2022/3/11

【注目】可能性しかない急成長市場=BtoBマーケティング

NewsPicks Brand Design Editor
 企業の急速なDXニーズの増大を受け、BtoBマーケティングがかつてない盛り上がりを見せている。
 それに伴い、異業界から優秀な人材が次々と転職。今後もさらなる市場拡大が予測される。
 では、今BtoBマーケティングでキャリアを積むことにはどんな意味があるのか。
 当事者たちは、市場の展望をどう見ているのか。
「Webマーケティングの大衆化」をミッションに掲げ、国内のBtoBマーケティングを牽引する株式会社ベーシックの取締役COO・林宏昌氏と、同社のマーケティングSaaSプロダクト「ferret One(フェレットワン)」のカスタマーサクセス企画部長・島田翔平氏に話を聞いた。

「不」が大きすぎる350兆円市場=BtoB取引

── BtoBマーケティング市場が急伸しています。理由をどう分析していますか。
林宏昌(以下、林)BtoBの取引は、これまで圧倒的に「不」が大きい領域でした。
 訪問営業やテレアポ、年に数回開かれる展示会といったアナログな手法で、自社を知ってもらい、興味を持ってくれた企業にアプローチする。
 よく言えば「ご縁」ですが、裏を返せば「必要な情報やサービスが、それを必要とする人や企業に届いていない」
 350兆円以上の市場規模があるにも関わらず、非常に偶発性に依存していて、効率的とは言えない。それが、BtoB取引という市場の特徴だったのです。
 翻ってBtoCは、20年ほど前から消費者がインターネットで情報を探し、自ら商品やお店を選ぶのが当たり前。
 みなさんも、欲しい商品や行きたいお店があれば、まずネット検索をしますよね。
 BtoCは、BtoBよりはるか昔から、オンライン上で売り手と買い手のマッチングが成立していたのです。
── なぜBtoBマーケティングは、BtoCのように発達しなかったのでしょうか?
林 いろいろ理由はありますが、1つは「取引の総量」の違いでしょう。
 BtoBは動く金額こそ大きいですが、取引は企業単位。つまり、取引の総量は消費者を相手にするBtoCのほうが圧倒的に多い。
 実際、BtoBの場合、どんなに大きな企業でも顧客数は数十万程度ですが、BtoCとなると数百万、数千万の消費者データを管理する必要があります。
 扱うデータ量が多いため、BtoCのほうが効率化により必死だったわけです。
島田翔平(以下、島田)私はこれまでのキャリアでBtoBとBtoCのマーケティングに携わり、今はベーシックでBtoBマーケティングのSaaSプロダクト「ferret One」のカスタマーサクセスを担当しています。
 BtoBとBtoC、両方を経験して痛感するのは、BtoBマーケティングは本当にデータの量が少ないこと。
 顧客のニーズを知るヒントが少ないし、BtoCほど「これ」といった正攻法もありません。
林 これまでは「とにかく足で稼ぐ」「気合で1日数百件架電する」といった営業手法がスタンダードだったので、日本のBtoB企業にはマーケティング部門が存在せず、業務を効率化するツールもあまり出てきませんでした。
そうした負のスパイラルにより、BtoBマーケティングはBtoCに後れをとっていたのです。
ところが、コロナ禍の影響もあり、ここ数年で潮目が変わった。
島田 直近の盛り上がりはすごいですよね。BtoBマーケティング関連の話題を耳にする機会が増えましたし、何よりこの市場に転職する人が増えています。
BtoCは市場が成熟しているため、SEOならSEO、Web広告ならWeb広告と担当領域が細分化している。
 一方BtoBはまだ手法が確立しておらず、マーケティングのバリューチェーン全体を俯瞰できる人材が足りていません。
だからこそ、データに頼らない本質的な思考や問題解決能力が求められますし、私含め、そこに魅力を感じている人が多いのだと思います。

誰でもBtoBマーケティングができる世界を作る

── お二人は、どんな経緯でBtoBマーケティングの世界へ?
林 3年ほど前に、ベーシックの代表の秋山と出会い、「効率化を通じて、人間の持つ能力を最大化したいよね」と意気投合したのがきっかけです。
 私自身は、それまで前職のリクルートで営業を経験した後、経営企画、広報ブランド推進室、働き方変革推進室のそれぞれの室長を務めていました。
 働き方変革の時のミッションは、「煩雑な事務手続きや無駄な会議を見直し、社員が効率的に、より創造的に働ける環境を作ること」
 グーグルやフェイスブック(現Meta)などのシリコンバレー企業を訪問した際に、短時間でもパフォーマンス高く働く社員の多さに衝撃を受け、日本の長時間労働と生産性の低さをどうにか解決できないかと思ったのが原体験です。
 シリコンバレーの成長企業は、日中からキャンパスで仕事したり、泳いだり、家庭菜園をしたりと、クリエイティブな働き方をしている。
 なのに、日本では夜通し働いてみんな疲弊しているのはおかしいぞ、と。
 だから、リクルート時代も人生をデザインする上で無駄な時間やコストを省こうと尽力してきましたし、現在に至るまですべての人が創造的な仕事ができる環境を作ることに情熱を注いできました。
 先ほど申し上げたとおり、BtoBマーケティングは非効率的な部分が大きい市場です。 
 ここの「不」に切り込み、出会うべきなのに出会えていない企業と企業を繋げられたら、日本にとってのインパクトは非常に大きい。
 私自身がBtoBの営業出身なので、「BtoB営業をもっと生産性高く、創造的な仕事にしたい」という人一倍強い思いもあります。
 そこで、国内で先駆けてBtoBマーケティングの支援に力を入れていたベーシックに参画し、残りの人生をかけて本気で挑戦しようと決めました。
 現在、私たちは企業のBtoBマーケティングを支援するプロダクトを複数開発しています。その1つが、私が事業部長を務めるBtoBマーケティングSaaS「ferret One」です。
 ferret Oneの特徴は、BtoBマーケティングに必要な機能がオールインワンで入っていること。目指すのは、専門的な知識がなくてもBtoBマーケティングができる世界。
 ベーシックでは、その実現を「Webマーケティングの大衆化」と呼び、ビジョンとして掲げています。
 BtoBマーケティング向けのプロダクトは「わかりにくい」「複雑だ」と言われてきました。
 ですが、圧倒的な「使いやすさ」があれば、このイメージを変えられると私たちは確信しています。
 たとえばテレビやスマートフォンなどは、裏側の仕組みこそ複雑ですが、使いやすい設計になっています。
 だから、説明書をわざわざ読まなくても、「番組を視聴する」「いつどこでも連絡がとれる」といったベネフィットを受けられる。
 同じように、たとえ仕組みを理解していないとしても、誰でもBtoBマーケティングができる。そんな世界を作りたいのです。
島田 「誰でもBtoBマーケティングができる世界」への共感は、私がベーシックに転職した理由の1つ。
 もう1つの理由は、前職で担当していたカスタマーサクセス(CS)の仕事をもっと極めたかったからです。
 ちょうど30歳を迎える節目のタイミングだったので、「薄く広く」ではなく、特定の領域に徹底的にコミットできる環境を求めていました。
 CSとは、その名の通り「顧客を成功に導く」仕事。「顧客の成功こそが自社の成長、成功の鍵である」という理念のもと、プロダクトを「売った後」の伴走を担当します。
 前職のCSは非常に面白かったのですが、事業の特性上どうしても新規顧客の獲得の優先度が高く、100%既存顧客にコミットしきれる体制ではありませんでした。
 そこで、中長期的な顧客関係が肝となるSaaS事業であれば、CSに専念できるのではないかと考えるうちに、ベーシックにたどり着いたんです。
 実際に話を聞いてみると、代表の秋山含めた経営陣のCSへの理解が深く、CSの実現に向けて部署を超えて協働するなど、全社的なコミットも非常に高い。
 私はもともと「CSは、マーケティングや営業、プロダクトを含め、全社で取り組むべきだ」と考えていましたが、ここまでCSに本気な会社があるのかと、衝撃を受けました。
「誰でもBtoBマーケティングができる世界」を目指し、創業事業である比較メディア事業を売却してSaaS事業に舵を切ったり、CS業務に特化した企画部署を設立したりしているのも印象的でしたね。
 この組織なら私のしたい仕事ができそうだ── そう感じ、転職を決意しました。

成長のスピードは実感値で「前職の5倍以上」

── ミッションやビジョンに共感してベーシックに転職したお二人ですが、実際に働かれてみてどうですか?
林 ミッションに向かって前進している、確かな手応えがあります。従来の営業手法では難しかった「企業同士の新たな出会い」を実現できているな、と。
 今までBtoBマーケティングに力を入れてこなかったクライアントから、「ベーシックのプロダクトを導入したら想定外の業界から大型受注が入った」「販路が広がった」という反響をいただくこともあります。
 「いいものが知られない」機会損失を防げているな、と実感しますね。
島田 私も希望どおり、顧客の成長にしっかり寄り添うCSに挑戦できています。
 ベーシックが掲げる「Webマーケティングの大衆化」のためには、BtoBマーケティングに馴染みのない担当者の方でも迷うことなく使えて、迷ったときには万全なサポートがある状態でなくてはならない。
 CSの本質的な部分を体現している感覚です。
 今は市場も会社も急成長している段階。それゆえのスピード感は、転職してからのいい意味での「サプライズ」でした。
 普通は3年くらいかかるかな、という事業計画を1年のロードマップにまとめたり、前職時代は1週間くらいかけていたアウトプットを週に5つぐらいこなしたり。
 まだベーシックに入社して4ヶ月ほどですが、体感する成長スピードは今までの5倍くらいです(笑)。
── 5倍はすさまじいですね。
島田 もちろん大変なときもありますが、ベーシックにはお互いの個性をしっかり共有して、強みとして生かせるカルチャーがあるので、心地よく働けています。
 たとえば私は大きな戦略を描いたり、事業計画を立てたりするのは得意ですが、細かいタスクは苦手。
 逆に、今一緒に働いているのは、私とは真逆で細かいタスクの処理がとても早い、瞬発力のあるタイプのメンバーです。
林 個性を生かすための組織設計を大切にしているのも、ベーシックのカルチャーです。
 たとえば、本人の強みや課題、今後のキャリアなどについて全員で話しあう「人材開発会議」を半年に1回実施しています。
「今期はどんな業務をこなし、何ができるようになったのか」「強みを伸ばすために、来期はどういう仕事をしていくべきか」といった具合です。
iStock:PeopleImages
 課題よりも強みにフォーカスするのがベーシックらしい部分。
 仕事って面白いもので、強みが生かせるタスクでは他人の10倍価値が出るのに、苦手なタスクでは2分の1とか3分の1しか価値が出せないこともある。
 それなら、強みを生かしあったほうがスピード感を持って挑戦できるし、学びを進化に繋げやすい。結果として、組織としてのROI(費用対効果)も高くなる、という考え方です。

「ボタン1つ」でBtoBマーケティングができる世界へ

── そんなベーシックが牽引するBtoBマーケティングは、これからどのように進化していくでしょうか?
島田 これまでのBtoB企業は「マーケティングに注力するか、しないか」がスタート地点でしたが「マーケティングをするのは当たり前」になっていくでしょう。
 それによって「いい商品やサービスを作っている企業」が広く知られ、正当に認められるようになると思います。
 私たちベーシックは、この流れを強く後押しする存在でなくてはならない。
 そのために、ferret Oneを含めて、誰もが簡単に使えるBtoBマーケティングプロダクトを世に届けたいと考えています。
林 現在も多くの方にferret Oneをご利用いただいており、「簡単に使える」「迷わず使える」「こんなに楽になるなんて」と驚きの声をいただいています。
 究極的には、ボタン1つ、音声入力1つで企業のサイトが作れたり、メールマガジンが送れたりといった「驚きの体験」を届けるとともに、BtoBマーケティングを誰もが実践できる世界を作りたいですね。
 少し無謀に感じられるかもしれませんが、私たちはそれくらい「Webマーケティングの大衆化」を本気で目指しています。
島田 「成長スピードが5倍」とお話しした通り、ベーシックってメンバーのミッションへのコミット力、共感度の高さがすごいんですよ。
 ferret Oneでこれまで1,000社以上のマーケティングをご支援させていただいた経験を踏まえ、BtoBマーケティングの「いろは」をまとめたクライアント向けマニュアル「BtoBグロースステップ」を作成しました。
「BtoBグロースステップ」より引用
 セールスやCSなど、個々の部署でマニュアルを作ることはありますが、全社が協力してナレッジを集約し、対外的に出す。
 さらに、それを数ヶ月で実現したのは「大衆化」への本気度がうかがえるエピソードでしょう。
林 誰にでも門戸の開かれたBtoBマーケティングの手法を確立するために、今後もインパクトのある取り組みをどんどん仕掛けていこうと考えています。
 ほかにも、企業の担当者がBtoBマーケティングを学べるeラーニングや研修など、私たちが培った知見を広めるための取り組みにも挑戦していきたい。
「Webマーケティングの大衆化」は、日本の生産性を底上げする、インパクトの大きい取り組みです。
 むしろ、大衆化が進まなければ、日本の産業そのものが沈んでしまうかもしれない、と本気で思っています。
 ありがたいことに、ferret Oneも、もう1つのSaaSプロダクトであるフォーム作成ツール「formrun(フォームラン)」も、MRR(月次経常収益)は200%以上で成長しています。
 ですが、これからのチャレンジを考えるとまだまだ真っ白なキャンバスに近い状態です。
 日頃事業に取り組んでいて、「これだけ不の大きいマーケットはなかなか無い」と痛感しています。
 世の中の問題を解決したい。日本をもっと元気にしたい。そんな熱い志を持つ仲間とともに、人の意思や可能性に期待して、共に本気で挑戦し、これからもBtoBマーケティングを大衆化していきたいですね。