SaaSの春の終わり、産業化の始まり
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この1,2年でジェットコースターのように上がり下がりしたSaaS企業の株価ですが、一方で、各社の業績自体は浮き沈みなく成長を続けている点は認識しておきたいところです。
コロナ禍に入り、飲食関連のインフォマートやスマレジ、採用関連のウォンテッドリーといった企業は業種特性の影響から一定の減速感はありましたが、ほとんどの会社が業績予想を達成しています。トッププレイヤーのラクスは新たに5年CAGR25%-30%の成長を掲げるなど、ファンダメンタルは固いです。
その上で新興株特有の根拠のないバリュエーションに調整が入り、長期的に売り上げを伸ばし、キャッシュフローを生む企業が自ずと評価されるという状況は大枠では健全な流れとも言えます。
また本記事のようなLTVに関する議論の解像度があがってきたのも良いことだと思います。
例えば、インフォマートやスパイダープラスといったバーティカルSaaSは同規模のSaaS企業より足元の成長率が低いものの、マルチプルが高く見受けられます。
これはプロダクトが業界に根強くロックインされることで記事に書かれているような環境変化によるリプレイスがされづらいと想定され、それゆえに汎用的なホリゾンタルSaaSよりもLTVが大きい(つまり長期的にも解約率が低い)と見られているためだと考えられます。
ここも当然企業や業界、テクノロジー動向で変わってくるものですので、バーティカルSaaS=LTVが高いという単純な図式ではなく、実際には個別に判断が必要です。
資金調達を検討するSaaSスタートアップにとっては環境変化に戸惑う場面かも知れませんが、本質的に強いプロダクトは評価されると思います。SaaSは一つのビジネスモデルや課金形態なのである種手段とも言えます。共通のプロダクトをマルチクライアントに提供することでスケーラビリティによるコスト競争力(個別顧客相手に開発しないので1社あたりのサービス提供コストが下がる)や更新性が強みですが、結局は顧客企業やその先にいる顧客の顧客にとって常に価値を創造し続けなければ廃れてしまう、ということを強く再認識させられました。
常に顧客提供価値を拡大し続けているという意味でやはりNRRが重視されているUSのSaaS市場はかなり本質を行っている印象。とても本質的で重要な内容だと思いました。
私はSaaSはソフトウェアの提供形態の話に過ぎないと思っていて、その提供形態は変わっていってもソフトウェアの重要性はこの何十年も一貫して変わらず、今後も続くと考えています。
SaaSという言葉自体は非常に古く、私がアメリカに駐在していた2002年に「アメリカではSaaSという言葉が注目され始めています」という報告書を作成した記憶がありますし、2007年には日本のメディアで「SaaSの衝撃」というタイトルの記事が出て急速に注目を浴びた時期があります。
その後、どちらかというとSaaSよりもPaaS/IaaSという方が今後の主流だというトーンに変わっていくものの、PaaSという言葉があまり使われなくなっていき、再度SaaSがこの5年くらいで急速に主流として取り上げられるようになりました。なぜそういう流れになったのは不思議だなと思うことの一つです。
変化のスピードが速いと言われるIT業界は、実は短期間でそれほど大きな変化が起きるわけではないというのが、この業界に長くいる上での気づきです。