2022/3/9

【自己変革】「変化」を阻む壁を突破する、“3つの秘訣”

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
持続可能な社会に向けて企業が果たすべき役割、パーパス(存在意義)が従来以上に重要視されるなど、企業経営を取り巻く変化が加速している。
ビジネス環境の変化に伴い経営課題が山積するなかで、企業のアドバイザーであるコンサルティングファームも大転換を迫られている。
「社会や企業ニーズの変化が劇的に加速するなか、コンサルは役割を再定義し、サービスや組織モデルを抜本的に変革しないと生き残れない時代を迎えている」
そう危機感を露わにするのが、PwCコンサルティングCEOの大竹伸明氏だ。
同社は、2021年7月に新戦略を打ち出し、組織やサービスの抜本的な変革を実現しようとしている。
自ら変化することで、社会や企業の変革を目指す同社CEOの大竹氏に、これからのコンサルティングファームの役割と自己変革を成し遂げるための要諦を聞いた。
INDEX
  • 経営者に求められる「2つの視点」
  • 答えがない時代の変革プラン
  • 変革を促すには、自ら変わる必要がある
  • 日本の強みを武器に世界に貢献する

経営者に求められる「2つの視点」

──大竹さんは1991年にコンサルタントとしてのキャリアをスタート、約30年以上コンサルの世界に携わっていますが、昨今の企業を取り巻く環境の変化をどのように捉えていますか。
大竹 DXをはじめ、変革の必要性は新型コロナウイルスがまん延する以前から叫ばれていましたが、コロナ禍を機に求められる「変革のスピード」が劇的に加速しています。
 数年後に想定していたはずの未来が突如訪れたことで、待ったなしの変革を迫られているのです。
 なかでも最も大きな変化のひとつが、従来の「株主資本主義」から、「ステークホルダー資本主義」への移行が、凄まじい勢いで進んでいることです。
 そのため企業には環境・社会・経済の3つの観点から、社会を「サステナブル(持続可能)」なものにするための努力が求められるようになりました。
 株主や顧客、従業員に加えて、社会や地球環境を含む幅広い層の要請に応える必要性が増しています。
 加えて新たな成長戦略も描かないといけないなかで、経営者にとっては非常に難易度の高い舵取りが求められる時代を迎えています。
──サステナビリティへの対応と企業成長を両立させるためには、経営者にはどのような視点が必要になりますか。
 二つの視点が求められます。まず一つ目が、「Trust(信頼)」です。
 “Trust”はコンサルティングの世界で近年頻繁に使われるキーワードで、文字通りその企業が信頼に値するかどうかを意味します。
 いま企業にはサステナビリティの視点を取り込んだパーパスの再定義が求められており、それが企業の信頼を形成する第一歩になります。
 信頼に値する企業であることを社会や市場に理解してもらうためにも、まずはパーパスを根本から見直すことが必要です。
 加えて、商品やサービス、地球環境や人権への配慮、情報を適切に管理するセキュリティ体制、社外取締役などの監視体制など、企業はあらゆる側面から信頼を構築していかなければなりません。
 二つ目が、「Sustained Outcomes(持続的な成長)」です。
 かつてのように、目先の業績を伸ばすことだけではなく、従業員やステークホルダーのウェルビーイング向上などを実現することが求められています。
 それにより社員の生産性や創造性、顧客生涯価値(LTV)を高めるなどして、長期的な成長を描く必要があります。
──とはいえ既存ビジネスで短期的な利益を確保する必要もあります。
 おっしゃる通りで、それに並行して中長期での成長を支える新たな戦略構築や経営資源の最適化を実現しなければならない。これほどまでに経営者の力量が問われる時代はありません。
 例えば自動車メーカーは、基幹業務をエンジン車から電気や水素を燃料とするエコカーへ移行することが求められていますが、そのためには膨大な時間と投資、そして経営者の相当な覚悟が必要になります。
 長く険しい道のりのなかで、限られたリソースをどう配分していくかは非常に難しい問題であり、だからこそコンサルティングファームにも更なる進化が求められています。

答えがない時代の変革プラン

──こうした変化の中で、コンサルティングファームが果たすべき役割とは?
 私がこの業界に入った1990年代当時は「ベストプラクティス(最もすぐれた実践事例)」というキーワードが頻繁に使われていました。
 要するに過去に成功例はすでに存在しているので、私たちコンサルタントはそれを個別企業に当てはめていけばよかったわけです。
 これはこれまでコンサルタントに与えられていた問いが、「シナリオAとBどちらがベストなのか?」というようなものだったため、方向性を示すだけでよかったからです。複数のシナリオを分析し、他社の成功例を参考に、戦略を提案することが求められていました。
 ところがいまは、サステナビリティやデジタル活用など、どの企業も長期的に注力すべきテーマは決まっていて、この先10年のある程度の方向性は明確になっています。
 だからシナリオに選択の余地は少なく、もうシナリオAしか残されていないというのが多くの企業の現状です。
 そのためコンサルタントに与えられる問いも、「シナリオAをどうすれば実行できるのか?」というものに変わり、戦略から実行までを支援することが求められるようになりました。
 もう歴史を遡っても明確な答えはありません。コンサルティングファームは、これまでのようにベストプラクティスを探しているだけでは価値を提供できない。
 クライアントとともに未来を描き、戦略提案だけではなく、それを実行し、新たな価値を生み出す組織へと変革を遂げる必要があります。
──PwC自身は具体的にはどのように変革を実現しようとしていますか。
 PwCは「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というパーパスを掲げています。
 社会や企業のニーズが変化するなか、そのパーパスを追求するためにも「社会や企業の要請に応えられているか?」という問いを自らに投げかけるようになりました。
 果たして、監査やコンサルティングなど、各メンバーファームがそれぞれの役割に応じたサービスを提供しているだけでいいのだろうかと。そのような疑問から2021年6月に生まれたのが、「The New Equation」というPwCグローバルによる新たな経営ビジョンです。
 前述した「信頼」の構築や「持続的な成長」の実現の支援に向け、さまざまな取り組みや組織再編を行っています。
 すでに米国では昨年7月から各サービスの枠を取り払って組み直すなど、大胆な組織変更を行っています。このような取り組みは、私たちとしても10年に1度あるかないかの大規模な自己変革です。
──日本のPwCコンサルティングでも、2021年7月に新戦略を打ち出しています。
 実はPwCコンサルティングでは、「The New Equation」を定める以前から、自身の変革プランの議論を始めていました。
 内容は事業の再構築、新規事業、組織改編、次世代マネジメントへの継承、人材育成などが中心で、1年間の議論を経て、2021年7月に「3つのDによる変革プラン」という自己変革のプランを策定しました。
 3つのDとは、「Design(新しい姿を描き、作る)」「Disruption(従来の概念を覆す)」「Dimension(多くの側面から多面的に考える)」を意味します。
 変革には、物事を別の角度から見ることが必要になりますが、それはわかっていても、思い切って実行できる人は少ない。
 それに人は自らの経験から物事を判断しがちだからこそ、「Dimension(多くの側面から多面的に考える)」が特に重要な視点になります。
 こうしたプロセスを経て「Design(新しい姿を描き、作る)」を描き、それを実行していくうえで重要なのが「Disruption(従来の概念を覆す)」です。
 新しい戦略の実行やそれに伴う行動ではさまざまな壁にぶつかるものであり、それらを常に覆していかなければ、変革を成し遂げることはできません。
 これら3つのDは、クライアントへの価値提供の形であり、私たち自身の変革のコンセプトであり、これからのコンサルタントの在り方でもあります。
 2021年から2023年までの「3年間の変革プラン」で、2年目となる2022年はサービスや組織の大規模な改編を行います。
 最終年度には次世代マネジメントへの継承を準備し、新たな成長基盤を持った企業に生まれ変わります。
 コンセプトは、「より速いスピードでの価値提供の実現」です。
 クライアントのビジネスや置かれている環境をクライアント以上に熟知し、クライアントが取り組むべきことを定義する。
 加えてクライアントが実現したいことを実装する。スピーディーな戦略実現や意思決定を促すため、人員配置やスペシャリスト同士の連携をする。これらを実現する組織になるためにも、3つのポイントを大切にしています。
 1については、市場やクライアントをより深く考察する組織を新設し、その分析をもとに、各チームが素早くかつ適切に提案ができる体制を整えます。
 2については、既存サービスと複数のデジタルサービスを組み合わせて、課題解決のスピードアップを図ります。また、PwC独自の製品やクラウドサービスも提供することで、顧客の戦略実行を加速させます。
 3については、クライアントの意思決定を加速させるため、グローバルの知見や経験を迅速に提供できるような組織体制を構築します。また変革によってどのような効果が得られるのかをビジュアル化して示したり、デザインやテクノロジーの力でプロトタイピングを実施したりしてDXを体感してもらえるような体制も整えます。
 加えて、コンサルティングフィーにもスマートプライシングなどを導入し、クライアントの成功やリスクを私たちも共有する取り組みも強化していきます。

変革を促すには、自ら変わる必要がある

──とはいえ改革が抜本的であるほど、実行の難易度は上がります。
 その通りです。変革の規模が大きければ大きいほど、社員一人ひとりが「自分ごと化」しなければそれは到底実現できません。
 現実に私たちも、既存の役割や目の前の仕事に囚われるばかりに、なかなか変革のマインドセットが養われないことに課題意識を持っていました。
 具体的には、次世代へのバトンを渡さなければならないと頭では理解はしていても、リーダー自ら次のリーダーの名前をなかなか出せないことがありました。
──どのようにして、その壁を乗り越えたのでしょうか。
 これらは変革するうえで必然的に発生する問題ではあります。そして、このような事態を打破するための「特効薬」はありません。時間をかけながら、丁寧に対話を積み重ねるしかないのです。
 重要なのは、「なぜやるのか(Why)」の共有と対話をリーダーが怠らないことです。一人ひとりが「自分ごと」として問題意識を持ち、なぜ変わらないといけないのかを自分の言葉で語れるようになるまで、コミュニケーションを繰り返しました。
 具体的には、1年間、毎月半日ミーティングを行うなど対話を重ねたことで、徐々に組織のマインドセットにも変化が生まれています。
 とはいえ2年目以降も、これまでとは異なる混乱が起きるかもしれない。
 それでも、普段からクライアントに変わらなければならないとアドバイスしている私たちが、自らの変化を拒むことはあってはならないことです。たとえ痛みがあっても恐れることなく、変革のマインドセットを私たち一人ひとりが持つ必要があります。

日本の強みを武器に世界に貢献する

──コンサルティングファームのポジションから、今後日本経済をどのように活性化させたいと考えていますか。
 実は5年前にPwCがグローバルで設定した各国の現地法人の分類で、PwCジャパングループはエマージング・カントリー(新興国)に区分されていました。
 日本はGDPで見れば先進国でも、コンサルティングの市場で見ると新興国だったのです。
 当社はグローバルからの投資も受けながら日本市場の拡大に取り組み、おかげさまで過去5年で収益を約70%成長させ、米国に次いで世界で2番目の収益を上げるチームに成長することができました。
 ですがいまグローバルから日本法人に求められているのは、収益の成長だけではなく、グローバルへの貢献です。
 これまで当社はPwCのグローバルネットワークを活用して日本企業の海外進出を支援してきましたが、今後はそれに加えて日本ならではの強みをグローバルに提供することが求められています。
 「メイドインジャパン」の中には、海外で大きな価値を持つノウハウが数多くあるはずだからです。クライアント企業とともに当社自身のグローバル化を進め、各国のネットワークの中でリーダーシップを取れるチームに成長していくことが使命なのです。
──PwCコンサルティングのポテンシャル・強みをどのように捉え、オリジナルな価値を提供していきますか。
 組織は大きくなるほど、専門性が失われやすい傾向があります。現在当社は3300人の人員を抱えており、これ以上拡大していくとジェネラリストの大集団になってしまうおそれがあります。
 そこで、どの領域を深耕するかを明確にすることで、現在の強みであるスペシャリストたちの専門性をより高めていける組織を目指します。PwCのグローバルネットワークが、その振り分けの判断に大いに役立ちます。
 特に注力するのは、AIやDXなどを含むテクノロジー領域です。テクノロジーを深耕するには最先端を担う学術機関との連携も不可欠で、それを拡大していくには規則や規制を担う官公庁を巻き込む必要があります。
 大きなインパクトを生み出し、社会を変えていくためにも「産学官連携」を強力に進めていきます。
 クライアント企業への支援は、質だけでなくスピードも重要です。DXやESGなどのホットトピックに関する支援はさまざまな企業が行っていますが、どこよりもスピーディーに提供できることが当社の大きな価値になります。
 当社の社会貢献をSDGsの17項目のどれかで表現するなら、主に「パートナーシップで目標を達成しよう」の項目になるでしょう。
 当社が関われば関わるほどクライアントが社会貢献できるよう、グローバルパートナーシップを通じた支援に今後より一層取り組んでいきたいと思います。