【RS】女性管理職に立ちはだかる12の壁

時短勤務とフルタイム勤務の折衷案を確立

高島屋女性次長が乗り越えたお受験と仕事の両立

2014/11/12
安倍内閣は「社会のあらゆる分野における、指導的地位に女性が占める割合」を2020年までに30%まで引き上げると宣言。だが、急遽、管理職になった女性社員の中には、明らかなスキル不足、テクニック不足を指摘されるケースもある。では、先達の女性管理職たちは、どうやってスキル不足やテクニック不足、あるいは周囲の理解不足といった”壁”を乗り越えてきたのか?連載第7回は、前回に引き続き女性が管理職になりたがらない大きな要因に数えられる「小1の壁」など「母親業と管理職を両立する壁」について取り上げる。

前回、高島屋外商部グループマネジャーの小川雅子さんのモチベーションを支えたのは子どもの存在だったと紹介した。しかし、救われることばかりではない。やはり、日々の生活はハードだ。

ワーキングマザーは、育休復帰前には入園できる保育園探しに奔走し、無事に保育園に入園できてからも「突発的な発熱による呼び出し」などに悩まされる。小学校に入れば安心かというと、保育園に代わる預け先となる学童保育に入れるかどうかで胃を痛める。いわゆる「小1の壁」問題だ。

長男は小学校2年生まで学童保育に入れたものの、3年生からは「不可」となった。小川さんが15時35分退社の短時間勤務制度を活用し、土日勤務の代わりに平日に休みを取ることも多いという理由で「多忙なフルタイム勤務」と見なされず、定員の人数からはじかれてしまったのだ。急きょ、バスで通う距離の民間学童保育に申し込み、綱渡りで乗り切った。

長男の受験と人事異動がバッティング

仕事の重要なイベントと学校行事が重なることはザラ。昨年1月末に突然異動が発表され、「明日から営業企画部門へ行ってください」と言われた時は、「その日は長男の中学受験の面接日」と内心悲鳴を上げた。

次長試験を見守ってくれた息子の一番勝負。この時は家族を優先して、異動先への出勤は翌日からにさせてもらった。一方で、昨年9月に10人の部下を束ねるグループマネジャーになってから間もないタイミングと重なった次男の運動会は出席を諦めた。

次のチャンスが来たら、同社の「スクールイベント休暇」(家族の学校行事を理由に利用できる休暇)を利用しようと考えている。長男が中学生になってからは、毎日「弁当持参」が必須。

5時50分に起床して弁当作りに励む。週末は催事に付きっきりになり、日曜夜は同僚たちと飲むことも多いので、「月曜の早起きが一番こたえます」と苦笑する。

1年前にグループマネジャーに昇進した時は、果たしてやり切れるのか不安もあった。ただ、実際にやってみると「役職の責任が上がるにつれ、家族の協力を得られるようになる」といううれしい発見があった。

役職に就くと夫の態度が変わる?

”肩書き”という明確なラベルは、家族に向けての”協力要請”として自然に働く。

「流行りのイクメンとは程遠く家事をまったくしてこなかった夫が、私が今の役職についてから食後の食器を片づけるようになったんです。まだ毎日とは行きませんけれど、その変化に感動しました。パートナーの協力不足で悩む女性がいたら、『あなたが頑張る姿を見せ続けていたら、ちょっとは変わるかもしれないから希望を持って』と言いたいですね」

職場の飲み会に”復帰”したのも、グループマネジャーになってから。同僚と親睦を深めながら、情報を交換できる時間を持てることで、チームの結びつきも強くなったと感じている。

実母に頼んで、週2回、次男の塾通いの送迎をお願いできるようになったことも大きい。小川さん自身にとって、重職の肩書きは「家族に遠慮なく頼るための理由」としてうまく機能しているのだろう。

「育児中もキャリアを継続できる柔軟な制度があったから、私はここまでやってこられました。迷った時期もありましたが、すべてが糧になっているし、十分に働けない時期も会社に支えて貰った分、これからも高島屋のために尽くしていこうという気持ちを強く持っています」

「育児中の時期をサポートする環境整備」をすることは、企業側からすれば“コスト”であり、複雑な制度設計や運用に多くの労力を割くものである。

しかし、小川さんが最後に語ってくれた言葉は、その環境整備が会社に対するロイヤリティを強めることになり、長期的には強い組織作りに結びつくことを示唆している。

実際、厚生労働省が行った「子どもを持ちながら働き続ける上で必要なこと」に関する調査の結果でも、圧倒的トップに挙がったのが「子育てしながらでも働き続けられる制度や職場環境」である(下記表参照)。
141112_子どもを持ちながら働き続ける

高島屋の場合、百貨店という業種の性質上、女性の離職を防ぐための環境整備には早くから着手してきた。子どもが小学4年生に達するまで使えて、複数の勤務時間から選べる育児勤務制度を20年以上前に導入。結婚や出産を期に離職した社員を再雇用する制度などを充実してきた。

この再雇用制度を活用してキャリアを継続し、昨年9月、高島屋本体で女性初となる代表取締役に就任した肥塚見春専務の存在はその象徴とも言える。

女性の平均勤続年数は1990年前後には1ケタの年数だったが、2013年2月では21.9年に(男性は23.2年)。平均年齢も男性45.8歳に対し、女性43.0歳と、「女性が長く働くのが当たり前」の環境整備はほぼ完了している。

通常は時短勤務でも、「ここぞ」の時はフルタイム勤務できる制度

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人事部人事政策担当課長の三田理恵さん

しかし、「ここに来て新しい課題に直面している」と言うのは人事部人事政策担当課長の三田理恵さんだ。

「課長以上の昇進試験を受ける女性の増加、出産年齢の上昇によって、ある程度キャリアを積み重ねてから出産・育児のフェーズに入る女性が増え、育児関連制度を活用する女性が高資格者にシフトしてきています。これまでは『いかに働くことをセーブしていくか』という視点で制度設計をしてきましたが、高資格者のニーズは『いかに仕事にコミットできるか』。会社としても、『マネジメントと育児は両立できますよ』という発信を強めていく必要性を感じています」

休業の充実から、意欲の支援へ。実際、同社は昨年に制度を改定して、時短勤務中の社員でも、事前申告によって一時的にフル勤務に変えられるコースを新設した(もともとあった育児勤務制度のコースに追加できる形式)。

例えば、重要な会議や商談が夕刻や週末にある場合や棚卸しの日など、「この日だけはとことん働きたい」という時はフルタイム勤務が選択できる。日頃は母親業も大事にしたいが、重要な仕事がある日は柔軟に対応したい、と考える女性たちのニーズに応える形で生まれた。

時短勤務を選択しながらでも、ここぞという時にはしっかりと仕事にコミットできる仕組みがあることは、「モチベーションや責任感を継続させていく点で効果的」(三田さん)。導入以降、育児中の管理職女性からも好評だという。

育児中の女性管理職は、「子どもに愛情を注ぎたい」という気持ちと「管理職としての責任を果たしたい」という気持ちの間で常に揺れ動いている。育児に力を入れたい時、仕事に没頭したい時。そのどちらのニーズも満たせる柔軟な環境整備が、企業により求められる時代になっていきそうだ。

※本連載は毎週水曜日に掲載します。