2022/4/12

【京都】女性100%、全員平等。全て「キラキラ輝く」ため

フリーランス エディター・ライター
日本初の頭のほぐし専門店「悟空のきもち」は、独自に考案した21の手技を用いたドライヘッドスパを行い、「ほとんどの人が10分で眠れる」「まったく予約が取れない」と、現在68万人ものキャンセル待ちを誇る怪物店です。100%女性で構成される、経営企画も役職も給与差も会議もないこの会社。創始者である金田淳美社長に、ブランドを強くする上で大事にしてきたことをうかがいました。
この記事はNewsPicksとNTTドコモが共同で運営するメディア「NewsPicks +d」編集部によるオリジナル記事です。NewsPicks +dは、NTTドコモが提供している無料の「ビジネスdアカウント」を持つ方が使えるサービスです(詳しくはこちら)。
INDEX
  • 何より重要なのは「人気であること」
  • メリットを比べたら、一般的なあらゆる制度がなくなった
  • シフトは完全自由、退職はボタン1つ
  • スタッフの成長は「植物型」で考える

何より重要なのは「人気であること」

「悟空のきもち」が経営の上で重視しているのは「人気であること」です。
金田:「人気軸」経営とは、とにかく店舗が人気であることに主軸を置いたスタイルの経営です。利益を優先して店舗稼働率100%を保つことでもなければ、シェアを優先してどんどん店舗を拡大していくことでもありません。
お客さんが満足するためのサービス向上を常に行い人気を集めるのはもちろん、従業員にとっても「人気」がある、働きやすさと働きがいがある会社になれるか、そこだけに注力して経営してきました。
その結果、現在のように約68万人のキャンセル待ちという結果に。求人応募も年間1,000人を超えます。
2年以上続くコロナ禍でも売り上げを落とさず無傷の経営を続け、第1回で紹介したように「誰も参考にしない、誰の真似もしない」状態で、自分たちらしさを追求しています。
「自分たちらしさを追求しながら人気を集める」ことは非常に難しそうに見えますが、「悟空のきもち」においては、非常に好循環を生んでいます。
金田:現在の「68万人キャンセル待ち」という状態は、「悟空のきもち」のリピート率で考えると、実に40年分の売り上げをストックしている状態です
将来の利益が確約されているので安心して経営ができるのはもちろん、安定があるからこそ「今、目先の利益」ではなく「未来」に目が向き、他との差別化をして理想を追求できます。
誰も参考にせず、誰の真似もしない、他にはない自分たちらしさを出せるから、さらに人気が出てもっと予約の取れない店になる、という好循環が生まれています
「人気軸」というと、店舗を必要以上に小さくして予約数を絞っていると思われがちですが、そんなことはありません。ほとんどの店舗は同業態店舗平均の5倍以上、20席程度の座席数を持ち、スタッフも100人以上を抱え、今も拡大を続けています。
コロナ前は毎年社員で海外旅行に行っていた =提供写真
また、「悟空のきもち」が特徴的なのは、100%女性で構成されていること。金田さんはスタッフ一人一人の成長のために、「女性が一番楽しいことは何か」ということに、常に目を光らせています。
金田:女性って、男性がよく思うような「昇進したい、稼ぎたい、活躍したい」よりも「キラキラ輝きたい、たくさんの人に求められたい、横のつながりの安心感を持って仕事をしたい」と思っている方が多いと思っていて。
特に「キラキラ」の源泉は、人によってまったく違います。日常生活が自由であることの人もいるし、願った家族の形を貫けること、シンプルに好きな場所に遊びに行けることの人もいる
もちろん、仕事でどんどん上がっていくことがキラキラだと思っている人もいるだろうけれど、こちらが「上に行くのがキラキラだから、みんなそこに自分を当てはめてね」と強制するのは違う。
スタッフ一人一人のキラキラした輝きをどうマネジメントするか、と考えたとき、それをかなえられるのが「人気軸」の経営です。

メリットを比べたら、一般的なあらゆる制度がなくなった

女性だけで構成される「悟空のきもち」には、一般的な会社によくあるものがありません。
第1回で紹介したように、経営計画がない。他にも、役職、会議、人事評価、給与差、マニュアルなどが、一切ありません。広告費もかけず、求人サイトや美容サロンの検索サイトにも登録していないなど、ないない尽くしです。
かつては会議や店長などの役職もあり、指名を多く受けたスタッフをランキング化し、歩合給を支払うような人事評価制度を採用していましたが、「運用しても全然うまくいかなかった制度は、やめました」と笑顔で話します。
金田:目の前にあるイヤなことやストレスをひとつひとつ解消したら、今の仕組みになりました。
例えば、店長とそれ以外のスタッフなど縦の階層を作ると、それだけで悩みがたくさん発生する。
役職があるメリットとないメリットを比べたら、ないメリットのほうがはるかに大きく、女性ならではの「横型社会」を作ったほうが効率的でした。
スタッフの悩みから会社の内容を変えていくことを徹底してみたら、今当たり前だと思っている制度そのものが悩みを生んでいることに気づいて、すべてやめました。
「悟空のきもち」施術イメージ=提供写真
ここにも「他の真似をしない」の発想が生きており、一般的な企業に必須とされているものでも、必要がなければやめるのが悟空流です。
金田さんは徹底的に従業員の生の声を拾って、経営に生かしています。その声を拾うのは、会議室ではなく、普通の会話の中からだと言います。
金田:普通の会社って、従業員のこうしたいという希望の意見を公の場で聞こうとするじゃないですか。
でも、いざ意見が欲しいと言っても、そんなところで本音なんてなかなか出てこないし、求めると誰も話さなくなる。言わせた意見に答えなんかない。
それよりは、スタッフとの日常会話の中で、「〇〇さんがこんなことに悩んでいるみたいです」とか、ふと出てきた話を拾ったほうがいい。悩みは今抱えている問題だから、ひとつひとつ改善していきます。
その結果生まれたのが、社長以外は横並びで、従業員は100%セラピストという今の会社のスタイルです。
以前は経理部や人事部なども存在していたものの、今はセラピスト以外の仕事はすべて外注。そもそも、全員がセラピストとして同じ給与で働いているため、そう煩わしい経理作業もありません。
基本給は同じではあるものの、稼ぎたいスタッフのために「バイト」のシステムを採用。月に決められた時間以上の仕事をすると、時給で売上給としてプラスされる仕組みですが、それも社内システムで解決するため、事務作業専任のスタッフはいません。
自分の好きなこと以外は外注するか、システム化する。そうすることで、純度が高い「やりたいことだけ」が残り、やりたいことだけをやり続けているから、能力が上がっていく。
そんな好循環が起きています。

シフトは完全自由、退職はボタン1つ

スタッフの勤務時間も、もちろん「悟空」流です。
一般的な「営業時間の間は、早番と遅番で何人かずつ入れて、常に満席で座席をフル稼働させる」というものではありません。3カ月前にスタッフに希望のシフトを出してもらい、そこに後からお客さんの予約を入れ込んでいく仕組み。
何十万人分ものキャンセル待ちを抱えており、すべての予約枠が埋まるという確証があるため、お客さんに合わせる必要がありません。
スタッフが働く時間がイコールで売り上げになるため、誰がどう休んでも、トータルの売り上げが変わらないため、「好きな時間に働ける」と、スタッフの働きやすさも非常に高い。
これも「人気軸」経営の安定感がなせる技です。
金田:土日は無理に働かなくてもいいよ、ということはずっと言っています。「できれば平日しか働きたくない、朝は起きられない」などのスタッフ側の要望にはできるだけ応えたいんです。
それに加えて、かつてあった「店長が各自の希望を聞きながらシフトを作らなければいけないのがプレッシャー」という悩みを解決し、スタッフの自由をかなえられるのが、この仕組みでした。
完全希望制にしたら、クリスマスや年末年始に近い日などは誰も出勤しないのでは、と予想をしていたものの、いざ運用し始めると「誰も来ない日」は存在せず、ある程度出勤数が多い日と少ない日の差はあるものの、運営できる勤務表ができあがりました。
体調不良などの理由で直前に出勤できなくなった場合、それを会社に伝えるのもストレスになるため、スタッフ間で簡単にシフトの交換ができるシステムを導入し、これもうまく機能しているといいます。
ストレスの原因を徹底的につぶす施策は、枚挙にいとまがありません。金田さん自身が「スタッフに退職の相談を受けるのがストレスだった」ということから、なんと「退職ボタン」を押せば、最後のシフトを入れた次の月からやめることができるシステムまで存在しています。
金田:そんなボタンを作って、万が一みんながバンバン退職したらどうしようと思ったのですが、特に退職者数は増えませんでした。むしろ、いつでもボタンを押せる仕組みにしたことで、不満が溜まりにくくなり、社内の雰囲気は良くなりました。
何かを変えるとき、つい悪い想像ばかりしてしまいますが、意外とその想像は当たりません。起こりうる未来のリスクよりも、変えたことによる幸せの量のほうが大きいことばかりです。
さらに、会社の肝となる採用。一般的には面接で決まることが多いですが、悟空では面接はすることも、しないこともあると言うのだから驚きです。
既存のスタッフと似た属性を持っている人をSPI試験などで判定したり、動画を撮影して送ってもらう試験だったりと「本人が話す必要がないもの」で採用を決めるのには、こんな理由がありました。
金田:面接をやってみた結果、面接のうまさと能力はイコールではないと気づきました。
面接だとどうしても「面接がうまい人」を採用してしまいがちですが、それはうそをつくのが上手な人の可能性もある。本当は能力を秘めているのに、面接が下手な人を面接で落としてしまうことのデメリットのほうが大きいので、採用においては面接がすべてではないと考えています。

スタッフの成長は「植物型」で考える

この「人気軸」経営の考え方は、スタッフの成長にも大きく貢献しています。
金田:私は人の成長を「植物型の成長」と考えています。植物って、光を浴びてお水があれば勝手に成長するじゃないですか?
それと同じように、キラキラした光を浴びていれば、人も成長する。人気があったり、人に強く求められたり…。
そうやって「光」を会社側が出せる状態をつくることで、人が成長して、ひいては会社も成長します。
働くスタッフがどうしたら輝けるかを常に考え、そのための企画や制度も積極的に導入しています。
例えば人気の社外交流企画「VS悟空」。
会社のBBQで、スタッフが彼氏や友人を連れてきたときの「いつもと違う輝き」を目の当たりにし、「社外の人と交流することで、自分たちの価値を再認識できる光が出る」と気づいたことからスタートしました。
会社BBQ時の写真。この時のキラキラが素晴らしかった、と金田さん=提供写真
さらに、取材などがあれば、事前に申請することで優先的に立ち会える制度なども存在しています。取材を受けるのは宣伝というより従業員満足度のためと、金田さんは言い切ります。
金田:自分が会いたかった有名人に会えて施術ができた…そのときの光は、強いパワーがあります。やる気も出るし、もっと技術を磨こうと成長するし、何より感動する。
結局、自分の中から湧き出た何かがなければ、感動は生まれません。
今の悟空に「技術チェックのための研修」やマニュアルが存在しないのも、同じような理由です。マニュアルがあるとそれを守ることだけに力を注いでしまいがちですが、マニュアルはコピーでしかないし、コピーはすればするほど劣化する。
それよりも、自分の中から生まれたものを大切にしてほしいんです。
金田さんが見つめるのは、目の前の利益ではなく、常に未来の成長です。「人気軸」経営に振り切ったことによる好循環が、それを可能にしています。
金田:スタッフをフル稼働させれば、目の前の利益は上がるけれど、それよりも「光」を浴びてもらうことが大事。
多くの人に求められる人気を実感しながら、自分の好きな時間に自由に働いて、プライベートの時間も大切にする。
誰も無理せず、誰も疲れず、自然体でキラキラ輝きながら成長することで会社にそれが還元されて、循環していく。
どんな学習や施策よりも、自分たちが自分たちで居続けることが何よりの成長術。そうやって未来を優先して、みんながプラスになるのが「人気軸」経営です。
金田さんの「人気軸」経営を語るうえで欠かせないのが、「ドラマ」という考え方です。
次回、強いブランドに必要不可欠な「ドラマの作り方」、そして今後の展望についてうかがいます。
Vol.3に続く(※NewsPicks +dの詳細はこちらから)