目的にして使うのはもったいないと思います。 
 決裁者同士が出会うわけですから、一緒に新しい事業を生み出していったり、成長できる仕組み作りをしたりと、長期的な視点でビジネス拡大に役立てていただけたらうれしいです。
 共同でウェビナーを開催しましょうとか、営業リストを共有し合おうとか、売り買いだけではない協業も視野に入れることで、より大きな利益を自社にもたらすことにつながります。
 僕たちがこの決裁者ビジネスマッチングプラットフォームで実現したいのは、ユーザーの方、一人ひとりの『オンリーストーリーの実現』(オンリーストーリーは理念・ビジョン・ミッションなどを含めそのように表現している)です。
 企業のフェーズにかかわらず、経営課題の解決や、やりたいことを実現するための出会いのきっかけを提供していきたいと考えています」(川角氏)
  DXで効率化が進む世の中でも、ビジネスを動かすためには、データ分析からだけではわからない、人や企業の熱量や信用度が重要な判断材料となる。
 決裁者とのアポをすると聞くと、売ることを一番に考えてしまう人も多いかもしれないが、決裁者と出会うことは、単なるセールスの効率化、成約率アップに留まらず、ビジネスそのものを広げていく可能性を秘めている。
 一見遠回りに見えても、今のうちからコツコツと接点数を増やしそれを持続させることが、実は会社、事業を成長させる近道なのかもしれない。