2022/3/9

求められる「三方よし」社会×企業の価値を実現する

毎週火曜22時から配信の『THE UPDATE』。今回のテーマでは「社会価値を高めるパーパス経営とは?」と題し、社会問題に対する企業の存在意義や社会的価値について議論した。

ゲストに日本文学研究者のロバートキャンベル氏、MPower Partnersマネージング・ディレクターの鈴木絵里子氏、エクスコムグローバル社長 西村誠司氏、マザーハウス副社長 山崎大祐氏、京セラ執行役員/経営推進本部長の濵野太洋氏の5名にご登壇いただいた。
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なぜパーパス経営が求められるのか?

商品やサービスを購入する消費者のうち、約6割が「企業の信念」を意識する時代になった。
消費者意識の変化から、企業の存在意義や社会的価値を示す「パーパス=社会的存在意義」が注目されている。
日本においても、日産自動車がエンジンの新規開発を終了し、マザーハウスが途上国に工場を設置し現地の雇用を生むなど、パーパス経営を実践している企業は多く存在する。
企業と社会のつながりが重視されるなか、社会価値を高める経営にはどんなパーパスが求められているのか? 今回の『THE UPDATE』で交わされた議論の一部をお届けする。

パーパスの始点とは?

奥井 今どんなパーパスが企業に求められていると思いますか?
「ステークホルダーのニーズと力を捉え育てること」
キャンベル 企業がステークホルダーのニーズと力を知ることは、いずれ企業の知恵や力に繋がります。そのステークホルダーの力を引き伸ばすには、人材育成と社会インフラの醸成が欠かせません。
ロバート キャンベル。日本文学研究者、早稲田大学特命教授、早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)顧問、東京大学名誉教授。ニューヨーク市出身。専門は江戸・明治時代の文学、特に江戸中期から明治の漢文学、芸術、思想などに関する研究を行う。主な編著に『日本古典と感染症』(角川ソフィア文庫、編)、 『井上陽水英訳詞集』(講談社)、『東京百年物語』(岩波文庫)、『名場面で味わう日本文学 60 選』(徳間書店、飯田橋文学会編)等がある。
これからコロナが収束していくと、海外からの労働者が増えるので、日本は人材を引きつける社会インフラを整えることが課題になると思います。
「内から湧くもの パーパス」
鈴木 企業が外向けにパーパスを発信することは大事です。しかしグリーンウォッシングが課題になっている今、「外から評価されるため」や「トレンドに傾倒する」ではなく、経営者自身が何をしたいのかが企業のパーパスにつながるでしょう。
目的を見つけるのは難しいことですが、自身が大変な局面に立っても、追いかけたいと思うものがパーパスだと考えています。
鈴木 絵里子(すずき えりこ)MPower Partners マネージング・ディレクター。欧米および中東で育ち、モルガン・スタンレーおよびUBS証券の投資銀行部門にてM&Aやグローバルオファリング・IPO業務に従事。ラグジュアリーブランドで財務企画を担当した後、米国のドローンベンチャーの日本法人を立ち上げ日本代表に。2016年よりミスルトウ株式会社にて投資部ディレクターを務めた後、グローバルVCフレスコ・キャピタルのゼネラル・パートナーに就任。2021年5月に日本初ESG重視型グローバルベンチャーキャピタルファンド「MPower Partners」の設立に参画。
「公明正大で大義名分のある高い目的を立てる」
濵野 京セラは「全従業員の物心両面の幸福(しあわせ)を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営の理念を掲げています。
濵野 太洋(はまの たよう)。京セラ株式会社 執行役員 経営推進本部長。1983年入社。半導体部品事業本部マーケティング部長、新事業統括部長、自動車部品事業本部長を経て、2016年執行役員に就任。2018 年より現職。経営企画、CSR、事業開発部門などを統括する。
この理念のもと、私たちは目先の利益だけにとらわれることなく、事業に取り組んでまいりました。例えば、京セラでは約50年前の第1次オイルショックの時に、太陽光発電事業をスタートさせました。長い間、事業としては厳しいものがありましたが、その根底にあったのは、「世のため、人のため」という思いでした。そのような私たちの企業姿勢に対し、共感していただくというのも大事なことだと思っています。
「ブレない存在意義」
山崎 今は最もブレやすい時代になったと思っていて、社会全体がSDGsに向かったら企業に価値は付きません。ダイバーシティがどんどん細分化する時代になって、企業はどういう存在にとって価値になり得るかを考えるべきです。
山崎 大祐(やまざき だいすけ)株式会社マザーハウス 代表取締役副社長。慶応義塾大学総合政策学部卒業後、ゴールドマンサックス証券にエコノミストとして入社。創業前からかかわってきた(株)マザーハウスの経営への参画を決意し、07年に取締役副社長に就任、19年から代表取締役副社長に。マザーハウスは途上国にある素材と技術を使い、自社工場でバッグやジュエリー、アパレルなどを生産。国内34店舗、香港、台湾、シンガポール、パリ8店舗で販売している。
みんなにとって正しいことはありません。星の数ほどある企業が一人一人の存在意義を信じて、何かに取り組んでいるから、社会全体が良くなります。
SDGsの全ての項目に従うことが難しいからこそ、自己理解を通して、世の中に発信できる企業こそがパーパスのある企業だと考えています。
「リスクを厭わない」
西村 社会課題を解決するには、リスクを伴うことが多いです。我々がコロナのPCR検査事業を始めたときも、当初は危ないという理由でどこもテナントを貸してくれませんでした。
西村 誠司(にしむら せいじ)。エクスコムグローバル株式会社 代表取締役社長。93年アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。95年インターコミュニケーションズ(現エクスコムグローバル)を設立、社長に就任。97年海外用レンタル携帯電話事業をスタート、その後の成長の足がかりに。2012年海外用Wi‐Fiレンタルサービス「イモトのWiFi」ブランドの提供を始める。19年メディカル事業をスタート、「にしたんクリニック」の立ち上げを支援。20年にはわずか数カ月でPCR検査サービスを実現。
でも経営リスクを厭わず、自分の思いだけで事業に取り組むとハッピーになる人がいます。なので、社会を良くするために「自分たちがやらねば、誰がやる?」という思いで、様々な事業に取り組んでいます。
奥井 パーパスの本質や思わぬ落とし穴などはありますか。
鈴木 スタートアップやベンチャーによく言われている「課題に愛着心を持て」のように、自分たちの課題に頭をひねって、一生かけてでも解いていきたいものがパーパスだと思います。
山崎 これだけ社会の変化が早い時代なので、企業のパーパスは変わる可能性があります。
強いパーパスがあることはもろ刃の剣でもあり、強すぎると従業員は頑張りすぎて、最悪バーンアウトするかもしれません。
だからこそ、パーパスとともに考えるべきは「状態」です。企業が社会に良い影響を与えられる状態を社内で作り、取り組む事業や目的はその都度変化していくことが重要なのかもしれません。

CSV経営の実現

奥井 社会価値と企業価値の両立は可能でしょうか。
「三方よしの精神」
濵野 近江商人が掲げた「三方よしの精神」の中には「世間よし」が含まれています。社会価値と企業価値をどうやって両立するかよりも、事業の中に「世間よし」の要素があって初めてビジネスが成立します。
社会にダメージを与える企業が大きくなるはずがありません。我々は「共生 LIVING TOGETHER」というメッセージを掲げていますが、その考え方がないと企業の持続的な成長は達成できないと思っています。
「価値向上のためのブランディングが重要」
西村 社会を良くする活動を行ったとき、同時に企業価値を上げる段階も踏まないと費用だけがかかります。
コロナ禍で私の会社では医療従事者500人に1人あたり20万円を寄付する活動を行いました。テレビを通じて、その活動を発信してもらったことで、私たちの企業のブランディングや収益は向上したと思っています。
企業活動を世の中に知ってもらう段階を踏めれば、企業の収益が上がり、その収益をまた社会課題の解決に投じられる価値循環が作れます。
社会のために、コストしかかからない事業に取り組んでいても、それを世の中に知ってもらうための繋ぎ込みができていない企業が多いと考えています。
古坂 そうですよね。日本って良いことは陰でコソッとやってくれよみたいな面がありますよね。
キャンベル 隠れて良いことを行うからこそ格好良さが出ることを陰徳と言いますよね。でも寄付行為などをこっそりしていると、世の中に承認されることなく、価値循環が生まれせん。
「大きな物語と小さな物語」
山崎 私が「大きな物語」と捉えているパーパスや会社の理念は大事ですが、この思いだけでは私たちの企業は続けられなかったと思います。
「社会や世間のため」のような考え方も必要ですが、目の前のお客様にどれだけの価値を提供できたかなど現場の範囲内で行われる「小さな物語」も大事です。
お客様は企業の理念を買っているわけではなく、目の前の商品やサービス、社員とのやり取りを見ているので、「小さい物語」を重視している会社が企業価値になると考えています。

京セラが目指すスマートシティ

今回の『THE UPDATE』で議題に上がった「企業の社会的価値」。京セラでは社会課題の重要性を考慮した取り組みの一環として、現在「スマートシティプロジェクト」を進めている。京セラが考えるスマートシティの未来像は何なのか? 京セラ株式会社の案浦雅徳氏はこう語る。
──「スマートシティプロジェクト」とは何を目的とした事業なのでしょうか。
案浦 スマートシティと聞くと、多くの人はIoTを駆使した街を想像すると思います。もちろん、それも一つの正解です。しかし当社が考えるスマートシティとは、地域の特徴を生かしながら、住む人みんながそれぞれの豊かさを目指せる街を指しています。
──様々な地域に向き合うと、対応すべき課題が多岐にわたりそうですが、そちらはどのように実現する予定でしょうか。
案浦 地域ごとの課題に個別に対応するのではなく、当社の持ち味を生かした総合的な課題対応をしていくつもりです。
京セラでは情報通信、自動車関連、環境・エネルギー、医療・ヘルスケアと街づくりに必要な事業アセットを持っています。それらを連携させることで、地域の社会課題解決に貢献しようと考えています。
──スマートシティ関連で、どのような技術を使った取り組みがありますか?
案浦 一つの事例として、兵庫県の姫路市では、通信技術とセンシング技術を組み合わせた「路側機」と呼ばれる機器を路肩に設置しています。交差点など死角で見えない危険を「路側機」が検知することで、交通事故のない安心・安全なモビリティ社会に向けた実証実験を行っています。
このように街や地域と連携することによって、様々な技術で社会課題を解決していくことで、京セラが目指すスマートシティを支えていきたいと考えています。
「京セラが考えるスマートシティ」に関する特設サイトはこちら。(タップでサイトに移動します)