2022/3/31

【新連載】スタサプ小宮山氏が語る、「棚ボタ」の受け止め方

NewsPicks Student Pickerがプロピッカーにインタビューを行う新連載『素人質問で恐縮ですが』がスタートします。
さまざまなキャリアを歩んできたプロピッカーの方々が、過去にどんな選択をしてきたのか。現在の活動の背景にはどんな原体験があったのか。そして、どんな未来像を描いているのか。
インタビューについては「素人」ながらも、さまざまな分野のニュースや事象に強い興味関心を持つNewsPicks Student Pickerが、学生の視点からインタビューを行う企画です。
第1回に登場するのは、スタディサプリ教育AI研究所所長の小宮山利恵子氏。インタビュアーは、Student Pickerの渡辺日菜子氏、野上秀馬氏、そして東亜希哉氏が担当します。

「勉強しなさい」とは言わない

渡辺 慶應義塾大学文学部3年の渡辺日菜子と申します。私は小宮山さんと同じように母子家庭に育ち、時には孤独感や経済的な負担をかけてはいけないというプレッシャーを感じることもありました。
小宮山さんは中学2年という多感な時期にご両親が離婚されたそうですが、当時の精神的な負担やストレスをどうやって乗り越えてきたのでしょうか。
小宮山 母が教育熱心な人で、幼いころから「学ぶほど機会の扉が開く」という話を聞かされていたので、勉強はするべきだという思考が染みついていました。
その一方で経済的な余裕がなかったので奨学金を受けられなければ進学できないというプレッシャーは私も常に感じていましたね。
だから勉強するしか選択肢がなくて、忙しかったんです。落ち込んだり過剰に反抗したりするような余裕もなかったのが、良かったのかなと思います。
思春期に限らず大人になっても、暇にしているとネガティブなことを考えてしまいやすいですから。
渡辺 一般的には、親に「勉強しなさい」と言われるほどやる気を失う人が多いと思うのですが、小宮山さんのお母様の声かけは何が違ったのでしょうか。
小宮山 「勉強しなさい」といった直接的な声かけをされた記憶はあまりなくて、いつも母が横で一緒に勉強してくれていました。そばで教えてくれたり、母自身が自分の勉強をしたりしていたんです。
私にも中学生の息子がいるのですが、「勉強しなさい」と言ったことはありません。おかげで1日7~8時間もゲームをしているような子だったんですが、去年から急に「ゲームは生産的じゃない」と言い出して、猛勉強するようになったんです。
ゲームも生産的な部分はあると思うので、私自身は否定的ではありません。何か考えを変えるきっかけがあったのでしょうが、私が普段から仕事や勉強に没頭している様子を見ている影響もあるのかなと思っています。
休日はいつも朝7時からをインプットの時間に充てていて、息子もそれを知っているので。

親以外の大人が認めてくれた

渡辺 確かに「勉強しなさい」と言われるより、親が勉強している姿を見るほうがずっと、子どもの心には響きそうです。
小宮山 私の場合、先生にも恵まれました。小4までの担任は子どもを細かく管理しようとする人で、その枠にはまろうとしない私は怒られてばかりでしたが、5年生からの担任は目標だけを示して好きなようにやらせてくれたんです。
私がいる前で母にも「この子はきっと大成するから、自由にやらせてあげて大丈夫」と言ってくれました。親以外の大人が自分を認めてくれたことがうれしくて、やっと自信を持つことができたんです。
渡辺 私も普段、中学生に対する教育ボランティアの活動に取り組んでいるので、そんな風に子どものいいところを認める接し方をしたいと思いました。
今、子どもの生きる力を育むことをビジョンに掲げた新しい学習指導要領がスタートしていますが、小宮山さんは子どもが力強く生きていく力を育むために、親や周りの大人は何ができると思いますか?
小宮山 子どもにはアドバイスなんてできないという前提を持つことですね。たとえば今、多くの自治体で小中学生にタブレットを配布していますが、渡辺さんのころはそんなことなかったでしょう?
時代はものすごいスピードで変わっているので、渡辺さんが子ども時代を思い出してアドバイスをしても、ピントがズレてる可能性もあるんです。年の近い大学生でもこれだから、親子だったらもっとそうですよね。
でも、物事の本質や普遍的なことは別です。細かいことは子ども自身に任せて、大人は本質的なことを伝えてあげられる存在であってほしいですね。

無理にやる気を出さなくていい

野上 神戸市外国語大学外国語学部1年の野上秀馬と申します。僕は海外の文化を学ぼうと奨学金を受けて今の大学に進学しましたが、入学当時のモチベーションを維持していくのが難しいと感じています。
小宮山さんは大学院まで進学して研究を深めていましたが、どうやってモチベーションを維持してきたのでしょうか。
小宮山 モチベーションは水物ですから、そもそも信じていません。
どんなに高い志を持っていてもやる気の出ないときはありますし、「この勉強が終わったらお菓子を食べよう」などとご褒美を用意しても、すぐに慣れちゃって効果がなくなりますよね。
教育の領域でも学習の意欲と継続は二大課題といわれているぐらいで、みんな困っているんです。モチベーションに関する書籍も山ほど売られていますが、それは失敗する人がそれだけ多いということなんです。
野上 僕も頑張ろうと思って参考書を買うんですが、積読状態になってしまっています。
小宮山 必要なのは、無理にやる気を出そうとするのではなく、行動することだと思っています。やる気がなくても机の前に座って本を開いたり、パソコンを起動する。
そうやって行動すると、脳が「あれ? 勉強するのかな?」と騙されて、やる気を出してくれるという実証もあるんですよ。

大学生に戻れたらやりたい3つのこと

野上 なるほど、当てにならないモチベーションに頼るのではなく、とにかく行動することですね。
ただ、コロナ禍で僕の周りの学生の多くはサークル活動をほとんどできていないし、そもそもキャンパスに通学したり他の学生に会う機会も少ないです。
この春に大学2年生、3年生になる学生の約6割が、コロナ禍で思い描いていた学生生活を送れていないという調査結果もあります(ビズリーチ・キャンパス調べ)。もし小宮山さんが今、大学生だとしたら、どんな学生生活を送りますか。
小宮山 やりたいことは、3つありますね。第一に、学生起業。第二に、インターン。興味ある企業にかたっぱしから飛び込んで行って、ビジネスの現場を体験してみたいです。第三に、在学している大学以外の講義もたくさん受けたいですね。
野上 それはどうしてですか。
小宮山 どれも私の学生時代にはできなかったことだから。今と違って留学には行けたけれど、起業する選択肢やインターンというしくみもほとんどなくて、社会経験を積むにはアルバイトぐらいしかなかったんです。
学びながらビジネスを実践すれば、学生時代からたくさんの知見を積み重ねられるはずなので、ぜひやってみたいです。
今の学生さんはコロナ禍でリアルな体験が制限されてしまっているけれど、物事には必ず良い面と悪い面があります。
たとえば、オンラインとはいえ、ハーバード大学やスタンフォード大学の授業を無料で受けられるなんて、コロナ前は考えられませんでしたよね。
野上 なるほど、コロナ禍だからこそ得られるチャンスもありますね。僕の周囲ではオンライン留学という形で海外にアプローチしている人もいて、新しい選択肢が生まれています。
それでも海外への往来が自由にできるようになったら、リアルな留学に挑戦するべきだと思いますか。
小宮山 ぜひ、挑戦してほしいです。今いる場所を飛び出すとたくさんの不便に直面するものですが、こうした不便を乗り越える経験とスキルがこれからより重要になると思うから。ポジティブな形でこうした経験を積むには、留学が一番です。
もちろん、異文化を理解したり、世界中にコミュニティーを作れたりと、ほかにもメリットはたくさんあります。
旅行で終わってしまうとその土地の良い面しか見えないので、実際に住んで日本ではできない経験や知見を広げてほしいです。

軸をできるだけ「太く」しておく

 産業医科大学医学部5年生の東亜希哉と申します。小宮山さんはキャリアの選択について、「自分が好きなこと、やりたいことが第一」と著書で書かれているのを拝読しました。
僕の場合、進路は病院と決めてはいるのですが、それでも迷ったり、今後やりたいことが変わったりしないか不安を感じています。小宮山さんが学生時代に教育を志した軸は、今も変わりなく継続しているのでしょうか。
小宮山 私の場合、母の影響で勉強に没頭して、いくつもの奨学金を受けて留学や大学院への進学まで叶えられたという原体験が強すぎたせいか、教育機会を広げる仕事をしたいという軸そのものは変わってないんです。
ただ、今振り返ると、その軸をできるだけ太くしておいたことがチャンスにつながっている気がします。
たとえば、今は起業家教育にも関わっていますし、過去には性教育や政治教育にも携わりました。
最近は教育事業に乗り出したANAのアドバイザーを務めていますが、それも以前ANAの人に会ったときに、取り組んでいる教育事業の話をしたことがきっかけでお誘いをいただきました。
自分の軸はそのままでも、あまり絞り込まずに太く持っておくことで、なんだって自分の土俵に持ち込むことができるんです。
 確かに専門は持ちながら、その軸を太くして視野も広げておくことで、幅広くチャンスを手繰り寄せることができそうですね。
小宮山さんはたくさんの肩書をお持ちで、議員秘書からベネッセの会長秘書、グリー、リクルートとキャリアを広げてこられましたが、就職する前からこうしたキャリアパスを描いていたのでしょうか。
小宮山 全く考えてないですよ。つまらなくなったら辞める、というのを繰り返してきただけです。
たとえば、ベネッセでは会長から得られる学びがとても多くてやりがいを感じていたのですが、その会長が海外に移住したことでつまらなくなったんです。
6年目になる今のリクルートの仕事も、今は楽しくて没頭しているけれど、先のことはまだわからないです。
 将来を見据えて、計算の上で転職を重ねているのかな、と思っていたので意外です。
小宮山 「10年後、どうしていたいですか」なんて聞かれることもありますけど、全然考えてないです。
どんなテクノロジーが登場しどんな社会になっているかと考えることはあっても、自分の未来として見ているのはせいぜい2、3年後ですね。
そもそも、キャリアパスをきっちり決めて、「この会社に5年は勤めよう」みたいに自分の行動を制限するなんて、つらくないですか。

「棚ボタ」に恵まれるには

 その考え方に共感はしますが、普通の人がそれを実践するのは難しいような気もします。
同年代の友人の中でも、志望している業界や在職している会社と、自分の役割やスキル、思い描くキャリアなどがマッチしていないんじゃないかと悩む人は多いです。
小宮山さんには、自分がやりたい仕事とスキルがマッチしないという経験はありますか。
小宮山 当然ありますよ。例えば英語ですね。TOEICでは良いスコアを取れていても、ビジネスの現場では全く歯が立たなくて悔しい思いをしました。
自分の英語を改善し続けていますが、一方で弱みにはフォーカスせず、とにかく「好き」と「強み」を掛け合わせることを大切にしてきたことで、チャンスが巡ってきた気がします。
議員秘書の経験を買われてベネッセの会長秘書に、永田町の経験を買われてグリーで公共政策に携わる仕事ができたし、そこで身に着けたICTの知見を教育に生かせる場としてリクルートで働く機会を得ました。
振り返ると結局、私のキャリアの9割は運だったなと思います。
ただ、何もしないで待っている人に「棚ボタ」が来ることはないんです。どの棚からいつ何が落ちてくるかわからないので、棚の引き出しをなるべく多く持ち、棚の下に居ることが重要だと思っています。
実際、せっかく落ちてきたのに、準備不足で受け止められなかったチャンスもあったので、なおさらそう思います。
 運を引き寄せるにもやっぱり、努力が必要なんですね。
小宮山 でも、なんでもかんでも頑張らなきゃいけない、と思うと続かないですよ。好きなことなら勝手に頑張れるけど、そうじゃないと苦しくなるから。
 僕はこれまでの24年間、与えられた環境で頑張って結果を出すことがすべてでしたが、頑張らない選択肢もあるのでしょうか?
小宮山 一度そういう常識を全部取っ払って、「本当にここで頑張る必要があるのかな?」って考えてみることも必要だと思いますよ。
どんなことに対しても、自分がとらわれている「枠」を一旦外して考えることで、見えてくるものはあるはずです。

NewsPicksと「にらめっこ」しない

 ありがとうございます。小宮山さんが今学生だったら、NewsPicksをどう活用しますか。
小宮山 まずは時事問題への感度を高めるために、今、どんなニュースが話題になっているかを知り、考えるきっかけに使います。
もうひとつは、各分野の著名人がどんなコメントをしているかをチェックしますね。
気になるプロピッカーがニュースに対してどんな思考や分析をして、どんな感想を持っているか、それをどう表現しているかを学び、「盗ん」じゃう。守破離の「守」は、NewsPicksで実践できると思います。
 「門前の小僧習わぬ経を読む」じゃないですが、短いコメントの中でも盗めるスキルはたくさんありそうですね。最後に、NewsPicksの学生読者にメッセージをお願いします。
小宮山 NewsPicksとにらめっこするばかりじゃなく、外へ出かけて行って五感を使ったアナログな学びや体験をたくさん重ねてください。
たとえば、アイデアはどんなに斬新なものでも、分解すれば既存の情報の新しい組み合わせです。
インターネットの情報だけで組み立てたアイデアはコモディティー化しやすいけれど、足で稼いだ情報が加わると自分だけのアウトプットにできる。
五感をフル活用して得た体験を発信することで、チャンスを引き寄せ、「棚の下にいられる」人になれると思います。