2022/5/18

独自の“文化”こそ強み。地域に眠る「ポテンシャル」を解放する術 

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
東京一極集中の限界が叫ばれるなか、独自の文化や産業を持つ地域の可能性が見直されている。その一方で、みずからの強みや個性を活かしきれず、地域が持つポテンシャルを十分に発揮できていない現実も指摘されている。
そんななか、「地域企業が、今後日本のグローバル競争に新たな可能性をもたらす」と語るのがボストン コンサルティング グループ(BCG)のマネージング・ディレクター&シニア・パートナーの井上潤吾氏と、マネージング・ディレクター&パートナーの植田和則氏だ。
同社は2020年7月に大阪と京都にオフィスを同時開設し、今年4月には福岡オフィスもオープンするなど、首都圏以外に拠点を置く企業の変革支援に注力している。京都オフィスのリーダー、福岡オフィスのリーダーをそれぞれ務める2人に、地域企業のポテンシャルを解放するための支援について聞いた。

独自の文化と伝統が地域の強み

──東京とそれ以外の地域のビジネス環境の違いをどのように捉えていますか。
植田 BCGが支援する企業は、本拠地が東京であれそれ以外の地域であれ、グローバルな事業環境にある会社であるケースがほとんどです。
今日はその観点からお話ししますが、ファーストリテイリング(山口)や任天堂(京都)など、東京以外の地域が発祥で世界進出している企業は数多く存在します。「グローバル市場」で戦うという点において、両者の競争環境に大きな違いはありません。
とはいえ、地域ならではの課題として、経営資源の確保の難易度が高いことが挙げられます。代表例が人材で、特にデジタル人材の確保は東京に比べて非常に難しい。人材確保のために、拠点を東京へ移すケースもあります。
井上 東京とそれ以外の地域では、現状では情報に対する感度の差が一定あります。
東京には海外のビジネススクールで学んだり、グローバル企業で実績を積んだりした情報感度の高い経営人材が数多く集まっています。メディアだけではなく、イベントなどリアルの場で最新のビジネストレンドを知ることができます。
首都圏以外でも経営者同士の交流は盛んで、グローバルのビジネス実績を積んだ情報感度の高い人材も増えてはきているものの、東京に比べるとまだ少ないのが現状です。
世界的に見ると、日本のように一極集中している国は少数で、米国やドイツ、中国などでは、各地に各国の注力産業が分散しています。産業も人口も東京に集中している状況では、地域企業が前述した人材採用や情報格差の問題に苦しむことは少なくありません。
──では地域企業ならではの強みや優位性はどこにありますか。
植田 地域固有の文化や伝統が経営にも色濃く反映されるのが、地域企業の特色であり、その独自性が強みです。
たとえば、京都は他の地域にない特色ある文化を築いてきた伝統があるだけに、企業経営でも「誰かの真似をすべきではない」という独自のカルチャーが根付いています。
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京セラや日本電産、村田製作所、オムロンなど、京都には名だたるグローバル企業が存在しますが、それぞれが他社には真似できない、ユニークなカルチャーやサービスを生み出しています。
一方、同じ関西でも商人の町として発展してきた大阪は、また違った特色があります。
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日本の大企業の多くが閉塞感を抱えるなか、大阪は、商売っ気が強いと言いますか、「自分たちはこれからも圧倒的なスピードで成長し続ける」と確信している企業が多い印象があります。

ポテンシャルの探索から伴走する

──地域独自の価値を発揮した経営を実現するために、コンサルティングファームはどのような貢献ができると考えますか。
井上 BCGは“Unlocking the potential of those who advance the world”をパーパスに掲げ、クライアントがポテンシャルを解き放つための支援をさせていただくことが私たちの存在意義であると定めています。
どの企業も目の前にある課題にどう対処するかに意識が向きがちですが、一度視野を広げて自社の可能性を探索すれば、より大きなチャレンジが可能になる。
よって首都圏以外の地域のお客様に対しても、ポテンシャルがどこにあるかを探すところから一緒に考え、伴走するのが私たちの役割です。
植田 特に最近は新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻など世界的な混乱が次々と起こり、企業も対応に追われています。
 第三者がまずクライアントの方々の志や思いをしっかり理解したうえで、「御社が思い描く将来像と、足下のマクロ環境も踏まえると、こんなことを考えることになるのでは」と客観的な立場から投げかけて、新しい気付きと視野の広がりを感じていただくことに価値があると思っています。企業の経営陣と長期的な戦略も含めて話をさせていただく機会がある私たちだからこそできる支援を目指しています。
──地方創生や地域企業の再生を手がけるコンサルティングファームの中には、東京で成功した手法や事例をそのまま地域に持ち込んで失敗するケースも多いという指摘があります。
井上 そもそも戦略とは個々のお客様に合わせて考えるのが前提にあり、他の成功事例を流用すればいいという発想は私たちにはありません。
ただ逆説的になりますが、地域企業を支援する際に、地域の特性や歴史・文化、地元の競合企業や顧客の傾向といった個別の事情を加味したうえで戦略を考えた結果、「この場合は東京の事例と同じ考え方が適用できるのではないか」という判断になることもある。東京どころか、パリやロンドンなどの事例と同じ考え方が適切な場合もあります。
なぜそうなるかといえば、BCGは世界中のどのオフィスでも共通の思考法を用いるからです。すべてのコンサルタントが個々のお客様にとっての最適解を導き出そうとするからこそ、使う手法やフレームワークは似たものになる。
私もいくつかの海外オフィスで働いた経験がありますが、使う言語は違えど、メンバーの価値観や仕事の進め方には共通点が多く見られました。
とはいえ、インプットが違えばアウトプットも当然違います。同じ思考法を用いても、先ほど挙げた個別の事情や経営陣の思いによって、導き出す結論は変わってくる。いずれにせよ重要なのは、最初から他の地域や企業と比べるのではなく、あくまで目の前のお客様を起点に考えることです。
植田 BCGのコンサルティングは、テーラーメイドであることを大切にしています。同じ地域や業界でも会社ごとに抱える事情は異なるうえに、同じ会社でも5年前と現在では状況が変化します。
だから私たちは常に、自分が今向き合っているお客様が何に悩んでいるのか、どのようなインサイトを提供できるのかを徹底的に考え抜く。それがコンサルティングファームとしての責任だと考えています。

大阪、京都、福岡にオフィスを開設

──BCGは2020年7月に大阪・京都にオフィスを同時開設し、今年4月には福岡にも新たなオフィスをオープンしました。
井上 私たちが地域に拠点を置く意義は、大きく2点あります。
1点目は、地域と世界をつなぐこと。日本企業が地域からグローバルへ出て行くための支援はもちろんのこと、逆に海外企業が首都圏以外に拠点を開設し、日本でビジネスを展開するための支援を強化することも重要です。
2点目は、地域創生です。東京に比べてそれ以外の地域の経済圏は小さく、大都市を抱える福岡でさえ、中心部から少し離れた地域では過疎化の問題に直面しています。京都や大阪も含め、東京から離れた地域をいかに活性化するか。これは日本の未来を左右する、重要なテーマであると考えます。
植田 私は以前から京都や大阪の企業を中心に支援してきましたが、BCGのコンサルティングを必要としてくださる会社はまだ多い。
ですから関西に拠点を構えて私たちの仲間を増やし、集団として地域の発展や地元企業の成長に貢献できる体制を確立したいと考えたのです。
私がBCGらしいと感じるのは、大阪と京都の両方にオフィスを構えたこと。
大阪拠点のオフィス風景(写真提供:BCG)
新幹線で30分もかからない距離に2つのオフィスを同時開設するのは会社としても大きな挑戦でしたが、BCGグローバルに対して大阪と京都の地域性の違いを詳細に説明し、「テーラーメイドのコンサルティングを提供するにはどうしても両方必要なのだ」と伝えて了承を得ました。このように、チャレンジを推奨するカルチャーが根付いているのもBCGの特長です。
京都拠点のオフィス風景(写真提供:BCG)
井上 大阪と京都に拠点ができたことで、BCG社内にも活気が生まれました。日本全体に閉塞感が漂う中、BCGは国内で積極的にチャレンジしている。それを見て、特に若い世代は元気づけられたようです。
そこでさらなる新拠点を作ろうとの気運が盛り上がり、福岡オフィスの開設が決まりました。福岡を選んだ理由は、「アジアの玄関口」として大きなポテンシャルがあること。
(istock:bee32)
近隣諸国にとって地理的にも歴史・文化的にも近く、アジアの企業がアクセスしやすいのが魅力です。将来的には隣国の韓国、中国、台湾、さらにその先のベトナムやマレーシア、シンガポールなどの東南アジア諸国までつなげた「アジアコリドー」を形成したい。福岡に活気を呼び込み、日本各地へ波及させて地域を元気にするのが目標です。
福岡拠点のオフィス風景(写真提供:BCG)
──これまで手がけた案件にはどのような事例がありますか。
植田 地域社会にとってのインパクトが大きいと感じた、インフラ業界のある企業のご支援について少し紹介します。これから人口減少が加速すれば、自ずと本業も周辺事業も縮小しますし、事業を取り巻く環境も大きく変化します。
そこで20年、30年先を見据えた中期経営計画の策定から私たちがお手伝いし、物理的なインフラでの勝負からサービスを提供する企業へと進化する道筋を描き、現場の従業員を巻き込み企業全体の変革を進めるための支援を行っています。戦略策定から実行段階まで張り付き、クライアントと一緒に悩み、汗をかきながら伴走する。これはBCGだからこそできる支援だと思います。

地域からグローバルへ

──関西や福岡のオフィスにはどのようなメンバーが集まっていますか。また今後は、どんな人材にジョインしてほしいですか。
植田 大阪と京都で活躍しているのは、「この地域を盛り上げたい」「地元企業を強くしたい」という情熱を持った者ばかりです。同時に多様な強みやバックグラウンドを持つ人材が集まっていて、それぞれが自分らしいやり方でお客様やチームに貢献しています。
BCGはグローバル全体で見れば一定の規模がありますが、各オフィスは基本的に小集団なので、一人一人が自分の個性を思う存分発揮できます。
関西には他人と違うユニークなことに挑戦したいと考えるお客様が多いので、チャレンジ精神に加えて遊び心を併せ持った人が向いています。
井上 福岡についてはBCGの顧客基盤がほとんどなく、地元でお客様の信頼を得るところから始めることになります。その意味ではスタートアップで働く感覚に近いのではないでしょうか。
全く新しいフィールドで、アイデアや解決策をイチから作り上げる。それはとても楽しくワクワクするチャレンジになるはずです。
植田 まだオフィスとしての規模が大きくない大阪や京都は、ある意味でBCGにとっても「イノベーションのフロンティア」と位置付けられると思っています。
私としては、メンバーには自分がやりたいことにどんどん挑戦してもらい、いずれはBCGグローバルで「大阪や京都で面白いことをやっている」と話題になるくらいの成果を出して、世界に向けて新しい手法や事例を発信できるオフィスにするのが目標です。
──地域でキャリアを積むことで、コンサルタントとして東京とはまた違った成長や醍醐味が得られるのですね。
植田 地域の成長も国の成長も本質は同じで、結局は「いかに国際競争力のあるプロダクトやサービスを作れるか」にかかっています。
京都や大阪、福岡が東京に並ぶ強さを持ち、かつ東京とは違った独自性をさらに発揮できる都市になれば、それぞれのカラーに惹かれて多様な人材が集まり、一つの生態系が出来上がる。
そうなれば日本の国際競争力はより強化されるはずです。その成長に伴走させていただく関西や福岡のオフィスも独自のカラーを打ち出し、BCGの異端児でありたいと考えています。
井上 すでに都市として成熟した場所からは、新たなイノベーションは起きにくい。ならば富や人口を分散し、他の地域からイノベーションを起こすしかありません。
社会にとって一極集中が非最適であることは以前から明らかでしたが、コロナ禍で多くの人がそれを実感するようになりました。リモートワークが拡大したことにより、個人が仕事のために東京で暮らす必要性や、企業が東京に本社を置くメリットは少なくなりました。
よって今こそ日本社会を一極から多極へシフトし、最適化への流れを加速させるチャンスです。このタイミングで地域を元気にできれば、日本全体が一気に変わる。そのために貢献できることは、コンサルタントとして得がたい経験になるはずです。
地域企業のコンサルティングやBCGのビジネスに少しでも興味を持っていただけた方がいたら、ぜひ一度気軽にお話しできると嬉しく思います。
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