SPORTS-INNOVATION

スポーツも売上が大事

成長しなけりゃ、勝てやしない(前編)

2014/10/17
テクノロジーの力によって、スポーツ界で大きな変革が起ころうとしている。その牽引役となっているのが、世界的なソフトウェア企業の『SAP』だ。同社はドイツ代表、バイエルン・ミュンヘン、ニューヨーク・ヤンキース、49ersなど次々に有名チームと提携を結んで改革を押し進めている。いったいスポーツはテクノロジーの力によってどう変わっていくのか? 同社のChief Innovation Officer の馬場渉が、業界の最先端からレポートする。
1995年に野茂英雄がドジャースに移籍した当時、プロ野球と大リーグの売上はほぼ同じだった。だがその後、大きな差がついた(写真:ロイター/アフロ)

1995年に野茂英雄がドジャースに移籍した当時、プロ野球と大リーグの売上はほぼ同じだった。だがその後、大きな差がついた(写真:ロイター/アフロ)

チーム強化と会社の人事は同じ

スポーツの世界のマネジメントは一般に、「スポーツオペレーション」と「ビジネスオペレーション」という2つの分野が存在します。まだ連載第2回ですし、序盤編ということで本連載の対象範囲を明らかにする上で、少しこの考え方に触れておきたいと思います。

スポーツオペレーションは、選手が強くなるとかチームが勝つとかといった、選手やチームのパフォーマンスを直接担当する分野であり、GMがいてコーチがいてトレーナーがいて、まさにイメージするスポーツチームそのものです。

ビジネスオペレーションはチケッティング(入場収入)、マーチャンダイジング(グッズ等)、メディア(放映権等)、ベニュー(スタジアム関連)、ファンエンゲージメントというような、その名の通り企業が持っている機能と非常に似ている分野です。

スポーツオペレーションはスポーツ特有だという人も多いですが、たぶんそんなことはなくて、つまりはこれは「人事」、あるいは「タレントマネジメント」です。採用、人材開発、後継者計画、目標管理、評価、報酬、リスク管理で……と。スポーツ用語でいえばゲーム戦術、強化や育成、スカウティングですね。

これらの組織・業務機能は直接スポーツチームを抱えるクラブや球団だけでなく、リーグや協会なども似たような仕組みになっています。お互いの仲がいいとか悪いとか、今後はどうあるべきとかそういう話は一旦さておき、まずは通常そういうトピックがあるということです。

イノベーションとオペレーションは別物

本連載では「イノベーション」を共通のテーマとしますので、この従来の枠は一旦無視します。……と行きたいところですが、理解しづらくなると思うのでまずは過去の常識を踏襲し、このスポーツマネジメント両分野のイノベーションをそれぞれ題材とし、それに加え、行政や教育機関、関連産業なども含む各領域のイノベーションの事例や手法を「グローバル」や「テクノロジー」というキーワードを加えて書いていこうと思います。

ちなみにスポーツオペレーションもビジネスオペレーションもどちらの分野も「オペレーション」と名前がついています。NewsPicks読者には釈迦に説法かもしれませんが、イノベーションとオペレーションは全く別物です。共通点はほとんどナシと思った方が正しいと思います。

ほとんどの社会人はオペレーション脳で鍛えられていますが、これでイノベーションを考えてもダメです。イノベーション筋でオペレーションをやってもこれまた悲劇です。別の言語、別のスポーツだと思って、イノベーションにはイノベーションの脳と神経と筋肉を鍛えることが重要です。人間って便利なものでスイッチポンでバイリンガルになれるはずです。

20年前、日米の野球ビジネスの規模は同じだった

さて、前回宣言したとおりバイエルンの話でもしてみようと思います。写真のこの方は、先日ロンドンで行われたSAP Sports Forumでお話を伺ったFCバイエルン・ミュンヘンのデジタル担当Stefan Mennerich(シュテファン・メネリッヒ)氏です。

SAP Sports Forumで講演するFCバイエルン・ミュンヘンのデジタル担当Stefan Mennerich氏(写真:馬場氏提供)

SAP Sports Forumで講演するFCバイエルン・ミュンヘンのデジタル担当Stefan Mennerich氏(写真:馬場氏提供)

写真のスライドには、こう書かれています。

SAP helps Pep Guardiola with detailed information about his players’ current performance levels.
(編集部訳:「SAP社は選手のパフォーマンスレベルの詳細なインフォメーションを与えることで、ペップ・グアルディオラ監督を助けている」)

“SAP provides modern analytical procedures to minimize the risk of injury.”, Karl-Heinz Rummenigge, FC Bayern München CEO
(編集部訳:「SAP社は最新の分析手順を提供し、ケガのリスクを最小化している」、カール・ハインツ・ルンメニゲ、バイエルン・ミュンヘンCEO)

最近、週次で社内の「バイエルン支援部隊」、「49ers部隊」、「ヤンキース部隊」、「F1マクラーレン部隊」らとプロジェクトの進捗をレビューしたり意見交換したりしています。

さすがバイエルンだなぁと感じることがいろいろあります。最近のバイエルンは一昔前と違って大変魅力的なチームなので、常に新たなチャレンジを行うグアルディオラ監督率いるこのビッグクラブが、どのようなスポーツオペレーションをしているのか気になる方も多いと思います。しかしその辺は次回以降にとっておくとして、今日はあえてビジネスオペレーションをトピックとしたいと思います。”Our on-pitch success is based on financial sustainability” (バイエルン・ブランド哲学)という通り、表裏一体のものですから。

ビジネスと言えば、こんな数字から行きましょう。20年前の日米プロ野球のビジネスパフォーマンスってご存知ですか? 西武の黄金時代が終わり、仰木監督とイチローがいて、野村監督がいて、巨人は長嶋監督だった頃です。野茂選手がドジャースに移籍したのが1995年です。その時も既にメジャーリーグとか大リーガーってスゴそうなイメージでしたよね? なんたって大リーグボールですし。

でもビジネス的には日本のプロ野球が球団の売上合計約1,200億円だったのに対し、MLBは全体で当時約1,400億円。大差ないんです。それどころか球団当たりで割れば日本の球団の方がうまくいっていた。これ20年経ってどうなったと思いますか? 日本は成長なしでほぼ横ばい、MLBはなんと1兆円にも届こうかという勢いです($8.5Bから$9.0Bの予測)。

馬場 渉
Chief Innovation Officer, SAP

*本原稿の後編は、明日(10月18日)に掲載します。