2022/1/27

【EC事業者必見】社会課題解決に挑む、変革者たちの「顧客体験論」

NewsPicks Brand Design Senior Editor
誰もがネットでものを売れる時代、多数のD2Cブランドが立ち上げられているが、もちろんそのすべてが成功するわけでない。顧客から支持され成長し続けるブランドと、そうなれないブランドとの違いはどこにあるのか。

その答えのひとつが、「顧客体験」にある。なかでも、ものをつくり、売り、届ける──この一連のプロセスにおいて、決して軽視できないのが「届ける」のフェーズだ。

EC自動出荷システムを手掛けるロジレス・足立直之氏が、現在、急成長中のベースフード・橋本舜氏と、TENTIAL・中西裕太郎氏を迎え、「最高の顧客体験」とは何か、また、それを実現するために必要な企業の姿勢について語り合った。

「最高の顧客体験」を実現するために

足立 私たちロジレスは、ECロジスティクスの変革を掲げ、日々、お客様から学びながらプロダクトの開発を続けています。
 EC市場全体の急伸が続く中で、顧客の満足度を高め、愛され続けるブランドになる企業様は顧客体験に対しての強い信念をお持ちで、私たちも刺激を受けることばかり。
 今日は、とくに顧客からの支持が高く、LOGILESSのユーザーでもある2社様と一緒に考えたいと思っています。
 いきなり本題ですが、「最高の顧客体験」を実現するために、どんなことを意識されていますか。
橋本 我々、ベースフードが目指すのは、“栄養のインフラ”になること。水道、電気、ガス、栄養……というように、「栄養バランス」が誰のもとにも簡単に届く社会をつくりたいと考えています。
 最高の顧客体験を目指すために、まずはお客様に「不満のない状態」をつくることがスタート地点だと思います。
 ベースフードであれば、値段が適正であること、配送に遅れや不備がないこと、飽きずに毎日食べられることなど、快適に使っていただけるサービスの基盤づくりをするための努力は欠かせません。
 加えて、お客様は「一緒に食のイノベーションを広げていく仲間」であるとも考えています。
 毎月の継続コースに同梱している情報誌「BASE FOOD Journal」や、オンラインコミュニティ「BASE FOOD Labo」などを通し、お客様との対話に力を入れています。
 また、お客様は我々にとって「投資家」でもあります。
 継続的にご購入いただいている方々は、商品がさらにおいしくなり、サービスがよりよくなることを望まれているでしょう。
 ベースフード独自のフードテクノロジーによって、「かんたん・おいしい・体にいい」を追求していくことが、よりよい顧客体験につながっていくと考えています。
中西 TENTIALは、お客様の挑戦を心身ともに支える存在になりたいと考えています。
 日常生活にTENTIAL製品を取り入れることで身体のコンディショニングができるだけでなく、使っていることで自信がついて、お客様が前向きになれるような存在を目指しています。
 私自身、サッカー選手を目指す中で、怪我や病気で挑戦を遮られた経験があります。
 それから前向きでいられないときもたくさんありましたが、体が元気であれば、いくつになっても再起してチャレンジができると実感しました。
 TENTIALには私自身を含め元アスリートの社員が在籍しており、スポーツ選手のコンディショニングや体のケア習慣をビジネスパーソンにも広げたい、という強い思いがあります。
 睡眠の質を高め、足元を守り、体全体の調子がよくなれば仕事のパフォーマンスも上がり、新しいことに挑戦する意欲もわいてくる。日常生活をサポートできる、ものづくりに向き合っています。

「1日6000個」の注文を受け、痛感したこと

中西 ただ、顧客体験という視点でいうと、大きく反省する出来事がありました。
 2020年のコロナ禍で、通気性の高い抗菌マスクをいち早く販売したところ、我々の想定をはるかに超える“マスクバブル”がやってきまして……。
 それまでは、注文いただいた商品を自社オフィスから配送していました。
 ところが、マスクは1日に6000個の注文が入ることもあり、社員全員で配送作業を行いましたが、まったく間に合わない。
 当時はスプレッドシートで情報を管理していたのですが、手作業によるミスが続出してしまいました。
 このままでは絶対にダメだと、ロジスティクスを見直し、さまざまなサービスを検討して導入を決めたのが「LOGILESS」です。
足立 商品が売れてうれしい悲鳴ですが、現場は本当に大変ですよね。
中西 誤送や配送の遅延で、ご迷惑をかけてしまい、ロジスティクスの重要性を痛感しました。
 その後、よかったのは、マスクでTENTIALを知ったお客様が、素材の良さを感じ他の商品も見てくれたことです。
 2020年はマスクが売上の8割を占めていたのですが、その需要が1~2割に落ち着いた今も、全体の売上を倍に伸ばすことができています。
 マスクだけで終わる会社じゃなかった…と安心しながらも、日々、顧客体験向上のための改善を続けています。
橋本 我々も、配送遅延からシステムの見直しを図った経験があります。
 まだサービスを立ち上げて間もない頃、配送遅延が発生してしまい、「ちゃんと届けてくれないと、私の健康に影響がある」とお客様からお叱りを受けたことがありました。
 お客様にとって、ベースフードが健康のインフラになっていて、それを支えるためには「遅延なくお届けする」という当たり前のことが必要不可欠であると痛感した出来事でした。
 ちなみにそのお客様は、その後ベースフードに入社し、現在はCOOとしてサプライチェーンの体制を整えてくれています。
 以前は、自社の「OMS(受注管理システム)」と、倉庫側の「WMS(倉庫管理システム)」、それぞれ別のツールを使っており、出荷のためのデータを手動で連携する必要がありました。
 そのため、夜間や週末のご注文への対応には、どうしても時間がかかっていました。
 しかし、お客様は、いつ注文した商品であっても、すぐ手にしたいと思われています。我々も、お待たせすることなく最速でお届けしたい。
 手作業によるタイムラグをなくすため、OMS・WMS一体型のLOGILESSを導入。
 現在は、商品が売れると同時に倉庫に自動で出荷指示が送られる環境を整備でき、お客様のもとにより早くお届けできるようになりました。
 また、無駄なコストがかかっている部分などを効率よくデータで分析できるようになり、配送料を年間で1000万円以上削減することができました。
足立 ビジネスに貢献できて、うれしいですね。
 LOGILESS内に蓄積しているデータは、なんでも引き出して好きなように活用してほしいと思っています。
 商品がどの販路で売れ、どの倉庫から、どう配送されて、いつお客様の手元に届いたのかをトラッキングできるので、たとえば「〇〇県で購入したお客様には、どれくらいの時間で届いているのか」などを分析し、事業改善に生かしているお客様が多いのです。

顧客の声がプロダクトを進化させてきた

橋本 お客様の理想の体験を追求していくと、システムに対しても「こういう機能がほしい」「これはできないのか」という要望が次々に浮かんできます。
 そういった課題をロジレスさんとフラットに議論でき、一緒によりよい顧客体験を実現できたことはありがたかったですね。
足立 お客様の困りごとを教えていただけるのは、本当に幸運なことだと思うんです。
 2019年2月にベースフードさんとのお付き合いが始まったのですが、それ以前は食品を扱うEC事業者様のご利用が少なく、知識が足りていませんでした。
 常温と冷凍の商品を違う倉庫から届けたいときはどう配送の手配をすべきかなど、シャープな質問をいただき、気づかされることが多々ありました。
 お客様からのフィードバックにこそ、プロダクト開発のヒントが詰まっていると実感しています。
中西 TENTIALでは、ECの売上分析もすべてLOGILESSのデータをもとに行っているので、いまや我々のビジネス基盤になっています。
 LOGILESSがあれば、購入いただいた順番に出荷できるので、仮に今、6000個の注文が来たとしても「私の方が早く買ったのに、まだ出荷されない」という事態は起こりません。
 出荷前の検品もシステム上ででき、間違った商品を届けてしまうこともほとんどありません。
 商品が届いた際の、梱包や同梱されるメッセージもお客様にとっては非常に重要な体験として、TENTIALでは重視しています。商品を手にとって、いかにワクワク感を感じていただけるか。
 購入チャネルごとに梱包内容やメッセージ発信などのコミュニケーションを変えることができるLOGILESSをフル活用して、さまざまな工夫をしています。
 最近は、季節ごとにイベントやキャンペーンをしているので、そのための特別出荷にもどんどんチャレンジしていきたいと思っています。
橋本 よく、IT界隈の方に「ものづくりをやりたい。オンライン決済システムはどうしよう」などと聞かれることがあります。もちろん購入までの体験も大切ですが、意外と見落としがちなのがその後の部分です。
 ものをつくって、どう届けるか。この2つも顧客体験の多くを占めます。
 ECでものを売る以上、「届ける」は事業のメイン活動のひとつです。
 そもそもロジスティクスがなくなれば、どんなにすばらしいものをつくってもまったく届かなくなりますから、絶対に揺らいではいけません。
 ITの視点だけだと、そこが抜け落ちてしまいがちですが、配送が遅れるとか配送順が違うといった不満が生じれば、どんなに商品がよくても信頼性は落ちてしまう。
 逆に、想定より早く届いたり、キレイな箱で届いて驚きがあったり。そういった体験の積み重ねが、一歩先の顧客体験をつくっていくのだと思います。
中西 まさにそうですね。
 いいものをつくるだけで、お客様の満足度が上がるわけではない。
 配送による満足・不満足が、製品自体の満足度と同じくらい大事であり、ものづくりとロジスティクスにちゃんと向き合って初めて、顧客体験を担保できると思っています。
 マーケティング視点だと、つい気軽に「この商品をセット売りにしよう」などと言いがちですが、もし商品ごとに倉庫が分かれていれば、簡単なプロセスではありません。
 ロジスティクスの部分も理解して、全体の施策を考えられる視点が本当に重要だと思います。

EC事業者の思いを叶える、プロダクト開発を

橋本 ものづくりはITサービスとは違って、物理的にものをつくって届けるという活動があり、規模が大きくなればなるほど、自社だけでは完結しません。
 配送業者や倉庫業者のみなさんが無理をするような働き方が続けば、みんなが疲弊して共倒れする未来がやってきてしまいます。
 昨今のESGの流れは、パートナー企業を含めたウェルビーイングを大切にしなければ成り立たないと思います。
足立 おっしゃる通りだと思います。
 EC事業者さんと倉庫事業者さんは、パートナーのようなもの。
 双方が「いかに円滑にいい状態をつくれるか」という目線で対話できているかによって、顧客体験は大きく変わってくると思っています。
 我々も、LOGILESSをよりよいプロダクトにし、EC事業全体を盛り上げるために、これまでお客様の声に愚直に向き合ってきました。
 だから、「こんなことやりたいんだけど、ほかのシステム会社さんには無理だと言われた」と話をいただくと、反骨精神から、できませんとは言わなかった。
 けっして楽な道ではなかったのですが、「自分たちのノウハウを提供するよ」「一緒にいいものつくっていこう」と言ってくださるお客様に出会えたことが、ここまで続けてこられた理由だと思っています。
 お二人は、顧客から支持され、成長を続けることができた理由をどのように分析していますか。
中西 我々は、顧客から支持されたと言い切るにはまだまだ途上です。
 ただ、TENTIALは、体のケアに対して誰よりも真剣に向き合っている人の集団であり、アスリートのお墨付きや一般医療機器に認定されているなど、信頼いただける製品を開発しているという自信はあります。
 売れるから、かっこいいからという前に、「いつまでも健康的な体を実現するための製品」を追求し続けていきたい。
 私自身、50歳になってもチャレンジしている人でありたいので、そこに自社のソリューションが寄与できている状態がつくれるといいなと思っています。
橋本 私は、顧客の課題解決がコストセンターにならないようなビジネスモデルの構築が、経営者としての責任だと思っています。
 顧客の体験向上を続けていけば事業が確実に成長できる状態は、当たり前ではありません。だからこそ、事業成長につなげられるようにビジネスをデザインすることが大事。
 定期購買はその一つで、顧客体験が向上しなければ売上が増えません。
 あえて定期購買のやり方を続けてきたのは、自分たちの「逃げ道をなくす」ため。
 顧客の課題を解決すると、お客様一人ひとりだけではなく、自分たち社員にとってもいいという仕組みを続けていくことが重要なのだと思います。
足立 まさにそうですね。お二人のお話をうかがって、改めてEC事業者さんの思いを強力に後押しできるプロダクトをつくらなければ、と身が引き締まりました。
 労働人口は減っているなか、現時点で年間40億個以上の宅配便が動いていて、2035年に88億個になるとも言われています(予測値は日本経済研究センターによるもの)
 ECビジネスに携わる企業や人の負荷が増え続けていくことは間違いありません。
 さらにお客様に届くバリエーションは多様化して、まとめて一か所に届ける、在庫がある販売チャネルを可視化して案内するなど、さまざまなソリューションも一般化してくるでしょう。
 ロジレスが提供したい顧客体験は、何のストレスもなくEC事業を伸ばしていける状態です。
 我々はその時々の生産性を最大化して、お客様によりよい状態でものが届く支援をし続けていきたいと思います。