2022/3/18

【長野】農村の2億円企業。生産者の“顔が見える”に商機

編集者・ライター
長野県上田市を拠点に、全国の農産物・海産物を中心とした地元産品のカタログギフト事業を展開する「株式会社地元カンパニー」。創業から10年で年商2億円まで成長しています。

地元カンパニーの特長は、地元産品を1商品1枚のポストカード形式でカタログ化しているところ。どこでも買える商品ではなく、誰が、どうやって作っているかという“顔の見える”ストーリーを重視しています。

この、唯一無二の「商品力」と「形状」にたどり着いたことで完成した、「ギフトによる地方創生プラットフォーム」。商機をつかむまでの軌跡について、創業者の児玉光史社長に聞きました。(全4回)
*記事内の情報は取材時(2021年夏)のものです。
この記事はNewsPicksとNTTドコモが共同で運営するメディア「NewsPicks +d」編集部によるオリジナル記事です。NewsPicks +dは、NTTドコモが提供している無料の「ビジネスdアカウント」を持つ方が使えるサービスです(詳しくはこちら)。
児玉光史/株式会社地元カンパニー代表
1979年、長野県武石村(現上田市)のアスパラガス農家に生まれる。東京大学農学部卒業後、電通国際情報サービスで営業職として勤務。4年後に退職。自身の結婚式でオリジナルの引き出物「地元産品カタログギフト」が好評を博したことをきっかけに、2012年、株式会社地元カンパニーを創業。2016年にオフィスを上田市武石に移転。現在、上田市武石、上田市秋和、佐久市の3拠点にオフィスを構える。3児の父でもある。
INDEX
  • 本社は長野の中山間地の農村地帯、隣は実家
  • 大量生産品→カードの組み合わせでギフトを差別化
  • 「地元エナジー」がキーワード
  • 猛烈な働き方とは無縁、土日も完全休業

本社は長野の中山間地の農村地帯、隣は実家

地元カンパニーの本社所在地は、上田市南西部の武石地区。平成の大合併までは武石村と呼ばれた中山間地の農村で、美ヶ原高原のふもとに位置します。空気がうまいのはもちろん、夏でもキンキンに冷たい水が流れ、春は花桃が満開という、桃源郷のような場所です。
武石のオフィスは2階建ての住宅を改装した建物で、隣には社長の実家。取材した日、児玉光史社長はオフィス玄関の前で、ハーフパンツにTシャツ姿でアウトドアチェアに座っていました。リラックスした様子は、仕事中というよりバケーション中という趣きです。
オフィスの中に入ると、玄関の隣にはキッチンがあり、ガラス戸の先に印刷機や裁断機。スタッフ2人がちょうどカタログの裁断をしているところでした。
掃き出し窓から自然光がたっぷり入る、無垢材をふんだんにつかったオフィスには、あちこちに出荷を待つカタログセット入り段ボール箱の山があります。壁際のスタンディングデスクなどではスタッフが、システムのプログラミングをしたり、出荷の手続きをしたりするなど、作業に没頭していました。
オフィス中央には、大きなディスプレイが設置されています。ここ武石の本社オフィスと、他のオフィスの映像が映されています。
スタッフの集合写真を撮影する際は、秋和オフィス、佐久オフィスのメンバーにもディスプレイ越しに呼びかけて、みんなで写ることに。撮影の時は、地元カンパニーTシャツを着てくれたり、会社パンフレットを手に持ってくれたりと、楽しみながら撮影に応じてくれて、リラックスして働いている雰囲気が伝わってきました。

大量生産品→カードの組み合わせでギフトを差別化

地元カンパニーは、2012年に東京・渋谷で創業。全国各地の農産物や海産物、酒や醤油といった加工品を、作り手の顔が見えるかたちにパッケージ化したカタログギフト「地元のギフト」を展開しています。
カタログギフトは、引出物や香典返しで一度は利用したという方も少なくないでしょう。受け取った側が「選べる」ギフトという点は斬新でしたが、欠品を避けるために雑貨や家電といった大量生産品が主体で、相手の印象に残りにくいデメリットがあります。「地元のギフト」はそのデメリットを解消し、カタログギフトの分野で新たな価値を生み出しました。
1品1枚のカード式のカタログは、さまざまに組み合わせることができます。たとえば、結婚式の引出物にしたいとなれば、新郎新婦それぞれの出身県のカードをカタログとしてセットにしたり、「東北」というくくりで組み合わせたりすることも。贈る側の“ルーツ”や“意図”を反映しつつ、受け取る側も未知の生産者との新鮮な出会いがもたらされるのが、一味も二味も違う点です。
「生産能力は出品者によって当然ばらつきがありますが、商品の組み合わせによってそのばらつきを分散させることもできます。だから、(カタログの)注文件数が多い案件にも、柔軟に応えられるんです」。

「地元エナジー」がキーワード

児玉さんは「地元エナジー」という言葉をよく使います。
その地域でとれる農産物や海産物は、まごうことなき「自然の恵み」。その自然の恵みが持つ力を地方出身者の多くは、たとえ地元から離れて暮らしていても、自分が生まれ育った場所の象徴として大切に感じるものです。そんな力を児玉さんは「地元エナジー」と言います。地元エナジーを、足りていない人、買いたいけど買えない人、そして買う気のない人にも届けたい。カタログギフトのビジネスなら、それができるーそう考えているのです。
カタログギフト自体は今から30年ほど前から日本国内で普及しはじめました。その後、周年行事、式典、株主優待、プロモーションなどで法人利用が増加していきます。今では、法人ギフトの市場規模は約2.8兆円という一大市場に。「地元のギフト」も法人ギフトとして重宝されていて、売上の8割が法人利用です。キリンビバレッジ、東洋水産といった有名企業のキャンペーンにも利用されています。

猛烈な働き方とは無縁、土日も完全休業

創業当時は数百万円の年商だったのが、2021年3月期は前期比3倍の1.8億円を達成するほど急成長。新興企業によくある“猛烈な”働き方で成長を実現したのかと思いきや、社長と30人弱のスタッフ(フルタイム、時短、業務委託)は残業なし、土日休み。また、有給休暇は1時間単位で取得でき、しかも休む理由は問われない。いつでも社長と報酬アップの交渉ができるなど、フラットでフェアな社風です。
「僕はやりたくてやっている事業なので、明らかなモチベーションがあります。じゃあ、社員が会社に来続けてくれる原動力は? と考えた時、本人の幸せに紐づいているほうがいいと思ったんです」
さらに、取引先である農家の負担を減らす工夫も採り入れました。農家は高齢化がとりわけ著しい産業。児玉さんのご両親も農作業で手一杯で、事務仕事が明らかに負担となっていました。高齢で農業をなりわいとしている人にも出品者になってほしいと、出荷用伝票の記帳は地元カンパニーが担当して、出荷数に応じて入金する仕組みを導入。生産者は、届いた明細書の金額を確認するだけで済みます。人を雇う余裕のない若いひとり農家にも好評で、出品者が増える一因になっているようです。
今風にはエシカル*な企業と言えるでしょう。次の回ではこうした社風を作った社長の児玉さんの来歴にフォーカスします。
*エシカル……英語で「倫理的な」という意味。近年、特に「地球環境・ヒト・地域・社会を損なわないモノを買う・消費する」という消費行動について使われることが多い
Vol.2に続く(※NewsPicks +dの詳細はこちらから)