2022/2/18

【最新SNSマーケ事例】認知からロイヤル顧客化まで一気通貫のInstagram術

編集ライター (NewsPicks Brand Design 特約エディター)
 コロナ禍でオンライン化が加速し、消費者の行動の多様化・個別化が進んでいる現在。
 自分に興味がない情報からはすぐに離脱するのが当たり前になったことで、いかにしてターゲットに有益な情報を届けるか、どうすれば興味を持ってもらえるかに頭を悩ませるマーケターは少なくないだろう。
 この課題を解決するプラットフォームとして注目すべきなのが、Instagramだ。
 数年前まで、Instagramはフィード投稿やストーリーズでのプロモーションが主流で、マーケティング・ファネルの一部を担う認識だったかもしれない。
 しかし、Instagramライブや動画、リール、ARカメラエフェクトなど多機能化したことで、認知からロイヤル顧客化までInstagramのみで完結するようになっている。
 とはいえ、従来のマーケティング・ファネルで整理していたのでは、Instagramで完結する最適なマーケティング施策を実行するのは難しい。
 そこで、電通とFacebook Japanが開発したのが、新しい消費行動にマッチする新しいフレームワーク「Instagram Spiral Framework」だ。
 これは、コミュニケーションの全体最適ができるフレームワークで、ブランドへの好意形成を図る「Seed」、ユーザーを巻き込みながらブランド理解を深める「Involve」、何らかのきっかけで発火し購入に結びつける「Trigger」の3つのアプローチで整理する。
 ポイントは、どのタッチポイントも入り口になり、右回りにも左回りにもなること。多様な消費行動に対応できるという。
 今回は、このフレームワークを活用してInstagram内でフルファネルのマーケティング施策を実施し、高い効果を得たネスレ日本のキャットフード「ピュリナ ワン」の事例を紹介する。
 ネスレ日本と電通、Facebook Japanの3社の協業による最新のInstagramマーケティングを徹底解説する。
INDEX
  • プレミアムなペットフードをどう広げるか
  • Instagram内でフルファネルの施策を実現
  • 広告とオーガニック、アカウントの相乗効果を狙う
  • あらゆる側面で得られた、大きな効果

プレミアムなペットフードをどう広げるか

──まず、「ピュリナ ワン」のブランドとターゲットを教えてください。
森嶋(ネスレ日本) 「ピュリナ ワン」は、ペットの健康に有効な栄養素をバランスよく満たしたプレミアムペットフードブランドです。
 ペットの毛艶や便など、目に見える形で健康状態がわかるようになり、さらに健康寿命の延伸を目指しています。
 ターゲット層は、ペットの健康に対する意識が高いペットオーナー。
 WebサイトやSNSから能動的に情報を収集し、原材料や栄養成分を複数のブランドで比較検討するような方です。
──今回、ネスレ日本と電通、Facebook Japanの3社による協業で、新しいフレームワークを活用したInstagramマーケティングを実施しました。その背景にはどのような課題があったのでしょうか。
森嶋(ネスレ日本) 課題は2つあって、1つはどうすればペットフードに健康機能食を求める“潜在層”にアプローチできるかです。
 ピュリナ ワンは猫の健康機能食におけるドライフードのカテゴリでは圧倒的No. 1のシェアを誇っていますが、新規のトライアル率が鈍化しているという課題がありました。
 その背景にあったのが、競合ブランドから切り替える顧客の鈍化と、新しい競合ブランドの出現。
 だから、健康機能食を求める顕在層だけでなく、ブランドの裾野を広げてより広い消費者にアプローチする必要がありました。
 2つ目は、新商品であるウェットフードの認知とトライアルをどのように獲得するか。
 ドライフードはシェアNo. 1でも、ウェットフードは新商品。いかに認知してもらうかが課題でした。

Instagram内でフルファネルの施策を実現

──今回の施策について、具体的に教えてください。
森嶋(ネスレ日本) 今回は「猫の健康には食事が大事である」というコンセプトで、ドライフードとウェットフードを組み合わせて与える「ミックスフィーディング」が、猫の水分補給には有益であるというコミュニケーションを取りました。
 狙ったのは、ブランドの健康イメージを押し上げて、ドライフードの新規トライアル獲得と、ドライフードとウェットフードのクロスセルの実現です。
 もともとInstagramにはピュリナ ワンのターゲットとなり得る利用者、つまり猫オーナーが多く、ブランドの認知・好意形成に有効だとわかっていました。
 ただ、今までは主に健康機能食を求める顕在層に向けたダイレクトレスポンス広告(商品の購入に直接つなげることを目的とした広告)を中心に運用していました。
 それを今回は潜在層の開拓のため、ブランディング広告への投資を強化しながら、認知と好意の形成、トライアル、購入、ロイヤルティーの醸成までを一気通貫で実施。
 Instagramのプラットフォームをフル活用し、ブランディング広告とダイレクトレスポンス広告の連動、さらに広告とオーガニック運用の連動に取り組んだのですが、すべての施策を、Instagramで展開したのは新しい挑戦でした。
──そこで活用したのが、電通とFacebookで共同開発した「Instagram Spiral Framework」。
石川(電通) そうです。
 今回のゴールは無料サンプルの応募やトライアルへの誘導だったので、好意を形成する「Seed」と、体験を通して理解を深める「Involve」に注力することで、購入意向を高める「Trigger」とブランド愛用者の「Deepen」につなげることを考えました。
──具体的な内容を教えてください。
 まず「Seed」では、商品ではなく猫自体に焦点を当てました。
 猫オーナーが気になる話題や、お悩みに寄り添ったテーマ、“推し猫”を探す9連のグリッド投稿など、動画素材も使いながら、猫の健康を第一に考えているブランドのコンセプトを感じさせ、好意を形成するコンテンツを投稿。
 次に「Involve」では、ストーリーズでアンケートや猫クイズなどインタラクティブなコンテンツを発信し、ユーザーがブランドのコンセプトに触れられるコミュニケーションを展開しました。
 こうしてブランドの認知と理解を促したら、ユーザー巻き込み型施策として「#映える猫には秘密がある」というフォトコンテストを開催。
 ユーザーの投稿を紹介すると同時に、普段から猫の写真をアップしているインフルエンサーからも投稿してもらうことで、愛猫家コミュニティを盛り上げました。
 最後に「Trigger」では商品に焦点を当て、猫オーナーが気になる話題を切り口に商品メリットを伝え、購入意向を高めるTipsコンテンツを投稿しました。
 全体を通して工夫したのは、各投稿に「無料お試しセット」への誘導を仕掛け、サンプルに応募するにはアカウントのフォローを必須にしたこと。
 投稿に触れた人にフォロワーになってもらうことで、熱量の高い“生きた”コミュニティを形成できたのが、最終的な購買につながったのだと思います。

広告とオーガニック、アカウントの相乗効果を狙う

──今回のプロジェクトで、Facebookはどのようなサポートをしたのでしょうか?
石田(Facebook Japan) 中長期的な顧客の獲得やブランド資産確立に向けて、獲得のためのダイレクトレスポンス広告だけではなく、ブランディング広告の活用やオーガニック運用を見直し、Instagramをフルファネルで活用いただくための支援をしました。
 Instagramの利用者は、情報収集を行う際や広告に触れて興味を持った際に、そのアカウントのプロフィールや過去の投稿を閲覧する傾向が高いという特徴があります。
 ブランディング広告では今までターゲティングできていなかった新たな潜在顧客へのリーチ拡大が見込めます。
 つまり、ブランディング広告に注力するとアカウントへの流入の増大が予測されるため、両方の運用に注力することで相乗効果が生まれるんですね。
 それを最大限発揮するためのサポートや、各コンテンツに対するクリエイティブなどの提案を行いました。
森嶋(ネスレ日本) 今回、最初のブリーフィングから最後までサポートいただいたおかげで、本当にInstagramをフル活用できました。
 何と何がどう作用するのか、どんなコンテンツが猫オーナーにとって有益なのか、また社内で運用するとなるとどれくらいのリソースが必要なのか。
 実感値として得られたのは大きかったです。

あらゆる側面で得られた、大きな効果

──今回の取り組みで、得られた成果を教えてください。
森嶋(ネスレ日本) 具体的な数字は言えませんが、1カ月半のプロジェクトで、今まで伸び悩んでいた新規のトライアル率が圧倒的に向上し、新商品のウェットフードのシェアも大幅に拡大しました。
 ブランディングに関しても、将来のポテンシャルユーザーになり得る層にまでリーチでき、ブランドリフト調査でも認知・好意形成は目標値に達しています。
 さらに、無料サンプルやトライアルにつなげるダイレクトレスポンス広告は、キャンペーン実施前に比べるとCPA(Cost Per Action、顧客獲得単価)が30%改善
 これは、クリエイティブの改善が寄与しただけでなく、ブランディング広告とダイレクトレスポンス広告に重複して接触した利用者も寄与したことがわかりました。
──重複して接触することで効果が高まった。
森嶋(ネスレ日本) そうなんです。重複接触者は単独接触者よりもコンバージョン率が3倍も高かったのには驚きました。
高(電通デジタル) それから、ピュリナ ワンはもともと約3000人のフォロワーを持つアカウントだったのですが、今回のキャンペーンを開始して1カ月半後にはフォロワー数が200%も増加しています。
 フィードとストーリーズの両方で猫全般の知識を共有し、ピュリナ ワンの商品理解につなげて行動に結びつけるための、「映える猫とは何か」「映える猫の写真講座」「猫のお悩みあるある」などのコンテンツを用意したのですが、すべての投稿が今までの投稿の平均エンゲージメント率を上回りました
 なかでも、ストーリーズで展開していた「猫クイズ」は、フォロワーの30%が回答するという脅威の数字で、共感できるコンテンツを作れていたことを実感しています。
 キャンペーン開始後、200%も増加したフォロワーからこうしたレスポンスを得られたことは、ピュリナ ワンのアカウントの世界観に共感するビジネスターゲットに近しいユーザーに対して、広告やインフルエンサー施策でリーチでき、流入したと考えられる結果でした。
 加えて、今回は猫インフルエンサーも起用したのですが、そのPR投稿は平均と比べても、2.5倍高いエンゲージメント率を得られました。
 エンゲージメント率が高かった理由は、インフルエンサー自身が猫オーナーだったから。
 猫の健康や心配事など、インフルエンサーの投稿を起点に、フォロワー間で会話が生まれ、とても自然な形でピュリナ ワンが浸透。
 信頼できるコミュニティからの口コミ効果により商品理解も進んだのが、ユニークなポイントと考えています。
森嶋(ネスレ日本) 実は、今回のキャンペーンを実施するまで、Instagramでは拡散力が弱いのではないか、そんなに効果が得られないのではないかと個人的には半信半疑だったんです。
 でもインフルエンサーの活用やアカウント運用をしてわかったのは、Instagramはコミュニティづくりの場である、ということ。
 利用者同士が気軽にフォローし合って会話をしながら、コミュニティが広がっていく様子を目の当たりにしましたし、コミュニティ内で得た情報は自分ごと化しやすいので、拡散というよりも「ブランドへの愛着の深さ」を作れることを実感しました。
 ただ、今回かなり良い結果を得られたとはいえ、このやり方がベストかどうかの精査は必要です。
 ターゲティングの方法や、素材やテーマ別のクリエイティブ、また動画の視聴とバナーのクリックではどんな違いが出るかなど、今後も回数を重ねながら、徐々にベストなやり方を確立させたいと思っています。
石川(電通) 我々も、フレームワークは随時アップデートしたいと考えています。
 今回活用した新しいフレームワークはブランド視点のフレームワークですが、「メディアプランニング視点」「クリエイティブ視点」「オーガニック視点」の3つのフレームワークも新たに開発したので、今後情報を発信していく予定です。
 Instagramマーケティングを企業のマーケターが当たり前に活用できるよう、多方面からさまざまなビジネスに貢献できるフレームワークに進化させたいと思っています。