【東急ハンズ×高澤けーすけ】ライフスタイル提案型YouTuberが考える、現代の店舗と商品のリアル

2022/4/28
2021年10⽉よりNewsPicks GINZAにて開催を続けてきた東急ハンズによるイベント"DANTESCA EXHIBITION"。

今回は、その締め括りとして⾏われた対談の模様をお届けする。

イタリアンレザーブランド「DANTESCA」に象徴されるように、⼿を通しての「モノ」作りを後押ししてきた東急ハンズ事業開発部⾨メンバーと、選び抜いた「モノ」の紹介で⼈々に充実したライフスタイルを提案してきたYouTuberの⾼澤けーすけさん。

提供する側と受け取る側という、真逆のポジションに⽴つそれぞれのプロフェッショナルの意⾒から、モノあまりともモノ不⾜とも⾔われる現代において本当に必要とされる「モノ」とは何かを考えていく。

店はECに駆逐されるのか?

──まず東急ハンズが「DANTESCA」を通じて初のD2Cブランドを立ち上げるに至った背景について聞かせてください。
前田 卓志/株式会社東急ハンズ
2012年に株式会社東急ハンズ入社。 新宿店勤務を経て、2015年より同社の新規事業であった飲食部門「HANDS CAFE」にて、 店長・スーパーバイザー・商品企画・デザイン/撮影業務を担当。
2021 年より「DANTESCA」におけるブランディング・D2C モデル構築を担当。
前田 東急ハンズはこれまでに様々なカテゴリーの商品を販売してきました。
その中で2019年に生まれたブランドが「DANTESCA」です。
東急ハンズにおいては珍しい、製造から販売までを自社で行うブランドで、当初は商品を店頭に陳列して販売するつもりでした。
しかし、コロナ禍における来店客の減少をきっかけに、時代に沿った新しい販売方法に挑戦する必要性が生じました。
その結果、D2Cブランドとして進めていくという方向性が定まりました。
──時代背景がECという新たな挑戦を生み出したのですね。ちなみに高澤さんは、ECとリアル店舗ではどちらで買い物することが多いですか
高澤 けーすけ/株式会社15cm/
1992年和歌山県生まれの東京育ち。写真と旅とガジェットを愛し、レビュー、ライフスタイル、テック、旅行など、“日々の生活が少しでも楽しくなる”ようなコンテンツをYouTubeなどで発信。レビューは初心者でもシンプルでわかりやすく、旅行動画や必要最低限の情報を押さえつつもワクワクする作品に仕上げることを心がけている。
高澤 僕自身は今のところECとリアル店舗での購入割合は7:3ほどで、ECで頻度高く商品を購入しています。
とはいえ、購入商品の性質によって買いわけているというのが本音です。
例えば、ECはレコメンド機能によって自分の趣味に合致する商品ばかりが目に入ります。
また、SNSも同じで自分のフォローに関連するものばかりがオススメとして表示されます。
確かに便利な機能ですが、自分の趣味や好みの範疇を超えた新たな広がりはありません。
だから、趣味趣向の合う友人のプレゼントをネットで選ぼうとすると、相手がすでに持っている商品ばかり…、そんなことも発生しやすいのです。
織内麻衣/株式会社東急ハンズ
2007年入社。都内店舗、バイヤー勤務等を経て、2019年より社内新規事業担当。NewsPicks GINZAの立ち上げに参画し、地方PR事業、製品プロデュース、外部共創等、小売に拠らない次世代サービスを模索開発中。

店だからこそのセレンディピティ

高澤 まさにそうです。リアルな店舗では新しい発見をして思わず購入することが多いです。
自分の予想しなかった商品との出会いはリアルならではの特別な体験であり、個人的にはこの感覚をとても大事にしています。
織内 予想外な発見や幸運な偶然を手に入れる、いわゆる「セレンディピティ」がお店にはありますよね。
リアル店舗は基本的に店側からのプレゼンテーションがあり、それこそセレンディピティを提供しているともいえます。
「商品が呼びかけてくる」とお客さまに感じてもらえるよう、私自身も場に意志を込めていますし、それこそが店舗では大事なことだと考えています。
高澤 お店に行ってみたら、「これ、面白いな」と思う瞬間は本当に多いです。
僕は東急ハンズであれば新宿店のDIYコーナーによく訪れるのですが、ビルの6階に入っているDIYコーナーに直行することは少なく、大概は他のフロアを経由しています。
そうすると、目当てのDIY以外にも新しい発見があります。
また、リアル店舗のもうひとつのメリットは、いい商品を見かけたらすぐに購入してそのまま持ち帰ることができるところです。
僕は「これだ」と思ったらすぐに手にして使い始めたいタイプなので、1日でも早く使えるなら、とその場で買ってしまうことが多いです。
入手までにかかる時間と価格を天秤にかけた時に、時間の方が自分にとっては重要ということです。
織内 少し前まで、店舗をショールームとして位置付ける傾向があったように思います。
商品確認は店頭で、購入はネットで、という流れが確かに存在しました。
しかし本当に最近になってからですが、そういった使い方をする方は減ってきた印象があります。
前田 インターネットで情報収集しても、購入を決めるのは店頭で、という話を確かに聞きます。
インフルエンサーの方が紹介した数万円のカメラが気になったとしても、高価な商品だからさすがに実物を確認したいという考えのようです。
結婚指輪などの大切なものについても同様のことがいえるようですね。
高澤 おっしゃる通りで、僕の周りでもリアルな店舗の存在が見直され始めています。
つまり、リアルとネットではそれぞれのメリットがあるということです。
たとえば、ネットの方が電化製品などのスペックは比較しやすいと思われがちですが、扇風機の風の強さや音響機器の音質を数値だけで判断できる人はまずいません。
風圧も音質も人は感覚で捉えており、数字を見ても実際に体感しなければ判断できないわけです。
他にも、色合いや質感も実際に見て触ってみないことにはわかりません。
光のあたり具合などの影響で、ネットと実物とでは印象が全く異なるということはよくあります。
一時的にECに大きく偏っていた「モノ」の買い方が、適切なポジションに落ち着こうとしていると感じます。
前田 まさに、事前情報はネット、最終確認はリアル店舗。この流れも買い方の一つのポジションですね。
あとは、日用品や医薬品といった商品も、ネットではなくドラッグストアやスーパーマーケットの方が購入しやすい人が多いようです。
緊急性が高いかどうかも、リアル店舗で買う理由のひとつになりそうですね。

今、求められる商品像

──「DANTESCA」の商品の印象について聞かせてください。
高澤 質感・色合い、いずれも僕は直感的に好きだと感じました。
レザーは高級に仕上げれば仕上げるほどビジネス寄りになってしまうイメージでしたが、「DANTESCA」は僕の好きなマット感もありツヤも絶妙ですね。
実は、YouTubeを通してモノを紹介していると、作り手と消費者の間にギャップがあると感じることが多いのです。
そのギャップのひとつが、作り手はとにかく機能を追加してしまう点です。
撥水加工や止水ファスナーをはじめ機能性を追求してしまうと、反比例するように消費者に求められないデザインになりがちです。
ただ、今回は作り手のこだわりと消費者のニーズの間でうまくバランスが取れていると感じました。
前田 今回のデザインは、ノートで著名なモレスキンのデザイナーが手がけました。
デザイナーがミニマルなデザインにこだわったことが良い結果に繋がったといえます。
織内 高澤さんはYouTubeを通して多くの人と関わる中で、現代のユーザーはどのような商品を求めていると感じますか?
高澤 時代によって変わるとは思いますが、今は機能性を追求し過ぎた商品はそこまで求められていないように感じます。
それよりも如何にシンプルか、ミニマルかの方が重要視されています。
また、製作プロセスに注目する層が増えているイメージはあります。
個人的な印象かも知れませんが、僕の子供の頃は高機能であればあるほど、そして安ければ安いほどでいいという風潮だったと思います。
ところが今はそれが一変して、ストーリーを持った高価格のものに信頼が集まり、たとえ高くても良いものを長く使いたいというニーズが強まっていると感じます。
織内 東急ハンズは、それこそ機能性の最先端を走ってきた企業といえるかも知れません。
バッグひとつとってみても、機能性・効率性を追求したモデルを店頭に取り揃えてきました。
しかし実際に私たちも、機能性が従来ほど重要視されなくなってきた、情緒性やストーリーが含まれた商品の評判がよい、と感じています。
ですので、機能性推しだった販促POPの表現も、今では情緒的なフレーズが目立つようになってきています。
そんなタイミングだからこそ、職人が一つひとつ丁寧につくる「DANTESCA」は、東急ハンズとしても意義のある挑戦だと感じています。

多様化が「モノ」の価値を変えた

前田 確かに世の中全体が、成長を追求し続けるわけでもなくなり、効率重視や機能重視から変化してきています。
価値観の多様化に呼応して、機能性の優先度は下がっているといえそうですね。
高澤 かつては安室奈美恵さんのファッションを真似る“アムラー”という言葉もありましたが、現在はシンボリックな著名人を真似るのではなく、各個人の個性が立った時代なのかもしれません。
前田 アムラーなどの流行は、テレビをはじめとするマスメディアの影響が大きかったのでしょうね。
現代はスマートフォンが出て来たことで、Twitter・Facebook・InstagramといったSNSが生まれ、発信者は劇的に増えました。
芸能人だけでなく、フォロワーが1000人いれば立派なインフルエンサーになりえます。
今でもインフルエンサーに共感し、ファッションを真似したり取り入れたりすることは続いていますから、かつてより偏りがなくなったことで多様性に繋がっているのかなと感じました。
高澤 あと、日本人の天邪鬼(あまのじゃく)な一面が表に出始めているのかな、と感じています。
例えば、みんなが着ているものは着たくないというような感覚です。
最近リバイバルヒットしている『写ルンです』も、レトロ感やエモさが人気の要因として挙げられそうですが、デジタル全盛の現代だからこそデジタルではない『写ルンです』を持ちたいという層に刺さっているようです。
ただ、トレンドは巡りますから、おそらく機能重視の時代も再びやってくるとは思います。
織内 天邪鬼という話を聞いて、なるほどと感じました。
確かに、現代は良い意味でわがままになれる環境が整っています。
その象徴的なエピソードとして、一回り上の同僚と話をしているとき、「銀座にスニーカーで行けるようになったよね」と話題になったことがありました。
かつては、銀座に行くための服装を揃えるところから始める時代がありましたよね。
ですが、今は誰もが思いのままのファッションで銀座を訪れていますからね。

買い方の変化に合わせた売り方へ

──そんな多様性の時代に、「よいモノ」の定義はあるのでしょうか。
高澤 今の時代は、モノを持ったことによって一日の流れが変わる、あるいは生活が変わるという、体験としての「よいモノ」が喜ばれていると思います。
そして、現代の「よいモノ」は、瞬間的・爆発的に売れる大ヒット商品から、口コミで広がってジワジワと売れるロングセラー商品に移り変わってきたとも感じています。
織内 確かに、SNS全盛の今は、「口コミ」がキーワードといえそうです。
前田 あとは、ブランドや作り手の思い、作る過程や売る過程、どこかに強く共感できるかもポイントですね。
作り手が発信し、共感してくれた人たちが集まったら、それは「よいモノ」といえるのではないでしょうか。
織内 今後はかつての大量生産・大量消費といった資本主義的手法から、多様な売り方や作り方への変革が必要になるかも知れませんね。
高澤 僕はそうあるべきだと思います。
そもそも、買い手の買い方が変わっている以上、売り手も変化するのは当たり前のこと。
作り手の工数も原価も増すため売値も上がりますが、それでも売れる「いいモノ」を創っていかなければいけません。
そこについていけないと、作り手は安さを目指すあまり、どこかに皺寄せを生み出してしまいます。
それではサステナブルではありません。
──最後に今回の対談を通じて、気づいた点があれば教えてください。
高澤 東急ハンズには今後、ユーザーとのコミュニケーションをより活発化させてもらえると嬉しいです。
今回語り合うことで初めて知ったポイントもあったので、ぜひより幅広い層とのやりとりをしてもらい、東急ハンズのファンを生み出してもらいたいです。
前田 今日の話した内容を、リアルの場でも伝えられるようにしたいですね。
高澤 今の時代は、一般ユーザーは企業も一個人としてみなす傾向があります。
反対に企業や組織と捉えられてしまうとハードルが上がり、一気に遠い存在として扱われるようになってしまいます。
東急ハンズも組織であることには間違いありませんが、SNSなどを駆使して人同士としてのコミュニケーションが取れると、作り手と買い手のよりよい関係が生まれるのではないかと思います。
前田 「DANTESCA」はブランドとしてのコミュニケーション体制がまだ整っておらず、また、東急ハンズ全体としてもその点は課題と認識しています。
ですが、ファンを増やすという論点は社内でも議題に上がることは多いです。
企業という枠を超えて人同士の密接なコミュニケーションを作っていくべきだと、今回の対談を通して改めて思いました。
織内 それが素敵な関係ですね。やはりカギは人間らしさになりそうです。
今もTwitterでは、「中の人」という印象を押し出しており、それが人気の秘訣にもなっています。
ただ、会社としてはそれを偶然の産物として捉えているふしもあります。
会社で働く人たちに今回の話を理解してもらい、今後は企業の魅力や存在意義、商品の素晴らしさを、人間らしさを通して表現していきたいと感じました。
(取材:菊谷邦紘、構成:小谷紘友、写真:長友翔)