2022/4/13

目指すは時価総額1兆円。“超”優良ベンチャー「RevComm」の正体

NewsPicks Brand Design Editor
インサイドセールス市場の伸長を追い風に急成長を遂げる、音声解析AI電話サービス「MiiTel(ミーテル)」。大手企業をはじめ1300社以上が導入、3万2000ユーザー(2022年3月時点)が利用している。

開発・運営する株式会社RevComm(レブコム)はこれまでに累計17億円の資金を調達。「TechCrunch TOKYO2019 スタートアップバトル ファイナルラウンド」「B Dash Camp」など数々のピッチコンテストで受賞しており、Forbesで「日本の起業家」「非上場クラウド企業」トップ20に選ばれるなど、多くの経営者や投資家からも注目されているネクスト・ユニコーン候補だ。

RevCommの代表を務める會田武史氏はこの急成長を「必然だった」と語り、さらには「時価総額1兆円」という野望を掲げているという。會田氏はどのような勝ち筋を描いているのだろうか。
INDEX
  • 知る人ぞ知る、ネクストユニコーンの実態
  • 電話のブラックボックス化問題を解決する「MiiTel」
  • なぜ、MiiTelは急成長を遂げたのか?
  • テクノロジーの力で、「人が人を想う社会」を作る

知る人ぞ知る、ネクストユニコーンの実態

──ネクスト・ユニコーン候補として熱い視線を注がれている中、會田社長は「1兆円企業を目指す」と断言されています。強気な数字ですが、道筋は見えているんですか。
會田 創業から10年目になる2027年に、時価総額1兆円に到達したいと思っています。
 こういう話をすると、「え、何を言ってるの?」「無理だよ」ってみんな最初は言うし、もちろん難易度は高い。でも、私の中では「イケる」という手触りを感じている数字です。
 SaaS業界における一般的なPSR(株価売上高倍率)の数値を20倍と仮定しましょう。つまり、20年分の売上が企業価値だと考えると、1兆円を達成するために必要な年間売上高は500億円、月間売上高は41.6億円です。
※PSR(Price to Sales Ratio:株価売上高倍率)…時価総額を年間売上高で割ったもの。株価の割高・割安を判断する指標として用いられ、目安として20倍以上が割高だと言われている。
 では、月間売上高約40億円を達成できるのか?
 できます。「MiiTel」の1ユーザーの基本料金は月額5980円。そうすると約66万人のユーザーを獲得できればいいわけですが、我々のターゲット市場となる日本の営業人口は800万人超、コールセンター市場の人口は約100万人と非常に大きく、すでに海外進出も果たしています。
 また、2018年10月の正式提供開始から3年半で3万人のユーザーを獲得できており、ユーザー数が毎年倍々ゲームで伸びているスピード感を考慮すると、充分に達成可能な数字と見ています。
 また、別の切り口から考えると、当社はネガティブチャーンと呼ばれる、契約開始後に解約にいたってしまう解約金額よりも追加のIDやオプション販売による追加売上高のほうが大きい状況になっています。
 今、この瞬間に新規営業を止めても、1年後には当社の売上高は自動的に伸びていく状況を意味しており、それだけ顧客から高く評価されているということですから、これは当社の強さだと思います。
 こういったことを考えると、このまま成長していけば時価総額1兆円は実現不可能ではないと考えています。

電話のブラックボックス化問題を解決する「MiiTel」

──継続率の高さについてお話しいただきましたが、「MiiTel」は2018年にサービスを開始し、すでに3万ユーザーを突破しています。多くの企業から支持される理由をどのように考えていますか。
「MiiTel」は電話営業やコールセンター対応をAIで可視化して生産性を上げるサービスです。可視化によって電話営業の課題を解決できる点を多くの企業がメリットに感じているからだと考えています。
 これまで電話でどのような対応をしたかは当事者にしかわからず、ブラックボックス化していました。これによって、多くの潜在的な問題がありました。
「記録が残らないので自分の会話を振り返りにくい」「別の担当者に共有しにくい」「報告に担当者のバイアスがかかる」「電話後に内容をシステムに入力する手間がかかる」「ファクトベースで失注分析ができない」「新人教育に時間がかかる」など。
 ブラックボックス化の結果として、「1日100件電話しろ」と架電数をノルマにする営業方法が長いことまかり通っていたんです。
 新人教育においても「モノを売るんじゃなくて、自分を売るんだ!」といった抽象的な精神論のアドバイスのみで、具体的な改善ポイントがわからない状況に陥ってしまうこともありました。
 こうした問題を解決するのが「MiiTel」です。AIで電話内容を自動で文字起こしするとともに、話をしている時間や聞いている時間、会話のかぶり具合、ラリー数、話をするスピードなどを分析します。
 例えば、営業や顧客対応の世界には「ペーシング」という概念があります。お客様と同じくらいの速度で話しましょうということなのですが、これには生物学的な根拠があって、話している速度と脳の処理速度が相関するからなんです。
 そのため1秒11文字で話している経営者に対して、営業が1秒5文字のペースで話すと、すごくイライラされて電話を切られてしまう。
 こういったことを定量的に振り返ることで、営業や顧客対応の質が短期間で向上します。
──自分がどのような口調で電話をしているかを振り返る機会はないので、定量的なデータで分析できると改善サイクルがすばやく回りそうです。どのような仕組みで電話の内容が解析されるのでしょうか。
「MiiTel」では、アメリカで50万回以上の営業電話を解析した調査データをもとに、日本向けにアジャストしたアルゴリズムを構築、成約率の高い話し方などを点数化しています。
 一言で営業といってもB2BかB2Cか、相手はビジネスパーソンか高齢の方か、扱っている商材は何かなどによって、成約につながりやすい話し方は異なりますよね。
 こういった顧客の状況に合わせ、話し方の採点項目の重み付けなどについても、「MiiTel」はクリック1つでチューニングができます。
──導入企業からはどんな反応が寄せられていますか。
 アポ率や成約率が大幅に上がったという声のほか、そもそもの架電数が上がって効率が良くなったという声もあります。
 電話をかける時に10桁の電話番号を押しますよね。これ、どんなに早く押しても1回あたり9.7秒かかるんです。試してみてください。1日に100件電話したら970秒。10人のチームでやったら9700秒です。
 この電話番号を押すだけの時間と人件費、無駄ですよね。「MiiTel」だとクリック1つで発信できて、間違い電話も減るので、大幅に効率化できます。
 さらに、セルフラーニングができるため新人教育の期間が大幅に減った、という声もあります。「早口だったな」「説明がわかりにくかったな」と自分自身で振り返ることができ、改善していくことで成約率も上がる。
「顧客対応はツライ」となりがちだったのが、ぐんぐん成績が上がればモチベーションも上がりますよね。
 最近ではZoom連携に対応し、営業電話以外のシーンでも活用されるようになりました。
 例えば、人事の1on1面談や病院での研修医向けトレーニングなどで、相手の本音を引き出す話し方、安心させる話し方を定量的に分析するツールとして「MiiTel」が使われています。
 これに限らず、口頭でのコミュニケーションが発生する場所のすべてで、「MiiTel」が活用できる可能性があると考えています。

なぜ、MiiTelは急成長を遂げたのか?

──MiiTelが市場で優位に立てている要因をどう分析していますか。
 サービス開発においてはカスタマードリヴンが大事とよく言われますが、当社では徹底してお客様から上がってくる「イシュードリヴン」で開発を進めてきました。
 お客様にヒアリングすると、例えば「営業トークを振り返れない」「入力が手間」といった表面的な課題はたくさん出てきます。当社では、こうした表面的な課題を解決するプロダクトではなく、そうなってしまう“本質的な課題は何か”を考えることを重要視しています。
「誰の」「どんな課題を」「どこまでのレベルで」解決するのか、時間をかけて定義づけするんです。
 その結果、たどり着いたのが「営業電話のブラックボックス化」という普遍的で本質的な課題でした。この部分を徹底的に突き詰めてきたからこそ、お客様の役に立てていると感じています。
 次に大事なのが、「どうやるか」の戦術の部分。実現するためには、仲間が必要です。
──人材に対する考え方をお聞かせください。
 大前提として、我々のミッションに強く共感し、バリューを体現してくださる方と働きたいと思っています。ただし、想いだけで実現できるほど簡単な事業ではありません。
 そのため、まずは戦術を実現するために必要な人材を分解して把握しなければいけません。
「MiiTel」の開発で言えば、クラウド電話を作る、解析エンジン、Webアプリケーション、モバイルアプリの4領域の技術が必要です。
 実はこの分解が難しく、できていないケースも意外と多いのです。また、すべての領域を担える人材は、なかなかいません。
 ではどうするかというと、各分野のスペシャリストに仲間になってもらい一緒にサービスを作っていくしかない。これが最強で最短だと思います。
 高度な人材を口説き落とすためには、戦略と情熱をきちんと伝えること。そうして、ミッションやカルチャーに共感していただいた方に、RevCommの仲間になってもらっています。
 あとは入社いただいた方にどうやってモチベーション高く活躍してもらい、一緒に世の中を変える仕組みを作っていくか。企業成長とともに個々人の成長やライフステージも変化していく中で、一緒に働き続けられる環境があるかも重要です。
 そのためにコロナ禍以前から、リモートワークやフルフレックスを基本にするなど、社内の環境作りにも積極的に取り組んでいます。
──会社を急成長させながら、カルチャーを維持するのは難しそうです。
「資金調達だ! ユニコーンになるから、みんなやろうぜ。給料はめちゃくちゃ高くするから」なんて調子で、勢いだけで人を増やしていったら、組織崩壊のリスクもありますよね。
 目先の数字だけを追えば、もっと早く成長することもできるかもしれません。でも、地に足の着いた組織を作りながら、着実に成長を続けていくことが将来、より大きく飛躍するためには重要です。
 そういう意味では、高成長をしっかりと実現しP/Lを作っていきながら、カルチャーも浸透させていく。良いバランスを保ちつつ成長を叶えてきました。
──ここまでの急成長の背景にはコロナ禍によるインサイドセールス市場の伸長があるかと思います。市場の外的要因をどうお考えですか。
 コロナ禍においてリモートワークが加速したことで、結果的に「MiiTel」の需要が伸びたという側面はありました。しかし、コロナ禍が起きなくても、インサイドセールスが今後伸びるというのは予測していました。
 というのも、ここ数年で経営のマネジメントの在り方が大きく変わってきているからです。
 2016年頃からホラクラシー組織、ティール組織などが広まって、組織の在り方がマネジメントからエンゲージメント重視に変わってきました。その中で、1on1やコーチングなども注目されましたよね。
 上から下へ伝達する中央集権的な組織ではなく、同じ方向を向く仲間を集めて組織を作るという考えになってきた時に、物理的に空間を共有する考え方も古くなっていくだろう、そう考えていたんです。
 実際、アメリカでは10年前くらいからインサイドセールスが激増していましたし、日本にこの波がやってくるのは必然だったと思います。
──コロナ禍はインサイドセールスが広まる流れを加速させて要因のひとつにすぎない、と。
 そうですね。そして、アフターコロナでもこの流れは続くと思います。経営者の視点から見れば、移動コストを伴わず、リモートで売ることができると一度知ってしまったら、元に戻すのは不合理ですから。

テクノロジーの力で、「人が人を想う社会」を作る

──時価総額1兆円達成までの道のりで、今後どんな取り組みをしていく予定ですか。
「MiiTel」の先に私たちが目指しているのは、2027年までに経営判断AIのサービスを立ち上げることです。
 一言で言うと、Amazonのレコメンド機能の経営版。「MiiTel」を通して蓄積した膨大なデータと企業独自の経営情報を統合し、経営者の判断をサポートするようなイメージです。
 新規事業や海外展開などを進める際、膨大なデータから可能性を検証し、手探りで始めるケースが多いと思います。しかし実績のある人材がいなければ道のりは過酷です。
 そこをサポートし、企業が本質的に成長できるプラットフォームを作っていきたい。それによって空いた時間を、さらなる企業の成長につながる他の取り組みや、自分自身の暮らしを豊かにする時間に使ってもらえたらと願っています。
「MiiTel」や経営判断AIを活用したコミュニケーション革命によって最終的に僕たちが目指しているのは、「人が人を想う社会」を作ることです。
 本当の意味でのコミュニケーションは、感動を揺さぶり、情動を起こすもの。これを可能にするためには、もっと一人ひとりが余裕とゆとりの持てる社会を作ることが必要です。
 そのための1つの方法として、テクノロジーを活用して仕事の在り方を変えていく。あるいは、営業電話の煩わしさから解放する。そして時間と心にゆとりが生まれれば、より多くの人が人を想えるようになり、自分のやりたいことを楽しめるようになるはずです。
 AIがヒトを淘汰するのではなく、AIはヒトの可能性をより引き出すもの。そういう世界を、RevCommは目指していきたいと考えています。