THE大組織イノベーターズ_出木場

リクルートの未来を担う男、出木場久征(上)

リクルート最年少執行役員の、破天荒すぎるスタイル

2014/10/16
本日10月16日、ついにリクルートホールディングスは東京証券取引所1部に上場する。予想される時価総額は1.7兆円超。生活のあらゆるシーンに入り込む巨大メディアカンパニーの従業員数は連結で2.8万人を超す。その中でもたった17人しかいない執行役員の一席を占めるのが弱冠39歳の出木場久征氏である。2011年に史上最年少で執行役員に就任以降、2012年には米国の転職検索エンジン「Indeed」の買収を手がけ、自らCEOに就任した。
日本企業における海外企業のM&Aは難しいとされる中、従業員数を買収当時から2倍以上に増やし同社を成長路線に乗せている。そんな出木場氏はかつて宿泊予約サイト「じゃらんnet」を担当するなど、若くして大きな成果を積み上げてきた。そんな彼に、若手が組織の中でイノベーションを起こすための秘訣を聞いた。見えてきたのは、サラリーマンとはとても思えない、破天荒なスタイルだ。

 出木場氏

自由を制限されることには2秒も堪えられない

「私はリクルートで常にやりたいことに没頭してやってきました。面白くないことをさせられたらやめようってずっと思ってたんですが、結果的にいつも面白いことをやらせてもらってる。だからやめ損ねちゃいました。逆に、苦手なことは苦手なままで来てしまったかもしれませんね。例えば締め切りとか人生で一度も守れたことがないかも知れません(笑)いつも周りに助けてくれる仲間がいて、何とかやってこれました」

出木場氏は豪快に笑いながらそう語る。オースティンに位置する米IndeedからSkypeを繋いでのインタビューとなったが、画面の向こうからそのエネルギーが伝わってくる。

リクルートには、起業したり、学生団体のリーダーを務めたりするような”イケイケ”な学生時代を送った者も数多い。出木場氏も学生時代にネットで個人事業を行っていた一人だ。一般的に、リクルートには、徹底的に営業スキルを叩き込まれ、軍隊式に鍛えられるというイメージもある。

新入社員の頃に、出木場氏の癖の強さは叩き潰されなかったのだろうか?

「自由にやらせてもらいましたね。例えば、僕は中学からずっと昼寝する習慣を持っていて、リクルートに入社して営業に配属されてからも隙を見付けては昼寝してました(笑)。4年目に企画に移り内勤になったんですが、そこでも昼寝したいって言ったら上司が『いいよ』って。変わった上司でした(笑)。でも、つまり、成果を出していれば、ある程度の自由は認めてもらえる。僕は特に自由を制限されること自体が本当に苦手で、そんなことをされると2秒でやりたくなくなっちゃう。普通の会社に入っていたらすぐクビになっていたでしょうね(笑)」

出木場氏の言う「自由」を象徴する出来事は、新卒1年目のときに起こった。クライアントに対してお礼状を書くべきだと主張する上司に対して、お礼状を書く暇があるならほかのことをやったほうが売上げが上がるだろうと出木場氏は反論。それが上司の反感を買い、「もう何も教えてやらない」と突き放されたのだ。

「その時に上司に向かってこう言ったんです。『あなたの言ったとおりに売上げが上がってもそれは会社の売上があがるだけ。今後の世の中に求められるサービスをつくるには、僕個人のやり方でやった方がいい。僕は会社のために働いてるわけじゃないから』と。上司は呆れていましたが、それを聞きつけた別のマネージャーからは『お前の好きにやってみろ』と言われました」

自分にできないことは他人に任せる

自分が思ったことは自由にやり、徹底的に我を通す。そんな出木場氏が個人プレーヤーとして活躍する姿は想像がついても、マネージャーとして人をまとめる姿はイメージしづらい。

「僕は、学生時代はどれも”ある程度”どまりでした。野球チームで4番バッターになろうとしたけど5番バッターが精一杯だったり。トップにはなれなかった。だからでしょうか、仕事をやるときは、その領域が得意な人の考え方を重視し、積極的に取り入れたり任せたりします。今CEOを務めているIndeedもエンジニア中心の会社ですが、私よりもよっぽどプログラミングに詳しい人間が沢山いるわけです。自分のできないことをやれる人物、信頼できる人物を見つけるのは得意なんでしょうね」

入社6年目に「じゃらんnet」をつくったときも出木場の目利き力が奏功した。紙の雑誌「じゃらん」のデザインをそのままネットに移しても読者は非常に読みづらい。そこで出木場氏は、ホテルの予約システムを一から作りあげたという男性に目をつけた。その人物は当時主流だった大型のデスクトップに最適なデザインを業界で唯一作れる人物だった。

出木場氏は講演会に出向き、「あなたの言った通り作るから教えてください」と直接頼みこんだ。強引な説得に折れたその開発者の知恵も借りて、「じゃらんnet」はユーザー数拡大に成功する。

若い人こそ数字にはこだわれ

自分の信じることは上司の意見と違おうと、常識を覆すことになろうと、やってのける出木場氏だが、数字には徹底的なこだわりを見せる。

「我を通して自由にやった結果、数字が出てなかったら話になりません。だから僕は、結果を出すということにこだわり続けてきました。当初の計画どおりに売上が上がっていなかったら別の部分でマネタイズしたり、やり方を変えたり、そうやって数値目標を達成してきました。最近社内の若手とネットビジネスについて話していると、大抵そこへのこだわりがないんです。

『アメリカのスタートアップだって、立ち上げ5年たっても利益がでてないことも多いんだから、我々の新規事業でもそれでいいんじゃないか』とか言われても、意味不明ですよ。利益が出ないなら例えばユニークユーザー数は達成するとか、何かしらの数字で成果を出さないと『ただのあれこれ言ってる人』になります。若い人ほど数字の成果にはこだわったほうがいいですよ」

こうした数字への鬼気迫るこだわりこそが、周囲を納得させる結果に繋がったのだろう。ただし、そんな出木場氏も順風満帆な道のりを歩んできたわけではない。今に至るまでの挫折と学び、そして現在、Indeedのトップとして抱くビジョン、思いについて、後編で掘り下げて行く。
 できば2 (敬称略)