2022/6/6

【技術力×経営視点】IT人材のポテンシャルが圧倒的に広がる環境の秘密

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 IT人材の不足感は年々増すばかり。優秀な人材をめぐって、企業の激しい争奪戦が長きにわたって繰り広げられている。
 それはIT業界に限った話ではない。社会全体のデジタル化が加速し、ビジネスの現場でもDX推進が叫ばれる今、あらゆる業界でIT人材に対するニーズが生まれ、その渇望感の広がりはとどまるところを知らない。
 そんななか、GAFAらテックジャイアントを支える人材に比肩するほどのプロフェッショナルたちが、次なるフィールドとして選ぶ“事業会社”がある。
 全世界で2.1兆円の売上を誇り、アパレル製造小売業のグローバルNo.1を射程圏内にとらえているファーストリテイリングだ。
 2015年から「エンジニアリングの内製化」を掲げる同社。いったい、どのようなデジタル人材が集い、何を成し遂げようとしているのか? 彼らが次なるキャリアステップとしてファーストリテイリングという事業会社を選択した理由、そこで働く意義や醍醐味とは?
 グローバルビジネスの最前線で活躍するプロフェッショナルたちの鼎談からは、エンジニアのポテンシャルが広がる現場の実像が見えてきた。
INDEX
  • グローバルビジネスの高い要求に応えるエンジニア集団
  • 「End to End」スピード感を持ってやりきる
  • IT専門人材であり、“商売のプロ”であれ
  • 専門性の少し外にある、圧倒的な可能性

グローバルビジネスの高い要求に応えるエンジニア集団

──風間さんは昨年9月に入社したばかりとのことですが、ファーストリテイリング(以下、FR)に転職した動機は何ですか?
風間 自分の開発した技術が人々にどのような価値を届けられるか。そこに興味がありました。
 これまで日系大手総合電機メーカーで、長くAI研究に携わってきました。次のキャリアステップとして、AI開発そのものから「AIをどう活用するか」に軸足を移したかったんです。
 実際に入社して、早くも期待以上の手応えを感じています。
 開発したAI技術は社内ですぐ試してもらえて、その効果まで目に見える。しかも、そのサイクルがものすごく速い。目の前のビジネスを改善する“手触り感”のある技術開発に、夢中になっているところです。
大谷 風間はAI研究で多数の実績を持つデータサイエンティストなので、入社を聞いたときは驚きました。
 FRは有明プロジェクトを通じて、デジタルで業務を変革する取り組みを本気でやっているので、そのビジョンに共感して当社を選んでくれたのは、本当に嬉しいですね。
風間 私の前職での研究領域は、人工衛星を使った電力事業やロボットによる倉庫業務のスマート化、鉄道運行や機械制御に関するAIなど多岐にわたりました。
 FRの業務も、服の企画から生産、販売、在庫管理、物流というサプライチェーン全域にわたり、至るところにAI活用による業務改革のポテンシャルを感じています。
 いま進めている全社的な業務改革「有明プロジェクト」でも、AI技術はプロジェクト推進のターボエンジンの位置づけです。
──CTOの大谷さんは、これまでに手がけた仕事で「FRに来たからこそできた」と思うものはありますか?
大谷 入社以来、さまざまなデジタル業務改革を担ってきましたが、とりわけ印象深いのは、2017年からの「デジタルコマースプラットフォーム」構築プロジェクトですね。
 FRが目指す“世界最高の購買体験”を実現するために、店舗とECを融合し、さらには当社の全世界・全ブランド事業の共通基盤となる仕組みをゼロベースで見直しました。
 「グローバルNo.1」を目標に掲げる当社では、エンジニアチームに課される要求レベルも当然高い
 高度なシステムアーキテクチャの導入やクラウド技術の積極活用は、FRならではの非常に難易度の高いチャレンジです。そして、さらにそれをグローバルに広げ、絶え間なく進化させ続けています。
──3人の中で社歴の最も長い堀川さんにとって、FRの醍醐味といえば何でしょうか?
堀川 私が所属するインフラストラクチャ(以下、インフラ)部門の観点だと、“守りつつ攻める”のがFRらしさかな、と。
 インフラは“守り”の要素が強く、いかに“商売を止めない仕組み”をつくるかに日々取り組んでいます。しかし現行システムの維持だけでは、自社の成長スピードに置いていかれる。
 守りと攻めが共存する取り組みとして、たとえば全社システムのマルチクラウド戦略を推進しています。
 当社のように世界中で事業を展開していると、技術的な意思決定に際して、基幹システムのベンダーロックイン(※)以外に、事業存続性の観点からの判断や各国の地政学上のリスクといった面も加味します。これらは当然、技術者たちも理解しておかなければなりません。
※特定のベンダーの独自技術に依存するあまり、他ベンダーの提供するサービスやシステム等への乗り換えが困難になる現象のこと。
 そこで求められるのが、さまざまなクラウドサービスを組み合わせて適材適所で生かしつつ、同時にリスクを排除する仕組みです。GAFAMに代表されるグローバルテック企業がパートナーであり、彼らと日常的にコミュニケーションをしながら、最適な仕組みを構築しています。
 大谷の話にも通じますが、グローバル27の国と地域で、3500超の店舗とECが365日稼働しているビジネスだからこそ、社内には重要なミッションばかりです。

「End to End」スピード感を持ってやりきる

──FRの業務のユニークさについて、エンジニア目線で挙げるならどこでしょうか?
堀川 新しく入社した人からは「スピードが違う」とよく言われます。
大谷 それは間違いありませんね。そもそもアパレルや小売そのものがお客様のニーズの変化が速い業界だけに、そこでNo.1を目指すとなれば、エンジニアに要求されるスピード感も段違いです。
堀川 大谷と一緒に新しいSAP(※)を導入したときが思い出されます。
※欧州SAP製のERP(統合基幹業務システム)パッケージ。財務や人材、商品・物流などの経営資源を一元管理し、経営の効率化を図れるシステム
 海外にいるサービサーの開発者たちと直接の会話や、双方トップ同士の交渉も重ねながら、大容量メモリインスタンスを利用した世界初のクラウドシステムを半年でローンチしましたよね。
大谷 過去の経験からしても、普通なら3〜5年はかかるレベルだったと思います。
 もとからスピード感のある当社ですが、あのときは「どこよりも早く」という経営判断があった。関係各社にも力強くコミットいただいたおかげで、“超”短期間で実現できました。
風間 もう一つ挙げるなら、原則として1人のプロジェクトオーナーが設計から開発や導入までの一連のプロセスを担うのも特徴的ですよね。
 一般的な技術開発だと、研究部門がプロトタイプを開発し、開発部門がリプログラミングし、QA(Quality Assurance:品質保証)部門がテストし……といった分業体制が主流です。
 このやり方は複数人でブラッシュアップできるメリットがある一方で、次にパスしたら自分の仕事は終わりになってしまい全体を見通すことはできません。
大谷 FRはその働き方とは真逆で、「End to End」を常に意識する、というカルチャーがあります。これは、仕事の開始時から常に、最終ゴールを意識して逆算で仕事をする考え方です。
 自らの専門領域から始まり、お客様に効果が届くまでを責任を持ってやり抜く。そういう視野や姿勢がエンジニアにも求められます。
──個々人の裁量が大きく、強いオーナーシップを発揮できる環境なんですね。
堀川 私たちは「全員経営」の考え方で、経営者マインドを持って、一人ひとりが主体的に日々の課題解決や意思決定をしていく姿勢を大切にしています。
 27もの国・地域で事業展開するグローバルブランドのヘッドクォーターとして、全社的な意思決定と、実行にまで携わる。エンジニアとしてこんな経験ができる環境は、滅多に巡り合えないと思っています。

IT専門人材であり、“商売のプロ”であれ

──CTOの大谷さんをはじめ、みなさんはマネジメントを担う立場でもあります。チーム育成で意識していることはありますか?
風間 私のチームでは、メンバーに「プロのデータサイエンティストになろう」と号令をかけています。まずは、世界で戦える圧倒的な技術力を持つ集団になるんだ、と。
 そしてFRという事業会社にいる以上は、技術先行ではなく、サプライチェーン・デマンドチェーン(※)の上流から下流まで業務を理解した上で、技術を扱える人材にならねばいけません。
※消費者側の需要から得られる情報を起点とする販売や生産といった供給の最適化
 つまり、専門知識と業務知識という2軸の成長が求められます。
堀川 私もチームメンバーへは普段から、自分の仕事がお客様にとってどんな価値があるのか、店舗スタッフにとってどう役立つのかを意識しながら仕事を進めるように、と伝えています。
 エンジニアは「木を見て森を見ず」ではないけれど、一つのことに集中しやすい傾向があります。
 さらに私たちインフラ部門は、ともするとお客様から最も遠いところにいるように感じがちです。なおのこと、全体を俯瞰する高い目線を持つ必要があります。
大谷 今の2人の話がまさに、事業会社であるFRがエンジニアリング組織を内製化する理由です。
 エンジニアにも“商売のプロ”として、ビジネス感覚や業務知識を磨き、そういった視点・視座を持ち日々の業務を行う。そうでなければ、内製化する意味はありませんから。
 事業会社でありながらも、風間や堀川をはじめ、優秀なデジタル人材に活躍してもらえる組織風土づくりは、丹原(崇宏CIO)ともよく議論するテーマです。
 今よりもっとエンジニア部門と業務部門とが密接に連携していきたいと思っています。
風間 部署を超えた横のつながりは大切ですよね。
 私たちは今、商品開発などの関連部門で、実際の商品開発業務を経験してもらう短期間の研修を導入しています。業務理解はもちろん、メンバー同士の仲も深まって、日々のやり取りがスムーズになりました。
大谷 つながりで言えば、エンジニアチーム内の風通しをよくしていくことも重要です。
 技術部門を「End to End」で俯瞰し、技術選定やシステムのあり方を全体最適で構想できる人材も育成しなければなりません。
 その一環で、エンジニアチーム合同のイベント「オールハンズ」を開催し始めました。これはFRにとっては比較的新しい職種であるITの内製エンジニアが、会社の価値観と自分の専門性をつなげるために情報共有や課題提起をしていくイベントです。
 一見地味な活動ですが、エンジニアチームが一丸となって有明プロジェクトを進めていく上でも、大きな意味があると考えています。

専門性の少し外にある、圧倒的な可能性

──IT業界ではなく、FRという事業会社での経験は、エンジニアにとってどのような価値があるのでしょうか?
大谷 先ほどFRが求めるものとしてお話しした業務理解は同時に、当社でキャリアを積むメリットでもあります。
 私自身が入社前から持っていた危機感は、これからエンジニアリングのコモディティ化が進み、ITスキル単体で真に世の中に貢献できる余地は、どんどん少なくなっていくだろう、ということです。
 いくら専門性を高めようとも、「何に使うのか」という実務の視点が欠けていたら、成長もきっと頭打ちでしょう。
 ただIT知識とは、“汎用性の高い専門性”。ITの世界から一歩踏み出し、たとえばファイナンスやマーケティングといったビジネス領域との“掛け算”で、エンジニアが活躍できるフィールドは圧倒的に広がると考えています。
風間 まさに私たちの今の業務は、大谷の言う掛け算が大前提。AIという技術力を軸に、いろんな未知のビジネス領域について好奇心を持って取り組んでいます。
 FRの良いところは、どんなに素人目線で質問しても、みんな丁寧に応えてくれるところですね。
堀川 お客様へと同じくらい、一緒に働く人たちへのホスピタリティも大切にするのがFRの文化だし、そういう人だから活躍できる環境かもしれません。
大谷 加えて、世界トップレベルのビジネスを体感できる環境は、長年IT業界に身を置いてきた私が実感している最大の価値でもあります。
 自らのシステムに責任を持って、エンドユーザーであるお客様や業務に関わる方々に価値を提供する。その積み重ねがエンジニアのスキルを、ひいては職業人生を豊かにしてくれると考えています。
 IT人材がより良い専門人材になるためのキャリアアップとして、FRで働くことは大きなチャンスになるはずです。