北海道上川町は2021年11月、共創コミュニティ「KAMIKAWA GX LAB」を設立。以来、コミュニティミッション策定、取り組むプロジェクトの設計とコミュニティメンバーと一緒に議論を進めてきました。

そしていよいよ2022年5月初旬、準備してきたプロジェクトの旗揚げとして、プロジェクトKickOffイベントを開催します!そこで改めて、コミュニティの存在意義や活動内容をお伝えするため全3回の連載をお届けします。

#1 北海道上川町が、NewsPicks Pickerとつくるコミュニティ、始まる
#2 上川町が追求する「押し付けない」町と人との新しい関係
#3 「余白」が「感動」を生み出す、全く新しいツアーを共創する


#1では北海道上川町が共創コミュニティに挑戦する理由を、コミュニティマネージャーの一人であり、上川町役場産業経済課の三谷航平氏に伺いました。

北海道上川町は「まちづくり成功地域」に見える...

北海道上川町は人口3500名ほどの町で、決して大きな規模ではありません。地理的には北海道の真ん中にあるためアクセスがよく、大雪山国立公園、層雲峡温泉と、この場所でしか味わえない魅力もたくさんあります。食に関してもユニークで、冷涼な気候に負けない大根、おいしい水で作った上川ラーメンや日本酒と、日本はもちろん世界に誇れるモノがたくさんあります
ここにしかない魅力をフックに、さまざまなPR施策も進めており、大手広告代理店とタッグを組んで魅力的な施設をつくったり、キャンペーンを打ったりもしています。
北海道上川町が運営する公式Webサイト
民間企業との連携も積極的に進めており、大手スポーツウェアメーカーと持続可能な地域社会の構築を目指す包括連携協定を結び、上川町の大自然を舞台にしたドキュメント番組の作成もしました。
コロンビアスポーツウェアと上川町が共同で制作するTVミニ番組
積極的に新しい挑戦を続ける背景には役場に務めるメンバー全員が意識している「動きを止めない」というポリシーがあり、とにかく「やりながら考える」を大事にしている風土があります。おかげさまで、まちづくりの先進的な事例として取り上げてもらったり、講演を頼まれる機会もあり、「上川町さんってPR成功してますよね」と声をかけられることも多いです。
ただ私には、このままでは、緩やかに衰退していくという危機感があります。一見するとPRがうまくいっているように見えるかもしれませんが、本当の意味で上川町を「豊か」にできているかと問われると、まだまだ足りていないと思うのです。

人が人を呼ぶ、そんなまちづくりを追求したい

豊かさの定義は難しいですが、少なくとも「人口」ではないと思っています。住民を増やすことは全国の自治体の命題ですが、そもそも日本全体で人口が減っているなか、限られたパイの奪い合いをする意味はないと思います。人口という「数字」を追いかけるより、豊かさという「​​質」を追求することが、これからの自治体に求められることなのではと考えています。
私が一番恐れるのは、そこに住んでいる住人の方々が、日々をただ「こなす」ように生き、何か課題があっても「しょうがない」と諦めてしまう町になることで、それが町にとって一番の衰退だと思っています。
理想とするのは一人ひとりの住民が自分たちの町に誇りを持ち、日々の生活を面白がれることです。そうなれば大掛かりなキャンペーンを実施せずとも、町の魅力は人づてに発信され、自ずと関わる人が増えるはず。関わる人が増えれば、また町に新しい魅力が増え、それがまた求心力になるというループが生み出せると思っています。
そんな状況をつくるには、ただ露出をすれば良いわけではありません。上川町が誇る豊かな自然を切り取り、テレビCMをたくさんつくっても、一時的な盛り上がりで終わってしまいます。短期的には観光客が増えるかもしれませんが、長期的にはその熱量は徐々に失われ、維持するためにまた広告を打つというスパイラルに陥ってしまいます。
新型コロナウイルス感染症の流行など、世の中がイレギュラーな事態に陥ったとき、一番最初に削られるのは広告費で、それをあてにし続けるのはサステナブルではないと思うのです。
重要なのは、我々役場の人間をはじめ住民の方々や、まちづくりに関わってくださる方々など、内部の人の熱量を高めることと、その熱量が自然と外部に伝播していくような仕組みを作ることだと思っています。そして、そのために最適な方法こそコミュニティづくりなのではと思い至ったのです。
コミュニティは、一つのテーマに沿って長時間コミュニケーションが取れる場所です。コミュニティメンバーの熱量を育みやすく、外の人たちとの接点としても活用できる場所で、熱量の伝播が自然と行われる環境であると思います。動画やWeb記事といったコンテンツを通じたコミュニケーションではなく、人が人を呼ぶコミュニケーションのあり方を追求できればと思っています。
上川町交流&コワーキングスペース「PORTO(ポルト)にて

外からの視点は「豊かさ」を創出する

コミュニティに着目していたポイントはもう一つあります。普段できないような学びと実践の場所になりうるところです。学校や職場では出会えなかった、自分とは全くバックグラウンドの違う人と出会い、その価値観に触れて刺激をもらうことは、それだけで大きな学びに繋がります。
また、コミュニティの中で何かしらのプロジェクトに参加をすることは、その人にとって日常とは全く別の形で社会に貢献することになります。普段の仕事では感じないような自己肯定感を得られる可能性があり、ただ日々を漫然と日々を過ごすのではなく喜びや達成感を感じながら過ごすきっかけがつくれるとも考えています。
そんななか、NewsPicksがコミュニティ組成のサポートをしていると聞き、興味を持ちました。具体的には、読者層が今の上川町がアピールしたい層とぴったりなのではと思ったのです。
私は大学で講演をしたり、学生対象のインターンシップを企画したりしており、若い世代と接点を持つことが多いです。そのぶん彼ら彼女らの声を聞く機会も多いですが、若者世代のNewsPicksの認知度はすごく高いと感じていました。
また、ビジネスに関する感度の高い人が見ているメディアだとも思っていて、NewsPicksと組めば、若くてビジネスリテラシーの高い人に上川町のことをもっと知ってもらえるだろうと思いました。
紙ではなくWeb媒体だったことも興味を持った理由の一つでした。 情報の発信がしやすく、場所を越えたつながりが生み出しやすいと思ったのです。
中長期的に街の成長を考えたとき、若い世代が活躍できる環境を整えることは必須だと思っています。それぞれの人が自分の意見を持ってまちづくりに参加し、町に影響を与えることで自信をつけ、さらに活躍できるようになる。そして、そんな若者世代に触発された上の世代の方々も、もっとイキイキ活動するようになれば、町の「豊かさ」はどんどん高まると思うのです。
上川町で開催されたワーケーションプログラム中

真面目な自分が、真面目に取り組む

まちづくりは、面白い一方で大変な側面もあります。私は今、東京の企業に出向していて、民間企業で働きながら上川町役場の業務にも取り組んでいます。完全に役場の中で働いているわけではないぶん、現場での動きや熱量が把握しきれず、やりにくさを感じることもあります。それでも、外から町の動きを見ることで、周りの人たちが上川町をどう見ているのか、客観的に捉える良い機会になっていると感じています。
客観的な視点が持てるぶん、外部の方々とコミュニケーションがスムーズで、協力関係を結びやすいと思っています。まだまだ試行錯誤中ですが、私にしかできないやり方での、まちづくりに挑戦したいです
「なぜそこまでやれるのか」と聞かれることもありますが、結局自分を支えているのは、自分自身の真面目さかなと思っています。どれだけ困難な道であっても、自分に期待をしてくれ、東京出張をはじめ多くの経験をさせてくれている上司や先輩、町長がいて、彼らの期待に応えるためなら頑張れます。大きな壁に突き当たっても、見放さず支えてくれる人が一人でもいるならば、全力で応えたいと思っています。
今後は、NewsPicksと組んで「共創コミュニティ」づくりにチャレンジします。短期的なリターンを得るため、というよりは長期的な視点でじっくりコミュニティ形成に取り組みたいと思っています。そのために、まず自分が上川町やKAMIKAWA GX LABの取り組みを熱量高く伝えられるようになりたいです。
まだまだ立ち上げたばかりで、取り組むプロジェクトも今まさに決めている最中ではありますが、無限の可能性を信じて、町の豊かさのために、真面目に取り組んでいきたいです。
KAMIKAWA GX LABでは、今後も「感動人口、1億人へ」というミッションを掲げ、さまざまなプロジェクトに取り組んで参ります。さまざまな資産を抱える町そのものを活用した「感動」を生み出す挑戦に、興味がある方はぜひご参加ください。
編集:三谷 航平(KAMIKAWA GX LAB コミュニティマネージャー)
撮影:渡辺 誠舟
デザイン:武田 英志(hooop)
共同編集・執筆:種石 光(NewsPicks Creations)